東京図書館制覇!Blog版

東京23区の公立図書館を全て訪れたサイト「東京図書館制覇!」の管理人TakeniのBlogです。
こちらでは、読んだ本や東京散歩など、図書館以外のことも書いてます。

カテゴリ: 作家別:堀江敏幸

めぐらし屋』読了。主人公・蕗子さんが父の遺品を整理していると、表紙に「めぐらし屋」と筆で大書きされたノートを発見。表紙を開いてみると自分が幼い頃に描いた黄色い傘の絵が貼ってあり、とまどっているところへ「めぐらし屋」宛の電話が来る。事業などしていないはずの父が引き受けていた「めぐらし屋」とは何か、蕗子さんは日々の暮らしに戻りながらも疎遠になっていた父のことを考える…という物語です。

私はこの本を府中市立図書館で借りたのですが、本の購入時についてくる帯を見返し部分に貼ってくれているんですね。帯にある情報って本選びの参考になるので、図書館でも新刊情報としてまとめて掲示するとかいろんな方法で活用していて、この本の場合は見返しに貼ってくれています。

で、その帯には「わからないことはわからないままにしておくのがいちばんいい」という言葉(確か、お父さんが蕗子さんに小さい頃言った言葉)が書かれているのですが、私はその言葉より「ひとが聞いたらなんの面白みもないようなことこそ、じつは最良の思い出ではないだろうか」のほうが好きです。ついでにいうと、帯に反して、めぐらし屋がどんなものかというのは一応わかります(笑)。

私が好きな「ひとが聞いたら〜」は蕗子さんが最後のほうで思う言葉なのですが、堀江さんの物語の全てに通じるような言葉で、衝撃的なストーリーが繰り広げられるわけでもなく(まあ、お父さんがめぐらし屋という謎の稼業をやっていたらしいというのは興味をそそることではありますが)、日々の暮らしや周囲の人たちを大切に思いながら過ごしているところにポッと咲いた花のような物語が、読んでいてじわっと温かい気持ちを与えてくれるんですよね。花そのものは全然珍しいものではないけど、何もなかったところに花がさいて、それを一緒にいる人と見ていること自体がいい時間みたいな感じ。

思い出を共有したその場にいた人だけがわかる楽しみというか、お金を払って得ることができるようなモノではなく、偶然や縁などによって生まれたちょっとした思い出こそがいい思い出。というか、例えば私が今ここに住んでこういう暮らしをしていることだって、100%意思の力でこうなったわけではなく、偶然や縁などによって与えられたもので、いつどんな風に変わるかもわからない。何とも思わない毎日が10年後、20年後にはいい思い出になったりもしますもんね。堀江さんの作品を読むと、自分のつまらない日常が大切なものに見えてきて、小説を通じてものごとの見方を教えてもらっているような気になります。

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回送電車』読了。堀江さんのエッセイのような評論のような、それらを横断する文章を集めた本です。乗客の眼前をゆったりと進むのに、時刻表には載ることのない回送電車は、「ジャンル分け」の中では宙ぶらりんになってしまう自分の文章のようだ、と。

そういわれると確かに、堀江さんの小説も、ストーリーがあってないような、読んでるうちに小説に書かれていることと、読んでいる自分の妄想の境目がわからなくなってしまうような、読み終わってもまだ話が続いているような、ふわ〜っとした小説なんですよね。

しかし、この本、いろんな媒体に書いた文章を集めたものなのですが、第四部に収められた文章が、堀江さんの文章とは思えないくらい妙にキレイにオチのついた文章なんです。何か、ここの文章だけ、カルチャーセンターのエッセイ教室のお手本か何かのように、やけに構成立てられている。

で、初出一覧を見ると、第四部の文章は日経新聞のプロムナードの連載の文章なんです。これは何でしょう、日経新聞の読者には、いつもの堀江さんらしい“回送電車的”な文章ではなく、エッセイとしてきれいに起承転結を整えた文章がいいと思ってそうしたのか…。

私はやっぱり、いつもの“回送電車的”な堀江さんの方が好き。堀江さん、日経新聞だからって変にスタイルを変えず、堀江さんらしくやりましょうよ(笑)。

▼『回送電車』のレビュー
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ブログネタ
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雪沼とその周辺』読了。何てことはないある日(々)のことを書いた短編集なのですが、登場人物達の真面目さというか誠実さというか、その人にとって大事なものをちゃんと大事にしているという、ただそれだけのことがとても気持ちのいい小説なんです。

読んでいると、自分の周囲のそうした人が思い浮かんでくるんですよね。「ピラニア」は不器用だけど料理店を構えている男性の話なのですが、それを読んでいると自分の好きなお店のことが思い浮かんだりとか。

私はどんなに料理がおいしかったり、いいモノを置いてあったりしても、店員の態度が悪いようなお店は絶対ダメで、それこそ「ピラニア」の男性のように妥協して業務用のレトルトを使っても、他の部分でそれを補おうと尽くしてくれるお店の方が好きなんですね。そういう私の好きな人やモノやところが、この本を読んでいるとどんどん浮かんできます。

この短編集は「雪沼」という、どこか都会とは離れた町を舞台としていますが、どこにだってこうした気持ちのいい人や場所はあるんですよね。目立たないかもしれないけど。だって、現に東京にしか住んだことのない私が、読んでいて思い浮かべてしまう人や場所があるんだから。

▼『雪沼とその周辺』のレビュー
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いつか王子駅で』読了。何ということのない日々を書いているのに、なぜだか読んでいて明るい気分になるんですよね。目に入ってきたものをちゃんと見て、周囲にいる人とちゃんと接して、そんな生活の中でふと思い出した文章を読んで…。

こんな生活が送れたらいいなと思うのは、私にはこんなゆったりした生活が送れないからでしょう。私はもっと毎日バタバタしています(苦笑)。

作品中、主人公が昔の豊島区立中央図書館に行くシーンがあるのですが、これは新しい豊島区立中央図書館では絶対に駄目ですね。講師や翻訳の仕事をしながら地味に暮らしている彼には、旧豊島区立中央図書館で古い作家の全集を紐解く姿の方が似合う。

この本は、 大泉図書館の棚で手に取ってみたとき、ざっと読んだだけなのにやけに心惹かれて、いつか読む本リストに加えていた(私は練馬区立図書館では借りられないので)んです。それを、今の東葛西図書館の特集『このタイトルがすごいっ!』で再度見かけて、これはと読む運命にあると思って、その後に行った羽田図書館で借りてみました。借りるまでにやたらと時間がかかっていますが、それもこの本に相応しいかも(笑)。

せっかちなのはそう簡単には治らなさそうですが、やはりこの作品のような時間の過ごし方には憧れてしまいますね。とりあえず、あらかわ遊園で一人観覧車に乗るというのは、いつか真似してみたいと思います(笑)。

▼『いつか王子駅で』のレビュー
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