作家別:朱川湊人

2009年10月15日

『さよならの空』朱川湊人

さよならの空』読了。オゾンホールを食い止めるための化学物質が開発されたが、その副作用で夕焼けがなくなってしまことがわかり、世界中で撒くことに対する反対運動も怒る。そんな中、日本にその化学薬品を撒く日が来て、発明者である女性老科学者が日本にやってくる。

厳重な警備を抜け出して彼女はとある場所に向かうが、日本語もわからずおろおろするばかり。そこで出会った少年の力を借りて、目的の場所へ向かう…というストーリー。

途中、ネット上で犯行予告をしていたイエスタデイの犯行動機が小説の設定として陳腐でどうしようかと思ったけど、朱川さんをナメてました、すみません(笑)。

動機はともあれ、行動によって引き起こされたことの方が小説のメインですね。超現実的なことが起こるのですが、単にハッピーな締めではなく、その超現実の部分に無気味さも含まれているのがいい。これこそ朱川さんならでは。

実際、未知のことってたくさんあって、それは希望でもあるし、恐ろしさでもあるんですよね。

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2009年03月05日

『花まんま』朱川湊人

花まんま』読了。いい短編集でよかったです、なんて読んで満足しているだけでいいのかな、と思ってしまう作品集。舞台を昔にして、子どもを語り手にして書いているので、何となく柔らかい世界になっていますが、書いていることは周囲と一緒になって故なき差別をしてしまったり、嫉妬心とか残酷なことをしたり言ったりしてしまったり、結構人間の嫌な部分を書いています。

人って、優しくて利他的な気持ちと、冷たくて利己的な気持ちと両方を持っている。後者の部分を本当は持っているのに持っていない振りをするより、持っていることをわかった上で、前者の気持ちでカバーしていくことが必要なのかもしれません。

私にとって一番よかった作品は「送りん婆」。"送りん婆"と呼ばれる親戚のお婆さんは、呪文を唱えてあるものを送ることができるんです。お婆さんの自戒の気持ちなど、何かちょっと格好いいんですよね。

表題の「花まんま」もよかったです。朱川湊人の作品って、人とは違った能力を持った人(この作品の場合は、「能力」とはちょっと違うけど)が優しい心根を持っていて、その能力を大切な人を助けるために使う、みたいなものが多い気がします。力って、そういう風に使いたいものですね。

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2008年05月30日

『スメラギの国』朱川湊人

スメラギの国』読了。主人公の男性が不注意で猫を車で引いてしまい、知能を持って組織立って行動する猫達と戦うことになってしまう小説です。最初「この作品はあまり面白くないかも」と思って、後半「いや、なかなか面白いかも」となったのですが、最後の麗子の「よかったね、人間が反省できる生き物で」というセリフで冷めちゃいました…。

そこにもっていくなら、もっと違う描き方があるように思うんですよね。この作品の前編、登場する猫達に関してはいろんなキャラクターがいて、各猫についても性格が深く描かれているのに対して、登場する人間の方が浅いというか、変な言い方ですけどやけにあっさりと悪意を持っちゃっているように思うんです。

100%悪意とか100%善意ってなかなかなくて、実際には本人にしか通用しないどうしようもない論理で自分を正当化しないと悪意が揺らいじゃったり、善意でやっていることにも自分の何らかの欲がからんでいたりする。この小説の登場人物達の悪意が、自分の中の善良な部分によって揺らいだりしていれば、「よかったね、人間が反省できる生き物で」のセリフがすっごく効いてくると思うんですけど、あまりそういったことが描かれていないので、「この人達、ありえない能力を持つ猫に出会わなかったら、反省もせずに生きていっただろうな」と思っちゃうのですよね。できれば、猫達はきっかけであって、彼らの中に反省して今後の行動を変えようという芽はあるように描いて欲しかった。

朱川さんは、そういうのが描ける、描く人だと思うんだけど、初の長編ということで力尽きた??次の長編に期待です。

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2008年05月07日

『白い部屋で月の歌を』朱川湊人

白い部屋で月の歌を』読了。先日、yoriさんの『活字の砂漠で溺れたい』で朱川湊人の作品を取り上げていて、久し振りに朱川湊人読みたいなと思って借りたものです。yoriさんが取り上げていたのはこの本ではなく『スメラギの国』だったのですが、そちらは予約待ち。

朱川湊人の文章は、すごく丁寧で心地よいのに、書いている内容が深いところをえぐってくるんですよね。ホラーというジャンルを通して、人間の業を描くというか。まあ、ホラーに限らず小説というのは人間の業を描くものなのでしょうが、朱川さんの語り口がドロドロ描写するタイプではなく、きれいに丁寧に描写するタイプなので、口当たりがいいのに胃の中でとんでもないことをしでかすような(笑)。
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2008年01月02日

『わくらば日記』朱川湊人

わくらば日記』読了。この本は、先日オープンした今川図書館で借りた本。西落合図書館発行の「週読のすすめ」第1号の1ページ目にも紹介されていました。

これを読んで、私の朱川熱は高まるばかりです。いやあ、いいですね、この人の描く世界。人によってはあまりにも登場人物達の心が清らかすぎてダメって思うかもしれないけど、私は好きですね。たぶん私の心が登場人物達と同じように清らかだからでしょう(ん?何か? 笑)。

この短編集は人やモノの過去を見ることができる能力を持つ女の子の話なのですが、舞台が足立区の荒川沿い近辺で、時代が昭和30〜40年辺りというのもまたいいですね。ミシンを買うことを「産業革命」と呼ぶところとか、微笑ましいです。

特殊な能力を持つ女の子の話なので、事件というか犯罪が絡んでくる話が多く、その内容には「この時代にこんな猟奇的な事件が起こるのって嘘っぽくない?」と思いそうになるけど、「古きよき時代」にも嫌な事件とか理解不能な事件っていろいろ起こっているんですよね。先日読んだ『復讐するは我にあり』も昭和38年の事件だし。あぁ、あの怖ろしい顔、思い出しちゃったよ…

でも、そういったストーリーうんぬんより、この人の文章からにじみ出る、人やモノを大切にする気持ちとかが私の心を捉えるんだと思います。この連作は、どうもこの先も続く様子なので、楽しみです。もちろんこのシリーズ以外の作品も読みたい。勢いづいて未読作品を一気に読むのはもったいないから、少しずつ少しずつ、ね。

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2007年12月04日

『いっぺんさん』朱川湊人

いっぺんさん』読了。朱川湊人はエッセイを1つ読んだきりで、小説は初めてだったのですが、この人いいですねぇ。ジャンルで言うと「ノスタルジックホラー」ということになるらしいのですが、怖いとかってよりも、人間に迷信とかオカルト的なものって必要なんだなぁって気持ちになるんです。

この本は短編集で、超常現象というか、まあ合理的ではないことがそれぞれに書かれているのですよ。でも、「ほ〜ら、超常現象だ〜!」みたいな書き方ではなく、読んでいるこちらにすっと入ってくるんです。
ちょっとわかりにくいかもしれませんが、人の行動って義理・礼儀・好意・愛情等々のために、損得で言ったら損になるようなことをすることも少なからずありますよね。それと同様に、合理的・論理的ではなくても、義理・礼儀・好意・愛情等々が強ければ超常現象も起きるんだろうなって思えるんです。

それに文章がとても気持ちいい。暖かいけどベタベタはしていないし、丁寧だけど説明過多ではないし。「蛇霊憑き」という作品が女性を語り手にしているんですが、何も知らずに読んだら女性が書いたと思うんじゃないかってくらい。本のタイトルと同名の「いっぺんさん」は、不覚にも六郷土手へ向かう電車の中で泣きそうになってしまいましたよ。無理にとはいいませんが、ホラーのジャンルにこだわらずいろいろな小説を書いて欲しいな。

あと、これは小説の筋ではなく、文章全体がそう思わせるのでしょうが、読んだ後自分の周りのひとやものを大切にしようって気になるんです。人の冷たさを描いた小説でも、人間不信などより「自分の周りの人達にこう思わせないようにしよう」っていうことを感じるんですよね。そういうところがノスタルジックなホラーってことなんでしょうか。

朱川湊人作品はこれからも読んでみよう。

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2007年09月04日

『超魔球スッポぬけ!』朱川湊人

超魔球スッポぬけ!』読了。私にとって初の朱川湊人本。初めてなのに、小説じゃなくてエッセイ読んじゃったというのも失礼な話ですが、面白かった。これは小説も読んでみないと。

私にとって朱川湊人といえば、足立区花畑図書館ゆかりの人なんですよね。この方、その辺に住んでいるので、花畑図書館には「朱川文庫」というコーナーがあるんです。

で、そこに氏の写真もあるのですが、見た印象が失礼ながらバナナマンの日村っぽいんですよ。それを踏まえて、このエッセイ読むと更に面白いんですよね。割と子供の頃の話が多いのですが、もう想像が膨らんで膨らんで(笑)。話の舞台も足立区周辺だったりするから、これまた想像がついちゃうし。

小さい頃の話だけでなく、自分の作品が入試に使われた話なんかも面白い。入試で文学作品なんかを使うと、著者のところに使わせてもらった通知と問題を送ってくるんですね。当然、事前に問題が漏れたら困るから事後報告なんだろうけど、「この選択肢ではどれも間違っている!」とかって怒る著者とかいないのかな。他人の文章で問題作って書いた本人に送りつけるって、よ〜く考えるといろいろな意味ですごい。

さてさて、小説はどんなもんでしょうか。楽しみです。

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