作家別:ブライアン・フリーマントル

2012年12月31日

『顔をなくした男』ブライアン・フリーマントル

顔をなくした男』読了。この本を読むためにシリーズ前々作までさかのぼって復習した上で読んだのですが、読み終わってみたら三部作の二作目であるがために話が終わっておらず、次作はまだ邦訳されていないという、もやもやさせられるために読んだような状態です(笑)。こんな中途半端に終わるなら、全4巻にしてもいいから一度に読ませてくださいと言いたい気分。

今回は自分の同僚も上司も信じていない英国MI5の情報部員チャーリー・マフィンが、上司たちを前に正直に話せと自分を叱咤するという珍しい状況から始まります。誰をも信じないことで生き延びてきたチャーリーが、部局の協力を何としてでも得るがために本当のことを話すことになったのは大切な人を助けるため。チャーリーは英国情報部員なのにロシアの連邦保安局のナターリヤと密かに結婚しておりサーシャという子どももいるのですが、そのナターリヤとサーシャがロシアで危機に直面しているらしく、何とかイギリスへ亡命させようとするんです。そこにMI5とMI6のいがみ合いや別の亡命事件がからんで、混迷のまま話が終わってしまい、第三部を読まないことにはストレス溜まりまくりです(笑)。

チャーリー・マフィンシリーズの面白さは、スパイ小説なのですが敵国に所属するスパイ同士の駆け引きが描かれているだけでなく、お役所内での上司(ときには部下たるスパイが死んでもいいとさえ思っている人が上司になることもある)と部下との駆け引きも描いているところ。与えられた仕事をしながらも使い捨てられないよう身を守るというのは、組織に属する一般人なら程度の差こそあれ考えるべきところだから、身につまされるような気分で読んでしまいます。

でも、今回のMI5の上役は珍しくチャーリーのやり方に賛同している人物が揃っています。その代りにMI6のトップがMI5自体を好き勝手に使える道具であるかのように使おうとし、そうはさせまいとMI5はますますチャーリーを支援する。ただ、遠く離れたロシアにいるチャーリーにはMI5とMI6がそういう状態だとは知らないので、誰が自分を邪魔しようとしているのかもわからない。それに加えて、チャーリーを捕えようとしているロシアの連邦保安局もいるわけで、もうホントに四面に加えて上や下からも楚歌が聞こえてきそうな状態なんです。

中途半端な終わり方でもやもやしていますが、ここはまだ解けていない謎を三部目が邦訳されるまでにあれこれ考えるのを楽しむべきですね。私の推理ではロシア側の登場人物、特にラドツィッチの奥さんなんかが怪しいように思うのですが…読んだ人と話す機会があったらぜひあれこれ推理を語りたいところです。

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2012年12月29日

『片腕をなくした男』ブライアン・フリーマントル

片腕をなくした男』読了。ブライアン・フリーマントルの描く英国情報部員チャーリー・マフィンシリーズの14作目(日本では訳されていないものが1作あるので13作目)です。在ロシア英国大使館の庭で片腕がない男の死体が発見され、その事件を解決するためにチャーリー・マフィンが派遣されるが、捜査の中で大使館に盗聴器が仕掛けられ保安体制が崩壊していたことが判明し、英露の国際問題にまで発展するなか、チャーリーは今回も無事に生き延びられるか…というストーリー。

チャーリーはいつも、任務を果たすだけでなく部内でのサバイバルに勝ち残らないといけない状態で、今回も部内が部長派と次長派(おそらくこちらが多数派)と分かれるなか任務を任されています。部長はチャーリーに事件を解決させて自分の成果とするために、次長はチャーリーに失敗させてチャーリーと部長を追いやるために、彼に任務を命じたというかたちで、例によって英国大使館内でも次長の命で動いている同僚に邪魔されながら謎を解いていく。

一方、プライベートでは前作で別れたロシアの連邦保安局の上級職員ナターリヤとよりを戻そうと画策。仕事ではお互いに母国を裏切ることなく働いている二人が惹かれあっているから厄介なのですが、前作ではチャーリーはロシアに常駐していてナターリヤとも一緒に暮らしていたんですよね。でも、前作の最後でナターリヤが家を出ていってしまい、前作と近作の間でチャーリーもイギリスに戻されてしまった。で、事件をきっかけにロシアに派遣された期間でナターリヤとの関係を修復しようとするがこれがどうなるかというところ。

前作『城壁に手をかけた男』がこのシリーズにしては危険がなくあっさりした作品だったのに対し、今作はチャーリーが殺されそうになるわ、謎も複雑だわで読み応え十分。私、最新作『顔をなくした男』を読むために既に読んだシリーズを読み返しているのですが、複雑すぎて覚えてなくて初読のように楽しめました(それとも記憶力が悪いせい?)。

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2012年12月18日

『城壁に手をかけた男』ブライアン・フリーマントル

城壁に手をかけた男』読了。イギリス情報部員のチャーリー・マフィンが自局内外からの罠を切り抜けて生き延びるシリーズの13作目(日本ではなぜか訳されていないものが1作あるので12作目)ですね。今作ではロシアとアメリカがミサイル防衛凍結条約を結ばんとする米大統領来露セレモニーで、ロシア大統領とアメリカ大統領夫人が銃弾に倒れる事件が起こり、実行犯として捕まったのが亡命イギリス人の息子(=イギリス国籍を有している)ということで、ロシア・アメリカ・イギリスを巻き込んだ混乱が起こります。チャーリーは事件を解決して、自分の身を守ることができるのか。

チャーリーは我が道を行く鼻持ちならない男で、でもそうやって身内をも信じないで行動してきたがゆえに、生贄として自分を見捨てようとした身内の罠を逃れてきたんです。国外のスパイからの罠や難題の解決だけでなく、こうした局内の陰謀を見抜いて切り抜けられるかどうかというのが、チャーリー・マフィンシリーズの見どころなのですが、今作はあからさまな敵意を見せる人などがそれほど現れない。だから余計、表面上普通に仕事をこなしてチャーリーとも普通に接する人をそのまま受け取っていいのか勘ぐってしまうんですよね。

ただ、今作はあまりチャーリーがいつもの作品ほどの危機に直面しないんです。下巻の巻末に1991年8月のゴルバチョフ大統領(当時)へのク―デターに関する覚書などを書いていることを踏まえると、この作品では著者はロシアの混迷のほうを描きたかったのかもしれません。それから20年も経っている現在ですが、今のロシアもプーチンの健康問題、というか健康問題にかこつけた政局争いなどありそうで、謎も多いですね。まあ、日本も外から見たら訳わかんない国だと思われているんだろうな…。内向きにならず、外からみたときの視点も忘れずに、国のありかたを考えていきたいです。

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2010年06月06日

『片腕をなくした男』ブライアン・フリーマントル

片腕をなくした男』読了。

ブライアン・フリーマントルの「チャーリー・マフィン」シリーズ、好きなんですよね〜。イギリスのMI5に所属しているチャーリー・マフィン、他国との出し抜き合戦だけでなく、自分の組織内の権力闘争に煩わされているのもいつものこと。今回は、ロシアのイギリス大使館敷地内で他殺死体が発見された事件の解決のために、派遣されたチャーリーですが、ロシア側は十分な情報は与えてくれず、それどころか大使館内にたくさんの盗聴器が見つかり、誰も信じられず…。

いや、こんな事件がなくても、チャーリーは元々誰も信じていないのですが、盗聴事件のおかげでロシアとの関係もおかしくなり、大使館内も混乱してチャーリーの捜査もままならない。その混乱を、自分を有利にする材料にしていけるかどうかが、このシリーズの面白いところなんですよね。

シリーズ毎作、目の前を危機を切り抜ける一方で、新しい問題が生じて終わるので、全く気が休まることがない。実際の情報部員も、対外的な敵だけでなく、組織内の権力争いにまで気を配らないといけないんでしょうね。読者として楽しむ分にはいいけど、私にはこんな仕事はできないなあ(笑)。

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2010年05月26日

『ネームドロッパー』ブライアン・フリーマントル

ネームドロッパー』読了。裕福な他人の個人情報を盗み出しては、財産を騙し取っていたプロの詐欺師が、旅行先でのつかの間の女性との付き合いをもとに、彼女の夫から訴えられるんです。

その訴えの理由が、姦通罪に触れたからだそうなのですが、この小説のストーリーのように、姦通罪が定められている州ってアメリカにまだあるんですね。Wikipediaの「Adultery」のページを私が誤読していなければ、ミシガン州では終身刑になる罪だそうで、恐ろしや…。実際のミシガン州の法律の詳しいことはわかりませんが、この小説のケースのように、外国でコトが起きたときにも適用されるなら、日本でこれを読んでいるあなたも、うかうかできませんぞ(笑)。

「いかに法の目をかいくぐるか」に細心の注意を払い、自分以外の誰も信じなかった生活から一転して、「いかに法律を自分の味方につけるか」を弁護士や一緒に訴えられた女性と検討する日々。しかも、そうこうしているうちに、リゾラバ(死語?)だったはずの彼女を、プロの詐欺師が本気で好きになっていくんです。

読んでいるときには、「ストーリーとしてその方が面白いとはいえ、そんな馬鹿な」と思ったけど、何年も自分だけを頼りに生きてきた人間が、不本意にも他人との協力を強いられて、それがうまく回ってきて、かつそのチーム内に過去に関係をもった美しい女性がいたら、そうなってしまう方が自然なのかもしれませんね。

最後の最後は、フリーマントルらしい結末。いや、フリーマントルにしては、明るい終わり方かな(笑)。

裁判の行方とともに、主人公が、他人の名を借りてこそこそと稼ぐ生活に戻るか、本当の自分の名前で他人と関わって生きる生活に進むのか気になって、ぐいぐいと読み進んでしまいました。

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2009年11月01日

『殺人にうってつけの日』ブライアン・フリーマントル

殺人にうってつけの日』読了。元CIA所属でKGBに情報を流していたスパイ・メイソンと、彼の連絡担当をしていたKGBのスパイ・ソーベリ。ソーベリはメイソンの妻・アンと恋仲になり、メイソンのスパイ行為をアメリカに密告して、アメリカに亡命、証人保護プログラムによって、現在はスレイターという名前に変えて暮らしている。

スレイターとアンは平穏な暮らしを送っていたが、メイソンの服役が終わり、スレイターへの復讐を図る。アンが復讐に怯える中、スレイターも半信半疑ながらも影響を受けて不安になる。さて、復讐計画の行方は、、、という小説。

原題が"TIME TO KILL"というこの小説、邦題があまりよくないのですが、殺すべき「日」というより「タイミング」なんですよね。殺人を企む者、標的となった者、その周りを取り巻く者にとって、このときなら対処できる、このときなら責任逃れできる、このときなら手柄にできる…などなどのタイミング。

自分の意思で行動しているつもりなのに、実は誰かに踊らされている、というのはスパイ小説だけかと思いきや、気付いていないだけで自分も誰かにそうされていたりして…。

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2006年05月07日

『知りすぎた女』ブライアン・フリーマントル

知りすぎた女』読了。このブログで書くのは初めてだと思うのですが、この本の作者ブライアン・フリーマントルって好きなんですよね。特にイギリスのスパイもの、チャーリー・マフィンシリーズが好き。心理をこれでもかというくらい読み合い、読み合いするやりとりが面白いのです。

が、この『知りすぎた女』は単発もの。
ウォール街の大きな会計事務所の重鎮が実はマフィアの会社のマネーロンダリングに関わっていた。彼は自分の引退とともに事務所がマフィアと関わらないよう画策したつもりが殺されてしまう。残された人間に引き続き汚い仕事をしようとするマフィア、どうにか逃れようとする後継者。その後継者もついには殺され、彼が守ろうとした妻と彼を守ろうとした愛人にまでマフィアの魔の手が…
といった小説なのですが、単純に楽しめました。

たぶん、自分に似た人物が全くおらず、誰にも感情移入せずにストーリーの成り行きを楽しめるから私には面白いのかな。高村薫の合田雄一郎ものなどは合田にどっぷり感情移入してしまうから、好きだけど覚悟して読み始めないといけなかったりするので(笑)。

そういった私の個人的入れ込みを抜きにしても、この話にはスパイもののときのような心理の読み合いは出てこないので、やはり展開を楽しむ小説ですね。

そして結末は皮肉な結果に。これもまたフリーマントルらしさの一つですね。ハッピーエンドにするより、皮肉な結末の方が面白く感じてしまうのは、私の性格の表れかしら。

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