塩井の湯2写真は、いつも私が通っている近所の銭湯『塩井の湯』。体重計には「キロ」の他に、「貫」の目盛りが付いています。ここは地下から水を汲み上げている鉱泉なので、近所の中高年が水をポリタンクに入れて持ち帰る場所でもある。入浴料は360円。この銭湯に不動産屋から電話がかかってきたそうです。「商売をやっていても儲からないでしょう」。銭湯は市街地のまとまった土地ですから、マンション建設のターゲットになりやすい。いま全国の街で同じようなことが起きている。昭和の風景が、消えつつあるのです。

昭和30年代を再現した話題の映画「ALWAYS 三丁目の夕日」がヒットしています。監督と脚本を担当している山崎貴さんは、松本に生まれ育った人。彼が通った「中劇」という映画館も閉鎖となり、新たにマンションの建設が決まりました。きょうは姉歯事件が松本にも波及。駅前の「エースイン松本」というビジネスホテルが営業の中止を決めました。

いまのマンションブームを支えているのは、低い金利と量的緩和です。あふれたお金が不動産へと流れている。それは、懐かしい昭和の風景を次々に消し去ってもいる。「住宅ローンを組むなら、今がチャンス」。この意識がマンションのブームを支え、建築を急ぐ会社が姉歯の背中を押しました。大企業は支店の統廃合を進めてきましたが、支店が無くなっても地方に仕事はありますから、出張が増えてビジネスホテルの需要が増える。ビジネスホテルもまた、街の風景を変えている。「ALWAYS 三丁目の夕日」のヒットと姉歯事件とは、いっけん無関係のように見えますが、ローカルに考えると表裏一体の関係にあるといえます。

戦後の日本は、国が民間から資金を集めて、そのお金を国が中心になって投資する社会でした。これは、先進国に追いつこうとする途上国の経済の姿です。国が主導する投資から、民間が中心になる投資の流れが強まり、社会の風景はガラリと変わっています。建設会社は、もう公共事業への依存では生きていけないので、民間のマンションやビジネスホテルに活路を求めるようになった。鉄も原油も値上がりしていますから、設計を急ぐことが求められている。姉歯氏の設計で手抜きになっているのが、「鉄筋の部分」というところが象徴的だと思います。

私が頻繁に行く飲食店は、みな松本の街に残る古い建物の中にあります。たま〜に、新しくオープンしたばかりのレストランやバーに連れて行くよう若い女性から頼まれたりもしますが、なかなか足が向きません。オープンしたばかりの飲食店は、客が多く混雑していて、スタッフが不慣れであることが多い。年月を経た店の良いところは、目新しいメニューを追い求める客ではなく、いつもの味を落ち着いて求める人が多いところ。店の側も客も、ある一定のパターンに慣れている。古い街並みを守りたいと願うのであれば、まずは自分がひとりの消費者として、地域の古いお店を使うことが第一歩ではないかと思います。私が近所の銭湯に通い続けるのは、生まれ育った街並みが残って欲しいと願うからでもある。「早さ、安さ、新しさ」ばかりを追い続けるだけが消費ではないと思うのです。