カジノ業界の巨星堕つ、スティーブウィンのラスベガス追放

さて、以下のようなニュースが飛び込んできました。


米ラスベガスのカジノ王、セクハラ疑惑で業界から追放へ
https://forbesjapan.com/articles/detail/30245

米ラスベガスのカジノ王、スティーブ・ウィン(Steve Wynn)は昨年2月、自身にまつわるセクハラ疑惑の報道を受け、「ウィン・リゾーツ」の会長およびCEO職を辞任した。ネバダ州のカジノを規制するネバダ・ゲーミング管理局(Nevada Gaming Board)」は10月14日、彼のカジノ業界の会員資格を停止する告訴状を提出した。


近代カジノ業界の発展史における最大の功労者の一人として名高い、カリスマ経営者スティーブ・ウィンがネバダ州のゲーミングコントロールボードからライセンス剥奪されるとの報。文字通り「業界追放」であります(少なくともネバダ州からは)。

ウィン氏に纏わるセクハラ報道が大量にリークされたのは昨年の2月。この報道の背景には同氏が当時CEOを務めていたウィンリゾートの経営権を巡る問題がある為、必ずしも一連の報道を表面通り受け取る「だけ」が正しいわけではないのですが、一方でウィン氏の女癖の悪さは実は業界内では古くから知られていることではありました。

一方、彼のセクハラを正統化するつもりは毛頭ないとお断りを入れた上で、彼自身が性的魅力の高い女性以外に対しても絶大なる「人たらし」ぶりを発揮する、文字通りの「カリスマ」であったのも事実で、一連の事件はスティーブウィンという人物の持つ生来からの性質の「裏/表」であったのかなあと言った印象です。

同時にウィン氏の失脚は、ラスベガスにとっては「一時代の終わり」を意味します。スティーブウィン氏は1980年代後半から1990年代に亘ってのラスベガスの拡大期に貢献した「ラスベガスを作った男」と呼ばれる経営者(あくまでレトリックの上での話ですが)。現在、我が国にも導入が予定されているカジノを中核とした複合観光施設、すなわち統合型リゾートの原型となる開発スタイルを確立したのが彼であります。

勿論、昨年2月にCEOを辞任して以降、ウィンリゾート社は彼の経営の手から離れていますので今回の彼のラスベガス追放が経営に直接与える影響はないですし、そもそもウィンリゾートは現在、ラスガスにいくつか存在するカジノ企業の中の「一つ」でしかない。そういう意味では、直接街にあたえる影響、カジノ業界に与える影響はないわけですが、1980年代以降、およそ40年に亘って街の象徴、もしくは業界の象徴とされてきた経営者の一人であるわけで、彼が死去したのならまだしも、今回彼がセクハラで業界追放を受けて消えて行くという事実に、いち業界人として、そして己の青春時代の一部をラスベガスで過ごした私としては胸に来るものがある。タイトルにも記した通り、今回の一件は「カジノ業界の巨星落つ」ではなく文字通り「巨星『堕つ』」なわけです。

一方で業界内を見回してみますと、マカオなどでは次世代の業界カリスマがチラホラ見え始めていますが、一方でラスベガス、もしくは米国のカジノ業界内では若かりし頃のウィンほど異才を放つスター経営者は未だ表れていないのが現状。「Next ウィン」などとして一時的に注目を浴びた、あの経営者、この経営者も5年/10年の単位でみると消えて行きましたね(遠い目。次なる業界カリスマはどこから生まれるのか。ひょっとするとそれはこれから新たに生まれる日本のカジノ業界から、なのかもしれません。業界の次なる未来を期待しながら見守って参りましょう。

最後にスティーブ・ウィンさんにおかれましては、ご年齢的に「一度身を清め、次なる新天地でのご活躍をお祈りしております」とは言い難い状況ではありすが、業界人生の晩年にあたるここ数年間の各種スキャンダルはあったものの、貴方が業界史に刻んだ何十年にも亘る功績は未だその光を失ったわけではありません。ぜひ、業界の未来は後進に託し、静かな余生と幸せかつ充実した晩年生活を送られますことを、こころよりお祈り申し上げております。


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大阪の十条リスク低減案について

昨日の飲み会で、IR整備に纏わる大阪の条例案に関する話題が出たので、私の意見を少しまとめます。我が国のIR整備において、民間事業者にとっての最大の「リスク」とされているのが業界内で「10条問題」と呼ばれているIR整備法第10条に纏わるリスクです。以下IR整備法第10条


(認定の有効期間等)
第十条
区域整備計画の認定の有効期間は、前条第十一項の認定の日から起算して十年とする。
2 区域整備計画の認定を受けた都道府県等(以下「認定都道府県等」という。)は、区域整備計画の認定を受けた設置運営事業者等(以下「認定設置運営事業者等」という。)と共同して、区域整備計画の認定の更新を受けることができる。
3 前項の更新を受けようとする認定都道府県等は、認定設置運営事業者等と共同して、区域整備計画の認定の有効期間の満了の日の六月前から三月前までの期間内に、国土交通大臣に申請をしなければならない。ただし、災害その他やむを得ない事由により当該期間内に当該申請をすることができないときは、国土交通大臣が当該事由を勘案して定める期間内に申請をしなければならない。
4 前条第五項から第九項まで及び第十一項から第十四項までの規定は、第二項の更新について準用する。
5 第三項の申請があった場合において、区域整備計画の認定の有効期間の満了の日までに当該申請に対する処分がされないときは、従前の区域整備計画の認定は、その有効期間の満了後も当該処分がされるまでの間は、なお効力を有する。
6 第二項の更新がされたときは、区域整備計画の認定の有効期間は、従前の区域整備計画の認定の有効期間の満了の日の翌日から起算して五年とする。


要は「日本のIR整備の国からの認定は当初10年、その後5年ごとの更新」であるということなのですが、第一に大規模な不動産投資と回収が必要となるプロジェクトに対する認定がたったの10年というハッキリ言って常識外れな短期であること、第二にその更新にあたって毎回地方議会の議決を要件としており将来の政治状況なんぞ誰も判るわけがない中でそのリスクの大部分を民間が丸呑みしなければならないという2点において、民間の不動産開発投資の案件を、なぜだか公共事業開発かなんかのつもりで法律を作ってしまったという、IR整備法が「いわゆる『お役所仕事』の集大成」であると業界内で嘯かれている最大の原因となっている条文であります。この辺りの問題に関しては、私は大分以前にかなり詳細にまとめたオピニオンペーパーもまとめていますのでご興味のある方はご参照ください。

我が国のIR事業の制度的リスク要因とその補完手法に関する考察

で、このポンコツな法律が既に成立してしまっている為に、その中で日本のIR整備計画の検討を進めなければならない民間企業と各自治体がエライ苦労をしているワケですが、大阪の吉村府知事からこれを補完する以下のような条例案の提示があったというのが冒頭でご紹介したお話です。以下、スポニチからの転載。


【大阪府市】府 条例でIR計画の認定更新基準明確化へ~十条リスク配慮
https://sponichi.net/sponichi-plus/ir/20191005-osaka/

・10月1日、吉村洋文・大阪府知事は、府議会本会議にて、IR整備法第十条の認定更新に関わる条例制定の方針を明らかにした
・IR整備法は、国のIR区域整備計画の認定から10年後、その後、5年ごとに認定更新を求める
・認定更新では、都道府県(政令市)の首長同意、議会議決、立地市町村の首長同意(+条例により議会議決)が必要
・府は、条例で更新時の基準を定め、それを満たせば、同じ事業者の事業継続を可能とする


大阪府吉村知事によると、条例であらかじめIR整備計画の議会同意等に関して更新基準を定め、その基準を満たせば自動的に事業者の事業継続を保証するというもの。これをもって「IR事業者は、政治の変動リスクを過度に気にすることなく、長期的な視点で投資が可能となる」としているワケです。

ただね正直、コレに関しては民間側にとってはあんまりリスク低減にはならんなあというのが私の個人的な感想。今の議会によって条例で何らかの「基準」を定めたとしても、将来「もし、カジノ反対派が議会の過半を占めた時」にその条例そのものが覆されるリスクは変わらないですからね。この条例は寧ろ民間のリスク低減というよりは、IR整備を推進する議決を行う今の議会が、10年後も同じ「推進派優勢」で維持されていることを前提として、計画更新にあたっての(彼らにとっては)無駄な議会闘争が行われるリスクを低減する為の条例にしかなっていません。繰り返しになりますが、反対派が議会の過半を占めた時点でこの条例は何時でも覆されますし、今の議会が未来の議会の議決を拘束することはできませんから。

先日パブコメが締め切られたIR整備による基本的考え方(案)の中では、この10条問題にまつわるリスクを何とか低減させようと色々な妥協や工夫を国側も必死に考えてくれたのは判るのですが(ちゅうか法律の範囲内でホントに最大限工夫をしてる)、そもそものIR整備法がポンコツである限りその工夫にも限界があるワケでして、結局、法そのものが抱えている明らかな問題はIR整備法付則第四条で定められている「最初の整備計画の認定の日から起算して5年を経過した場合」に行われるとされるIR整備法そのものの改正論議の中で修正を入れて行くしかないのだと思います。

それまで、民間および各自治体の皆様、および新しくIR整備を担当することになる各省庁の皆様は、こんなポンコツな法律を作った人達に対してブーイングを浴びせ続ければ良いと思いますよ。

カジノで「日本の国富が外資に持ってゆかれる」論の間違い

さて、ラスベガスから大きなニュースが入って来ました。ラスベガスカジノ企業の雄であるMGM Resorts社が同社の旗艦カジノであるベラージオを投資ファンドBlackstone社に売却するというニュース。以下、Bloombergからの転載。

MGM社、ベラージオの売却を42.5億ドルでブラックストーン社と合意
MGM Agrees to Sell Bellagio to Blackstone for $4.25 Billion
https://www.bloomberg.com/news/articles/2019-10-15/mgm-sells-bellagio-to-blackstone-for-4-25-billion-in-lease-back

売却合意額はおよそ4,600億円、MGM社はベラージオの不動産そのものをブラックストーン社に売却はするものの、リースバック形式で引き続き同施設の経営は維持するそうです。このリースバック方式の不動産売却は、実は先日同様にラスベガスのオフストリップに立地する著名カジノRio All Suiteの売却でも利用されたばかり。以下、News3 Las Vegasからの転載。

シーザース社、リオカジノの不動産を5.16億ドルで売却
Caesars sells Rio casino-hotel to real estate company for $516 million
https://news3lv.com/news/local/caesars-sells-rio-hotel-to-real-estate-company-for-516-million

カジノ業界ではカジノ事業会社自身が不動産保有企業と施設運営企業をグループ内で分離し、不動産保有企業側をREIT上場させるなどという形式の「所有と経営の分離」は行われて来ましたが、完全なる第三者企業に対して不動産保有権を譲渡してしまう(もしくは最初から第三者に保有権がある)という、今日(こんにち)ホテル業界で主流になっている様な開発方式がなかなか進んでこなかった業界でありました。しかし、今回MGM社は、このリースバック方式での不動産売却検討をグループ内で進めるとコメントをしており、いよいよカジノ業界でも「所有と経営の分離」の波が広がるのかな、と感じておるところです。

ちなみに、リースバック方式を取ることによってカジノ企業は不動産保有者に賃料を支払わなければならなくなる為、EBITDA上は施設売却がマイナスに影響します。一方で、不動産開発に対する投資の「回転率」をあげることが出来る為、カジノ企業は短期で複数の施設開発が可能となる。今回、MGM社がベラージオを売却した4,600億円が向かう次なる開発の最大の候補先は…当然ながら同社が大阪夢洲で開発権の取得を目指している日本の統合型リゾートということになります。

日本における統合型リゾート開発を外資系企業が受託することを「日本の国富が外資に持ってゆかれる」などと表現する人がカジノ反対派の方々の中には多いですが、こういう人達は施設営業が始まった「後」の営業利益の部分にしか目が行っておらず、営業が始まる前の開発段階で海外から持ち込まれる多額の開発資金の存在を忘れてしまっている。近年問題視され始めているGAFA問題を始めとするインターネットサービスなどと異なり、外資カジノ企業が日本で施設営業を行うにあたっては、その大前提として多額の開発投資を「外から持ち込む」ことが必要であり、その資本流入分を無視して「国富が外資に持ってゆかれる」などと表現することは圧倒的な間違いであるということを、こういうレトリックを使いがちな反対派勢力の方々は自覚して欲しいな、と思うところです。

イギリス:ガチャを「ギャンブル」として規制に動くか!?

さて、少し亀なエントリとなりますが、これに振れて置かないわけには行かないでしょう。先月の話となりますが、イギリスの文化メディアスポーツ省から、(主に)ビデオゲームに関連して調査を行った大きなレポートが開示されました。以下、レポートへのリンク。

Immersive and addictive technologies Contents
https://publications.parliament.uk/pa/cm201719/cmselect/cmcumeds/1846/184602.htm

この「没入感および依存性のある技術コンテンツ」と題されたレポート、必ずしもビデオゲームだけではなくVR/XRなども含めて最近注目されるコンテンツに使用される各種技術に関して、社会的なリスク評価とその対策を示したもの。但し、その内容の8割方はビデオゲームに関連する分野への言及となっておりまして、この分野に関わりのある方は一読して損はない内容になっております。

この中で特に強調された社会的リスクが、1)コンテンツ技術が心理に与える影響と、2)コンテンツ技術が個人の家計に与える影響。要は両方とも「依存」に関連するテーマであります(それ以外もあるけど)。

前者に関しては「全体の中では必ずしも大きな比率ではないが」という前提を置いた上で、世界で医療的にも認知が広がる「ゲーム依存」に対して警鐘を鳴らしているわけです。同レポートは、ゲーム産業に対して「現時点において、産業はゲーム依存に対する認識とそれに対する真摯な対応が圧倒的に不足している」とし、同時に「ゲーム産業が積極的にプレイデータの開示を行わないことで産業に対する政策的介入を妨げている」と糾弾しています。本結論は、各ゲーム企業にゲーム依存に関連するデータの提供および、それら研究に対する財政的な補助を義務づけるべきだと結論付けています。

一方「コンテンツ技術が個人の家計に与える影響」に関する本レポートの指摘は更に辛辣です。ルートボックス(日本のガチャにあたるゲーム仕様)やスキンベット(ゲーム内アイテムを使用した賭け)など、現在、一般的にビデオゲームの中で扱われている射幸性を有するゲーム仕様に関して言及を行い、これら仕様に対して英国のギャンブル統制当局(ギャンブル委員会)が適切に介入を行っていないことを指摘、特にルートボックスに関しては次期国会においてそれらを明確に賭博として位置付け、英国ギャンブル法の統制下に置くための法改正を進めるべきであるとの相当踏み込んだ主張を行っています。

2017年11月に国内大手メディアの中では私が一番早くYahoo!ニュース内のコラムで報じた欧州における「ガチャ=賭博?」論争。当時ゲーム業界の一部では「世界の片隅で起こっている些細な問題」などとそれを評し、それを殊更に取り上げることそのものを問題視するような不見識者も居ましたが、もはやこの問題は世界各国を巻き込んだ大論争にまで発展しているのが実態。

ガチャ=賭博?:世界同時多発的なガチャ規制論が勃発
https://news.yahoo.co.jp/byline/takashikiso/20171123-00078470/

当然ながら、この大きな流れの中で我が国日本もそれをいつまでも「他人事」として扱うことは出来ない状況にまで来ているのが現状です。業界としても誰か(例:担当省庁)に言われて動くのではなく、この種の問題に能動的に取り組むことが巡り巡って未来の業界への「ダメージコントロール」に繋がるワケで、積極的にアンテナを高く持っていて欲しいなと思うところであります。国際情勢に関しては、私としても引き続き注視してゆく予定です。

統合型リゾート整備:「一部早期開業」に関する考え方

さて、先月開示されたIR整備のための基本方針(案)へのパブコメ〆切が2日後の10月3日に迫っております。以下、パブコメの特設サイトへのリンク

特定複合観光施設区域整備法第5条第1項の規定に基づく「特定複合観光施設区域の整備のための基本的な方針(案)」に関する意見募集について
https://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=665201907&Mode=0

パブコメ文書が開示されてから約1カ月、色々な主体の方から基本方針(案)に対するヒアリングを受けているのですが、1点だけ気になっている凄く重要なことをここに記したいと思います。

今回開示された基本方針(案)の内容に関しては、原則的にこれまでIR整備法に関連する様々な政府論議の中で示されてきた方針が纏められ、また詳細が案として発表されただけのものであり、多くの部分においてサプライズと言えるものはありません。ただ一点だけ、これまでの論議からの変更点と言えるのは、我が国のIR整備に対して「一部早期開業」という概念が明確に組み込まれたことです。

IR整備法第17条第2項には以下の様な定めがあります。


認定設置運営事業者は、特定複合観光施設のうちカジノ施設の営業を先行して開始してはならない。


これは我が国のIR整備があくまで観光振興を主たる目的とすることを前提とし、特定複合観光施設のカジノ以外施設の営業が開始していない内に、カジノ施設だけが「単純賭博施設」として稼働し始めることを禁止するもの。この規定により我が国のIRにおける「カジノ施設」の開業は、整備計画上に定められた全ての施設が完了した後になるものと考えられてきました。

一方、今回の基本的考え方においてはその点に関して大きな変更が加えられ、その他施設の完成を待たずしてカジノ施設が先行して開業できるケースが定められました。その要件となるのは;

①整備計画上に記載された全てのIRを構成する施設の整備資金の調達が既に完了しており、同時にそれら全ての施設の建設工事の発注が同時期に行われていることを前提として
②IR施設のうちの一部が完成していない段階であっても、カジノ施設と国際会議場施設、展示等施設、魅力増進施設、送客施設及び宿泊施設がそろって完成し、それらがIR整備法および関連政省令等に定められた「IR施設の基準等」に適合している場合

とされています。要は全体施設が完成していなくても、その先の開発完了が約束されている限りにおいては、法に定められたIR施設の基準等を満たした段階で一旦、完成している部分を「一部早期開業」として営業開始させて構わないよ、とする規定であります。このような運用が今回盛り込まれた理由に関して、「基本的考え方(案)」は「IR区域の整備による効果を早期に発現させる」為と説明しております。

…とここまではが今回示されている変更点なのですが、どうも私の所にヒアリングにいらっしゃる方々の中で、特に大阪以外の自治体の方々から「これって要は大阪の為の施策ですよね?」的なコメントが出てきており、私としてはいやいや全然そうじゃないですよ、と申し上げているワケです。

確かに現在大阪は、1兆円なんていう完成まで何年かかんだ?としか申し上げようのない巨額IR投資を期待しつつ、一方で絶対に工事が完成のしようのない「2024年までの」IR開業を未だ主張しているという自己矛盾を抱え続けてきた自治体であり、今回、国側の方針に「一部早期開業」の概念が入ったのは朗報であります。これによって何とか万博まで開発と、その後開発を2つに分けることでカジノ部分も含めた「一部早期開業」を出来る可能性が出て来たわけです。

一方で、当然ながらこのような「一部早期開発」を前提とした開発様式は、大阪以外のカジノ候補地にだって利用できるものであり、これを最大限利用しない手はありません。そもそも、これまでも散々申し上げてきたことですが、我が国のIR整備は「施設建設期間も含めた上で」認定期間が10年というあまりにも短すぎる計画となっており、大型のIR開発が「全て完成してからの開業」という前提をおくと実質6年程度しか営業期間が保証されていないという制度上の不備を抱えていることはこれまで党ブログでも散々申し上げて来た通りであります。当然ながら、こんな超短期で巨額の投資回収なぞができるわけもなく、各企業や、特にその後ろからファイナンスを行う金融主体が日本のIR投資に大きなリスクを感じているのは事実です。

今回の「基本的考え方(案)」で示された一部早期開業の考え方は、その実質6年程度と言われてきた我が国のIRの営業担保期間を7年、ともすれば8年弱くらいにまで引き上げることが出来るかもしれない。このことは、当然ながらそこに巨額な投資とその回収が求められているすべての企業にとっては朗報であり、当然、大阪以外の候補地における開発計画の中でも、その考え方を盛り込まなければならないものであるわけです。

一方で、民間事業者側がこの考え方を計画に盛り込む大前提として、国に対してIR整備計画を提出する主体となる各自治体自身が、それを計画の中に盛り込む必要がある。国はこの一部早期開業に関して「原則的には区域整備計画に定めたIR施設を構成する全ての施設が完成していることが必要」と定めつつ、「IR区域の整備による効果を早期に発現させる」為に特別にそれを許すのだと言っているワケで、各自治体はそれぞれが「特別に」IR区域の整備による効果を早期に発現させる必要性がそこにあることを必死で論証してゆく必要があるワケです。

なので私は、私の所に今回お問い合わせを頂いている自治体の方々には「2020年から2025年あたりまでの地域の観光スケジュールをひっくり返して、当該地域にどんな『IRの早期実現の必要性』があるのかを考えるべき。また、その必要性を今の段階から小出しにしながら、正当性をアピールしてゆくべき」と申し上げておるわけです。繰り返しになりますが、当該「一部早期開業」は大阪以外のすべてのIR整備区域においてその採用が真剣に検討されるべきものであります。

ということで現在、国が募集中の「IR整備に関する基本的考え方(案)」のパブリックコメントの〆切は10月3日。本パブコメには個人/法人/その他各種団体など、どなたであってもオンライン上から自由に意見を送付することが出来ます。以下改めてリンク先を示します。

特定複合観光施設区域整備法第5条第1項の規定に基づく「特定複合観光施設区域の整備のための基本的な方針(案)」に関する意見募集について

著者プロフィール


木曽 崇(キソタカシ)

国際カジノ研究所 所長
エンタテインメントビジネス総合研究所 客員研究員
諏訪東京理科大学 地域連携研究開発機構 客員研究員

経歴:
日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒業(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者での会計監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長に就任。

2014年よりアジア圏最大のカジノ国際会議&展示会であるGlobal Gaming Expo Asiaのアドバイザリーボード委員。2018年より公立諏訪東京理科大学 地域連携研究開発機構 客員研究員。

より詳細なプロフィール

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