東京図書館制覇!Blog版

東京23区の公立図書館を全て訪れたサイト「東京図書館制覇!」の管理人TakeniのBlogです。
こちらでは、読んだ本や東京散歩など、図書館以外のことも書いてます。

カテゴリ: 作家別:川端康成

眠れる美女』読了。これは紀伊國屋書店の「ほんのまくらフェア」でも挙げられた本で、そのまくらは「たちの悪いいたずらはなさらないで下さいませよ、眠っている女の子の口に指を入れようとなさったりすることもいけませんよ、と宿の女は江口老人に念を押した。」というもの。『雪国』もいいけど、この作品も負けず劣らずいい。本としては短編集で、表題作のほかに「片腕」「散りぬるを」の2作も収録されています。

「眠れる美女」は深い眠りについている裸の美女と添い寝させてくれる(添い寝するだけで手を出してはいけない)宿に通う老人の物語で、この説明だけだとエロ小説だと思われそうですが(笑)、そこは川端康成、実際に読んでみると虚無感に満ちています。瑞々しい女性を見つめるほど、老人自身の老いが際立って感じられてしまう。江口は隣にいる女性から過去の女性をあれこれ思い出すのですが、それも何だか、死ぬ前の走馬灯みたいだし。語り手である江口は作中で「この施設は肉体の衰えで女性と関係を持てなくなった老人のためにあるのだが、自分は彼らと違って肉体的にはまだいける」と繰り返し言うのですが、それさえも虚勢に見えてくるんです。

性の終わりを描くことで、生の終わりを描いているところがあって、人間だれしも死ぬという当たり前のことをこうしたかたちで描くのかと、そのデカダンス世界にどっぷり浸かってしまいました。「美しい徒労」を描いた『雪国』に対して、「美しい徒労」の終焉を描いたのが『眠れる美女』というところでしょうか。

ただ、最後の「散りぬるを」は、私にはまどろっこしくてどうも…(笑)。小説家のもとに若い女性が弟子としてやってきて、師匠と弟子の感情とは違う想いが生まれてきたので、外に家を用意してそこに女性を住まわせたが…という枠組みには、田山花袋の『蒲団』を想像させられますが、「散りぬるを」ではその女性(2人)が近所の男に殺されてしまうんです。

小説家にとって殺人犯は、弟子を殺したヤツであるだけでなく、女性たちとどれほど親しかったのかが気になる存在でもあって、そうした気持ちが延々と綴られているのですが、これがもう同じところをグルグルしている感じで面倒臭い(笑)!これと比べたら、矛盾した感情を表に出しておバカな行動に出る『蒲団』の時雄が何と可愛いことか。

「眠れる美女」と「散りぬるを」に挟まれて収録されている「片腕」は、一夜の夢を描いたような短い作品。若い女性が腕を外して男に一晩貸してあげるというシュールな設定の物語なのですが、男が腕の感触を味わう様子などには、「眠れる美女」と同様、エロより虚しさを感じてしまいます。

この本、三島由紀夫が解説を書いていて、「デカダンス文学の逸品」と表現しているのですが、まさに我が意を得たりです。

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みずうみ』読了。美しい女性を見かけると、後をつけてしまうという性癖をもつ男の物語です。つけられる女性のほうは、男を惹きつける自分の魔力に酔う女性もいれば、真剣な恋に落ちる女性もいたり、てんで相手にしない女性もいたり…。

でも、リアルな怪しい性癖より、後をつけながら空想の世界に入って、空想と現実を彷徨う意識の方がメインに描かれている小説なんです。だから、『後をつけてしまうという性癖をもつ男が主人公の小説』と聞いて思い浮かべるほどにはドロドロしていません。もっと幻想的というか、きれいに描きすぎというか。

こういう内容だと、私には江戸川乱歩の方がいいな。江戸川乱歩は、登場人物があまりにも欲にはまりすぎると、読んでて冷めちゃうところもあるのですが、期待通りに欲望の虜になってくれる。それに対して、川端康成のこの小説は、主人公がたびたび夢の中にトリップして、現実的に欲を満たすことより、空想の世界に夢中になるんです。それが何だか物足りない。

散々女性の後をつけたり、空想に浸った結末が、醜い女性に後をつけられて、鏡で自分の姿を見たようになってうんざり…、というのも、それまでにもっと欲にまみれていれば、虚しさとかが感じられると思うのですが、単に夢から覚めたようにしか思えないんですよね。

こういう感想を持つのは、欲望を増幅させて儲けようとしている現代で暮らしている影響かもしれませんね。ちょっとやそっとの欲望の物語では満足しなくなっているという。読者としては不幸なのかもしれません。

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雪国』読了。恥ずかしながら、川端康成をちゃんと読むのは初めてだったのですが、こんなにいいとは思いませんでした。情熱を目の前にし、行動としてはそれを受け入れもするんだけど、心は冷静で、自分の行動をもどこか客観的に見ている感じ。

冷静といっても、冷えきっているわけではないのがいいんです。駒子に会うために、雪国まではるばる来るくせに、着いたら着いたで自分から駒子のところに通うことはなく、芸者業の合間合間に来る駒子の様子を「徒労」と見ている島村。でも、その徒労を島村は「美しい徒労」と呼ぶのです。

想像を膨らませると、「美しい徒労」って人間がしていること全てそうだと言えます。宇宙的な時間軸で見てしまえば、どんなにいい世の中にしたところで、いつかは地球の寿命がくるでしょう。エコ・環境問題としての寿命ではなく、星としての寿命が。そこまで話を広げなくても、人間一人一人に寿命がありますよね。それを、「いつかは終わるから、どうでもいい」のではなく、終わることを踏まえた上で、無駄かもしれない労力を注いで、堪能する。

退廃を好むようなやさぐれた嗜好ではなく、栄枯盛衰の波に乗って、その波の曲線の軌道を作為で変えることもせず、そのときそのときをしっかり味わうような世界観。これが、何とも心地よい。

そうだなあ、読後の気持ちとして、「面白かった」よりも「気持ちよかった」が適切な表現なくらいです。

そうそう、この本を読むきっかけは、篠崎図書館の図書館だより「ぷらっつ☆篠崎」に載っていたからです。新刊本だけでなく、こういう本も紹介してくれる図書館だよりはいいですね〜。

▼『雪国』のレビュー
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