昨日は文京区立千石図書館の豊崎由美さんの講演会に行ってきました。とても楽しい時間で、豊崎さんが講演会の冒頭でおっしゃっていたように、確かに『ニッポンの書評』を読んだ身としては、本の内容とほぼ重なる内容でしたが(笑)、やっぱり直接聞けるお話は推敲を重ねた文章とは違って、勢いや生の声が感じられるし、大八車のたとえ話(作品が大八車で、作家と批評家が両輪、大八車を引く人が編集者で、書評家はそれを後ろから押す人)に関しては、本に書いてあったよりも批評家の役割を詳しく話していただいて、理解もより深まりました。おそらく集まった多くの人が期待していたように、ジュンちゃんへの毒舌などもさらっと混ぜ込んでいたり(ジュンちゃんが誰だかわからない方はぜひ豊崎さんの著作をどうぞ)、バージョンアップした豊崎流書評用読書法も披露してくださったり。『ニッポンの書評』を未読の人はもちろん、読んだ人にも楽しめる内容でした。

ただ、図書館イベントとして成功だったかというと、私は疑問を感じました。というのも、私がアンケートを書き終えて、会場にあった展示本を眺めてから書架に行ったところ、利用者がそれほどいなくて、イベントがない日の土曜と同じような雰囲気だったからです。つまり、会場いっぱい(実際、満員でした)集まった人たちは、おそらくその大部分が、イベント終了とともに図書館を出てしまったと思われる。私はイベント開始ぎりぎりに図書館に着いたので(既に部屋の入口前で待機していた豊崎さんの背後を駆け抜けて受付に滑り込んだのは私です。失礼いたしました)、イベント前の図書館の雰囲気がわからないのですが、あの様子だと図書館エリアへ一歩も入らずイベント会場に直行し、そのまま去って行った人もたくさんいたのではないかと思う。これが図書館のイベントとしてどうかというと、もちろん失敗ではないけど、私は成功したとも思えないんですよね。

「書評家・豊崎由美×図書館」という組み合わせなら、もっと図書館利用につなげられるイベントにできたと思うのですが、それが単に「書評家・豊崎由美講演会 at 図書館」とイベントの開催場所に過ぎないものになってしまったのではないかと。講演内容も、特に図書館でなくても、書店や一般のイベント会場で行うようなものだったと思うし。「書評家・豊崎由美×図書館」の組み合わせに可能性を感じるがために、残念な気がしてしまうんです。

豊崎さんは、実際のところ「本は買え」派で、できることなら図書館で借りて読んでは欲しくないと思っている人だと思うし、講演でも書き込みながら本を読むという図書館利用を想定していない内容を(もちろん図書館と対立するような言い方ではなく自然なかたちで)話していたわけですが、ではそうした「本を買う派」にとって無縁かというとそんなことはありません。

図書館は市販の本以外にもいろいろな資料があるし、個人では買いにくい立派な辞典なども揃っている。例えば、小説に出てきた設定(歴史や科学など)が本当なのか、フィクションならば実際はどうなのかを知って理解を深めようとするのに、そのたびに事典・図鑑・専門書を買うのは非現実的。買えないからといって知りたい気持ちに蓋をするくらいなら図書館を活用すればいいですよね。豊崎さんとの関わりでいえば、図書館で所蔵している新聞・雑誌を活用すれば、自分で購読している新聞・雑誌以外に掲載されている書評からも広く情報を集められると思うんです。

豊崎さんは書評講座での課題で、媒体(書評が載る新聞・雑誌)を想定して書評を書くことを課しているくらい、誰が読むかを強く意識してる。書く側がそのように分けているなら、読む側(こちらもいろんな媒体で書評を読んでいる)はどう読み分ければいいのかとか、これをきっかけに今まで読んだことない新聞・雑誌も読んでみよう(書評にしか興味ないならまずは図書館で)とか、図書館活用につながる要素が盛り込めたと思うんですよね。文京区立図書館は全館で新聞6紙(朝日・読売・毎日・産経・東京・日経)の書評欄をコピーして館内に掲示しているので、もし6紙の書評の読み比べ術があるとしたらぜひ教えていただくとか。千石図書館は、その6紙書評掲示が1階から地下へ降りる階段の踊り場にあるので、1階の本(小説)を中心に利用する人の中には6紙書評掲示の存在を知らない人もいるかもしれない。そういう図書館利用や図書館サービスの紹介につなげられたのではないでしょうか。

千石図書館はどうだったのかわかりませんが、私が何回か図書館から受けた依頼に限っても、「何でもいいから話してください」「話の内容はおまかせします」という言い方をされることがあるんですね。私は利用者としてその言い方には腹が立ちます。図書館イベントは税金を使って利用者のために行うものなんだから、税金を使っているという重みを踏まえて、イベント内容をしっかり企画して公費を使うに足るものにしないと。図書館・本に関する人を呼びさえすればよくて、話す内容は講師に投げっぱなしというのでは全くの手抜きで、納税者を馬鹿にしているともいえる。今回の豊崎さんの講演だって、図書館利用につながる内容になるよう、事前の打ち合わせで図書館側から積極的に働きかけることができたと思うんです。「本は買え」派の方をお呼びするんだから、それを図書館主催のイベントにふさわしい内容にするには、図書館がきちんとそっちに舵取りをしないと。

もちろん、これまで千石図書館の存在を知らなかった人には、足を運んでもらっただけでも大きな一歩だし、イベント当日はすぐ帰ってしまった人も後日また来てくれるかもしれない。私は書架にいた間にも新規登録していた人がいたのですが、その方もイベントきっかけで来館した人だったかも。だから、単なる開催場所になるだけでも利用につながる可能性は0ではない。だけど、もっと大きな可能性を秘めていたのにその機会を損失してしまったという印象を受けました。

千石図書館って、おとうさんによる紙芝居やお父さん&赤ちゃん向けのおはなし会を開催して、男性の育児をサポートするイベントしてたり、今回のイベント告知ポスターも千石駅にも貼らせてもらって図書館の外から千石地域の人を図書館へ呼び込もうとしていたり、とても頑張っている様子もうかがえる。だからこそ、有名人を呼んでその日の来館者数だけ増やして満足することなく、図書館利用を広げる図書館になって欲しいと思うんですよね。図書館の皆さん、図書館利用を広げる機会を逃さず、攻めの姿勢で行きましょう!
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