ブロッキング法制:知財本部にはそろそろご退場を頂くべき

さて、昨日の知財本部のタスクフォースでは、ブロッキング法制を巡って大紛糾し、有識者会議のとりまとめ文書の作成そのものを断念する事態にまで至った模様です。以下、日経新聞よりの転載。


ブロッキング法制化で大激論、異例の取りまとめ断念
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO36529840W8A011C1000000/

政府の知的財産戦略本部が2018年10月15日に開催した「インターネット上の海賊版対策に関する検討会議(タスクフォース)」第9回会合は、ブロッキング法制化の棚上げを訴える弁護士の森亮二委員ら9委員と、何らかの報告書を提出したい座長らとの溝が埋まらず、3時間半におよぶ激論の末「座長預かり」で散会になった。次回の会合は未定で、このまま検討会議が終了する可能性もある。


タスクフォースを取りまとめる立場に居る、村井純共同座長(慶応大学院教授)からは「報告書の表紙タイトルも『中間まとめ』でなく『中間まとまらない』にする」のはどうかなどという名言が飛び出すなど、非常にエキサイティングな会合となった模様。昨夕、私の手元にも現地からのリアルタイム報告が刻々と送られてきていたわけですが、それがあまりにも面白く、別途参加していたミーティングに一切身が入らないという非常に残念な事態に陥っておったところです。

ということで、知財本部の当該タスクフォースの報告書もとりまとまらず、次回会合の予定も定まらず散会になったことで、ブロッキング法制化に関する論議は「仕切り直し」になる可能性が高まっているワケですが、この展開を予想してか、今度は以下のような制度検討が浮上してきています。以下、毎日新聞からの転載。


海賊版誘導 「リーチサイト」規制へ 運営者らに罰則

文化庁は、漫画や映画などの海賊版サイトにインターネット利用者を誘導する「リーチサイト」を規制するため、著作権法を改正する方針を固めた。リーチサイトにリンク(URL)を張る行為は、これまで違法ではないと解釈されていたが、これを著作権の侵害行為とみなし、著作権者が掲載の差し止め請求をできるようにするほか、提供者らに対する罰則規定を設ける。来年の通常国会に同法改正案の提出を目指す。


上記のリーチサイト規制も、そして冒頭のタスクフォースが崩壊する直接の引き金となった「海賊版サイトの運営者情報開示を求める裁判(参照)」も同様なのですが、そもそも今回のブロッキング法制論議は「海賊版サイトに対して、あらゆる対抗手段を講じたが有効な対策がなかった」ことを前提として、最終手段として憲法が定める「通信の秘密」を侵す可能性のあるサイトブロッキングの制度化論議を行ないましょうという建付けで始まっているハズなのですが、上記のように別の対抗手段が後付けで続々挙がって来ている状況そのものが、何やらオカシナ事になっていませんか?と思わざるを得ないわけです。

そして、これは1ヶ月ほど前に書いた私自身のエントリでの主張の繰り返しなのですが、そもそもあらゆる国際条約や各国規制をもって我が国と同様に保護されており、裁判も含めて経済的な回復手法が存在している知財保護のみを根拠としてブロッキング法制を語ることが自体が、正直、スジ悪な論法なのであって、ブロッキング法制の「本丸」はやはり「本当に対処手段のない」海外オンライン賭博への対処論議を中核に置くべきだと思うわけです。詳細は以下エントリを参照。


ブロッキング制度はネット賭博にも適用せよ
http://blog.livedoor.jp/takashikiso_casino/archives/9902605.html


ところが、上記毎日新聞が報じたリーチサイト規制にしても今回、おそらく「仕切りなおし」になるであろうブロッキング法制にしても、未だ知財保護を超えない範囲での論議しか行なわれていないわけで、私的には結局ここが「混乱の中核」だとしか思えないんですね。

そもそも考えてみて下さい。例え知財保護をキッカケに始まった論議だとしても、実際に何らかの制度下でサイトブロッキングの対処を行なうのは電気通信事業法下で事業を行っているISP業者であるわけです。これらISP業者を規制する電気通信事業法を所管しているのは、知財を預かる経産省や文科省ではなく、総務省であるわけで、本来この論議は海賊版サイトだけに問題を矮小化するのではなく、海外ネット賭博、海外ポルノ、銃器や違法薬物の販売サイトなどを包括した重篤な有害サイトへの対策と、憲法第21条に定められる「通信の秘密」、そして電気通信事業法第3条に定められる「検閲の禁止」との関係を真正面から論議すべき案件なのではないでしょうか?

にも関わらず、本件に関しては知財畑の方々が「己のシマ」を主張してずっと丸抱えをしてきているわけで、結局、あるべき論議の形がいつまでも実現しないどころか、あらぬ方向に突っ走って紛糾するばかり。私としては、この話、いつ「本丸での論議」が始まるんですか?としか申し上げようがないワケです。


facebook

欧米諸国におけるネットゲーム規制論議と我が国の現状

先日、欧米15の国と地域によって「ネットゲームの射幸性規制に対する共同宣言」が公布されたとのご紹介をしたワケですが、当該共同宣言の作成に参画した国のひとつであるアイルランドから次のような報道が届いております。以下、Irish Legal Newsより転載&邦訳。


Government shies away from crackdown on ‘loot box’ games
政府、ルートボックスの禁止には後ろ向き
https://www.irishlegal.com/article/government-shies-away-from-crackdown-on-loot-box-games

However, Mr Stanton did not indicate that any immediate crackdown would take place in Ireland.
(しかし、サントン氏は(それらが)アイルランドですぐに禁止されることはないだろうと指摘している。

He said: “Where a game offers the possibility of placing a bet or the taking of risk for financial reward within the game, then, in my view it must be licensed as a gambling product. To offer gambling products in Ireland, a license is required under the Betting Acts 1931-2015 or the Gaming and Lotteries Act 1956. The Revenue Commissioners are the primary responsible licensing authority under both Acts, with some involvement of the Minister for Justice and Equality.
(同氏は次のように語った「ゲームが賭けを開催したり、ゲーム報償によって何らかの財政的リスクを与えるような可能性がある場合には、それらはギャンブル商品としてライセンスを取得する必要があると個人的に考える。ギャンブル商品を提供するためにはベッティング法(1931-2015年)もしくは、ゲーミングおよび宝くじ法(1956年)のどちらかの統制下でライセンスを獲得することが必要。両法律に基づいて、主たる所管官庁である歳入庁が法務大臣との協議の元でライセンス発行の責任を負うこととなっている。」)

“However, it should be understood, that if a game offers in-game purchases – be they loot boxes, skins, etc. - which are promoted to gamers as increasing their chances of success, such purchases are essentially a commercial or e-commerce activity. This activity would fall within normal consumer law.”
(「しかし重要なことは、もしゲームがプレイヤー達のゲーム上での優位性を高める事の出来るアイテムの販売、すなわちルートボックスやスキン販売などをおこなっているだけである場合には、それら販売行為は原則的に商業行為、もしくはネット上での商業行為である。これら活動は一般的な消費者法によって規制をされる分野であるはずだ。」)

※筆者脚注)サルトン氏はアイルランドの現・法務大臣


先のエントリでご紹介した共同宣言の中では、そこに参加した15ヶ国(および地域)のギャンブル規制当局による共有される懸念事項として、ゲーム内もしくはその周辺で提供される1)アイテムベット(スキンベット)、2)ルートボックス、3)ソーシャルカジノ、4)ギャンブルをテーマとしたその他コンテンツの4つの要素が具体的に指摘されていたわけですが、上記のようなアイルランド法相のコメントを見る限りはそこに参加している各国によってその懸念の対象にかなり温度差があるように見受けられます。少なくとも、アイルランドでは上記のうちルートボックスそのものに対しては規制をかけるつもりはない、と。

一方で、ベルギーは同国が既に今年の4月に発表したルートボックスに対する厳しい裁定を、EU圏共有の規制として採用するように主張しているわけで、なかなか論議は込み入ってきている様相であります。

【参考】ベルギー当局、「ガチャ」を賭博認定
https://news.yahoo.co.jp/byline/takashikiso/20180426-00084460/

そして実は、この様に欧米諸国で急に始まったゲームにおける射幸性コンテンツに対する規制論議は、あくまで非公式の形ではあるようですが何やら日本政府側にも持ち込まれているようで、ここ数日私のところに頂いている情報などによれば確たる部局において既に論議が開始されているとのこと。海の向こうの欧米諸国でこれら論議が起こっている内はあくまで「対岸の火事」であるワケですが、それが既に日本にも持ち込まれているとなると風雲急を告げてしまうワケで、関係各所は情報収集及びその対応準備を始めておく必要があるように思えます、

ということで、実は私側ではさっそく昨日行なわれた某所の会合にて、ゲームにおける射幸性コンテンツに関してこれまで行なわれてきた論議をザックリとまとめて勉強会形式でご提供を行ないました。この種のものは私の手元で秘匿しておいても全く意味をなさず、寧ろ関係各所のに広く閲覧をして頂く方が後の為になると思いますので、ここで当該勉強会で使用した資料を開示させて頂きます。ご興味のある方は以下からどうぞご参照下さい。

欧米諸国におけるネットゲーム規制論議と我が国の現状
http://www.evernote.com/l/ATYOqaKMm9dIpJg2P0y87p89DOJi5OjVr3I/

江田憲司氏のヘッポコ珍道中:シンガポールカジノ視察編

いやぁ、江田憲司衆議院議員が「カジノ(IR)。成功例(シンガポール)と失敗例(韓国)の決定的違い」と題して、薄っすいカジノ論考を披露されていて声を出して笑ってしました。以下、同議員のエントリより転載。


カジノ(IR)。成功例(シンガポール)と失敗例(韓国)の決定的違い
http://blogos.com/article/325828/

私は議員会合の最後に、その警察署長出身の国会議員に一番聞きたかったことを聞いた。カジノ(賭博)の最大の懸念の一つが、組織的犯罪集団(暴力団)との結びつきだ。それが原因で、売春の横行や治安の乱れ、マネーロンダリング等の問題が起こる。シンガポールに一体、組織的犯罪集団(暴力団)は存在するのか否か。

彼の答えは明確だった。「たしかにシンジケート(組織犯罪集団・暴力団)は、1980年~90年代には存在したが警察力で壊滅させた。シンガポールには犯罪集団といっても『ひったくり』の類しか存在しない」。そう、カジノ(賭博)と結びつこうにも、その土壌すらがそもそもないのだ。

これで氷解した。そう、シンガポール・カジノの成功は、こうした「特殊な環境」下での成功なのだ。たかだか小一時間だけここを視察し、やれ「成長戦略の目玉だ」とか、「日本でカジノを導入しても大丈夫」と言い切るのは、あまりに浅薄で短絡的な物言いと断ぜざるを得ないだろう。


シンガポール視察で行なわれた同国議員との会合において「シンガポールでは1980年~90年代に警察力で組織犯罪を撲滅させた」と語った同国議員のコメントを引きながら、シンガポールはこういう特殊な環境下だから成功したのだと、現在安倍政権が進めている我が国のIR導入施策に対して「浅薄で短絡的」などと批判を展開していらっしゃるわけです。

それではここで、私が2014年に日経ビジネスオンラインに寄稿したコラム記事をご紹介しましょう。


W杯、「賭博シンジケート」との戦い
大規模イベントから八百長リスクは根絶できるか

W杯の盛り上がりの一方、業界全体が厳戒態勢で対応に当たっている問題があります。それが世界規模で蔓延する「八百長試合」問題です。

 前述のとおり、英国を代表とする世界の複数の国々では、スポーツの試合結果を賭けの対象とするスポーツベットが合法とされており、サッカーは最も人気があるコンテンツの1つです。その影で、サッカー界では国境を越えた国際的な八百長試合の斡旋シンジケートの存在が確認され、プレイヤー、審判、そしてチームスタッフなどへの大規模な買収アプローチが現実に行なわれています。

 昨年2月、シンガポールにおいて国際的な八百長試合の斡旋シンジケートの大規模な摘発が行なわれました。当時の報道によれば、同シンジケートが関与し八百長斡旋を行なったとされているのは、W杯予選、欧州選手権予選、欧州チャンピオンズリーグ(CL)など、世界の主要なサッカートーナメントです。


江田憲司議員は、同国議員の「シンガポールでは1980年~90年代に警察力で組織犯罪を撲滅させた」などという大本営発表的コメントを頭から信じて「そういう特殊な環境だからこそカジノが成功した」などと適当なことを抜かしている訳ですが、実は同国は世界中のスポーツ賭博における八百長試合を斡旋する国際シンジケート(反社会的組織)の拠点として知られ、つい数年前に大規模な摘発があったばかりであります。

すなわち、同国議員の「シンジケート(組織犯罪集団・暴力団)は1980年~90年代には存在したが警察力で壊滅させた。シンガポールには犯罪集団といっても『ひったくり』の類しか存在しない」なるコメントは、日本からの来賓向けの美辞麗句でしかなくシンガポールの実態とは全く違うもの。そんなものを頭から信じて「シンガポール・カジノの成功は、こうした『特殊な環境』下での成功なのだ」などと鼻の穴を膨らませながら語っている姿は、あまりに浅薄で短絡的な物言いと断ぜざるを得ないと言えましょう。

どんなに厳しい規制産業においても「不正をゼロ」にすることなど出来ないのと同様に、カジノから不正をゼロに出来る「ウルトラC」的な秘策なんてのは世の中には存在しておらず、細やかな制度設計と日々のオペレーションの積み上げで、不正の発生リスクを最小化してゆくしかない。それは、日本やシンガポールのみならず、世界中のどの国のカジノに行っても同じであります。江田憲司議員におかれましては、今後は「批判の為の批判」ではなく、もう少し現実に即した建設的議論を展開して頂きますよう、心からお願いを申し上げます。

ゲーム業界はいよいよ節目に入ったのかも、という話

現在、欧州圏を中心として、ゲーム業界に広がる射幸性の追求に対して「待った」がかかろうとしてるという記事を昨日、Yahooニュース側のコラムに書いたわけです。以下、リンク。

●欧州全域でガチャ規制論議が幕開け
https://news.yahoo.co.jp/byline/takashikiso/20180919-00097409/

欧州の各ギャンブル規制当局の連名で発表されたこの宣言で示される「ギャンブルとビデオゲームに代表されるその他のデジタルエンターテイメントとの境界があいまいになって来ている」という指摘が非常に印象的なわけですが、奇しくも実は昨年の11月にこれに関連する問題に対して私自身がアチラコチラで発言をしたりモノを書いたりしていた時分に、類似することを言っていたりするんですよね。以下は当時、私の発言を取り上げてくれたゲームメディアからの転載。


ゲーム業界が規制されるのではなく、規制に自ら近づいているのだ
https://damonge.com/p=23171

木曽氏は「消費者に射幸性を提供する産業とは『規制をされて当たり前』の産業」「本当にその覚悟があるのか」とコメントしている。ギャンブル関連法案や規制がゲーム業界に歩み寄ったのではなく、ゲーム業界が自らギャンブルの世界に歩み寄ってきているのだと指摘する木曽氏の言葉は鋭く、身につまされる。
 
思えばeSportsに代表される賞金制大会、ランダムで景品の当たるルートボックス。ゲーム業界が新たな発展の姿を見せているように感じられがちだが、どれも実際には射幸性を伴うギャンブルの世界に近づいているだけとも言い換えられる。


「消費者に射幸性を提供する産業は『規制をされて当たり前』の産業」という表現は、私自身が様々なシンポジウムや講演会で登壇するごとにしばしば使う言葉。ゲーム業界の方々には、その「規制をされて当り前」の産業に足を踏み入れる覚悟と自覚を持った行動をしていらっしゃいますか?という問いかけを、ここ1,2年の間に幾度となく発してきたわけですが、その問いかけも虚しく正しい法解釈もないままにプロゲーマー認定制度なるものを立ち上げる方々が現れ、eスポーツ施設なるものを運営する方々が現れ、と事態はどんどんと複雑化して行っているのが現状。

仕舞いには、私が冒頭のYahooニュースの記事を書いた直後に、同じくYahooニュース上でメジャーなスマホゲームのガチャ不正操作が発覚した報道が大々的になされ、Yahooポータルのトップニュースを飾るなどナンダカナァとしか言いようのない状態に陥っているわけです。

●スマホゲーム「アナザーエデン」、ガチャ不正操作で謝罪 「特定のケースで再抽選を行う内部プログラム」の存在が発覚
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180919-00000073-it_nlab-sci

欧州を中心として始まったゲーム業界の射幸性コンテンツに対する規制は、未だ我が国に到達しては居ませんが、このようなゲーム業界を巡る論争は欧州から米国にかけて徐々に広がってゆく事は確実。その様な状況の中で日本の業界が能動的に何らかのアクションを採って「自制の道」を選ぶのか、それともギリギリまで「儲けるだけ儲けた」挙句、社会問題として国家権力によって網をかぶせられてゆく未来を選ぶのか。まさに業界の分岐点に立っているではないかなぁと思っておるところ。

いずれにせよ、ゲーム業界はいよいよ節目の時期に入ったのかもなぁと個人的には考えておるところであります。本件に関しては、引き続き私の専門性の立場から様々な論考をお届けしてゆきたいと思います。ということで、未だYahoo側のコラムを読んでいらっしゃらない方は以下からどうぞ。

●欧州全域でガチャ規制論議が幕開け
https://news.yahoo.co.jp/byline/takashikiso/20180919-00097409/

IR整備法10条問題:カジノ設置許可はたった10年

さて、カジノ業界内で日本のカジノ法制上の最大の問題点のひとつとして指摘される、IR整備法10条問題に関してです。以下、IR整備法第十条より転載。


第十条
区域整備計画の認定の有効期間は、前条第十一項の 認定の日から起算して十年とする。
2.区域整備計画の認定を受けた都道府県等(以下「認定都道府県等」という)は、区域整備計画の認定を受けた設置運営事業者等(以下、「認定設置運営事業者等」という。)と共同して、区域整備計画の認定の更新を受けることがでできる。
[…]
6.第二項の更新がされたときは、区域整備計画の認定の有効期間は、従前の区域整備計画の認定の有効期間の満了の日の翌日から起算して五年とする。


上記の通り、国によるIR施設の設置許可は1)認定の日から10年、および2)その後は5年ごとの更新となっているわけです。ただ、ここでいう「認定の日」というのがクセモノでありまして、「認定の日」というのは文字通り政府が整備区域を認定した日であり、その瞬間は未だ当該区域はただの空き地であるわけです。即ち、この認定期間となる10年の内には施設建設に要するおよそ4~5年程度の期間も含んでおり、実際に最初の認定期間中に区域で事業者が営業を行うことが出来るのはおよそ5~6年程度と考えるべきでしょう。

一方で、IRが幾ら如何に回収の早い投資対象であるといっても、流石に5~6年での回収には無理があります。近年、諸外国で開発されたIR施設で良好な回収が出来た事例としてしばしば挙げられるのが2010年から営業の始まったシンガポールの2つのIR施設ですが、これら両施設でもEBITDAベースでの投資回収に5年弱かかっています。このEBITDAベースの投資回収分析は、あくまで法人税の支払いや減価償却費、利息支払の計上前の利益をベースに分析するものですから、実際の回収はこれより緩慢なものとなります。

しかし、実はシンガポールのライセンス認定期間は30年とかなり長めに設定されていますから、開発に4年、回収に5年かかったとしても、残りの認定の残存期間でシッカリと事業者は利益の確保ができるワケですが、対して日本は先述の通り認定期間が10年しかない。シンガポールと同様に開発に4年、回収に5年かけてしまった場合、これからやっと利益が出せるというタイミングで整備区域の認定が切れてしまうこととなるワケで、そんな投資をする民間企業は通常はありません。この点は、実は私自身はかなり早い段階から問題点として指摘してきており、その意を汲んだ議員さんがIR整備法の審議の過程でも国会質疑をしてくれています。以下、5月30日衆院内閣委員会より。


濱村委員:事業リスクで十年間の有効期間を設けていますよということを、今、最後におっしゃっていただいたんですが、そもそも、九条の七項に書いてあるような必要な措置、アンケート、パブコメということをおっしゃっておられました。

 ちょっと更に確認をしたいんですけれども、党内論議の場でも私は確認をさせていただきました。区域認定は認定から十年間有効ですね、地元の政治状況がその間に変わったらどうなるんですかということを党内論議の場でもお話をさせていただいたんですが、設置したにもかかわらず、認定から十年たったときに地元で同意を得られないというようなことになってしまうと、事業者にとってはリスクが高いと思っております。

 これは、実は、認定期間の十年というのが、シンガポールとかマカオは三十年とか二十年というふうに聞いているわけですけれども、それで比較すると短いなと思っているんですね。そういう意味では、先ほども申し上げたとおり、初期投資すら回収できないというリスクが高いというふうに思いますが、リスク低減策をぜひ講じていただきたいというふうに思っておるんですが、いかがでございましょうか。

中川政府参考人:
 お答え申し上げます。IR整備法案の中では、濱村委員御指摘のように、カジノを含むIR事業を地元に誘致して、来ていただく際には、立地市町村を含めた地元での十分な合意形成というものが非常に重要になるというふうに考えております。また、そういう十分な合意形成ができているということ自体が、IR事業者にとってみれば、健全な運営を長期間にわたって継続できる絶対条件になるのであろうというふうに考えております。

 したがいまして、区域整備計画の認定の更新に当たっても、認定の申請時と同様、都道府県などの議会の議決を経ることを要件とするとともに、都道府県が申請をする場合には立地市町村の行政部門の同意を得るということを条件にしているわけでございます。

 こういうことでございますので、IR事業者は、観光、地域経済の振興に積極的に貢献をするとともに、カジノ事業の実施に伴う弊害防止の点でも地元のことも含めて万全を期するとともに、健全なIR事業を展開しているということについて地元の理解を深めて、地元の積極的な協力が得られるように、ふだんからそういうIR事業の運営に努めることが肝心なのではないかというふうに考えている次第でございます。


そこで整備計画の更新となるわけですが、IR整備法は最初の認定取得後の整備計画の更新を5年ごととして更に短く設定している上に、実は計画更新の為には自治体の議会承認が必要と規定しています。即ち、IR整備計画が継続的に更新されてゆく為には、整備計画を立てる側にいる行政府の長、すなわち首長(都道府県知事等)と、それを承認する地方議会(都道府県議会等)の両方が「常に」カジノ推進で纏まっていなければいけないわけです。

日本の各自治体の首長と議会は4年ごとの改選ですから、IR整備が行なわれる自治体ではほぼ毎回の選挙で「IR存続の是非」が争われることとなり、首長or議会の過半のどちらかが反対派で占められた時点で、当該地域でIR整備計画の更新ができず、営業の継続が出来ないこととなります。そんな政治リスクが極大化している環境下で、どれ程の纏まった金額の投資を行なう事業者が現れるのでしょうか。実はこのことも私自身は早期から指摘しており、国会審議の中で議員さんによって取り上げられています。以下、7月12日参院内閣委員会より。


清水貴之君 続いて、IRの質疑に入りたいと思います。
 まずは、これは先日も質問した内容、繰り返しになるんですが、区域整備計画の更新の話ですね。やはり私引っかかっているのが、五年ごとの更新で、議会の議決がそのたびに必要だという話です。議会の議決というのは、この前もお話ししましたけれども、やっぱり政局に使われてしまう。そのIRの運営状況、経営状態とか、この前の御答弁では、地域の同意を得ることが大事で、そのためにやっぱり努力をしてほしいというような御答弁だったと思うんですけれども、それはそれでそのとおりだと思うんですが、その努力とはやっぱり別のところで動いているのが政治であって、全然関係ない理由によってIRが例えばストップしてしまう可能性もあるわけですね。

 この辺の懸念というのがやっぱり残っているんですけれども、次長、この辺りは改めていかがでしょうか。

○政府参考人(中川真君):
 御答弁申し上げます。清水委員の御指摘の趣旨も十分理解するところではございますが、一方、この五年、最初は十年の有効期間ですけれども、その後は五年ごとに区域整備計画の有効性を更新していくわけですが、この更新時に、仮にですけれども、地元議会が議決できないような状態で国土交通大臣が更新をしていって事業を継続させていくという状態をつくっていくということは、このIR事業が本当に地元に理解され、地元の協力も得られながら、地元にある意味じゃウエルカムされながら進めていくという趣旨からすると非常に困った状態になるのではないのかというのが、更新の都度、地元の議会議決を求めている趣旨でございます。

 したがいまして、ここから先は繰り返しになってしまいますけれども、IR事業者としては五年ごとに来る言わばチェックポイントのようなものだというふうにお考えいただきたいと思いますけれども、そのチェックポイントでもやっぱり地元の議会を含めて地元の理解と協力が得られる、そして望まれるIR事業者であると、あり続けるよう、ふだんから御努力をいただくということがやはり一番本質的には重要なことなのかなと思います。


この他にも実は法案審議中に類似する質疑が幾度となく為されたわけですが、政府としては「当初10年の認定、後5年ごとに更新(&議会承認必要)」という方針は変えないという事が繰り返し述べられるわけです。上記のような問題の指摘がある事は認知しながらも方針を変えるつもりはないとするのならば、それはそれで政府として「覚悟をもった」決断であり、仕方がないのかもしれないな。。但し、民間の投資意欲は減退するけどね、というのが当時の私のスタンスであったわけです。

ところが、です。先月冒頭に行なわれた各自治体に向けた政府によるIR制度説明会において、政府はこんな事を言い出しており、私としては腰を抜かす事と成ります。


(実施協定)
第13条 認定都道府県等及び認定設置運営事業者等は、第九条第十一項の認定の後速やかに、次に掲げる事項をその内容に含む協定(以下この章において「実施協定」という。)を締結しなければならない。[…]

<留意点>
a) 実施協定は認定区域整備計画の適正な実施のために必要な事項を定めるものであるが、区域整備計画の認定に当たってIR事業が円滑かつ確実に行なわれると見込まれることなどを認定基準としており、認定申請の段階から選定事業者と都道府県等の合意に基づく実施協定案を作成し、申請書に添付することを想定[…]

c)実施協定の有効期間については、区域整備計画の認定の有効期間を超えた期間を定めることも可能


上記政府の主張が何を意味しているかというと、政府の定める認定期間は10年ではあるが、その認定に基づいて自治体と事業者が結ぶ協定は、その認定期間には縛られないので10年を超える契約を両者間で結べますからね。なお、その協定書案は地域選定の際の評価の対象にしますので、申請の際にはどういう内容の契約を結ぶのかを事前提示して下さいね、と。

これでもまだ解り難いと思われるので、背景にある政府側のメッセージを要約しますと;

「政府は10年しかIR区域の認定を補償はしないけど、それを超える整備計画に関しては自治体と民間企業の独自リスクで処理して下さい。各人がどれ程のリスクを負うかは、国側が審査して区域選定結果に反映します」

ということであります。要は、法案審議時に指摘されていた制度上の不備に対して、政府は「投資上不利になっても仕方がない」という覚悟をもって「方針を変えない」というスタンスを採ったのではなく、その実、政府の補償しない10年より先の開発上のリスクは全て自治体と民間事業者に丸投げする気であったということ。区域認定期間の法制上の不備を散々指摘してきた私としては「コノ人達ハ、イッタイ何ヲ言イダスンダ…」以外のコメントがない状況であります。。

(本稿は次エントリに続きます)

著者プロフィール


木曽 崇(キソタカシ)

国際カジノ研究所 所長
エンタテインメントビジネス総合研究所 客員研究員
公立諏訪東京理科大学 地域連携研究開発機構 客員研究員

経歴:
日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒業(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者での会計監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長に就任。

2014年よりアジア圏最大のカジノ国際会議&展示会であるGlobal Gaming Expo Asiaのアドバイザリーボード委員。2018年より公立諏訪東京理科大学 地域連携研究開発機構 客員研究員。

より詳細なプロフィール

各種連絡はtakashikiso@gmail.comまで
       記事検索
ご利用上の注意
このwebサイト内の内容はすべて著者による独自の視点から記述されたものであり、その内容を保障するものではありません。本サイトの記述内容から派生したいかなる損失も著者は補償しません。

このwebサイト内の文章、構成、表現などはすべて本webサイトの著者に帰属します。本著作物の引用、抜粋を行なう場合には引用元を明記の上、一般的な著作権取り扱いルールに基づいてその利用を行なってください。悪質な利用は法的手段に訴える可能性があります。

(C)2009-2015 Takashi Kiso, All Rights Reserved.

管理用リンク