「△△硝子です」と、配達が来ました。ガラスの注文なんかしてないのに…と思ったら、なんでも自分の母親が米を頼んだとか。いまはガラス屋さんも仕事が減ったので、米の販売をやっているのだそうです。増える高齢者にとっては、5〜10キロの米をスーパーで買うことも重荷。ある建設会社では、菜種油を作って売ろうとしています。多くの自営業者が、これまでやらなかった仕事に活路を求めようとしています。

最近は遠くで仕事をする人が増えました。派遣、正社員を問わず、職場が遠くなったという話が多い。製造や販売で整理や統合が進んでいるので、遠くへの異動を取るか?あるいは会社を辞めるか?という選択に迫られたという話も聞きます。住宅ローンを抱える世帯の割合は、これまでで最高になっているので、家と勤務先が離れることに悩む人もいます。

日本が年に10〜20兆円も貿易黒字を積み上げて脅威とみなされていたのは、80〜90年代のこと。いまは投資による収益が16兆円も流れこむ国になっています。1月の統計も、貿易収支は3945億円の赤字で、所得収支は1兆円以上の黒字。日本は生産よりも投資によって稼ぐ社会へと変化しつつある。

多くの企業が「××ホールディングス」と名前を変えていることは象徴的です。「私たちは不動産や株式などの資産を保有する会社です」と、看板に書いてあるようなもの。いわば日本企業がファンド化しているといえる。企業を丸ごと、あるいはその一部を、売ったり買ったり統合してカネ儲けをする手法は「ハゲタカだ!」と批判を浴びましたが、実際には日本の大企業が、ある意味ハゲタカのように行動している。製造や販売の場が減ってゆくのは投資が引き上げられている現象ですが、これが「遠ざかる職場」という悩みとなって多くの人たちの生活に影を落としているわけですから、いま地方に必要なのは投資の呼び込みです。

株式や為替の市場には、景気回復の兆しが滲んでいます。日経平均は金融危機で7,000円まで落ちたところから、およそ1.5倍ぐらいの水準まで上げました。ドル円も、下値を少しづつ切り上げて円安へ向かうか?という場面です。もしも1ドルが100円ぐらいまで戻れば、日本に流れ込む所得収支の黒字は年に20兆円ぐらいに膨らみ、税収も増えるかもしれません。

先日はJAの役員になったお客さんから、「TPPを、どう思う?」と質問されました。私は「円高でTPPだから怖い。でも円安なら、TPPもそんなに怖くないと思います」と答えました。観光も、円高が客を日本から遠ざける。製造業は、いわずもがな。農業、観光、製造業に逆風が吹けば、信州の若い人たちは外へ出てゆくばかりです。

果たして円安は来るのか?焦点はベン・バーナンキのQEになりそう。先週の議会証言を見た自分は、「こりゃ、QE3は無さそうだなあ」という印象を持ちました。米国債を買い取ってドルを供給する政策"QE"の終わりついては、CNBCでも話題になっていて、「もう終わりだと言われても私は驚かないだろう」とか「もうやらないだろう」と発言する人が増えています。根拠となっているのは、株高に加えて失業率の緩やかな改善。そしてガソリンなど商品価格の上昇。これ以上、物価が上昇するリスクを犯してまで住宅の下支えまでやらないと見る人が増えている。

ベン・バーナンキのQEが終わりとなれば、ドル高です。ただ現在は資源、とくに原油の上昇が市場の真ん中で意識されているので、「資源高=ドル安」という連想からドルが強く買われる状態にはなっていない。しかし、これは逆にいえば資源価格がいったん調整局面に入れば"QE"の終わりこそが中心的なテーマとして意識される可能性があるということですから、今年の前半はドル高傾向になるのではないか?と個人的には考えています。

CNBCには「株高だから高額な商品がよく売れる」と説明する人も出てきます。なるほどアマゾンもスタバも、株価は2年で3倍。いまや「なぜダウ30種に採用されていないのか?不自然だ」と言われるほど中心的な株になったアップルなどは、ITバブルの高値50ドルあたりと比べても7倍です。下がる不動産を下支えする政策が、株高をもたらして、それが消費に現れているのが今のアメリカ経済。

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私は、日本の景気回復が強まった場合にも似たようなことが起きるような気がしています。日本は平均年齢45歳の中年の社会になった。経済の全体像も、生産して輸出して10〜20兆円を稼ぐ仕組みから、海外に資産を保有して10〜20兆円を稼ぐ構造へと変わりつつある。過去を振り返って「日本はモノづくりだ」「昭和のころのような気持ちを持てば…」と言う人もいますが、さすがに中年になってから額に汗してガンガン働くことは現実的ではありませんし、それではインドや東南アジアの人たちにかなわない。資産も昭和の頃なら「不動産さえあれば大丈夫」で良かったわけですが、「建てたアパートの返済のために年金をすべて使っている」なんて話を聞いた後で、市役所から来る固定資産税の請求書を見ると、もうそういう時代でもないと感じます。

豊かさは生産の場というよりは、まずは投資の場から広がる。それが成熟した国の宿命なのかもしれない。マクロの政策も、これだけ立派な音楽ホールが増えると公共事業での底上げには限界がみえているし、またソフトなどの分野を国主導でやれば規制や天下り団体が増えるだけのようにも思えてしまいます。

となると、もう円安を後押しする日本版の"QE"ぐらいしか手は残されていないかもしれません。高齢者が多い信州にいると、老いという現実を認めつつ弱くなる通貨を肯定してゆかないと、なかなか将来は厳しいな、と思うばかりです。