我々の業界に関してまた大きなニュースが報じられましたね。この連日の「豊作」は一体何なんでしょう。以下、産経新聞より転載。


プロ野球にtoto拡大 その是非は?
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150222-00000503-san-base

政府・自民党は、スポーツ振興くじ(サッカーくじ、toto)にプロ野球を導入する方向で検討している。収益は2020年東京五輪・パラリンピックのメーン会場となる新国立競技場の事業費に充てる狙いがある。しかし、プロ野球界では昭和44(1969)年の「黒い霧事件」が影を落とし、八百長行為の危険性が懸念される。


totoは一昨年の法改正で海外のサッカーリーグの取り込みを行ったばかりですが、今度は野球への業務拡大を狙って法制論議が行われています。その目的は「新国立競技場の事業に充てる狙い」と説明されていますが、これって実は海外リーグを取り込んだ時も同じ説明が為されていたんですよね。。

延々と拡大していると言われる国立競技場の改修維持費用が、まだまだ不足しているのであろうなぁと想像されるワケですが、そもそもあそこの天然芝どうするんでしょうね。。某ゼネコン担当者さんによれば、今の天井設計では天然芝を根付かせるのは相当難しく、改修コストはもとよりその辺りの維持コストの増大が不可避との話でしたが。。



その種の私の専門から外れる話はそこそこにしておいて、上記産経新聞の記事は私としては非常にニヤリとせざるを得ない内容でした。特に、スポーツ評論家の玉木正之氏の


--くじ導入のためには
 「日本の野球はプロ野球、大学野球、高校野球など組織が分かれている。サッカーのように女子や身体障害者などの野球チームも含め、組織を一つにしなければならない。企業野球や学閥の構造を壊し、スポーツとして公平性が保たれる組織へ改革が必要だが、現状では難しい」


というコメントからの、この発言…


--サッカーくじは成功したか
「サッカーくじは、Jリーグに直接、お金が入らず、今のやり方には不満がある。本来は、Jリーグに一番多い還元があってよいはずだ」


は、読む人が読めば非常にシビレる展開ですね。この玉木さんという方、非常に遠回しに発言をしていますが、toto法制論の背景にある一番ドロドロとした部分を判った上で非常に批判的なコメントをしていますね。まぁ、スポーツ界の中に居る方なので、このくらいの表現が精一杯だったのでしょうが。

…ということで、スポーツ界に縁も所縁もないギャンブル業界所属の私が解説しましょうか(笑

1998年のスポーツ振興投票法の成立によって合法化されたJリーグの試合結果に対して賭けを行うスポーツくじですが、実はこのスポーツくじの合法化に最も尽力したのが元日本サッカー協会の名物会長として知られた川渕キャプテン、およびスポーツ議連会長の麻生太郎氏です。一方で、このスポーツくじの合法化に強力に反対した勢力もあり、その筆頭格が全国PTAと教員組合なのですが、実はそられに加えて野球業界の面々が背後で暗躍していました。

当時は、1993年に発足したJリーグがまだまだ人気絶頂の時代であり、今でこそまた人気を盛り返しましたがプロ野球は完全に「ダサい」だの「オジサンのスポーツ」だのと呼ばれてしまっていた時代です。そこに来てサッカーくじの合法化などという案が出て来たことにより益々サッカー人気に拍車がかかることを危惧した野球業界は、それこそ上記で玉木氏が示したように社会人、大学、高校、少年野球、女子ソフトボールからなんやかんやと、全ての関連する協会を挙げて反対し、また野球は伝統的にサッカーと比べてメディア企業との関係が深いのもあって、大々的な反対キャンペーンまで展開して抵抗したんですね。

その辺りの非常に難しいゴタゴタを全部抑えて、スポーツくじを実現したあたりはさすが麻生さんと言ったところですが、その際の合意事項として一点定められたことがあります。それが、サッカーくじで得られた収益はサッカー業界に直接入ることはなく、日本スポーツ振興センター(JSC)を通じて全てのスポーツ競技の振興に平等に配分することでありました。ここには「政治的な公平性」という理屈も勿論あるのですが、一方でサッカーくじの開始によってサッカー業界が予算を得、ますます強くなる事を危惧する野球界への配慮も多分に含まれた政治的決着であったともいえます。

そして、上記の決定の通りスポーツくじの売上はJCSから各スポーツ助成が行われているワケですが、時は巡り現在、実はそのJCS助成事業で最も恩恵を受けているスポーツ競技の一つが野球界なのです。その理由は、これまた上記の玉木氏が示した問題点の以下の部分にあります。


「日本の野球はプロ野球、大学野球、高校野球など組織が分かれている。サッカーのように女子や身体障害者などの野球チームも含め、組織を一つにしなければならない。


上記の通り日本サッカー協会は小学校、中学校、高校などの年次はもとより、女子サッカーや最近流行しているフットサルまで含めて同一の団体組織が統括をしています。一方、野球に関しては玉木氏が指摘している通り、少年野球、高校野球、大学野球、社会人野球は元より、それが更に硬式/軟式に枝分かれし、その上女子は女子でソフトボール協会に分化し、異なる統括組織を形成しています。そして、先述の通りスポーツくじで獲得された収益は名目上「全てのスポーツ競技の振興に平等に配分」する事になっているワケで、これらの野球関連組織が個別に申請を行い助成金を獲得してゆく…。他のスポーツ競技団体からすれば、完全に野球関連団体が予算を「多重取り」している様にしか見えないワケで、ここに実は非常に大きな不平等感が生まれているのですね。

そして、ここに来てそもそも1998年のスポーツくじの合法化段階では激烈な反対運動を展開した野球を、今度は賭けの対象として業務拡大すべきなどという主張が実しやかに為されているワケで、ますます野球が「焼け太り」してゆくのが目に見えている。当然ながら、現在もスポーツくじ関係者の中には合法化当初の遺恨が未だに残っているのもあって、それに対する反発が水面下では根強く存在しています。

産経新聞の取材の中で、玉木氏が「野球へのスポーツくじ導入の為に必要なこと」として、「野球の統括組織の統一化」を挙げているのは、一見、素人目には論理が飛躍しているように見えるのですが、実は上記のような全体の背景があり、我々としては「あー、そこに切り込むわけね」とニヤリをせざるを得ないのですね。

以上、スポーツ業界に全く関係のないからこそできる、私の解説でした。


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