作家別:北森鴻

2010年12月05日

『うさぎ幻化行』北森鴻

うさぎ幻化行』読了。北森さんが2005年12月から2009年8月まで連載したものを加筆修正した作品です。遺品としてパソコンに音のメッセージを残した圭一を追って、義妹のリツ子が録音された場所を巡って行くストーリー。その音とは、水琴窟、札幌の時計台、横浜の年明けなどなど。これらのメッセージに込められた意味を探って回るのですが、その先々でも他人の謎に出会ってそれを解き…としているうちに、圭一の真意を汲み取っていきます。

しかし、行く先々での謎との出会いにも、少々無理があるような(笑)。主人公が警察や探偵(=いろんな事件に遭遇することが不自然ではない)ではないミステリって、自然に事件・謎と次々に遭遇させるのは難しいとは思うのですが、行く先々で周囲の人達の話に聞き耳立てている感じがどうも…。登場人物たちのこうした行動には、読んでてちょっとひいてしまいます。

それに、これは最初の段階でわかることなのでネタ晴らししちゃってもいいかと思うのですが、圭一は自分に「義兄」以上の感情を持っていることがわかっている義妹(再婚した夫婦の連れ子という関係)と、自分の恋人に同じあだ名をつけてるんです。こういうの、謎解き以前に、最低な男だと思ってしまいます…。遺されたメッセージを追うほどの男じゃなくない?と。

そんなわけで、私の中ではこの作品はちょっと評価低いです。

それにしても、あともう少しで、北森さんの一周忌なんですね。時が経つのは本当に早いです。

▼『うさぎ幻化行』のレビュー
Amazon カスタマーレビュー
楽天 みんなのレビュー
記事URLComments(0)TrackBack(0)

2010年05月18日

『虚栄の肖像』北森鴻

虚栄の肖像』読了。こちらは、花師と絵画修復師の二つの顔を持つ佐月恭壱の物語。たぶん、初めて聞く名前だと思うのですが、この物語には冬狐堂の宇佐見さん(とは明言していないんだけど)が出てくるので、あるいは冬狐堂シリーズか他のシリーズにちらりと出ているのかも。

美にかかわる仕事って、美的センスに乏しい私には絶対無理なので憧れてしまいますが、正当な評価が難しかったり、社会や時代によって評価が変わったりするので、悪もはびこりやすいのかなあ。それによって小説は面白くなっていますが、現実の美術業界ってどうなんだろう。

小説の中でも、下手をすれば絵画修復の仕事が贋作作りの加担になりかねないし、不十分な情報を与えられて、間違った修復方法をするよう誘導されることもある。美術品が単に鑑賞するためだけのものではなく、値が付けられ、売買されるものであるからこそ、いろんな思惑が交錯するんです。

そういう、いかようにもなる社会で、佐月をはじめ、それぞれの登場人物が、それぞれの筋を通して行動しているのが、読んでいるこちらまでシャキッとさせられます。バリバリと我が道を行くのではなく、ひっそりと信じた道を進んでいく感じ。こういう小説を読んだ後は、黙して自分の道を進む人になりたくなりますね。「黙して自分の道を進む人になりたい」とかブログに書いている時点でダメですけど(笑)。

それにしても、絵画修復師というのは、どうしても漫画『ギャラリーフェイク』が思い出されて、頭の中の佐月恭壱の想像図がどうしても藤田玲司になっちゃうんですけど(笑)。性格は全然違うんですけどね。

▼『虚栄の肖像』のレビュー
Amazon カスタマーレビュー
楽天 みんなのレビュー
記事URLComments(3)TrackBack(0)

2008年10月22日

『親不孝通りラプソディー』北森鴻

親不孝通りラプソディー』読了。高校生のキュータが美人局にひっかかって、高額のお金を要求される。どうにかしようとキュータは銀行強盗を思いつき、同じようにお金に困っていたキョウジと組むことにする。キョウジは組に入りたいと、嬉々としてヤクザのために働いていたのだが、ミスして組長のベンツを海に沈めてしまったのだ。

強盗は成功するが、キュータが捜査をくらますためにした仕掛けのせいで、未解決事件の犯人を呼び、やくざも盗まれた金を追い、ついには外国人グループまでもがからんできて、事件はとんでもない方向に…。

と、話が大きいだけに、アラも目立つんですよね。こんなことないから、って突っ込みをあちこちで入れてしまいます。もっとテンポ良くて面白ければ、その突っ込みどころさえも楽しめるのですが、そういうようには楽しめなかったんだよなあ。

この小説は、お調子者のキュータと冷静なテッキが交替で語り手になっているのですが、特にテッキが語り手になっているとき、読んでいるこちらも冷静になってしまって、そうするとアラが気になってきちゃうんですよね。破天荒なストーリーは、突っ走るような勢いで書いた方がいいように思うのですが…。

北森鴻は、作品によって当たり外れがあるって言われたことがあるのですが、確かにそれはありそう。私にとっては、短編集が当たり、長編が外れという傾向があります。次は、それを踏まえて借りるものを決めようと思います(笑)。

▼『親不孝通りラプソディー』のレビュー
Amazon カスタマーレビュー
記事URLComments(0)TrackBack(0)

2008年10月04日

『親不孝通りディテクティブ』北森鴻

親不孝通りディテクティブ』読了。博多でラーメン屋台をしているテッキと、結婚相談所の調査員キュータの周りに起こるいろいろな事件…というより、半分くらいは彼ら自ら首を突っ込んでいるという感じかな。更に正確に言うと、120%ポジティブシンキングのキュータが女性への下心を秘めて、首を突っ込んでいくという(笑)。

ミステリという点では、細かい部分で都合よすぎ、謎解きがそれでいいのかと思うところが多々ありますが、それを補うのがキュータの愛すべき性格なのです。私としては、ミステリとしてのディテールの粗さより、可愛い女性を見てはすぐに追いかけるキュータが最後に身を落ち着かせてしまったことの方が断然不満(笑)。こういうキャラには、一生女の子のお尻を追いかけていて欲しい!

で、彼ら二人が高校生だった頃の『親不孝通りラプソディー』という作品もあるんですね。相変わらず北森さんの作品のつながりはややこしい(笑)。でも人は誰しも自分の人生においては主人公なんだし、こういうややこしさの方が現実に近いのかもしれません。

▼『親不孝通りディテクティブ』のレビュー
Amazon カスタマーレビュー
記事URLComments(0)TrackBack(0)

2008年09月06日

『孔雀狂想曲』北森鴻

孔雀狂想曲』読了。北森鴻の冬狐堂シリーズに出てきた下北沢の骨董屋・雅蘭堂の越名集治を主人公にした短編集。これを読んでいる間に、mixiに入った小学校の同級生とマイミクになったのですが、その際に「北森鴻は細かい設定がなぜか大雑把で違和感があるときがある」と言われて、そうかもなぁなんて思いながら読みました(笑)。

越名さんと、万引き未遂をきっかけにバイトとして居ついてしまった安積ちゃんのやりとりなんかは、ベタとは言えども微笑ましくていいんですが、ミステリの方が…。「変な客が来て、少し気になっていたら、後にその周辺で殺人が起きる」というパターンが続くと、「またか…」と思っちゃったり、『キリコ・キリコ』という作品なんかは殺人は起きないけど謎解きの結果が後味悪くって。

そんな中で面白いのは、悪徳骨董屋・犬塚とのからみですね。騙そうとする犬塚と、それを見越して何かいいものがあればしっかりいただこうとする越名。偽物を本物と見誤って高く評価することだけでなく、本当にいいものを低く評価してしまっても目利きが落ちたと烙印を押されてしまう骨董の世界での面白い勝負を見せてくれます。こういう化かし合い対決って好きなんだよなぁ。

でも、北森鴻はやっぱり香菜里屋シリーズが今のところ一番です。解けた謎をどうするかという事後処理(?)がね、香菜里屋の工藤さんにかなう人はなかなかいません。

▼『孔雀狂想曲』のレビュー
Amazon カスタマーレビュー
記事URLComments(0)TrackBack(0)

2008年09月01日

『瑠璃の契り』北森鴻

瑠璃の契り―旗師・冬狐堂』読了。店舗を持たない古物商の宇佐見陶子シリーズの1冊です。この短編集は骨董の世界を描くというより、登場人物の過去がわかる話が中心という感じですね。

この本には、陶子さんが美大時代に一人の才能ある同級生に出会ったために、画家の道をあきらめる話があるのですが、才能を持つ人への嫉妬心というのは自らの向上への原動力としては必要なんだよなあと思う。自分と相手との格差を前にして、相手を引きずりおろすのではなく、自分が這い上がっていくようにできればね。

適度に嫉妬しないと、と思ってそうできるものでもないでしょうが(笑)、下を見て満足せず、いつまでも上を見る心を持ちたいものです。

▼『瑠璃の契り』のレビュー
Amazon カスタマーレビュー
記事URLComments(0)TrackBack(0)

2008年08月31日

『狐闇』北森鴻

狐闇』読了。冬狐堂の陶子さんが、策士のターゲットとされて、古物商免許を剥奪されたり、悪質な飲酒運転の疑いをかけられたりする話。う〜ん、そうだなあ、隠されていた謎はいい意味でも悪い意味でもロマン溢れるものだったというところでしょうか。

でも、ちょっとネタバレになっちゃうけど、無垢な人を無垢のままでいさせるために周囲の人が悪に手を染める、みたいな話ってあまり好みではないんですよね。人間、垢にまみれてナンボだって(笑)。だから、謎が解かれるまでは面白かったのですが、最後は「え〜、そこなの?」と思うところがないでもない。まあ、それだけが事件の原因ではないのでよしとしますか。

あと、どうして陶子さんの友達の硝子さんが非現実的ながらっぱち口調なのかが、この作品でわかった気がします。自分でも小説を書く人ならすぐに気がついたのかもしれませんが、この口調のおかげで陶子さんと硝子さんの会話の際にどれが誰の発した言葉かの説明をしなくて済むんですね。日本語は性別の違う人同士の会話や上下関係にある人達の会話だと、語尾や尊敬語の使い方で説明せずともどちらの発言か伝えられますが、同性の友達の会話はそれがちょっと難しい。で、硝子さんの奇妙な口調でカバーしているというのはあるのでしょう。そうわかっても、違和感ありありですが(笑)。

上記の点も含めて、私にとって冬狐堂シリーズは、北森鴻の中でずば抜けて突っ込みどころありなんですよね。女一人で暮らして、仕事も自分でしる人が、夜遅くに自宅に来た知らない人を家にあげるなんてありえません(笑)。自分を守るためだけでなく、お客様や取引先の情報を守るためにもね。そういう点が「やり手の旗師」という人物像と相容れなくて、ちょっと読んでて冷めちゃうんですよね。

とはいえ、陶子さんにそういった抜けた点があってこそ事件が起こるので、見逃さないといけないかな(笑)。

▼『狐闇』のレビュー
Amazon カスタマーレビュー
記事URLComments(0)TrackBack(0)

2008年08月29日

『凶笑面』北森鴻

凶笑面』読了。北森鴻の蓮丈那智シリーズは、明晰な頭脳とタフな行動力を持つ民俗学者の彼女が、歴史の謎から刑事事件の謎まで解決してしまうシリーズ。といっても、歴史の謎の方は、それが本当かどうかは神のみぞ知るといったところでしょうか。

この本は5編の短編からなる本なのですが、そのうち1編に冬狐堂シリーズの陶子さんが出てきて、その姿があまりにも落ちぶれているのでびっくり。いや、別にボロボロの服を着ているわけではないのですが、言動に華やかさが全くないんですよね。いつのまに"元"旗師になってしまったのか…なんて思っていたのですが、『凶笑面』を図書館に返した後に読み始めた『狐闇』がちょうどそれを書いた本なんですね。なんてグッドタイミング!私、結構読書運いいんです(笑)。

それにしても、小説を通じてほんのわずかに民俗学に接したくらいでも、現在と過去のつながりなどに思いを馳せてしまいますね。それは骨董や遺跡といった"モノ"に限らず、例えば今私が何かを美しいと思ったとしても、それは全くの私のオリジナルな感覚ではなくて、昔からの文化・価値観等々が私の無意識の中に植えつけられた上での思いなのかもしれないなあってね。

▼『凶笑面』のレビュー
Amazon カスタマーレビュー
記事URLComments(2)TrackBack(0)

2008年08月25日

『狐罠』北森鴻

狐罠』読了。店舗を持たない古美術商・旗師の宇佐見陶子のシリーズ第1作目。陶子さん、第1作目でこんな大胆なことやっていたんですね(笑)。

私はまだこのシリーズと香菜里屋シリーズの北森鴻しか読んでおらず、香菜里屋シリーズの工藤に比べてかなり策士な宇佐見陶子に、最初は戸惑いつつも2冊目(『緋友禅』を先に読んでしまったので)ともなると段々慣れて楽しめるようになってきました。

骨董の贋作を扱った話で、騙したつもりが騙されて、、、というようなストーリー。最終的に皆を手の上で転がしていた人は、途中からそうかなと思った通りではあったけど、その人があの人でもあるとは。わりと最後の最後まで謎が残っているので、たるむことなく最後まで読めました。

ただ、硝子さんのあばずれ口調というか、「大丈夫かい」「おあいこさ」みたいな語尾を使う人って、少なくとも私が実世界で知っている人の中にはいないよなあ、などと余計なツッコミを入れたくなるところもありますが(笑)。

それにしても、この小説のような「科学的検査もパスしてしまう贋作」というのは、本当に作れるものなのでしょうか。そういう実際の贋作の世界にも興味が湧いてきますね。そう思って読み終わると、どうぞとばかりに参考資料一覧が巻末にあるので、そちらから面白そうなものを選んで読んでみようかと思います。

▼『陽気なギャングが地球を回す』のレビュー
Amazon カスタマーレビュー
記事URLComments(0)TrackBack(0)

2008年08月03日

『緋友禅』北森鴻

緋友禅―旗師・冬狐堂』読了。北森鴻の冬狐堂シリーズを順に読むつもりだったのですが、またやっちゃったかな。どうやらこれはこのシリーズの1冊目ではなかったようです(笑)。『狐罠』『狐闇』緋友禅』『瑠璃の契り』が正しい順番かな。

北森鴻はその本がどのシリーズのものなのか、シリーズ何作目なのかということをタイトル等に書いてくれないので、シリーズごとに読もうとすると難しいですね(笑)。それとも図書館本を読んでいるからわからないだけで、帯にはどのシリーズの何作目って書いてあるのかな。でも北森鴻はいくつかシリーズを持っていて、あるシリーズの登場人物を違うシリーズに登場させたりするので、たぶん意図的にどの本がどのシリーズだとわかりにくいようにしている気もします。

『緋友禅』には、古物商の中でも店舗を持たない旗師の冬狐堂こと宇佐見陶子を主人公とした4つの短編が収録されています。『陶鬼』は結ばれなかった恋人同士の思いよりも、結ばれたけれど愛憎どちらの感情も併せ持った夫婦の関係の方が断然面白い。表題の『緋友禅』は、たとえ冬狐堂が芸術家を育てる画廊などではないとしても、埋もれていた貧乏芸術家にぽーんと大金をしかも現金で払って作品買占めとかしちゃったら、そりゃその芸術家を狂わせるだろうと突っ込みたくなります(笑)。香菜里屋シリーズの工藤に比べたら、その辺ちょっと配慮が足りない人というか、そういう人であるがゆえに小説の題材となりうる事件が起こるということなんですけどね。

香菜里屋シリーズよりも欲や悪意がうごめいている世界で、これはこれで面白そう。次はちゃんとシリーズ第1作目を読んでみます(笑)。

▼『緋友禅』のレビュー
Amazon カスタマーレビュー
記事URLComments(4)TrackBack(0)