2009年03月17日

日本と海外の初の排出量取引、ウクライナと最終合意へ

ティモシェンコ・ウクライナ首相日本とウクライナの間で、京都議定書に基づく温室効果ガスの排出量取引が、最終合意に達する見込みだと、ロイターが報じている。
 今回用いる排出量取引のスキームは、グリーン投資スキーム(GIS)と呼ばれるものである。これは、京都議定書第17条に基づく排出量取引のうち、排出量の移転に伴う資金を、温室効果ガスの排出削減その他環境対策を目的に使用するという条件の下で行う、国際的な排出量取引のことである
 実は、日本は既に2008年7月に、ウクライナとの間で、京都議定書の下での共同実施(JI)及びグリーン投資スキーム(GIS)における協力に関する覚書(Memorandum)に署名していた。これが結実するということである。
 今回の合意では、日本は、2008年度と2009年度にウクライナから排出枠1500万トンずつ、計3000万トンを購入する予定だとされる。価格については「市場価格に比べて遜色のないレベル」(関係者の1人)と明らかにされていないが、2008年度は排出権購入の予算として計上されている約340億円以内に収まるようである。
 日本は、京都議定書の削減目標に、現在約1億トン不足している。ウクライナにはその20倍もの余剰排出枠があると推定されているので、今後も排出量取引先としてかなり有望である。
 また、ウクライナだけでなく東欧の数カ国とも同じGISの枠組みで排出権の調達に関して基本合意をする見込みである。現在交渉中なのは、チェコ、ポーランド、ロシア、ラトビア、ベラルーシなど約10カ国である。ポーランドやハンガリーとの交渉は遅延しているらしいが、ロイターによれば、他の東欧の1カ国との数千万トン規模の取引について4月にも最終合意したい意向だそうである。最終的には、日本は2008年から2012年までの5年間で排出権を計1億トン取得する方針である。
 ところで、ウクライナとの排出量取引の合意は、単に日本が京都議定書の目標達成のために排出権を調達するにとどまらず、国際政治経済上の大きな意味を持つ。ウクライナは世界金融危機のあおりを受けて、デフォルト寸前に陥っている。ウクライナの政府と民間の対外債務残高は1050億ドル(約10兆2100億円)にのぼり、ウクライナ政府はすでに日本、米国、欧州連合(EU)に加えてロシアと中国にまで融資を要請する書簡を送っている。国際通貨基金(IMF)は昨年11月、ウクライナへの164億ドルの緊急融資を決めた。しかし、IMFが求める緊縮型経済政策をめぐって政権内で対立が起き、まだ45億ドル分の融資しか実行されていない。もしウクライナがデフォルトを起こしたならば、ウクライナ発のデフォルトのドミノが起きかねない。
 そのような状況下で、4月下旬にはウクライナのティモシェンコ首相が我が国の経済支援を仰ぐために来日する予定である。これには、是非応えなければならない。温室効果ガスの排出権調達価格について明らかにされていないと、先に述べたが、これはやはり市場価格に上乗せしてウクライナへの経済支援の一環としていると見るべきであろう。
 今や、ウクライナは、ロシアの強権体制に脅かされている「西側」の一員である。ティモシェンコ首相は2004年に、親欧米のユシチェンコ大統領を誕生させた「オレンジ革命」の立役者として知られている。ロシアは、ティモシェンコ氏とユシチェンコの関係が悪化したのに乗じてティモシェンコ氏を支持して両者を離間させようとしている。ウクライナ国民の支持は圧倒的にティモシェンコ氏の方が高い。したがって、日本がティモシェンコ氏に「土産」を持たせ親ロシア路線に走るのを引きとめることは、親欧米路線をとるようになったウクライナ、グルジア、モルドバ、アゼルバイジャンの“反露諸国”との関係強化という我が国の外交政策の柱に合致することなのである。
 反露諸国との連携強化は、「新冷戦」の文脈でとらえるかどうかは別として、ロシアと今後天然ガスの開発などに乗り出そうとするに際しても、対露牽制として役に立つ可能性がある。
 そういうわけで、排出権購入を通じたウクライナ支援は、さまざまな面で重要な意味を持つのである。(了)


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(参考報道)
・『日本と海外の初の排出量取引、週内にウクライナと最終合意へ』3月16日15時36分配信 ロイター

・『ウクライナ首相訪日へ 経済危機脱却、支援を要請 温室ガス余剰枠売却も』3月7日8時1分配信 産経新聞

takami_neko_shu0515 at 01:08│Comments(2)TrackBack(0) 地球温暖化・温室効果ガス削減 | ロシア・旧ソ連・モンゴル

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この記事へのコメント

1. Posted by サルベージ屋   2009年07月07日 23:28
5 非常に詳しい解説と意見表明を拝見致しました。未だ一つしか読んでいませんが、素晴らしい記事だと思います。

この記事をお書きになった時点で、ウクライナがIMFから第2トランシェ以降の融資を受けるには、(議会が勝手に制定した新しい関税法の改廃を含む)国内政治の高い評点が必要でした。IMFや各開発銀行は融資の判定条件に省エネルギー政策に力を入れているかどうかを重点的に含めていますので、340億円の援助を出しただけで、数倍の援助と同じ効果を狙った政策であると思います。

これから他の記事を読むのが楽しみです。
2. Posted by 高峰康修   2009年07月08日 15:30
サルベージ屋さま

大変励みになるコメントをありがとうございます。
ご期待に応えられる記事ばかりではないとは思いますが、お時間のある時にはぜひ今後ともご覧いただければ幸甚です。

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