作家別:樋口有介

2011年11月03日

『枯葉色グッドバイ』樋口有介

枯葉色グッドバイ』読了。迷宮入りした事件を解決しようと奮闘している新米刑事・夕子は、自分の事件の関係者が殺されたと聞き、現場の代々木小公園に出向く。すると、代々木公園のホームレス達の中に、先輩警官だった椎葉の姿を見かける。ある出来事をきっかけに警察を退職してホームレスになった椎葉に、夕子はアルバイトと称して捜査を手伝わせる。椎葉は押し付けがましい夕子にうんざりしながらも、謎解きに興味を抱き…というストーリー。

この小説、夕子が出てきて数ページ進んだあたりから、私の中で「夕子=20年ほど若返らせた真矢みき」というキャストが決まってしまいました(笑)。『陽はまた昇る』での、頭の固い強権女上司ながらも遠野(佐藤浩市)に惹かれて不器用な振る舞いをするあの役、ハマリ役だったなあ。真矢みきはぜひあの路線で行ってほしい!この小説の夕子の椎葉に対する態度も、『陽はまた昇る』の真矢みきを思い出させる可愛らしさです。

椎葉は、ホームレスとして欲もなくひっそり生きていきながらも、捜査をさせれば能力は鈍っていない、タフネスさを兼ね備えた男。でも、ホームレスになったきっかけを考えても、タフさの裏には繊細さが潜んでいる…となると、豊川悦司かな。被害者家族の中で一人生き残り、殻に閉じこもりながらも椎葉だけに心を開いていく女子高生・美亜には桐谷美怜。どちらもちょっと若返ってもらわないといけないですが。

ミステリですけど、謎解きとしてあっと言わせる展開があるとかというより、夕子・椎葉・美亜を中心とした登場人物達の人間関係がいいんですよね。夕子と美亜が椎葉を取り合うような構図が面白いだけでなく、登場人物全てが、単純で浅いキャラ設定ではなく心の機微までちゃんと描けていて、読んでて心地いい作品です。

ちなみにこの小説は、代々木公園が舞台ということで、渋谷区立こもれび大和田図書館の特集展示「わたしのとっておきの@シブヤ」で展示されていた本。この本を返しに行くついでに、特集コーナーにあるポストに、別の本のお薦め投稿をしてこようと思います。

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2009年10月06日

『苦い雨』樋口有介

苦い雨』読了。謎解きの結果が詰め将棋です。何でAという出来事が起こるのか、という理由が、Eという結果をもたらすために、Dを引き起こしたくて、Dを引き起こすためにCを仕掛けて、Cを仕掛けるためにBをする必要があり、BをするためにAが起きた、みたいな。

それが論理的というよりは、登場人物たちの性格ゆえというか、「これをして欲しい」と言われても素直にそれをするような人じゃなかったり、自分の欲するものもよくわからないような人だったりするからなので、読んでいると「面倒くさい人達だなあ」とおかしくなったりもします(笑)。

面倒くさいけど、人って誰でも多かれ少なかれ、素直じゃないし、わかっていても面倒くさい思考回路を取ったりするんですよね。

面倒くさい性格のまま終わってしまうのかと思いきや、最後に主人公が素直になりそうな気配を示すのが可愛くもあります。まあ、でも40過ぎまで面倒くさい性格で生きてきたら、そう簡単には直らないでしょうけどね(笑)。

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2009年08月31日

『月への梯子』樋口有介

月への梯子』読了。う〜ん、こんな結末とは参っちゃったなあ。これは荘子の世界です。何で蝶をモチーフにしなかったのか、不思議なくらい。あ、一応お店の名前で出てくるのか。

それとも私の知らない荘子的な世界観をモチーフにしているのかも。だいたい、登場人物の名が「猫山」「雨貝」「物船」「団子木」「馬肥」とかって、個性的すぎるもの。猫や貝や馬や船が出てくるような神話とかって何かありましたっけ。

この本の帯の文章は、この小説を『アルジャーノンに花束を』的に捉えた宣伝文句になってますが、この作品はそっちじゃないと思うんですよね。しつこいようですが荘子です。ネタバレせずにうまく説明できず、読んでいない人には何が何だかわかんない感想でごめんなさい(笑)。

小説の真ん中あたりで、近所の飼い猫シロについてのこんな文章があるんです。
シロはたまに庭も通って花壇の花を踏みつけ、通行料か詫び料のつもりか、季節ごとにガマ蛙や雀の死骸を置いていく。ボクさんはそのたびに小動物の屍骸を庭に埋め、お陰で薔薇にも紫陽花にもクレマチスにも肥料がきいて、いい花をつける。
樋口有介の小説(を語るにはまだ3冊しか読んでいないけど)における事件って、このガマ蛙や雀の死骸。自然という壮大なものの中の一つに過ぎないというか。知ることが哀しみだのなんだのって、それも広い世界の中ではうたかたに過ぎないのです。

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2009年07月15日

『雨の匂い』樋口有介

雨の匂い』読了。この小説は、何なんでしょう。自殺、殺人、病死と何人も人が死んでいくのに、全体的に漂う爽やかさのようなもの。読んでいると、自殺も殺人も、病死のように自然に起こることの一つに過ぎないと錯覚してしまいます。

そもそも犯罪と犯罪でないことの境目って曖昧で、たぶんその辺が樋口さんの興味があるところなのかもしれません。って、まだ2作しか読んでないけど(笑)。『ピース』も犯罪の黒幕が存在すると言えば言えるけど、実際はそれでターゲットが思惑通りの行動をするかはわからない、ただその可能性に賭けてみるということが犯罪なのかどうかっていう小説でしたし。「教唆」ともいえないくらいのおぼろげな「教唆」。

この『雨の匂い』は、そんなおぼろげな教唆をしでかした人が、その次に明らかな犯罪も犯してしまうのですが、そこに全くハードルを感じないのですよ。日常の延長で淡々と行われてしまう犯罪。正確は全然違うけど、犯罪に対するハードルの低さと言ったら、パトリシア・ハイスミスのトム・リプリーを髣髴させます。私の中では、この犯人を「平成のトム・リプリー」と名づけました(笑)。

そして、この小説の後はいかに。この小説、冒頭のとあるシーンから始まるのですが、その後それを忘れて物語が淡々と続き、最後の最後にそのシーンがよみがえってくるのですよ。そこで終わっちゃうのですが、それってこの先またひょいと犯罪を犯しちゃうってこと??この区切りのなさ、日常と犯罪の間に区切りはないし、この小説の時期とそれ以後の時期の区切りのなさが空恐ろしいのです。

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2009年05月28日

『ピース』樋口有介

ピース』読了。秩父で起きた連続バラバラ殺人事件。二番目の被害者の勤めていたバーでは、事件をきっかけに被害者との関係がバレてしまう人やら、秘めていた過去がバレてしまう人、全く何も変わらない人、等々いろんな人がいる。被害者達の共通点を全く見出せない警察だが、バラバラの「ピース」がいつしか繋がって…といったストーリー。

これはやられました。犯人が読者に明らかに箇所で十分衝撃を受けたのに、それとは別に真相があって、そこが読者にわかる箇所でもガツンと。いや、厳密に言うと、刑事の一人が自分が真相だと思うことを語るだけで、本当にそれが真相かどうかは謎のまま終わるんですけど。私、その2箇所では、口をぽかんと開けて「へ?」とか言いながら読んでましたもん(笑)。

犯人がわかる箇所での衝撃というのは、犯人の意外さというより犯行の理由です。推理ものとしては十分なヒントが与えられているわけではないので、そういう意味で意外な人が犯人だとかどうとかということはないんです。でも、犯行の理由については確かにほんの少し匂わせてあって、しかもその犯行の理由が、『そりゃ殺してはいけないし、八つ当たりでもあるんだけど、許せない、懲らしめてやりたいという気持ちはわからないでもない』とこちらも思ってしまうような理由なんですよ。しかも犯人も、正義感を振りかざしているというよりは、自分でも許せない気持ちを殺人という行動にあらわすのは間違っているとどこかでわかっていて、でも病気のようにやめられない、という感じだから、本当にやりきれない。

と、それだけでも本当に衝撃的なのに、最後の最後にまた真相が出てきて、私は再びお口あんぐりです(笑)。上に書いたような犯行の理由が明らかになったとき、読者としては「自分の手で相手を殺してやりたい、という方法が間違っているとしたら、どうしても許せない相手がいたとき、どうすればいいのか」ということを考えてしまうんですけど、この真相の遣り方ならいいのか?

人として許せない、でも刑法上で罪になるようなことをしたわけでもない人への懲らしめを2パターン提示してきて、読者にじゃあどうすればよかったと思う?と問いかけてくる小説なので、読み終わっても後を引くと言ったらありゃしない(笑)。できた人なら、懲らしめたいという気持ちこそが間違っているから赦すべき、という答えになるのかもしれないけど、そういう許されざることをした人って、最後の被害者のように「自分は今まで人ともめたことなど一切ありません」とのうのうと言っちゃうような人だったりするからねぇ…。

それにしてもあの当時、"ピース"のようなことは実際にはなかったですよね(という問いかけは、読んだ人にしかできないけど)。私自身はあの日ちょうどつくば科学万博に行っていて、帰りのシャトルバスのラジオから、人の名前が繰り返し流れて、とにかく空恐ろしかった記憶があります。たとえ子どもでも、"ピース"どころではないことはわかりそうに思うし、もしそうした愚かな行動があったとしても、周囲がどうにか対応すると思うのですが。

もし、実際にああしたことがあったならば、樋口有介が犯人とは違う手段、つまり小説を使って制裁したと言えますね。これが3パターン目に提示された懲らしめで、これが一番平和で効果もある懲らしめなのかも。

あと、この小説、梢路というバーテンが登場するのですが、彼の人生観や彼と自然とのふれあいが、上に書いたような仕返しだの何だのの対極にあって、これまた考えさせられます。だからといって、彼は聖人君子どころか登場人物中一番と言ってもいい秘密・過去を抱えていて、この真相については最後の最後まで明かされないままなんです。この辺も、著者からの「真相を明かせば解決ってことじゃない」みたいなメッセージなのでしょうか。

この、後を引きまくりの小説。実は一番の謎は、私はどこでこの面白い本を知ったのか、です(笑)。今の私、かなり「読みたい本」リストが溜まっているので、自分から積極的に面白そうな本の情報を求めていないんですね。可能性としては、誰かにメールで薦められたか、いつも読んでいるブログの書評で読みたくなったかと思ったけど、検索してみてもそれっぽいものがない。誰かの書評なら、その方に感謝しつつ、その方が薦める他の本も読みたいところですが、こちらの謎も解けそうにありません(笑)。

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