maアルバイトの香港人が、台湾から取り寄せた本を読んでいます。私は、日本で出版された『馬雲のアリババと中国の知恵』を読んでみました。『阿里巴巴 天下没有難做的生意』の翻訳。アリババが展開するタオバオ(淘宝網)の取引金額は、すでに日本の楽天とヤフーを合わせた額より大きくなっていますから、パルコや千趣会が提携するのも不思議ではありません。

アリババは、中国の他のIT企業と比べても異彩を放っています。創業者の馬雲は、米国の有名大学ではなく、杭州の大学を3回受けたという元・英語教師。ただアメリカのIT文化を移すのではなく、零細企業の経営者としての経験を生かしていて、その発想や行動が、いかにも中国的。99年にビジネスウィーク誌の記者が杭州で立ち上がったアリババを取材したときの感想は、どこか『水滸伝』を連想させます。

さほど広くない住宅に20人以上がひしめき合い、床には至るところにシーツが敷かれ、室内には靴を脱いだときのような甘酸っぱい異臭が漂っていた。

アリババの特徴はBBS(掲示板)の活用ですが、その端緒も面白い。創業チームのひとりが、北京に立ち寄った頃を、こう振り返っています。

すると、馬雲が万里の長城で突然語り始めた。「BBSがあれほど人気を集めた理由がわかったよ。中国人は何でも思いのままに何か書くのが好きだ。この長城でもそうだ。どこを見ても落書きだらけではないか」。これが今度、我々の手になるアリババがBBS方式の広告から始めることにした理由だ。

中国の3大ポータルサイトは、「捜狐」「新浪」「騰訊」。就職情報サイトの「前程無憂」、旅行サイトの「携程網」、オンラインゲームの「盛大」。こうした名前は日本のマスコミには、ほとんど登場しませんが、しかしアジアでは大きな存在になっているし、欧米のメディアにも登場します。



馬雲の動画はYouTubeにも出ていますが、日本では、あの独特の風貌も、あまり知られているとはいえない。"ウェッブ2.0"とか、"グーグル本"とか、"アルファ・ブロガー"だとか、日本語の閉じた空間の中でワイワイ騒いでいて、ふと気づいてみたら、東シナ海の向こうに数々のネット企業が林立していた…というのが現実なのかもしれません。日本人である私は、まるで自分を取り囲む壁の外側を見るような思い。すでに技術だけでなく、日本語による言語空間が「ガラパゴス化」しているようにさえ思えます。

実は、中国市場における多国籍企業がライバルの地場企業との競争で、必ずしも愚かで鈍い動きに終始するわけではないのも事実である。飲料の娃哈哈、加工食品の康師傳、洗剤の周牌、化粧品の糸糸宝などの柔軟性に富んだ中国企業に次第に追い詰められ、コカコーラやP&Gだけでなく、どの多国籍企業でも現地化を迅速に進めるようになった。

いまは多くの日本企業が、収益源を国内から新興国の市場に求めるようになっていますが、そこは真っさらな白紙ではなく、現地の企業や欧米の資本が入り乱れる戦場だということなのでしょう。

eBayと阿里巴巴との対決が軸になっている本書に登場する日本の企業は、孫正義のソフトバンクのみ。中国に限らず、広い新興国の経済を見るうえでは、『水戸黄門』のような単純な善悪ではなく、『三国志』や『水滸伝』のような広がりを考える必要を感じます。

アリババが本拠を置く杭州は、NHKの中国語講座に出ているローラ・チャンの故郷。これまでは風光明媚な観光地というイメージでしたが、これからは映像を見るたびに馬雲の顔が浮かんでしまいそうです。


馬雲のアリババと中国の知恵馬雲のアリババと中国の知恵
著者:鄭作時
販売元:日経BP社
発売日:2008-02-06
おすすめ度:1.5
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