流失しているのは「生産」だけではありません。最近は「消費」も流失しています。松本にある10人程度の会社でも、「社員旅行は韓国へ」という時代です。アジアに滞在することの安さ、逆にいえば国内旅行の高さが意識されているのです。東日本では、まだ「日本の玄関=成田空港」というイメージが強いですが、中部から西では空港が増えていますから、東京を経由せずに海外に行く人も増えています。 少し周囲を見渡してみると、趣味やスポーツのために海外で時間を過ごす人が、もう珍しくないことに気づきます。

香港には消費税がなく、相続税も廃止されたとか。所得税は13%で、累進性はなし。邱永漢さんのページには、こんな話も出ています。

香港には税金をかけられないですむ収入が三つあります。一つは銀行の利息、二つ目は配当金、三つ目は一年以上たった不動産を処分して得た不動産所得。香港でも銀行利息は不労所得だから所得税をかけたことがありました。すると、大量の預金がすぐお隣りにあるマカオの銀行に一せいに移ってしまったので、あわてて廃止した前歴があります。

たとえ大金持ちでなくても、世の中には時間に余裕のある人もいます。「就職を決めるのは、もう少し先でいい」という若い世代や、リタイアした中高年は、外国で長い時間を過ごすことができます。アジア雑貨カフェをやっている人と会ってみると、彼ら(彼女ら)が雑貨というモノではなく、アジア的な時間や空間に魅力と共感を抱いていることがよく分かります。

考えてみると日本に日本人を留めている組織が、2つあると言えそうです。ひとつは、学校ですね。ただ日本の偏差値や受験に対する信仰が崩れたら、「別に日本の学校でなくても・・・」と考える人が増える可能性はあるでしょう。実際、中学&高校の6年間に英語を学んだといっても、どれだけの日本人が英語で自分の考えを述べているだろうか?

カイシャも、日本人を日本に留めています。しかし、収入が確保できるのであれば、なにも週休2日での出勤にこだわる必要はありません。松本の飲食店の経営者には、こんな方がいます。1ヶ月以上お店を閉めて、夫婦で海外で食べ歩きをし、そこで知った美味しい料理をメニューに取り入れたり、新たな食材の仕入れに役立てている人。「いったん仕事を辞めて、しばらく身の振り方を考えてみたい」という人も増えています。私は、日本人の休みの取り方にも、大きな変化が訪れていると感じています。

少し前まで「ジャパン・インク」という言葉がありました。資源を輸入して、高い付加価値のある商品を輸出する力が、欧米から脅威と見られていたのです。この仕組みを、支えていたのは単に技術だけではありません。学校や企業などの組織に属する人々の常識、あるいは心情のようなものが大きかったのではないか。

いまは資源の価格が高くなり、製品を輸出する力が新興国に付いている時代ですから、日本は新たな別の道を模索しなければならない。組織から離脱したり、途中で辞めたりする人が増えているのは、多くの人々が本能的に歴史の変化に気づき始めているからではないか・・・とも思います。流れ始めているのは、「生産」や「消費」だけでなく、もっと大きな何かのような気がするのです。