東京図書館制覇!Blog版

東京23区の公立図書館を全て訪れたサイト「東京図書館制覇!」の管理人TakeniのBlogです。

カテゴリ: 作家別:広瀬正

エロス』読了。これでやっと集英社文庫から出ている広瀬さんの小説全集を制覇しました。この作品も広瀬さんワールドに浸れて楽しかった!ちなみに、タイトルに反して「エロ」の要素は全くないので、そういうのが苦手な方はご安心を(笑)。

大物歌手・橘百合子は、雑誌企画の「<あのときああしていたら(していなかったら)>と思うことは何ですか?」という質問を受け、歌手になったきっかけの出来事を振り返る。その後偶然、歌手になったことで離ればなれになってしまった男性と出会ったことで、あのとき違う道へ進んでいたらどうなっていたかと空想がますます膨らんで…と、現在・過去・もう一つの過去のパラレル・ワールドが繰り広げられる小説です。

広瀬さんの作品って、SFの設定を楽しんでいる様子が伝わってきて好きなんです。「あのとき違う選択をしていたら」というパラレル・ワールドの設定を、今を後悔するとか、間違っているものを正すみたいな使い方をするのではなく、どっちに行ったっていいこともあるし辛いこともある、でも違う世界があるということが楽しいじゃん、みたいなところが読んでて気持ちいい。

個人的には、先日都立国立高校の文化祭に行ってきた後に、国立高校に受かっていたら全然違う高校生活、ひいてはその後の人生も変わったかもと何度か思ってます(笑)。いや、過去に目を向けずとも、自分で気が付いていないだけで、後で振り返ったら大きな分岐点といえる場所に今いるのかもしれないんですよね。そう思うと、ちょっとしたことでもどちらを選ぶか真剣に考えちゃったりして(笑)。

あと、広瀬さんの作品では、過去を描く際に当時の生活が伝わる具体的な数字や名称を盛り込んでいるのが、風俗史っぽくて面白いんです。登場人物が後見人への相談ごとの前にする雑談で、エチオピア皇帝の親族と結婚するはずだった黒田雅子さんが破談になって気の毒だという話題が出たり、タバコ屋を任された登場人物が仕事で覚えなきゃと「ゴールデンバッドが八銭で、チェリーが十二銭で、エアシップが十五銭…」と値段を細かく読上げたり、小説の本筋には関係ない時事ネタや社会状況を読めるのが楽しいんです。

昔の新聞紙面を見ると、歴史的に大きな出来事の記事だけでなく、投稿欄や人生相談欄、広告などが面白かったりしますが、小説の中にそうしたものが織り込まれているようなかたちなんですよね。

ああ、しかし、これで全集を読み終わってしまったというのは、嬉しいような淋しいような…。若くして亡くなってしまい、発表された作品が少ないことが残念です。でも、生の活動とは違って、本は後になってから何度でも読めるのがいいところか。明るい気分になりたいときに再読したい作家さんです。

カーリルで『エロス』の図書館蔵書状況を確認
Amazonで『エロス』を買う
楽天ブックスで『エロス』を買う

T型フォード殺人事件』読了。表題の中編に2つの短編を加えた広瀬正の作品集です。私にとって久しぶりの広瀬さんワールド、楽しかった!

表題作は、メカニック好きの泉氏が知り合いを集めて、入手したクラシックカーをお披露目することから始まる物語。クラシックカーが信じられないほど状態がいい理由は、T型フォードが殺人事件の舞台となってしまったがために、その後使われずに車庫に眠っていたからだった。その殺人事件、当時の警察が出した結論とは別に真実がありそうということで、集まった面々でその謎を解こうということに。

私が広瀬さんを好きなのって、大陸的というかさっぱりしているというか、例えば『マイナス・ゼロ』でも、タイムマシンで戦後から戦前へと行ったまま戻れなくなってしまった主人公が、戦地に赴く羽目に陥っても愚痴を言ったり卑屈になったりせず、1945年には戦争は終わるんだしとあっけからかんとしているのですが、そういうところなんです。表面的にあっけらかんとしていたって、現実的には辛いに決まっているんだけど、だからといって自分の力ではどうしようもない、それをぐちぐち悩まずに前に進んでいくところが好き。

この「T型フォード殺人事件」の仕掛けにも、それと同じ心意気を感じます。読んだ人の中には、全ての謎が解けたとき、仕掛け人に対して、こんな仕掛けでいいの?それで気が済むの?もっと苦しめてやれば?と思う人もいると思うのですが、それでよしとする登場人物こそがいいんです。私もこんな人になりたいなあ。こういう、登場人物の心意気がいいミステリって、読んで謎が解けたあともまた読みたくなります。

タイムマシンといえば、この本の最後に収録されている「立体交差」もタイムトリップもの。この物語では、理由あって20年後の世界に連れてこられた主人公が、なかなかそのことを認めようとしない。そこで連れてきた人が主人公に理解させようといろんなものを見せてまわるくだりが、広瀬テイスト満載でニヤリとしてしまいます。コカコーラに対する感想とか、街を歩く女性に対する感想とか、いかにもありそう。そして、もし私が誰かを20年後に連れてきて、それを納得させなければならないとしたら、この物語のようにその人の好きなスポーツを見せようと思いました。世代交代のさまを見たら、タイムトリップをしたことを納得さぜるを得ない。20年前の私が現代にトリップして、渡辺久信の髪の毛をみたら、ショックだろうけど納得せざるを得ないだろうし…(笑)。

タイムマシンや殺人事件など、いろんな作家が小説のために使う材料をどう料理するかというところで感じられる、広瀬さん流のひねりがいいんだよなあ。軽く読めるんだけど、忘れられない後味があって、もう一度食べたくなる。人の悪意も、広瀬さんの手にかかるとユーモアへ変換され、すかっと爽やか!…は言い過ぎか(笑)。苦しい時ほどユーモアを忘れずに、ですね。

カーリルで『T型フォード殺人事件』の図書館蔵書状況を確認
Amazonで『T型フォード殺人事件』を買う
楽天ブックスで『T型フォード殺人事件』を買う

タイムマシンのつくり方
』読了。広瀬正が長編小説を発表する以前、昭和30年代後半から40年代前半までの短編を収録した本です。

広瀬さんの作品って、SF的設定(特にタイムマシンでの時間旅行におけるパラドックス)を「制約」としてでなく、想像を膨らませる道具として使っている感じで、読んでて楽しいんですよね。SFでない作品も、思い込みをテーマにしたものが多くて、人がいかに思いこみに縛られているか、逆に思い込みを操る側に立つといかに自由になるかを感じさせる。空想の自由さを教えてくれる作品です。

この本に収録されているのは、24編の短編と付録のエッセイが1編。中でも私は、締め切りが迫って苦し紛れに書かれた文章かと思いきや、それがSFにつながっていく『タイム・メール』、遭難した後に辿り着いた街での不思議な光景を描いた『化石の街』などが気に入りました。『オン・ザ・ダブル』については、自分もジョギングする身なので、作品の中に混じって一緒に実験台になりたい気さえします。

それにしても、作品自体や解説を読むに、これらの作品が書かれた当時は、タイムマシンがそれほど一般的に理解される概念ではなかったようで、昭和46年生まれの私にはその「タイムマシンが何なのかが一般に知られていない」というのがピンと来ない。でも、よく考えてみたら、タイムマシンが何なのかがすんなりわかるのって、ドラえもんの存在が大きいのかも。実際、タイムマシンと言われて頭の中に真っ先に浮かぶ映像って、ドラえもんのそれじゃありません?もしこの世にドラえもんという漫画がなければ、タイムマシンという概念ももっとキワモノとして扱われていたかもしれませんね。

最後に、この短編集のタイトルもいい。このタイトルは、集めた短編のタイトルの中からとったものではなく、作品集のためにつけられたタイトルなのですが、タイムマシンを題材にした作品を多く創ることで、SF作家自身がタイムマシンという概念を作り上げたということを表しているように思います。漫画にタイムマシンや四次元という概念が描かれるのも、SF作家達がこうしてタイムマシンを描いたからこそ。この先タイムマシンが現実に製作されることがあるとしても、真の製作者は彼らではなく、それに先立って空想小説の中でタイムマシンを作り上げた作家達。そんな思いが込められているタイトルだと思います。

ああ、でもこれで、広瀬さんの小説全集6点のうち、4点読み終わっちゃった。もちろん、全部読みたいし、読むつもりだけど、読み終わるのが惜しい気もする…。

▼『タイムマシンのつくり方』のレビュー
Amazon カスタマーレビュー

広瀬正『鏡の国のアリス』読了。ルイス・キャロルの同名の小説のように、左右反転した世界に迷い込んでしまう男の物語のほか、『フォボスとディモス』『遊覧バスは何を見た』『おねえさんはあそこに』と、全部で4つの小説が収録されています。

広瀬さんの小説で何がいいって、信じがたいSF的状況に陥った登場人物が、ほとんど迷うことなく前向きに新しい世界に順応しようとするところ。『鏡の国のアリス』でも、主人公の男が元の世界に帰りたいと思うのも、新しく来てしまった世界に順応するのに苦しんでいるのではなく、単に新しい世界での恋愛が思い通りにいかないからという、この明るさがいいよなあ。

他人のせいにしたり、自分でどうにもならないことを思い煩っている暇があったら、自分のできることをして、状況を変えればいい。この単純明快さと強さが大好きです。

それに加えて、『鏡の国のアリス』は、鏡の世界とは何か、どうして主人公が鏡の世界に行ってしまったのかという理屈も面白い。主人公が鏡の世界で出会う研究者・朝比奈の、日光の陽明門がなぜ完全な左右対称にしなかったのかに対する説など、ホントにありそうに思えてしまう。

よくよく考えると、左右対称に対するイメージって面白い。例えば、絵を描きましょうってことになったとき、山でも花でもいいんですけど、左右対称に描くとなんか単調な感じで、背景を変えたり、中心をずらしたりして、左右非対称にした方が落ち着く気がします。この文庫本の表紙画像も、完全な左右対称ではなく、矢印の尾っぽや全体枠を非対称にしてますよね。

では、左右対称はデザイン的にダメかというと、エッフェル塔を公園の並木道越しに移した写真なんかは、左右対称になっていることで迫力が増すように思います。この印象の違いは何だろう。非対称が自然で、対称が作為的な印象があるのかな。で、凝った作為は迫力に繋がるけど、凝っていない作為は単調に見えてしまう、とか。

いろいろ考えると面白いですね。しばらく身の回りのものの対称性が気になってしまいそうです(笑)。

▼『鏡の国のアリス』のレビュー
Amazon カスタマーレビュー
楽天 みんなのレビュー

ツィス』読了。神奈川県のある市で、謎の音が聞こえるようになり、最初小さかった音は次第に大きく、ついには東京にまで広がって行き…というSF小説。最後のオチにはびっくりしたけど、現実に起こりえそうなオチでもあり、かえって空恐ろしい気もします。

今ちょうど蝉がうるさい季節ですが、ウチの場合、よく蝉が網戸に止まって鳴くんです。遠くから聞こえてくれば風情と感じられなくもない蝉の声も、自分のいる部屋の網戸で鳴かれたら、うるさい以外の何モノでもなく、毎日5回くらいは網戸越しに蝉を指で弾き飛ばしているのですが、それもできずに一定の音がずっと聞こえていたら…、確かに頭がおかしくなるだろうな。

音って、確かに聞こえるんだけど、たまにどこから聞こえているのかわからない音もありますよね。匂いもそう。視覚とくらべて、聴覚や嗅覚はあやふやな面が強くて、そこをうまく利用した小説という気がします。自分がこの小説の中にいたら、正しい感覚を持ち続けていられるかどうか…っと、あまり詳しく書くとネタバレになっちゃうんですよね。

それにしても、「音」という身近すぎるものを主題にして、これだけ面白い小説を書ける広瀬正はすごい!集英社文庫の小説全集シリーズ、残りのものを読むのが楽しみです。

▼『ツィス』のレビュー
Amazon カスタマーレビュー
楽天 みんなのレビュー

マイナス・ゼロ』読了。あ〜、面白かった。この本の感想・面白さを、ネタバレさせずに書くのはとても難しいけれど、要約するとタイムトラベルもののSFです(要約しすぎか 笑)。タイムマシンによってくりひろげられるいろんな出来事がぐるっと繋がる構造が面白い。

それに、タイムマシンに翻弄される人や、その人が出会う登場人物達が、くよくよ悩まず明るいのがいい!取り返しのつかない事態に陥ってちょっと落ち込むも、すぐにその状況で生きていくために頭を働かせ始める浜田俊夫。理由も聞かずに頼んだ仕事を請け負ってくれるカシラ。遊び好きのカシラのせいで夜逃げしてきたのに、手綱を締めて家のやりくりをしているカシラの奥さん、などなど。自分の状況を嘆く暇があったら、さっさと手を動かすべしという前向きな人達に、読んでるこちらも楽しくなってきます。

あと、昭和初期の東京の描写がとてもいい。ただ単に、街の様子がどんなだったかではなく、そこでどんな風に人々が暮らしていたかの描写も、小説の中に自然に溶け込まれているんですよね。何となくの知識はあったけど、昭和初期の東京はこんなだったんだ、と思いながら街を歩く主人公に、読者も同じ気分になってきます。

それにしても、私は記憶力があまりないので、メモやパソコンや本などの外部記憶に相当頼っていますが、万が一いつかタイムマシンによって過去に置き去りにされても生きていけるよう、いつどこで何が起こったかという歴史を覚えておいた方がいいですね(笑)。それに加えて、今なら当たり前にあるけど、昔はなかったものの作り方の知識を持っていれば怖いものなし。そんな記憶力を持たない私は、タイムマシンに連れさられないように気をつけないと(笑)。

▼『マイナス・ゼロ』のレビュー
Amazon カスタマーレビュー
楽天 みんなのレビュー

↑このページのトップヘ