連日、ネタとして扱わせて頂いて大変申し訳ないのですが、本日も関西経済同友会の提言から論をスタートします。関西経済同友会は、地域にカジノ導入をするにあたって布くべきギャンブル依存症対策として以下のような提言を発表しました。以下、転載。


「大阪・関西らしいスマートIRシティ」で採用すべきギャンブル依存症対策
http://www.kansaidoyukai.or.jp/Portals/0/2014/teigen/150120IR_izon.pdf

対策1:自己排除プログラムの導入
対策2:家族申請による排除プログラムの導入
対策3:入場料の徴収
対策4:ギャンブル依存症対策費はIR運営企業が拠出を
対策5:日本版ギャンブル依存症対策審議会の設立
対策6:ギャンブル依存症に関する社会調査の継続的実施を
対策7:カウンセリング・治療体制の充実を


個別対策として「寧ろ逆効果」と考えられる施策もあるのですが(具体的には入場料徴収)、その提言に示されている内容は多くが諸外国でも実施されている施策であると言えます…が、逆にいうと、諸外国で実施されている目ぼしい施策をバラバラと並べただけで、正直、全くもって今必要な論議には至っていないというのが印象です。

ギャンブル依存症対策の論議のスタート地点は、「カジノが合法化される/されないは別として、我が国にはすでに賭博およびそれに類するものが多数存在しており、ギャンブル依存者も沢山いる。なので、カジノ合法化の可否とは別に、包括的なギャンブル依存症対策を明確に策定する必要がある」という点です。これは、カジノ推進派の方々は、常々主張している事であり、上記提案書を策定したメンバーも重々理解しているハズ。

一方、ではその為に示された上記対策がどのようなモノになっているかというと、その大半が「対症療法」的にギャンブル依存者をカジノに近づけさせない為の施策にしかなっていないし、カジノの有無に関わらず現在も存在するギャンブル依存者に対する包括的な施策となっていません。これでは、ギャンブル依存症を懸念する市民の要請には、全く応えられる提言となってない。

繰り返しになりますが、今、我々が必要とする論議は、カジノ合法化にセットになった依存症対策で「カジノは大丈夫」的なアピールをすることではなく、より包括的な依存症対策の道筋を体系立てて示してゆくこと。その為に必要な整理というのは、諸外国で実際に行われている施策をまとめてゆくと、原則的に以下のようなものに集約されてゆくものであると私は考えています。



ギャンブル依存症が「疾病」で有る限りには、その対策にウルトラCはありません。その他の疾病対策と同様に「予防教育/早期発見/治療(回復)体制の拡充」の3つを確実に増強してゆくしかありません。

1. 予防教育
当然ながら、あらゆる疾病に対して最大かつ最良の対策は、その病気に「ならない/ならせない」ことです。ギャンブル依存症に関する予防教育に関しては原則二つのステージがあって、一つは青少年に対する基礎教育を行ってゆくステージ。そして、もう一つは既に成人してしまった大人達に対する教育普及です。

青少年に関する基礎教育の拡充に関しては、最大の本丸となるのは文科省の定める学習指導要領の改定です。我が国の学校教育における基本的指針定めた学習指導要領では、現在、小学校、中学校、高等学校において酒やタバコの使用に関するリスク教育を行う事は定められています。一方、酒やタバコと同様に、その利用に法定年齢があり、「己でリスク判断を行いながら適切に嗜むべき」とされているギャンブルやそれに類するものに対するリスク教育は、我が国の学校教育の中では実施が行われていない。即ち、我が国の青少年はギャンブルに対する適正な教育をなされないまま、賭博やそれに類するモノが沢山する社会に放り込まれ、またそれらを利用することが出来る法定年齢に達してしまうワケで、それら基礎的教育の欠如自体が我が国のギャンブル依存症対策に関する最大の不備であるということは、以前にもこのブログ内で述べた通りです。

一方、青少年はもとより我々成人は、己が青少年で有った時代に適切なギャンブルに対するリスク教育を受けていません。だとするのならば実は我々大人にも、同様の依存症リスクが存在しているわけで、上記のような学校教育における依存症リスク教育の拡充と並行して、今の大人達に対する教育普及も行ってゆく必要があります。

ちなみに、予防教育の内容に関しては、諸外国で実施されている実例に基づけば、ギャンブルのリスクそのものに対する認知普及は元より、マネーマネジメント教育、ストレスマネジメント教育などが合わせて行われることが必要です。また、米国や豪州などではギャンブルを数学的に解説し、その仕組みを正確に理解させる(即ち、金儲けの手段にはならない事を理解させる)といった教育も行われています。実は、我が国のギャンブル依存者の中には疾病問題というよりは、むしろこの種の基礎的な教育の欠如が問題を生じさせているケースも多い、とする意見もあります。(すなわち、医療的な処置のみが対策ではない)

2. 早期発見
予防教育の次に疾病対策として必要なのは、依存者を早期発見し、必要な場合には適切な治療/回復プロセスに乗せてゆくことです。ここには3つの施策が必要であると考えます。

a) 依存者本人
理想でいうのならば、ギャンブル依存者自身が己の異常な状態を感知して、相談に行ける環境を作ることが第一です。諸外国の例でいえば、プイレイヤーに対して簡単なチェックリストを認知普及させ「このリストで●個以上のチェックが付く人は一度相談を」という形で、依存者自体が相談に至る起点をつくること。また、その為に必要な相談ホットラインを整備し、認知させる事などが具体的な対策として行われています。普及の方法に関しては、依存者自身が生活の中で最も接することが多い場所、即ち賭博場そのもので行うのが最も容易であり、多くの場合は施設の入り口、ATM機(法的に設置が認められている場合)、トイレ内などでこれらを掲示する事を義務付けたり、一方で国によっては一か月のうち●回以上の施設利用がある人間に対して、強制的にカウンセリングを実施するような制度を採用している国や地域もあります。

b) 依存者家族
但し、上記の依存者本人による認知はあくまで理想の話であって、依存症は「本人否認の病」(本人が病気を認められない/認めようとしない)と言われています。だとするのならば、次に必要となるのは依存者のもっとも身近にいる家族がそれを認知し、早期適切な処置に移行させることとなります。こちらはメディア広告などを使って、上記ご紹介したのと同様のチェックリストやヘルプラインの認知を高めてゆく施策が多くの国や地域で取られているワケですが、一方で難しいのが「共依存」の問題です。

共依存とは、自分と特定の相手の間にある関係性に過剰に依存するという、これまた別の精神疾病なのですが、強度のギャンブル依存者の近親には、このような共依存状態にある別の依存者が存在することが少なくないといわれています。「ギャンブル依存者を支えられるのは己しか居ない」という極度の強迫観念の元で、ギャンブル依存者に対して資金を提供し、また借金の肩代わりをし、最悪の場合にはギャンブル依存者を「助ける」為に違法行為に手を染めたり…などという状態に陥っている近親者。この種の方々は、ご本人は「相手の為に…」と思っているのですが、その実はもはやその関係性に依存している異常な精神状態にあり、同時にギャンブル依存者の状況をさらに助長させている主体であるともいえます。

実はギャンブル依存症の回復過程においては、依存者本人に対する処置はもちろんの事、このような家族に対する適切な処置も必要であるとされており、この種の自立支援組織の中には依存者家族のみを対象とした組織もあるくらい。このような状態にある家族にとっては、この家族が依存者本人に代わって適切な処理に振り向けるという事自体が困難となります。

ちなみに、ギャンブル依存対策の世界では依存者の作った借金等を「肩代わり」する行為は、依存者本人の為にもならないとされています。そういう状況が判明した場合には安易にお金を出さず、まずはヘルプライン等で相談しましょう。相談は050-3541-6420(リカバリーサポートネットワーク)。

c) 家族以外の様々な専門家
上記のような共依存までもを勘案すると、究極的には家族以外の様々な人間が依存者の異常を察知して、適切な対処に振り向けることができる体制づくりが必要です。それが、社会にすでに存在している様々な専門家による認知です。

実は、世の中には本人や家族以外に、依存者の異常をいち早く察知できるポジションにいる職業人が沢山存在しています。その代表がスクールカウンセラーや産業カウンセラーなど、すでに社会の様々な場所に配置されている心理職(心のケアを専門とする職種)にある方々です。

スクールカウンセラーは2001年に文科省によって策定された補助制度によって、すでに全国1万軒以上の教育現場(大学も含む)に配置が行われている心理職です。この種の専門職は、現在ではどちらかというと学校の内部でおこるイジメや問題行動、不登校、自殺などを中心として扱う職種とされていますが、その専門性は「依存」に対しても当然ながら通ずる職種。先述の学校内での基礎教育部分での活躍はもちろんの事ですが、一方で特に大学などに配置されているカウンセラーにおいては、学生の依存症サインをいち早く察知し、適切な処置に振り向けさせるような連携強化が期待されます。当然ながら、企業内に設置されている産業カウンセラーにも同様の役割が期待されています。

また、この種の心理職以外にも、各地域コミュニティに配置されているソーシャルワーカーや、多重債務の結果最初に相談が行きがちな法テラスなどを代表とする司法支援組織なども、同様に第三者的に依存者の異常状態を察知できる専門職です。これら主体も、現在は己の専門範疇(ソーシャルワーカーならば福祉支援、司法支援組織ならば債務整理)を中心とした対処をしがちですが、もしその背景に依存症の存在が察知される場合には疾病としての対処にも同様に振り向けられるような連携が期待されます。

その他、特殊な例としては兵庫県小野市などは、市民に対するギャンブル浪費者の通報窓口制度(彼らはそれを「見守り」制度と呼んでいる)などを条例で定めていたりするのですが、この辺は未だ論議が多い部分でもあります。この辺りは、制度的な必要性・妥当性を見極めながら、論議をしてゆく分野であるといえます。

3. 治療/回復体制の拡充
そして最後に必要となるのが、ギャンブル依存者自身に対して提供される治療/回復体制の拡充となります。これは、諸外国の施策を見る限りは、主にa) 治療/回復施設(組織)の充実、b) 専門家の育成体制の整備、c) 基礎研究支援、に大別されるものと思われます。

我が国では、未だギャンブル依存を専門に扱う治療/回復施設(組織)は不足しています。これは医療施設の不足は元より、諸外国では一般的な依存者自身による自助組織の数も不足している。これら施設や組織の拡充の為には当然ながら何らかの予算措置が必要であり、その原資は賭博およびそれに類する産業自体から徴取されるのが理想です。

そういう意味では、冒頭でご紹介した関西経済同友会の示す「ギャンブル依存症対策費はIR運営企業が拠出を」という提言がやっと生きてくるワケですが、再三ここで言及しているとおり、ギャンブル依存症はカジノ合法化の成否に係らず「すでに存在するモノ」であるという前提で考えることが必要。その観点では、「カジノが合法化されれば、そこから予算が充足される(逆に、合法化されなければ予算が付かない)」というような制度提案は根本的に間違っているといえます。必要な予算は、当然ながら既存の賭博、もしくはそれに類する産業側からも充当されるように、検討を行ってゆく必要があるでしょう。

次に専門家の育成体制の整備に関してですが、精神医学の中において「依存症」というのは未だ大きな分野として扱われておらず、中でも特に「ギャンブル依存」に関してはその更にマイナーな分野になります。この分野の専門家を育成できるような体制を拡充させる事は当然ながら必要であり、ここにも何らかの予算措置が必要となるでしょう。

一方、私として同時に期待しているのは、「心のケア」を専門とする国家資格である公認心理師制度の設置の動きです。これは、現在、様々存在する民間資格に変わり、医療現場のみならず教育現場、企業内などでも活躍できる心理職を認定する国家制度なのですが、この点に関しては以前もエントリを書いた事があるので、以下をご参照ください。


ギャンブル依存症対策: 公認心理師法案の早期成立を
http://blog.livedoor.jp/takashikiso_casino/archives/8503547.html


そして当然ながら、これら全ての対策を土台で支えるのが、ギャンブル依存症全般にわたる基礎研究の充実です。これもまた予算措置が中心の施策となりますが、各種研究支援を充実させてゆくことが、我が国のギャンブル依存症対策の底上げにつながるといえるでしょう。



…と、長々と書いてきましたが、我が国で現在必要なギャンブル依存症対策の論議というのは、上記のような体系的な対策を如何に形作ってゆくかという包括的な論議です。

おそらく、たちまち必要なアクションは、上記のような総合施策を検討する為に必要な基本法(ギャンブル依存症対策基本法)を制定し、より詳細かつ実務的な検討を重ねてゆく体制を作る事。それが、恐らく関西経済同友会のいう所の「日本版ギャンブル依存症対策審議会」にあたる組織になろうかと思います。

冒頭でも述べた通り、関西経済同友会の提言は個別施策としては諸外国でも見られる「有り得る施策」(しつこい様だが入場料徴取はNG)が並んでいるのですが、上記のような包括的な対策指針として体系的な整理がなされていないことが最大の問題です。特に、これは議員も含めての話なのですが、カジノ推進派は排除プログラムや入場料制度などカジノ産業のみを対象とした対症療法的な施策を前面に立てて、「(他は別として)カジノは大丈夫」といったような論法に走りがちです。しかし、「今、求められている検討/論議はそこではないですよ」ということは明確に申し上げておきたいところ。今求められているのは、カジノ合法化の成否に拠らない、包括的な依存症そのものへの対策提案なのです。



PS:
あー、長かった。。あまりにエントリが長すぎて後半、ダレ気味になっていたらスイマセン。


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