見知らぬ乗客』読了。パトリシア・ハイスミス、ここにあり、というサスペンス小説です。

建築家のガイは、列車の中でブルーノ―という男と知り合う。知り合うというより、勝手に好意を持たれてまとわりつかれるという方が正しいですが。ガイが会話の中で、妻のミリアムが他の男の子供を妊娠しているのに離婚を先延ばしにしてやっかいだということをもらすと、ブルーノーも自分の父親をやっかいに思っていると打ち明け、お互い邪魔者を殺そうと交換殺人をもちかける。ガイは相手にしないが、しばらくしたところでミリアムが殺される。ブルーノが一方的に交換殺人をはじめてしまったのだ…というストーリー。

私は見ていないのですが、ヒッチコックが映画化したものの、後半のストーリーは原作とは違うようですね。『太陽がいっぱい』もそうですけど、パトリシア・ハイスミスの心理描写はなかなか映画にはしにくいよなあ。殺人を犯しても犯人だとばれずにいる人の心理描写が、単に「良心にさいなまれる」などの単純なものではなく揺れる揺れる。周囲の人たちの行動に対しても、深読みしすぎるかと思えば、ナメてかかったり。小説ではその部分こそが読み応え十分です。

また、この小説では、ブルーノーは最初から殺人計画を立てたりするような人間だったものの、ガイは犯罪とは無縁の存在。なのに、勝手にブルーノーが交換殺人の片割れを実行してしまったことで、精神的に迷い道に入っていくあたりが恐ろしい。善人と悪人がはっきり分かれているわけではなく、誰でも両方の面を持っているというガイの言葉は、確かにそうなのかもなあ。だいたい何が「善」かって、かなり難しい命題ですしね。ちょっと話がずれるかもしれませんが、私は原子力発電所を再稼働させることが国民の生活を守ることだとは全く思いませんし。

話を戻すと、善悪とか社会的規範とか、なんとなく皆同じ思いだろうみたいな概念を全く無視する登場人物がいて、読んでいるうちにこちらの概念もあやふやになっていってしまうのが、パトリシア・ハイスミスの魅力です。凝り固まった脳を求めている以上にほぐされる感じで、私は好きです。

▼『見知らぬ乗客』のレビュー
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