コーヒー業界に長くいる人は、途上国の政変に驚かない人が多い。「政治が変わっても、あの国はあの国。社会は変わらないよ。金持ちは金持ちだし、貧乏人は貧乏のままだ」というわけです。むしろ天候や道路、港湾のようなインフラが損なわれたときの影響を心配する声が強いように感じます。

たとえばインドネシアのマンデリンなどは豆の状態が不安定なのですが、これは産地が島の山岳地帯に散らばっていて、ひとたび道路が損なわれると迂回路がなく、ゆえに量を求めれば質の低下を受け入れざるを得ないという背景があるから。日本でいえば中越や木曽あたりでの地震を想像するとわかりやすいでしょう。

mideast
















私も「チェニジア→イエメン→エジプト」の連鎖の影響は、ほとんど無いと考えていました。しかしエジプトの政変は、代わりとなる指導者の顔が明らかになり、草の根的だったデモが組織的になるにつれて、通貨への影響が垣間見えるようになった。ドル円はサポートになるかにみえたラインを破って81円40銭に達し、ユーロも対ドルで抵抗になっていた1.387を越えました。原油はブレントが100ドルまで騰がっています。これから更にドル安が進むようなら、多くの日本人の生活にも影響が及ぶでしょう。

中東は、もともとはオスマン・トルコの領土だった地域。そのあとイギリスなど欧州が勢力を伸ばして、第二次大戦後はアメリカが影響力を及ぼすようになった。ポイントは、資源の大国サウジアラビアと人口の大国エジプトで、どちらもアメリカに協力的。この2つの政治が安定しているから、アフガンで米軍が苦労しても、パキスタンでテロが起きても、イラクで政権がつぶれても、イランで反米的な大統領が核兵器に手を伸ばしても、全体としては安定的に動いてきたといえる。その一角が変わるということは、つまりはアメリカの外交的な力が落ちることを意味するので、いったん為替市場がドル売りで応えても不思議でない場面のようにも思えます。

CNBCのレポーターは、「エジプト経済のファンダメンタルは良い。しかし若者の失業とインフレによる食品の値上がりが深刻だ」と繰り返していました。印象的なのは、イスラムのデモにありがちだった星条旗を焼くシーンが出てこないこと。BBCのインタビューに答える若は"HOLLISTETR"とロゴが入った服を着ているし、"facebook"や"twitter"が情報のやりとりの武器になっている。つまり、これまでとは異なり、反米というよりむしろ親米な雰囲気がある。私は政治が変化しても、マクドナルドやスターバックスが浸透するような個人消費の流れは変わらないと感じました。だから混乱にもかかわらずダウが12,000の高値を越えていることにも納得ができてしまう。

ただ中長期で考えたとき、不安定な地域の安全保障に誰が責任を持つのか?という問題は残ります。アメリカも欧州も財政赤字と社会保障が重くのしかかっているので、そうそう簡単に軍隊を出すわけにもいかない。平和を望む高齢者が増えている日本なんて、なおさら無理。となると残る可能性は、中国やインドやロシアのように軍備を強めている新しい大国が世界の安全保障の役割を担うことが求められる…となる流れ。すでにハイチなど災害救助をめぐる活動は、新たな国際競争のようにもなっています。

世界で起きていることは似ている。基軸通貨のドルが安くなって、食料の価格が上がるインフレの傾向。そして若者の失業。デフレの日本では価格の競争が厳しいから、このまま食料インフレが続けば、内需といわれている食品加工の仕事も海外へと流失し、物価の安定の代わりに仕事の流失が進む事態が起きるかもしれません。景気が回復して一部に兆しが見えてきても、取り残される人々の不満は逆に強まる。ネットの普及によって生活への不満は共有され、より広い共感へと変わる。昨年のタイで続いた赤シャツの騒動も、似たようなものだったのかもしれない。

私は市場と海外のニュースを中心に見るようになったので、日本の放送や新聞がエジプトの変化をどう伝えているのか?知らないし、また知ろうとも思わなくなりました。浜崎あゆみが結婚したと聞いてワイドショーを見ても、もう沢尻エリカのことしかやっていない。そのぐらい遅れるようになった。

でも、それでも良いのだと思うようになりました。市場の動きは、すべてが「投機」として扱われるだけ。政変が起きても当事者としての意識はなくて無難にまとめるだけ。そういうメディアは、どうでもいい。チャートのテクニカルな動きの方が、よほどファンダメンタルについて考えさせてくれるというものです。