ポケモンGOと観光:「コンテンツ・ツーリズム」なるものの信憑性

さて、昨日は「ポケモンGOを観光振興や地域振興の文脈で語るのは時期尚早である」という趣旨のエントリを書きました。本日はそこから更に論議を発展させてゆきたいと思います。

ポケモンGOのようなゲームを利用した観光振興は、広くは「コンテンツツーリズム」と呼ばれる分野にあたる観光振興手法です。コンテンツツーリズムとは、かつてフィルムツーリズム、もしくはロケーションツーリズムなどと呼ばれていた映画やドラマの撮影隊を地域に呼び込み、その作品を通して地域への観光誘客をしようとする試み。それが近年、特にクールジャパンブーム以降、アニメや漫画などを振興の手段として新たに取り込み、コンテンツツーリズムなどと呼称されるようになりました。

このコンテンツツーリズム、特にコンテンツ制作サイド、もしくは各作品のファンの方々からいわゆる「コンテンツのチカラ」を示す一つの論拠として異様に「持ち上げられる」傾向があるのですが、観光業界側の人間として私は今のところ話半分程度にしかその種の論を受け止めていません。

これは先のポケモンGOに関するエントリでも述べたことでありますが、この種のあらゆるコンテンツによって集められた観光客というのは、一義的にコンテンツ側にコミットメントのある観光客であって、必ずしもその地域内にリアルに存在する「コト」や「モノ」に愛着があるワケではありません。結局、彼らはその観光を通して相変わらず「作品」を見ているに過ぎず、必ずしもその観光行為が地域でのリアルな消費に繋がるとは限らない。それが、作品の舞台となった風景を写真に収めて、それで満足して帰られてしまうだけのものとなってしまえば、観光政策としては全く意味がないワケです。

また、これはコンテンツの宿命ではありますが、コンテンツには必ず賞味期限があります。勿論、「名作」と言われる作品の中にはその効果の残存期間が長いものも存在しますが、その効果は必ずいつかは潰えるもの。即ち、地域が「コンテンツ」を軸にして観光誘客を図るのなら、その効果が切れないうちに次々に新しい作品を呼び込む継続的な努力を前提とした観光政策を考えなければなりません。

このような前提で考えると、世の中で称賛されているコンテンツツーリズムなるもの全てが、地域の観光政策として意味のあるものとは言えない。先のエントリからの繰り返しとなりますが、コンテンツツーリズムの効果というのはまだまだ検証途中のものであり、流行りモノだからと言ってそこに安易に「全乗っかり」すれば良いものではないことが判ります。

といっても「全てのコンテンツツーリズムが意味ない」と言いたいワケではなく、そこには明らかに成功している事例もあるワケで、例えば個人的にコンテンツツーリズムの成功事例として注目してきた事例は幾つかあるワケです。例えば以下のようなもの。

北海道の観光キャンペーン:
これは恐らく全てのコンテンツツーリズムを目指す人達が参考とするすべき事例。現在、北海道は東南アジア諸国から「雪」を見る為に沢山の人達を集める観光目的地となっている事が有名ですが、実はこの背景にはコンテンツツーリズムによる地域イメージの拡散がありました。

北海道が自身の「情景」を東南アジアに拡散するキッカケとなったのが1997年に東アジア向けの放送チャンネルとして日本の総合商社や放送局が中心となって台湾に設立した衛星テレビ会社JET TVです。北海道のローカルテレビ局である北海道放送(HTB)は、このプロジェクトに数ある在京キー局と並んで地方局として唯一資本参画します。また、HTBはJET TVへの資本参画に合わせて、地元自治体および経済界を巻き込んで「東アジアメディアプロモーション北海道推進協議会」を設立、北海道の風景や特産品などを積極的に東アジアに向けて発信を行うワケです。

またこれに合わせて、北海道は地域全体で映画等のロケーション誘致に非常に積極的に動きました。1999年、北海道で撮影された岩井俊二作品「Love Letter」が韓国において記録的なヒットとなり、北海道に韓国人観光客が多数訪れるキッカケとなりました。その後、2008年には同様に北海道を舞台にした中国映画「狙った恋の落とし方。」が世界的にヒット。この作品によって、中国本土のみならず東南アジア一円の華僑文化圏の中で北海道の存在が知れ渡りました。現在では、特に雪の降らない東南アジア圏において、「人生初の雪を見る場所」として、観光地・北海道の人気が不動のものとなっています。


【参考】
「北海道アワー」の取組み ー北海道テレビ

要は、コンテンツ・ツーリズムで地域が継続的に発展してゆく為には、一過性のものでしかない「個々の作品」に論議の焦点を当てるのではなく、地域が持つ独自の魅力があらゆる作品を通じて世の中に継続的に発信されてゆく為の「しくみ」に焦点をあてなければならない。その観点が、今語られている多くのコンテンツツーリズムには欠けていると感じるワケです。

「らきすた」「ガルパン」から始まって、現在観光振興の手段として俄かに注目されている「ポケモンGO」など、ここの所、しきりに語られているコンテンツツーリズムはどうもその辺の継続性が論議がなく、作品人気の瞬間最大風速でのみその効果が語られる向きがある。だとすれば、それはあくまで一過性のイベント的なものとして明確に捉える必要があるワケで、そのキャンペーンに要したコスト(人的コスト含む)が、どれ程のリターンを生むのかという短期の事業ベースで見ることが必要。それはそれで必要な商業上の視点ではあるのですが、そこで語られるのは未だに「集客があれば必然的に消費が…」とか「観光に物語性を…」とかボンヤリした事ばかり。それ故、私自身はこの種のコンテンツツーリズム論を未だ話半分でしか受け止めないワケであります。

ポケモンGOに関しては、位置情報を利用したARゲームの宿命としてプレイヤーが観光中もスマホの中の拡張現実世界に張り付いてしまうという観光資源としての決定的な弱点があるワケで、この種のものをどのようにリアル消費に結びつけるのかを地域としては別途論議をする必要があるし、それを「如何にゲームプレイに影響のない形で実現するか」がポケモンGOを集客ツールとして商業展開させる事を狙っているNinantic側の課題でもあると言えるでしょう。


facebook

ポケモンGOが、ただの「ポケモン・スタンプラリー」になっては意味がない

ポケモンGOの世界的大ヒットに伴って、絶対こういう論調がすぐに出て来るだろうなと思ってたら早速出て来ましたよ。以下、スポニチからの転載。


 「ポケモンGO」識者が分析「10兆円規模、リニアに匹敵
 http://www.sponichi.co.jp/society/news/2016/07/23/kiji/K20160723013019440.html

森永氏は「イベントや観光地、商店街の活性化など、いくらでもやりようがある」と多業種に効果が波及すると指摘する。ゲーム雑誌「ファミ通」を発行するカドカワの浜村弘一取締役は「ポケモンGOは人を動かす集客のインフラとなる。町おこしのツールとしても注目される。
 
 
 私自身、AR(拡張現実)ゲームの集客ツールとしての可能性は今回のポケモンGOの前身(?)となったIngressの時代からジッとその動向を注目をしてみてきました。Ingressでは、神奈川県横須賀市や岩手県などでゲーム連動の観光振興施策なども打たれ、当時、それなりの話題にはなっていたんですよね。


【参考】
Strategy Base for Ingress in Yokosuka

岩手県庁ゲームノミクス研究会(旧岩手県庁Ingress活用研究会)

 ただ、両自治体の取り組みを見て思ったのは、結局、ARゲームで誘引される観光客というのはゲーム内で獲得される褒賞を一義的な目的として集まるものであって、その誘客がリアル世界側での観光消費に繋がるかというと実はそうでもなさそうだな、というのが当時の感想でした。

特にIngressに代表されるような位置情報と連動したARゲームというのは、そのゲームの仕様上「歩いて移動する」という要素が加わることが多く、どこかの観光地に場所を移したとしてもプレイヤーは一日中ゲームに張り付いてグルグルと移動している事が多いんですよね。

こういう観光客と言うのは、観光業界で言うところの「周遊観光客」に該当する観光客で、元々一人あたりの観光消費額はそれほど大きくない。それに輪をかけて、前出の通りARゲームで誘客される観光客は一義的にゲーム内での褒賞を目的として集まっていますから、ご当地で獲得されるゲーム内アイテムを入手してしまえばそれで満足してしまう事が多く、別にリアル世界側で「お土産」を改めて買う必要なんかない。更に言えば、もし彼らに「日帰り」なんてされてしまった日には、地域に落とされる観光消費なんてのは本当に微小であり、結局、観光客の頭数(あたまかず)は沢山集まるのかもしれないが期待されるほどの観光消費が生まれていないように見受けています。

この点、今回のポケモンGOも結局、ゲームの仕様が移動とゲーム上アイテムの獲得に(今のところ)限られていますから、それほどIngressの時と観光振興への効果は変わらないかな、と。まぁ、ポケモンの場合は夜半や早朝にしか獲得できないキャラクターなんかを登場させて前泊分の観光消費を期待するなど、もう少し工夫のしようはあると思っていますが。。

いずれにせよ、ポケモンGOがただどこか遠くに行ってキャラをゲットして帰ってくるだけのスタンプラリー的な企画に始終してしまうのならば、それは毎年JRがやってる「ポケモン・スタンプラリー」と効果の中身は変わらないワケで、それで儲かるのは消費者の「移動」で儲かる交通業者のみ。そんなものはJRさんがNinanticと組んで勝手にやれば良い話であって、ワザワザ地域が観光振興や地域振興などという仰々しい看板を立てて税金を使ってやる必然性はない。

本ブログ上ではいつも申し上げているところですが、観光振興とは域内に流入する観光消費を増進させることであって、ただ観光客の頭数(あたまかず)を沢山呼べば良いという事ではありません。特に政策としてそこに公金拠出を行う場合は、そこに投入されるコスト(含む人的コスト)と、そこから期待される観光消費総額がキッチリとバランス取れているかどうか。この点の検討がかかせませんね。

PS: 先ほどTwitter側でIngress以前のARゲームと地域振興連携の事例を幾つかご教示頂いたのですが、例えばコロプラさんの「コロニーな生活」の連携事例などは、ARゲームの地域振興利用として参考になるかなと思いました。但し、今のポケモンGOのゲーム仕様では、そのまま採用はできませんが。


【参考】
 コロプラおでかけ研究所レポート#10 4万人来場を実現!「コロプラ物産展2011」の秘密を明かそう

都知事選:各主要候補が東京カジノに関するスタンスを表明

昨日放送のBSフジ「プライムニュース」にて、鳥越、増田、小池の東京地知事選主要候補がそれぞれ東京カジノ誘致に関するスタンスの表明を行いました。


プライムニュース ハイライトムービー
2016/7/14 『都知事選候補が生集結 「首都の顔」選択SP』【後編】
http://www.bsfuji.tv/primenews/movie/day/d160714_1.html(22分45秒あたりから)

○鳥越:
「カジノは反対です。当然、 カジノにのめり込み、生活を破壊される人が必ず出てきます。そういう悲劇は見たくありません」

○増田:
「カジノについて東京が先頭を走る必要はないと思います」

○小池:
「カジノについては、カジノというよりはIRという形で統合型リゾートという発想ですから、私はこれは有りではないか」 
 

まぁ、鳥越氏は党の公約としてカジノ反対を掲げている共産党の支持を受けていますから、当然のこととして「東京カジノ誘致反対」を明言。一方、小池氏はこれまで国会議員としてカジノ合法化と統合型リゾートの導入を推進するIR議連に所属してきましたから、これまた当然のこととして「東京カジノ誘致賛成」を明言しました。そして、その中間的スタンスを示しているのが増田氏、といったところでしょうかね。

個人的には、各候補のカジノに関するスタンスが明確になった事で非常にスッキリしたわけですが、もう一つの関心事はアフターオリンピック、特にオリンピック後の東京の都市政策についてのお三方の見解を是非伺いたいところ。

各報道番組や討論会において、東京オリンピックへの対応に関しては必ず質疑があるワケですが、一方でアフターオリンピックの対応に関して、しっかりとした質疑の場が設けられている場面は未だ見た事が有りません。しかし、東京オリンピックなんてのは開催が決定し「やるべき事はやらなければいけない」局面に既に至っているワケすし、実は実態としてパラリンピックまで含めても2ヵ月足らずしかない一過性のイベントであるワケで、むしろそこを「最大風速」として現在各所で整備されている都市インフラをその後、どのように活用してゆくのかの方に、これから都知事として立つ方々の「大きなビジョン」の表明が求められているのではないかと思います。

この点に関して、是非、後続の討論企画等で質疑機会を作って頂ければ幸いです。

カジノ推進勢力、衆参議席数の過半を確保

さて、参院選2016が終わりました。今回参院選の結果、自民、公明の与党が参院の過半数の議席を獲得、またこれにおおさか維新の会などを加え、憲法改正賛成派が三分の二以上を占める事となり、これより国政では本格的に憲法改正論議が進行することとなります。

…と現在、世の中の話題は憲法改正でもちきりでありますが、私の専門範疇に関して言えば、我が国のカジノ合法化に対する賛否に関しても今回の参院選で一通りの結果が出たのですね。

そもそも、今回の参院選において公約もしくはそれに付随する政策集内で我が国のカジノ合法化と統合型リゾート導入を明確に謳ったのが自民党とおおさか維新の会。対して、それに明確に反対を示したのが共産党、社民党、幸福実現党の3党でした。それぞれの今回参院選における獲得議席数および、非改選組を合わせた参院勢力は以下の通り:

推進派: 計133議席
自民党 56/121
おおさか維新の会 7/12

反対派: 16議席
共産党 6/14
社民党 4/2
幸福実現党 0/0

これに、今回の参院選において正式なカジノに対する立場を示していない政党議席の93議席を合わせて参議院の総議席数は242議席ですから、今回の選挙の結果、自民、おおさか維新のカジノ推進派2党が133議席を獲得し参院の過半を占めました。

一方、衆院に関しては既に前回衆院選において自民党が全体475議席のうち単独で290議席の過半以上を取得しており、おおさか維新を合わせずともカジノ推進派が過半を獲得している状態。即ち、今回の参院選の結果、議席数上は衆参両院においてカジノ推進派が過半を確保することが決定したということであります。

…と、ここまでは我々業界にとっては非常に喜ばしい状況であるわけですが、実はカジノ推進派が衆参両院で過半を確保しているという状況は、今回の参院の公示前も同じ状態であったわけでありまして。。改選前の122議席から133議席に推進勢力が大幅に増加したのは良しとして、状況としては選挙前とあんまり変わらないんですよね。

依然として我が国のカジノ合法化の最大の障害は、既にカジノ推進派が衆参両院で過半を握り、アベノミクスの掲げる成長戦略(日本再興戦略)の中においても「統合型リゾート導入の検討」が明記をされているのにもかかわらず、未だ党としてのカジノに対する正式スタンスを一切示さない公明党にあります。

実は現時点で、何となく関連する省庁方面からは、イマイチ真偽が不明の「この秋にも法案審議が始まるのだ」的なポジティブ・メッセージが流れて来ておるところではあるのですが、まずもって与党間での政策調整が始まらない事には本件は前に進みません。この9月にも予定されている臨時国会の召集後は、速やかに与党間会合をご開催頂き、その場で自公両党での政策調整およびその後の検討スケジュールの確定を期待したいところです。

これは私の周辺の方々には常々申し上げている事ではありますが、この種の「ミズモノ」な政策は事ある毎に一喜一憂しても仕方がないワケで、関係各所が一歩一歩必要なプロセスを進めてゆく(進めさせてゆく)努力を積み重ねるしかない。引き続き私自身も微力ながら頑張ってゆきたいと考えているところです。

参院選2016公約比較: 観光政策編

さて、参院選も公示され、各政党の掲げる公約も明らかになりました。本日は、各政党が掲げる公約のうち、私の専門分野にかかる観光政策に関して比較分析を行ってみたいと思います。

という事で、まずは与党サイドから。

【自由民主党】
公約:https://jimin.ncss.nifty.com/pdf/manifest/2016sanin2016-06-22.pdf
詳細政策集:https://jimin.ncss.nifty.com/pdf/pamphlet/sen_san24_j-file_0620.pdf

現与党にとってここ数年の観光産業は、あらゆる産業の中でもっとも具体的な政策成果を残した産業のひとつであり、本選挙戦においてもその実績と共にその後の政策が沢山アピールされている分野であります。 その事もあってか、自民党が本選挙に掲げる公約の中では観光政策に関して以下のような記述があり、安倍政権にとって引き続き「観光立国の実現」というのが大きな政策目標となっていることが読み取れます。


●外国人旅行者数 過去最高(約2,000万人) 訪日外国人による消費額は過去最高(約3.5兆円)
訪日外国人旅客2020年4,000万人・旅行消費額8兆円を目指し、 観光立国を実現します。スポーツ産業を振興します。
 

また、公約以下の微細な政策を示した詳細政策集(J-ファイル)の観光政策の項目も同様に充実。以下、主な政策を抜粋。


・地方への誘客と地方における消費の拡大を図るためのプロモーションや欧米豪に対するプロモーションの重点的な実施
・査証(ビザ)要件の緩和・波及手続きの円滑化、入国審査の迅速化
・双方向の国際交流の促進、多言語音声翻訳の普及促進
・国際会議棟の誘致・開催やカジノいを含む統合型リゾート(IR)の推進
・外国人旅行者向け免税手続きにおける一層の利便性向上や免税店の地方絵の拡大
・宅配サービスを活用した「手ぶら観光」の推進
・訪日外国人旅行客の急激な増加に適切に対応するため、宿泊施設不足の解消、貸し切りバスの路上混雑の緩和
・CIQ体制の充実
・公衆無線LAN環境の整備
・ストーリー性、・テーマ性にとんだ多様な広域観光周遊ルートの形成や、魅力ある観光地の整備を促進
・人材育成等により観光産業の競争力強化や日本版DMOの形成を図る
・東北地方の風評被害を払拭し、訪日外国人旅行者を回復させ、インバウンド増加の効果を波及させるため、被災地の観光振興に力を入れて取り組む
・休暇を取得しやすくする
・無電柱化の集中実施や景観・歴史文化資産に配慮したまちづくり
・わかりやすい案内表示の整備をはじめとする情報提供の充実
・渋滞対策等による円滑なアクセスの確保
・道路空間の活用によるオープンカフェの設置などによる賑わい創出
・訪日外国人客をフェリー・離島航路へ取り込むための環境整備の促進
・訪日クルーズ旅客2020年500万人に向けた港湾の緊急整備、国際クルーズ拠点の形成、クルーズ船の円滑な蹴球を可能とする為の環境整備、クルーズふ頭や「みなとオアシス」における地場産品の販売拡大などを推進
・急増する訪日外国人旅行者に対応する為、入国管理の人的物的体制の強化、手続きの一部前倒しや機械化の推進
 

このように掲げられている政策を見ると自民党の観光政策の特徴は、それを「訪日外国人旅客2020年4,000万人・旅行消費額8兆円」という具体的な達成目標を掲げ、特に国際観光振興に重点を置いた観光施策が充実している点にあるといえると思います。

【公明党】
公約:http://www.komei.or.jp/campaign/sanin2016/policy/
詳細政策集:https://www.komei.or.jp/policy/policy/pdf/manifesto2016.pdf

自民党と共に政権を預かる公明党ですが、同様に昨今の観光産業の活況を成果として示しながら、公約に掲げる重点政策として以下のような観光施策を謳っています。


国内観光の活性化で内需拡大
訪日外国人旅行者4000万人時代へ地方創生を推進
休み方改革による国内旅行者増へ高速道路料金の見直しや家族向け旅行券(仮)など発行
 

また、詳細政策集において掲げられている具体的な政策は以下の通り。


・日本人の国内観光を活性化させるために、観光地の再生・活性化に取り組む
・有給取得率の向上や休暇取得の分散化など家族が休暇をとりやすい制度の導入による観光需要の平準化
・高速道路の割引料金の見直し
・日本人向け鉄道フリーパスやプレミアム付旅行券の発行
・スポーツと観光、テクノロジー等の他産業との融合などの支援
・文化をビジネスとして成長させるために、伝統行事の通年度化支援や、文化財の解説の多言語化による情報発信、適切な修理、美装化、文化施設の機能強化
・熊本城などの重要文化財、観光施設等の普及や観光業の再建支援ととともに、国内外へ九州の観光地に関する正確な情報発信や、九州をターゲットとした集中的プロモーション活動などを展開
・九州を目的地とした九州観光支援旅行券の発行
・熊本・大分を中国人観光客向けマルチビザの発給対象とする
 

前出の自民党が「訪日外国人旅客2020年4,000万人・旅行消費額8兆円」という達成目標を前面に押し出し、観光産業の中でも「国際観光の振興」に重点を置いた施策を充実させているのに対して、一方の公明党は「国内観光の活性化」を強く打ち出した政策が目立ちます。特に目玉となる独自施策が「高速道路の割引料金の見直し」と「日本人向け鉄道フリーパスやプレミアム付旅行券の発行」の二つ。どのような財源をもってそれを実現するのかに関しては謳われていませんが、いずれにせよ財政出動による消費者に対する直接的な需要喚起策を目指しているであろう事が読み取れます。

次に野党サイドの主な政党における観光政策の分析です。

【民進党】
公約:https://www.minshin.or.jp/election2016/yakusoku
詳細政策集:https://www.minshin.or.jp/election2016/policies

野党第一党の民進党でありますが、 選挙公約の「成長戦略」の項目に観光振興政策を大きく掲げています。


●成長戦略で、日本の潜在能力を引き出します
観光需要を地域経済のエネルギーにするため、観光をマネジメントする人材を育成するとともに、有給休暇を取りやすくします。
 

一方、それを実現するための具体的施策に関してですが、正直、かなりの迫力不足。詳細政策集に記載されている内容は以下の通り。


・ 「観光立国推進特別措置法」(仮称)を制定
・年次有給休暇の取得促進及び休暇の分散取得などの休暇改革
・観光資源の付加価値化・ブランド化の促進
・旅館・ホテル業の振興
・観光圏の開発
・エコツーリズム、グリーンツーリズムを推進し、持続可能な観光を目指す。
・観光地において、文化財を活用した地域づくりのための規制緩和等を検討
 

政権与党の自民、公明が具体的な数値目標や、それを実現するための具体施策を詳細政策集でそれぞれ謳っているのに対して、民進党の観光政策は「お題目」が並ぶだけの具体性に乏しいもの。しかも、内容に明記のない「観光立国推進特別措置法」を除けば、その施策も全てが現政権内で実施されているものばかりであり、野党としての「対案」となる新しい提案は含まれていません。

【日本共産党】
公約&詳細政策集:http://www.jcp.or.jp/web_policy/html/2016-sanin-seisaku.html

既に野党第二党にまで党政を拡大している日本共産党ですが、その詳細政策集の中に「観光」を明確に謳った項目はありません。一方、その他項目の中で観光に関して言及している部分を抜き出すと以下の通り。


・農林漁業の「6次産業化」はあくまで農林漁業者主体に――農林水産物の生産・販売とともに地域の資源を生かした加工や販売に力を入れることも、農林水産物の需要を拡大し、地域の雇用を増やし、農漁家の所得を増やすうえで重要です。地域資源の有効利用、農家や協同組織による農産物の直売、加工、観光、農家レストランなどの取り組みを積極的に支援します。民間企業と連携する農業の「6次産業化」はあくまで農業者主体を貫き、連携する企業も可能な限り地場企業を重視します。

・ライドシェアは副業を想定したしくみです。価格破壊が容易に起こり、今でさえ早急な改善が必要なタクシー労働者の低賃金と劣悪な労働条件はさらに悪化します。相次ぐバス事故に明らかなように、乗客の命を危険にさらすライドシェア導入など規制緩和に反対します。政府は、国家戦略特区での自家用車による観光旅客等運送事業を解禁しました。これはライドシェア導入に道を開くものであり、撤回させます。

・日本共産党は、政府が「地方創生」の名のもとにすすめる「集約化」に反対し、地方の基幹産業である農林水産業の振興と6次産業化、中小企業と小規模事業者の振興、観光産業や地域おこしなどの振興策、住宅と商店街のリフォーム助成への支援、自然・再生可能エネルギーの地産地消など、地方自治体がおこなっている地域の活性化策を全力で支援します。

・破たんに直面するカジノ推進構想 百害あって一利なし、カジノ合法化に反対します
賭博を合法化するカジノ法案(特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案)が議員立法として国会に提案されたのは2012年12月でした。それから3年半が経過しましたが、いまアジアを中心とするカジノ業界は深刻な売り上げの減少に直面し、2年連続で下落しています。国会では、カジノ法案は先送りに続く先送りです。賭博を全面的に合法化しようとするカジノ構想にたいし全国各地の反対運動も広がり、カジノ推進路線は破たんと矛盾に直面しています。
 

共産党のカラーといえばカラーでありますが、基本的には「政権与党の行っている現施策に反対」というのが主軸となっているのが政策の構成。特徴となるのは「6次産業化」による農村改革の文脈において農業者を主とした観光振興を謳っている点、そして政府の進めているカジノ合法化に対して明確に反対を示している点が共産党ならではの独自視点であると言えます。

【おおさか維新の会】
公約&詳細政策集:https://o-ishin.jp/election/sangiin2016/pdf/manifest_detail.pdf

地域政党から国政政党への転身の真っ最中のおおさか維新の会ですが、維新もまた今後の成長戦略の軸の中に「観光政策」を明確に含める政党であります。 
 

「既得権と戦う成長戦略」を、維新の手で!
規制で守られた補助金漬けの古い業界や団体が、新規参入や競争を阻み、税金を吸い上げて、っ国の活力が奪っている。
競争政策を強化し、医療、農業、観光といった産業を振興
 

一方、その詳細政策集に示されている具体的な項目は以下の通り。


<観光産業の更なる拡大>
①シンガポール型の統合リゾート(IR)を実現するための法制度を整備する。
【維新改革】大阪府市によるIR実現に向けた取り組み
○政府にIR解禁の法改正を働き掛け。
○IRの誘致活動を推進。

②2020年東京オリンピックに向けて全国で空き家や空き部屋を活用し、ホテルにかわる都市型「民泊」を可能にする規制改革を行う。近隣とのトラブル対策は行いつつ、一層の規制緩和。
③2025年国際万国博覧会の大阪招致、リニア中央新幹線の大阪同時開業等により、双極型さらには多極型の経済成長を実現する。
④地方空港の「選択と集中」。国際ハブ空港の機能を強化し、空港民営化を推進する。
 

その特徴としては、党名に「おおさか」という文字を残したことに象徴されるように、2025年の万博大阪誘致やリニア中央新幹線の大阪同時開業など、関西ローカル色が強い政策を国政選挙としても公約に掲げている点でしょうか。また、統合(型)リゾートの導入を観光政策の第一項目に掲げている点なども、これまで関西のローカル政党として示してきたのと同様の「維新カラー」であるといえるでしょう。

という事で、以上が今回の参院選において主要な政党が掲げている観光政策の比較分析です。選挙争点というのは、メディアなどが主導して「作られて」いってしまう側面も否めませんが、一方、ご自身の関心の高い分野をピックアップして、このように並べて比較してみるのもまた面白いもの。是非、皆さんもご自身で各政党の公約&詳細政策集を手に取り、確認してみて頂ければと思います。


著者プロフィール


木曽 崇(キソタカシ)

国際カジノ研究所 所長
エンタテインメントビジネス総合研究所 客員研究員

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部首席卒業(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者での会計監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長に就任。

2014年よりアジア圏最大のカジノ国際会議&展示会であるGlobal Gaming Expo Asiaのアドバイザリーボード委員を務める。

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