債券市場の強さが目立ちます。私は、日経平均13,000円を、長期金利(新発10年債利回り)1.385%という水準で迎えるとは思ってもみませんでした。基本的に株と債券とは、裏表の関係になると言われています。景気が良くなって株が上がれば、債券が売られて金利が上がる。逆に不況が意識されて株が売られると、債券が買われて金利が下がる。長期金利1.3%〜1.4%は、日経平均が10,000円あたりをウロウロしていた時の水準です。株価は30%以上も上がっているのに、金利が上がってこないんですね。

これは世界的な現象です。株も債券も買われている。アメリカでは10回も利上げが続いているのに、長期金利(10年債の利回り)は4.25%を挟んだ動きが続いています。先進国では高齢化が進んでいるので、安定した利回りを求めるお金が米国債へと流れやすい。新興国では外貨準備が積みあがり、これがまた米国債を買う資金になっている。これで、ドルが買い支えられ、かつ長期金利が上がりにくい状態になっているわけです。ただ、日本の場合は、ちょっと事情が違いますね。郵便貯金や、銀行の預金、それに生命保険のお金が、安定した利回りを求め、日本国債を買い支える力となっています。

自分のお金を預貯金にしておく人たちは、とても慎重な人たちです。少しでも自分のお金が減る可能性がある株式を、強く嫌います。まだまだ日本は株を買っただけで「マネーゲームだ」「投機だ」という声が起きやすい国なので、それで結果的に安心で確実な国債にお金が回りやすい状態になってるんですね。日本は財政赤字が大きな国ですから、普通に考えれば長期金利は、もっと高い水準になっていても不思議じゃない。でも、安全で低い利息を好む方が多いので、金利は抑えられており、これが結果的に株価を上げやすくしているとも言える。「自分のお金が減るのは、絶対にイヤだっ!」というのは、いっけんすると利己的な姿勢なんですが、よくよく考えると利他的になってるんですね。リスクを嫌う人々の握力が、日本の国債を買い支える力となっている。この握力を「極端なホームバイアス」と呼んだのが、アラン・グリーンスパンです。

すでに多くの人々が、2つのことを直感しています。ひとつは、日本の財政赤字が膨大であること。そして、もうひとつは、貧富の格差が広がってゆくだろうという予感です。この2つの現象は水面下で深くつながっていますが、その関係を意識している人は少ない。たとえ国が膨大な借金しても、国債という名の借用証書を黙って引き受けてくれる国民がいるからこそ、債券が暴落しないで低金利が続いているのです。そして、その低金利が長引いているからこそ、人々は利回りを求め、お金が投資の場へと流れ始めているのが現在の場面です。

簡単にいえば「景気が良い」というのは、お金が世の中をグルグル回っている状態のことです。昔は田中角栄のような勇ましい人たちが、お金を回してくれていたんですね。ところが時間が経つにつれて、お金を回す仕組みにブラ下がる人が増えちゃった。それでお金が目詰まりするようになってしまったんで、「じゃあ、変えましょう」という話が構造改革。昔と違うのは、世の中を万遍なく回っていたお金が、場所を選んで回るようになったということです。お金が、どこを、どんな風に回るのか?それを確かめようと、人々がワイワイ集まってる場所が市場です。

カール・マルクスは、「労働者にとって致命的なのは、資本から切り離されていることだ」と書いています。スター・バックスが成功したのは、パート・タイマーにも株を買う機会を与え、切り離されていた労働と資本を結びつけたから。マルクスの書物は、20世紀の貧富の差を嘆く人々にとって聖書のような存在でした。しかし、崇める人は多くても、読んでいた人の数は少なかったのでしょう。もしも、マルクスが現代に生きていたとしたら、労働者がパソコンという名の生産手段を所有し、かつ小額の投資によって資本とつながることが可能となった時代を歓迎したのではないか?と思います。