昨日の投稿で、

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波及効果と新たな財源のどちらを重視すべきか? そして両者の理想的なベストバランスはどこにあるか? その決定には非常に緻密な経済予測と、高度な政治的判断が必要となるのである。
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と 述べた。これに関して私の研究者としての考えを述べたい。



実は、私は日本のカジノ合法化においてはそこから得られる税収その ものよりも、そこから生まれる経済波及効果を重視すべきだと主張し続けている。理由はいくつかあるが、そのひとつが推計される税収額の問題である。カジノの導入によって莫大な財源が確保できるなどとバラ色の未来像を描いている方が読者の中にいらっしゃるとすると大変申し訳ないことだが、カジノから得られる税収に 多大なる期待をかける事は禁物である。

日本でカジノ専門家と呼ばれている方々の中には、我が国でカジノができればその市場規模は数兆円に及び、そこから税収が数千億円入ってくるなどという主張をしている人間もいるが、どこをどう計算したらその様な数字が出てくるのか私には全く理解が出来な い。

皆さんにある程度の市場観を持って頂くために例を挙げれば、現在、世界で最大の市場といわれるアメリカの商業カジノ市場が約3兆円、そこから得られる税収額が5000~6000億円程度。これはアメリカ商業カジノ市場に存在する約450軒のカジノ施設の合計値である。一方、我が国で現在論議となっているカジノ施設数は、その論議に幅があるものの2~10施設程度とそれほど大きな数は期待できない。しかも、1地域1施設というのが基本路線となっているためアメリカのラスベガスやアトランティックシティに見られるような「集積の利」が得られるカジノ都市は我が国には誕生し得ない。さらにもっと基本的なことを付け加えれば、我が国とアメリカの国力は人口ベースで2.5倍、GDPベースで3倍もの差がある。

そのような条件の中で我が国の市場予測値が「市場規模が数兆円、税収額で数千億円」などとアメリカ商業カジノ市場と同等のレベルで出てきている時点で、まともな専門家ならば推計手法がどこかで間違っていると考えることだろう。ところが、そういった数字があたかも正しいものかの様に語られ、それが一部で異論なく受け入れられてしまっているのが日本のカジノ業界の恐ろしい所。税率を幾らにするか、どこにどれだけの数のカジノを作るかなど、いろんな変数があるので一概には言えないが、私が推計をしている限りは、どんなに多く見積もったとしても我が国のカジノ合法化後の市場規模は数千億円台、そこから上がってくる税収は数百億円から1000億円いけば上等である。

注)ここでは「数千億円程度」と記しているが、それでも新規創出される産業としては、とんでもなく大きな規模だということだけは追記しておく。参考:日本の映画産業・7000億円(映画館・販売&レンタル含む)、音楽産業・8000億円(ライブ・販売&レンタル含む)、カラオケ産業・4200億円。



現在、我が国のカジノ合法論議では、カジノによる税収は危機に直面している年金財政に充てるべきだという主張もある。しかし、私自身はカジノ税収に多大なる期待をかけた、その様なアイデアには明確に反対の立場である。どんなに多く見積もっても1000億円程度しか出てこないカジノ税収。その全額を突っ込んだとしても、基礎年金支給だけで年間18兆円、そのうち国庫負担分だけで考えても9兆円が必要となる年金財政に、カジノ税がどの程度「資する」というのか? そのような主張をしている方々は前出のような間違った市場予測を真に受けて、税収額を一桁間違えて期待してしまっているのではないかとさえ思う。

「カジノ税収を危機的状況にある年金財源に充てる」、「少子高齢化に直面した国の財政に資する」というロジックは、一見美しく聞こえるかもしれないが、より現実的な数字を元に検証してみるとまったく説得力のないものとなってしまうのである。

つづく


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