昨日、twitter側で「IRの開発立地はどうあるべきなのか?」という質問がありました。本日はそれに関して私なりの考え方をまとめます。論議を判りやすく簡略化するために、以下のようなシンプルな観光地域を前提にお話をします。


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この地域を訪れる観光客は1次交通(例:飛行機)を使って入域してきた後、宿泊地の集積している滞在拠点地域に移動し、そこから観光地A、観光地Bに向かって移動します。観光地Aはこの地域の既存観光資源としては最も強い競争力を持つもので、多くの現在観光客は観光地Aに向かって流れています。一方、観光地Bは観光地Aと比べると競争力が弱く、現時点では滞在拠点地域からBに向かう観光客というのはそれほど多くありません。

さて、このような地域に政策的に統合型リゾートを導入するわけです。統合型リゾートというのは、大きな吸引力を持った観光施設であり、同時に地域に多くの客室供給を行う主体です。このような施設が地域に誕生すると観光客の地域での観光動態そのものに大きな影響を与えるわけで、それを前提とした導入地域の検討を行わなければなりません。

シナリオ1:

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シナリオ1は現在、宿泊施設が集積している滞在拠点地域の中(もしくは隣接)する形でIRの開発を行うものです。この場合は、新たに開発されるIRが既存の滞在拠点地域の機能を増強するだけなので、この地域を訪れる観光客の動態そのものに変化はありません。このような開発立地を選択するケースというのは、地域の観光動態に影響をなるべく与えないように、この地域の外の観光地との競争力(例えば国際競争力)だけを高めようとする場合です。

シナリオ2:
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シナリオ2は現在観光客に「素通り」されるている、一次交通の入域点から滞在拠点地域までの「間」にIRを立地させるケースです。この場合、観光客の滞在拠点が今までよりも西側に動きますから、上図で薄い赤で示した地域にとってはプラスの影響が発生します。

一方、実は観光地の魅力度というのは観光資源そのものの持つ魅力と、その観光資源まで必要となる到達時間距離の二者関係で決まります。観光資源そのものの魅力が変わらなかったとしても、その地域に至るまでの時間距離が長くなれば観光客はその地を訪れ難くなりますし、逆に到達時間距離が短くなれば観光資源そのものの魅力が変わらなかったとしても、観光客はその地域を訪れ易くなるというのが原則です。(詳細を知りたい人は観光地の競争予測によく使われるハフモデルあたりを勉強して下さい)

このシナリオ2の場合、IRが一次交通の入域地点と既存の滞在拠点の間に出来ることで、観光客の滞在拠点地域が全体的に西側に寄ってしまうことになりますので、滞在拠点からの到達時間距離が長くなってしまう既存観光地A,Bは共に観光客の誘引という面ではマイナスの影響を受けることとなります。一方で観光地AとBの間の競争関係で言えば、共に到達時間距離が長くなる施策なので、その2者間の相対関係にはあまり影響は出ません。

シナリオ3:
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シナリオ3は、先に示したシナリオ2と同様にこれまで「素通り」されていた地域に観光客を滞在させる為の施策となりますが、今度は既存の滞在拠点地域と既存観光資源Aの「間」にIRを立地させる施策です。この場合は、観光客の滞在拠点が現在よりも北側に移動して行くことになりますので、既存観光地Aの競争力は現在よりも高くなる一方で、現在、観光地Aに劣後している観光地Bは域内競争上、益々不利になってゆくことになります。

シナリオ4:
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シナリオ4は逆に現在、相対的な域内競争力の弱い観光地Bに対して政策的に補助をしようとする施策であり、現在の滞在拠点地域から南側にIR開発地を設定するケースです。この場合、観光客の滞在拠点が現在のよりも南側によりますから、観光地Bにとっては今までよりも競争上有利な環境が生まれます。逆に、観光地Aにとっては観光客が今までよりも遠くに滞在することになり、域内競争上不利な状況が生まれます。

シナリオ5:
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そして最後のシナリオが一次交通→滞在拠点→観光地という既存の観光客の導線から離れた全く関係ない地域にIRを開発し、新たな滞在拠点地域を作るという施策です。このシナリオは、今までのIR開発のシナリオとは全く違った観点で行われるものであり、基本的にはIRの投資誘因力を利用してこれまで全く観光インフラもなく、観光資源としても成立していなかった地域を新たな観光地として開発するというものとなります。

例えば上図に示したモデルケースでは、観光客の滞在拠点がこれまでよりも東側によってしまいますが、観光地A、B共に観光客の滞在拠点地域からの到達時間距離が長くなることとなり、両者の相対的な競争関係には影響はあまり出ません。一方で、このシナリオではこの地域に今まで存在しなかった東側に向けた観光導線が新たに出来てしまいます。北側の観光導線(観光地A)、南側の観光導線(観光地B)共にこの新しく出来た東側の観光導線と競争をしなければいけない状況が生まれるので、実は観光地Aにも観光地Bにも相対的にはあまりよい環境を生みません。

このシナリオを域内の既存観光地の振興として機能させる為には、新たに誕生するIRがこの地域全体を訪れる観光客の数を大きく底上げし、観光地A、Bの域内での相対競争力が下がったとしても、パイ全体が増えたことで既存観光地A、Bを訪れる観光客の「実数」は増えたという状況を作る必要が出てきます。

ここで示した例は非常に単純化したモデル地域を例として、IR開発立地選定をわかりやすく整理したもの。実際の観光地は域内に複数の滞在拠点地域が存在し、また観光地も複数のルートで繋がれているものなのでもう少し複雑な論議が必要となりますが、基本的な考え方というのは上記で示したとおりです。

我が国の全国のIR構想は、実は観光振興の観点というよりは「塩漬けになっている特定の土地を売りたい」という行政側の都合で始められる事が多く、上記のような検討は後付で無理やり作られるケースが殆どです(大阪にしても、かつての東京にしてもそう)。ただ本来、IRの開発立地の選定は地域の導入計画の中で最も重要なファクターであり、上記のような検討を経た上で複数の候補地の中から政策的な「意図」に沿った相応しい地域が選ばれるべきものです。その辺の方向転換がまだ効く地域の人達には、ぜひ正しい論議を経た上で開発立地の選定を行って欲しいなと思うところです。


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