2010年06月09日
寿司処 博
思った通りの答えが大将から返ってくる。
こっちも簡単に引くわけにはいかない。
「寿司処 博」はどうしてもこのブログで書き留めたい店だから。
ロケーションはちょっと特殊だ。
渋谷の道玄坂を上った先、ちょっと妖しい雰囲気が漂う雑居ビルの2階。
場所がら皿が回転していても不思議じゃない。
実際、初めて取引先の偉い方に連れられて来た時は、勝手に銀座の高級店を夢見ていて、少々がっかりしたものだ。
その方がとっておきの店へ案内してくれたということは、そのあとすぐわかるのだけれど。
舞鶴の生トリ貝、豊後水道の関サバ、マグロの皮ぎし・・・
博多っ子の女子は、興味津々に大将の説明に聞き入っている。
こちらは4年ぶりに解禁になった小柴のシャコに釘付けだ。
もともと貝やシャコは苦手だった。
なんというか、生臭くて。
シャコにいたっては何を好んでこんなパサパサなものをと。
博の貝は甘い。
シャコにいたっては juicy ですらある。
もちろん生臭さのかけらもない。
ようするに、滅法美味い。
ここでしか飲めない米焼酎「雪物語」の杯があっという間に進む。
女子は顔立ちもはっきりしているが、物言いもはっきりしている。
大将との魚談義も丁々発止だ。
比べてみるかい、と獲れたての平目と4日寝かした平目が出てきた。
魚は新鮮が一番美味いとは限らない。それを知ったのも博でだ。
熟成が進んだ白身を食べると、新鮮なはずのもう一方が妙に味気ない。
目利きされた天然モノだけでできる芸当だそうだが。
驚く女子に大将の相好が崩れる。
頑固オヤジも可愛い相手には少々甘い。
「彼ははいつも面食いでね。まぁ、連れてくるだけで詰めが甘いんだけどさ」
おいおい、いきなり何を話してくれちゃってんだ、頑固オヤジ。
初めて来た頃は、本当にちょっとおっかなかった。
ありがちなウンチク男子が大将にピシャリとやられる場面を何度も見たもんだ。
天下の久兵衛さんと並びでTVで特集されたときも、頑として店名を出さなかった。
結局、「寿司職人A」みたいな扱いで本人がコメントしているとんでもない絵づらになってたっけ。
そんな大将が、優しく笑うようになったのは真知子さんがカウンターに入るようなってから。
20年来の博のお客さんだったという真知子さんが、いつの間にか大将をサポートするようになって何年経つのだろう。
バツが幾つかついている大将はもう結婚しないといって憚らない。
でも、もうそんなことはどうでもいいのだろう。
こんな大人の恋愛には憧れてしまいます。
イクラの握りを女子より一貫多く頬張って、お会計をお願いする。
銀座の名店に負けない渋谷の寿司屋は、値段も銀座に負けてない。
どちらを選ぶかはお客次第。
もう長い間銀座には行ってないけど。
玄関まで出てきた大将が悪戯っぽく笑って、今日は頑張れよ、とサインを送ってくる。
うるせーよ、頑固オヤジ。
ありがとうございました。また、来ます。