東京図書館制覇!Blog版

東京23区の公立図書館を全て訪れたサイト「東京図書館制覇!」の管理人TakeniのBlogです。

カテゴリ: 作家別:出久根達郎

土龍』読了。これは読み終わって少し反省しちゃいました。

主人公が同心の見習いをしていた人物で、でも使えないと判断されて放り出されて、ちょうどペリーに対抗してお台場を作るのに人夫を大募集していたから、そこで働くことになる。しかしお台場の現場では何やら陰謀めいたことが行われていて、その陰謀を探ってやろうと主人公があれこれ動くんです。だから、この主人公こそ何者ぞと、主人公を疑って疑って読んでいたのですが、本当に「不審なことをしている輩をそのままにはしておけぬ」という純粋な思いで動いていただけのようで、私の読み方は私の不純さゆえだということが思い知らされたというか(笑)。

それに、主人公やその仲間達の、江戸っ子ぶりがたまらないですね。ストックを築こうとせずにフローで暮らしていこうという、今の経済学を基準にしてしまうと危険極まりない暮らし方なのですが、これぞ江戸っ子ですよね(笑)。死守すべき財産とかがないから単純明快に人を信用できたり、好意の表し方もさっぱりしているようなところがあって。

だからといって、今の時代で彼らのような気風のいい人になったらどうかというのはわかりませんが、少なくとも今持っているものを守るためにフットワークが重くなったりはしたくないなと思いました。近頃エコロジーの点で江戸に学ぶというのはよく言われることですが、学ぶべきはむしろこういう精神的な身軽さなのかもしれません。

紙の爆弾』読了。

この連作集、一昨日、昨日と一遍ずつ読んでいたのですが、我慢しきれずに一気に読んでしまいました。出久根さんの書く古本にまつわる小説は、古本にモノとしての稀少性を求めるというより、書かれている中身を探求していく姿勢が色濃く出ていて、私にはこちらの方が(例えば『古本屋探偵の事件簿』より)面白いのです。

「紙屑買い取ります」と掲げた古本屋の元に、戦時中と思われる名簿が持ち込まれる。売主に身元確認を求めたところ、身分証明書を取ってくると言ってそのまま消えてしまったので、出所と思われる会社に問い合わせると、脅迫だと勘違いされる。秘密裏に行われた陸軍の行動と関係がありそうだと調べていくと、それとは別に入手した、アメリカが日本にばら撒いた宣伝謀略用ビラも関係がありそうで、ときに身の危険を感じながら、男達が秘密に迫っていく、というあらすじですね。

表題の「紙の爆弾」は、戦時下で相手国の戦意喪失を狙って配る宣伝謀略用ビラのことで、相手の戦力を削ぐという意味でも爆弾だし、アメリカが日本に配ったビラは持っているだけで咎められ、非国民扱いされるという意味でも爆弾。それに、秘密にしようとされていることでも、印刷されることでどこかに残り、いつか陽の目に晒されてしまうことがある、という意味では、紙に記されたこと全てが爆弾になりうるんですね。

作品中に、これぞ出版の意味かと思ってしまうような言葉があって
十ページほどのパンフレットでさえ、世に残っている。忘れられた作者の作品を、探し求める私たちのような人間がいる。活字にしておけば、誰かが読み、調べる。今、調べがつかなくとも、五十年後、百年後、必ず調査を引き継ぐものが現れる。そのためにも、オリジナルで残してはいけない。消失したら、おしまいだ。プリントで残す。
このセリフは、何度も読んでしまいました。

謎解きストーリーとしても面白いのですが、あちこちに垣間見える出久根さんのこうした哲学みたいなものが、またいいんですよね。調査に携わっている男が古本屋から複数ある同じ本を譲り受けるときに、一番汚れている本を選ぶところなんかも、謙虚さの表れでもあるし、モノとしての状態よりも書かれている中身こそと思っている様子が格好いいんです。

出久根さんは、一円さんのコメントをきっかけに予約してみたのですが、これからも読んでいこう。それと同時に、世田谷区立図書館で所蔵している1998年の世田谷文学館での出久根さんの講演録を読んですごく面白かったので、出久根さんの講演があったら聞いてみたいと思っているんですよね。こういうときに公式ホームページをお持ちの作家さんなんかだと、講演予定も調べやすいのかもしれないけど、そういうのはないみたい。定期的に「出久根達郎 講演会」で検索したりするしかないですかね。

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