2009年01月04日

中国、継続協議中の東シナ海の「樫」ガス田掘削―東シナ海は平和・協力・友好の海ではない

 産経新聞1月4日付によれば、日中両政府が平成20年6月に共同開発で合意した直後、中国が継続協議の対象とっている「樫(かし)(中国名・天外天)」で新たに掘削を行っていた。同紙は「中国側は樫での掘削を終え、生産段階に入った可能性が高い」と報じている。
 日中両政府の間で20年6月になされたガス田問題での合意は次の通りである。「翌檜(あすなろ)(同・龍井)」付近での共同開発と「白樺(しらかば)(同・春暁)」で日本の出資参加を「歓迎」する。一方、樫と翌檜の本体、「楠(くすのき)(同・断橋)」は共同開発の合意に至らず、継続協議の扱いとなった。この継続協議の扱いになったガス田に関しては、両国には現状維持が求められるというのが我が国の主張でありそれが合意事項であると理解してきた。国際法上、係争中の領域では開発を進めてはならないことになっているので、日本の立場は全く正当なものである。中国による樫ガス田の無断の単独開発が不当であることはいうまでもない。
 なお、東シナ海の主なガス田と昨年6月に共同開発が合意された区域の概要は別掲の図(読売新聞2008年6月18日付より)を参照されたい。
東シナ海ガス田共同開発概要

 さて、日中共同開発に関する文書は次の通りである。


■東シナ海における日中間の協力について
(日中共同プレス発表)
2008年6月18日

 日中双方は、日中間で境界がいまだ画定されていない東シナ海を平和・協力・友好の海とするため、2007年4月に達成された日中両国首脳の共通認識及び2007年12月に達成された日中両国首脳の新たな共通認識を踏まえた真剣な協議を経て、境界画定が実現するまでの過渡的期間において双方の法的立場を損なうことなく協力することにつき一致し、そして、その第一歩を踏み出した。今後も引き続き協議を継続していく。


■日中間の東シナ海における共同開発についての了解
2008年6月18日

 双方は、日中間の東シナ海における共同開発の第一歩として以下を進めることとする。

1.以下の座標の各点を順次に結ぶ直線によって囲まれる区域を双方の共同開発区域とする。

(1)北緯29度31分東経125度53分30秒
(2)北緯29度49分東経125度53分30秒
(3)北緯30度04分東経126度03分45秒
(4)北緯30度00分東経126度10分23秒
(5)北緯30度00分東経126度20分00秒
(6)北緯29度55分東経126度26分00秒
(7)北緯29度31分東経126度26分00秒

2.双方は、共同探査を経て、互恵の原則に従って、上述の区域の中から双方が一致して同意する地点を選択し、共同開発を行う。具体的な事項については双方が協議を通じ確定する。

3.双方は、上述の開発の実施に必要な二国間合意をそれぞれの国内手続を経て早期に締結すべく努力する。

4.双方は、東シナ海のその他の海域における共同開発をできるだけ早く実現するため、継続して協議を行う。


■白樺(中国名:「春暁」)油ガス田開発についての了解
2008年6月18日

 中国企業は、日本法人が、中国の海洋石油資源の対外協力開発に関する法律に従って、白樺(中国名:「春暁」)の現有の油ガス田における開発に参加することを歓迎する。

 日中両政府はこれを確認し、必要な交換公文に合意し、早期に締結すべく努力する。双方はその締結のために必要な国内手続をとる。


 『日中間の東シナ海における共同開発についての了解』の4項目目に継続協議に関する事項が書かれているのだが、明文上「継続協議中のガス田は双方現状維持する義務がある」と書かれていないことに留意されたい。先に述べた係争中領域の資源開発は行わないという原則があるから、本来は明記する必要がないのであるが、日中の場合はこれを明記しなかったことは失態であったといえる。さらに、どれが継続協議中のガス田なのか明記していないのも重大な瑕疵である。この結果、中国が「天外天は争いのない中国管轄の海域に位置しており、継続協議の『その他海域』に含まれず、共同開発という問題は存在しない」と主張する余地を与えてしまっている。

 前出産経新聞の記事は中国による継続協議中のガス田単独開発について、次のように生々しく伝えている。

 「7月上旬ごろ、樫のプラットホーム周辺の海域が茶色く濁っているのを、海上自衛隊のP3C哨戒機が確認した。その後、変色した海域が拡大したり、海面が激しく泡立ったりしたのも把握。防衛省はこれらの情報を外務省や資源エネルギー庁に連絡した。」「同庁によると、海域の変色は海底掘削で汚泥が出たためとみられる。海面が泡立った原因は、プラットホーム上の発電機の冷却水が高温だったか、掘削用の機材などの熱源が海水に触れたことが挙げられる。」「6月ごろ、樫のプラットホームに多数の長いパイプが置かれていたことも判明。10月にはパイプは撤去され、ボートに積み込まれたのも確認された。パイプは掘削用ドリルを通すために使われたとみられる。」「時系列でみると、中国は7月ごろパイプやドリルを使い、樫で掘削を開始。掘削は最短で1カ月程度で終わるとされ、パイプが撤去されたことで、掘削を終え、石油と天然ガスの採掘に入ったとの見方が強い。」「樫は白樺、平湖(中国名)とともに、石油などを中国本土に送るパイプラインでつながっている。樫では17年以降、プラットホームの煙突から炎が出ているのも確認されている。」「ただ、パイプが撤去された前後から、樫の煙突から出る炎は大きくなり、色も薄い黄からオレンジに変わった。日本側はこの変化について、以前は平湖などからパイプラインで輸送され、濾過(ろか)された石油などを燃焼させていたが、樫で直接吸い上げたものを燃焼させ始めた兆候と分析している。」


 日本側が対抗して掘削を強行しても、国際法上はおそらく問題ないのであろうが、実際問題として中国による開発の進捗具合をみれば手遅れの感は否めない。しかし、東シナ海のガス田問題に象徴される日中間の経済水域画定問題は、資源問題というより、安全保障問題である。すなわち、東シナ海に中国の固定された施設を建設することにより、東シナ海を「中国の海」にしてしまうのが中国の戦略である。これは中国の海洋進出大戦略から明らかなことであり、台湾、尖閣、ひいては琉球列島を危うくするものである。したがって、日本は、できれば対抗策としての開発、P3C哨戒機による哨戒活動のさらなる活発化、海空自衛隊を充実して東シナ海方面に重点的に配備するなどの必要がある。また、東シナ海で日米共同軍事演習を積極的に実施すべきである。平穏無事に収めようなどという考えよりも、紛争があるという実態が明らかになるような行動をする方がはるかに適切である。
 この際、「東シナ海を平和・協力・友好の海とする」というお題目は廃棄する必要がある。このような甘い心地よい言葉は、実態を表していないばかりか、適切な対処にとって妨げとなる。幻想は捨てて「東シナ海は我が国の生命線である」と認識すべきであり、そのことを中国側にも認識させるべきである。まず、これが第一歩であろう。


(参考文献等)
『産経新聞』電子版2009年1月4日付
『読売新聞』電子版2008年6月18日付
『東シナ海における日中間の協力について』外務省(2008年6月18日)
『日中間の東シナ海における共同開発についての了解』同上
『白樺(中国名:「春暁」)油ガス田開発についての了解』同上
 

takami_neko_shu0515 at 21:43│Comments(0)TrackBack(2) 日中関係・米中関係 

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1. 対中国外交には監視が必要である。  [ 凪論 ]   2009年01月06日 22:13
 産経新聞1月4日付朝刊に「中国、合意破り掘削 東シナ海のガス田『樫』」と題した記事が掲載されている。是非ご覧いただきたい。  記事は、 「東シナ海のガス田問題で、日中両政府が平成20年6月に共同開発で合意した直後、中国が継続協議の対象となり現状を維....
2. 合意なんてあったものじゃないw  [ グダグダよし坊のダラダラ日記 ]   2009年01月07日 22:35
こんばんわ、手先が冷えて困ります、よし坊です。

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