菅総理は「1に雇用、2に雇用」。小沢一郎さんは「投資をする」。ようやく雇用投資という言葉が政治の前面に出てきました。「日本は素晴らしい」とか「とてつもない」という言葉では、もはや隠しようがないほど厳しい現実が明らかになってきたということでしょうか。

菅総理がクリーンな政治なら、小沢さんは強い政治。対立軸は「菅vs.小沢」になっていますが、1990年ごろから続いてきた「小沢vs.マスコミ」という構図が再び繰り返されているようにも見えます。ネットでは小沢一郎を支持する声が強いのに、新聞の調査になると菅直人の支持が強くなってる。ネットとマスコミがネジレているかのようです。

これまで何度も「小沢神話の終わり」が報道されてきました。細川内閣が終わったとき。新進党が解散したとき。そして自由党という小さな党の党首になったとき。自由党はネットで党首の会見を流していて、私はその全てを見ましたが、記者たちがレコーダーを置く場面から、最後に「いいかね?いいかね?」と小沢さんが締めくくって部屋を出て行くところまでがアップされていたことが印象に残っています。いまでこそニコニコ動画やYouTubeが当たり前のように普及していますが、当時は会見の隅々までを見せる党は少なかった。

菅総理の人気が盛り上がらないのは、やはり増税の話が記憶に新しいから。日本の財政は厳しいから、消費税も上げなきゃいけない…とアタマでは理解できても、地方では有権者の体が付いていかない。参議院の1人区で民主党が負けたのは、地方の有権者に増税が納得されなかったことが影響していると思います。

しかも、あれから3ヶ月で「1に雇用、2に雇用」ですから、どうしたって一貫性が欠けた印象になってしまう。そのうえ有権者に対しては「年末の予算を見てくれ」、当選1回の代議士に対しては「3年後にはダブル選挙」と訴えているので、自分への評価をできるだけ先送りしたがっているようにも見えてしまいます。

小沢さんの選挙の巧さは、3つあると思います。ひとつは、組織票をバカにしないこと。選挙は浮動票だけで決まるものではないので、いくら旧式だと批判されても組織は回る。ふたつめは、田舎だと思われがちな場所に立って演説をすることです。今回の代表選でも、東京、大阪の次には、高知県に行く。高知県の人口は80万人を割っていますから、世田谷区よりも少ない。しかし、映像を見る全国の地方にいる人たちは、「小沢さんは、地方を軽視していないんだ」と思うことでしょう。

勢いがあったころの田中康夫さんが巧かったのは、長野県の人でもめったに行かないような辺境の地名を強調したこと。栄村、南相木村、泰阜村。長野市や松本市の人だって、「行ったことないなあ」と言う場所です。しかし長野や松本の街中で、こういう辺境の地名を語れば、有権者は「この人の目は、隅々にまで届いているんだ」という印象を抱く。もしも猪瀬直樹さんが東京都知事を目指すのであれば、伊豆諸島とか日の出町のような場所について語ることが有効になりそうです。逆にいえば、多くの人たちが知名度の高いメジャーな場所ばかりを選びがちだといえる。

小沢さんの選挙の巧さの3つめは、私が個人的に体験したことですが、地方の若いスタッフに対してもバカにしたような態度をとらないこと。田中康夫さんの後援会が主催したシンポジウムのとき、30代だった私は控え室で小沢さんにお茶を出したりする雑用係を仰せつかったわけですが、「よろしくお願いします」と名刺を出すと、小沢さんは「ほう、コーヒー屋さんですか」と、ごく普通の対応でご自身の名刺を出された。保守系の政治家には、こういう瞬間に横柄さが露見する人が多いので、私は驚きました。「豪腕」とか「経世会」という言葉と目の前にいるオジサンとが、どうしても結びつかない…と思ったほどです。

民主党の代表選は、ごくごく少数の人たちにしか選挙権がありません。しかし、同じように少数の人だけが参加していた自民党の総裁選での小泉純一郎の戦い方が、その後の政治に決定的な影響を与えたことを振り返ると、いま進んでいる代表選の在り方が、これからの政治に与える影響は大きいと考えられます。