東京図書館制覇!Blog版

東京23区の公立図書館を全て訪れたサイト「東京図書館制覇!」の管理人TakeniのBlogです。
こちらでは、読んだ本や東京散歩など、図書館以外のことも書いてます。

カテゴリ: 作家別:近藤史恵

キアズマ』読了。このブログに本の感想を書くこと自体が久しぶりですが、この間他の本を借りに千代田図書館に行ったときに見かけて、いてもたってもいられず借りてしまいました。『サクリファイス』にはじまる、近藤史恵さんの自転車ロードレースシリーズ、第4冊目です。

といっても、1冊目の主人公チカも、彼が進んだ実業団やヨーロッパのプロチームも『キアズマ』には出てきません。いや、正確には、くすぐり程度にシリーズの登場人物がチラッと出てきますが、今作の舞台は本格的なロードレーサーではなく、大学の小さな自転車部。大学の新入生・岸田正樹が、ちょっとしたアクシデントをきっかけに、1年間という約束でロードレースを始めるとこになる。

前半は、自ら進んで始めたわけではないのに成長が順調すぎない?という気もしますが、そこはさすが近藤さん、最初の、でも一生抱えていくほど大きな壁にぶつかったときの折れ方などは、順調すぎた人ってこうなるよなあとリアリティを感じます。

この作品もまさにそうなのですが、私がこのシリーズを好きなのは、ロードレース特有のエースとアシストの関係、華やかさの裏で渦巻く汚い欲、薄皮一枚程度でしか隔たれていない栄光と転落など、表があれば裏があることを描いているところ。でもそれは、闇や汚さを描くというより、平穏な生活の中で忘れがちなことを丁寧に語っているように感じます。生きていれば必ず死は来るし、誰かに光があたるということは当然他の人には光があたっていないことになる。

で、そういう現実、というかリスクといったほうが適切かな、それに対して、逃げないところも好き。挑戦には必ずリスクがある、でもリスクを避けていたら何もできない、だからリスクを踏まえた上で挑戦する、という道を選ぶ登場人物達に共感します。

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サヴァイヴ』読了。この本のために、『エデン』とそれまでのシリーズ作品を読み直しましたが、この本自体はシリーズのことを知らなくても読める短編集なんですね。むしろ、この本から旧作を読んでみようという人がいてもおかしくないくらい。

『サクリファイス』と『エデン』は日本人の自転車ロードレース選手の白石誓(通称チカ)を主人公とした小説ですが、6つの短編が収録された『サヴァイヴ』でチカを主人公としているのは2作のみ。残りの4作は他の登場人物を主人公にした作品で、時系列としても『サクリファイス』以前のできごとから『エデン』以後の物語までさまざまです。

危険に対する恐怖心、チームメイトへの嫉妬心、マイナースポーツへの無理解、不正の誘惑などなど、書かれていることは爽やかなスポーツ精神とは全く逆の世界。でも、だからこそリアリティがあり、そうした煩わしさが避けられない世界で登場人物たちが生き抜く姿に惹きつけられてしまいます。

私のお気に入りは『サクリファイス』でチカがいたチームのエースだった石尾さんに関する短編。協調性がないというより、自転車のこと以外には関心がない石尾さん、かっこよすぎ!『サクリファイス』での石尾さんの信念につながるようなサブストーリーを作ってくれた近藤さんには投げキッスを送りたいくらいです(送られても、困るでしょうが 笑)。

いや、よく考えれば、ほかの登場人物も個性あふれる人たちなのに、前2作ではむしろ書かなさすぎだったかも。ぜひぜひこれからも、このシリーズの続きはもちろん、『サヴァイヴ』みたいなサブストーリー集も書いて欲しい。近藤さん、よろしくお願いします!!

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エデン』読了。『サヴァイヴ』を読むためのシリーズ復習読みをしていて、『エデン』の次が『サヴァイヴ』ということになります。日本の自転車ロードレースチームで走っていた『サクリファイス』の数年後、『エデン』で主人公チカはヨーロッパに渡ってから2チーム目となるフランスのチームでアシストを務めています。相変わらずアシストを天職として堅実な活躍を見せているチカですが、小説の冒頭でチームスポンサーの撤退が決まり、これからツール・ド・フランスが始まるところだというのに、チーム解散も念頭に置きながら走ることになる。気持ちがバラバラになったチーム、自分の将来、ツールの行方などなど、いろんな屈託をはらみながらツールが進んでいき…。

『サクリファイス』をチカが他人の夢でもあり枷ともいえるものを背負った物語と要約するしたら、『エデン』は若い選手が昔の自分のような体験をするのを見つめる物語といえるかも。でもホント、プロ選手に限らずどんな人でも、今の自分でいるのは自分一人のおかげではなく、誰かの思いや大げさな言い方をすれば人の犠牲の上に立っている部分があると思います。単純なところでも、求人枠に対して応募人数が多ければ、就職できた人は落ちた人を蹴落としてその職についたわけですから。

もちろん、だからといって自分が必要以上にその任務のために犠牲になることもなくて、そういう点でもチカの姿はプロスポーツ特有の経験だと思えないんですよね。チームへの貢献や『サクリファイス』で託された思いのことも考えつつ、自分のキャリアも考えてどうしようか悩むチカの姿は、一般の社会人にも共感できるところがあり、そういったものもこのシリーズの魅力だと思います。

どんなに恵まれているように見える人でも苦労をしていたり、屈託を抱えていたりするのを描いているところも好きだなあ。実際、苦労知らずの人か苦労人かって、実際に苦労をしているかどうかではなく、それを他人に見せるかどうかの違いかなとも思うんです。ちょっと周りを見ても、小さなことを大騒ぎする人もいれば、水臭いにもほどがあるというくらい苦労を見せない人もいますもんね。今回の事件の中心人物だけでなく、この小説の文体自体が、主人公チカの一人称というスタイルを取りながら苦しみなどについてはさらっと書いている、それがかえって語らない部分への想像を膨らませます。

それに、このシリーズは自転車ロードレースに肩入れしすぎていないのも読んでいて気持ちいい。スポーツが好き、特に日本ではマイナーなスポーツを好きな作家がそれを小説にした場合、そのスポーツへの愛というかメジャーになって欲しいという気持ちが強すぎて、小説として広い共感を得にくくなってしまっているものもありますよね。いや気持ちはわかります。マイナースポーツだとテレビで放送してくれるかどうかも危うくて、ぜひともファンを広げて放送枠を確保したいですもん。motoGPもNHK BSでやっていたことがあったなんて今は昔となってしまったし。でも近藤さんのこのシリーズの場合そういう邪念があまりなく、小説を理解するのに必要な知識は織り込んでくれるけど、余計なアピールはないので気持ちよく読めるんですよね。自転車ロードレースを全く知らない人もぜひ。

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サクリファイス』読了。この間、目黒区大橋図書館が移築オープンしたときに、書棚に『サヴァイヴ』が4冊くらい並んでいて、そうかもう予約待ち行列も解消されてすぐに借りられる時期になったのかと思ったものの、いざ借りようと思ってみたらシリーズのそれまでのあらすじをかなり忘れていたので、こりゃダメだとシリーズ1作目から読み直している次第です。最近の読書記憶力が落ちっぷりといったら、もう…(苦笑)。

小説の舞台は自転車ロードレースの世界で、ロードレース特有の「アシスト」という役割に徹する主人公チカを中心に、チーム内の嫉妬や競争心、そしてその先に起こる事故を描いています。最初に読んだときには、ドロドロした世界の中で純粋に走ることに専念するチカを爽やかに感じていたけど、今回復習読みをしていて思ったのは、主人公のチカくんは結構嫌味な存在ですね(笑)。

陸上でトップアスリートへの道を進みつつあったのに、ロードレースのアシストの道を選んで、自分だってエースになりたいと思いながらアシストを務めてきた先輩の葛藤を聞いて、ぼくはトップを走ることの重圧から逃げてアシストにきた人間だから彼の気持ちは本当にはわからないだろうなんて言っているんですから、そりゃ妬まれる要素大というもの。見方によっては、俺が俺がと出しゃばる奴より嫌な感じですもんね(笑)。

でも、華やかなトップにいることでそのおこぼれに預かろうとしたり利用しようとする人が集まってくるよりも、最初からアシストという役割を割り振られて走る方が自由を感じるというのもわかる気がするんですよね。前者が、走ることを手段に華やかな立場にいることが目的みたくなっているのに対し、後者だとアシストという名目を与えられて走ることに向かっていける、みたいな。

エースとアシストの違いは、「してもらう人」と「してあげる人」という違いでもある。でも、そんな風にきっぱり分けられるものでもなく、「してもらう人」から逃げて「してあげる人」に徹していたチカが、どうやっても恩返しできないくらいの大きなことをしてもらったというのがこの『サクリファイス』という小説なのだろうと思います。それは逃げてきたのに重荷を背負ってしまったというよりは、この思いを託される存在にまでチカが成長したということなんだろうなあ。実際、プロスポーツの世界で生きるって、ドロドロした欲望の中で生き抜くしたたかさと同時に、それに染まらない(染まりすぎない)純粋さが必要なんでしょうね。

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ヴァン・ショーをあなたに』読了。下町のフレンチ・レストラン<ビストロ・パ・マル>の周辺で繰り広げられるちょっとした謎と推理の短編集です。このシリーズ、好きなのですが、この本の最後を<ビストロ・パ・マル>の名物、ヴァン・ショーの秘密のエピソードで締めくくっている辺りから察するに、このシリーズはこれで一区切りということなのかな…。もっと読みたいです、近藤さん!

このシリーズの前作、『タルト・タタンの夢』の感想でも書いたけど、飲食店+ミステリということで、ついつい北森鴻さんの<香菜里屋>シリーズと比較してしまうのですが、完璧な<香菜里屋>の工藤さんに比べて<ビストロ・パ・マル>の三舟シェフにはダメなところもあって可愛いんですよね。特にこの本に収録されている『マドモワゼル・ブイヤベースにご用心』で、女性に告白された後のうろたえぶりったら(笑)!

自分用の覚書も兼ねて、収録されている7編の概要を書くと、こんな感じ。

 ◆錆びないスキレット
お客様の田上夫妻の家で使っているスキレットは、シーズニングして丁寧に扱っていてもすぐに錆びてしまう。三舟シェフが申し出て、そのスキレットを錆びないようにしっかりシーズニングしたら、飼い猫が逃げてしまった。

 ◆憂さばらしのピストゥ
三舟シェフとサブシェフの志村さんが昔一緒に働いていたという南野くんが、近所にフランス料理店を開いた。数ヵ月後にビストロ・パ・マルやってきたベジタリアンの女性客2人連れ、南野くんが出してくれるベジタリアン向けフランス料理にハマッているという。メニューを聞いた三舟シェフと志村さんは思わず顔を見合わせる。

 ◆ブランジェリーのメロンパン
ビストロ・パ・マルのオーナーの小倉さんが、近所にカフェスタイルの本格的ベーカリーを開く。店を任せられた斎木さんと中江さんはパン以外の料理に疎いので、三舟シェフがメニューの相談に乗る。一方、ビストロ・パ・マルのソムリエの金子さんは、出店予定の場所の裏にある昔ながらのパン屋のファンで、そちらの店がどうなってしまうのか心配。

 ◆マドモアゼル・ブイヤベースにご用心
ときどき一人で来店する女性客の新城さんは、毎回ブイヤベースを注文する。ある日、新城さんが珍しく男性と2人連れで来店したと思ったら、食べきれないのでブイヤベースを持ち帰りたいという。

 ◆氷姫
圭一はかき氷好きの杏子を10年前からずっと想っている。彼氏が傷害事件を起こして落ち込む杏子を支えているうちに一緒に暮らすようになるが、その元彼が冷凍庫に忘れられていた氷を圭一に届けると、杏子が家を出てしまう。

 ◆天空の泉
恋人に逃げられてフランスで行く当てなくさまよう江畑さんは、美味しいと聞いたトリュフオムレツの店に行き、ふとした偶然で日本人の三舟さんと食事することになる。恋人が『星の王子さま』を置いて家を出てしまったと話す彼女だが、三舟さんは彼女に思いがけない言葉をかける。

 ◆ヴァン・ショーをあなたに
フランスのユースホステルで、風邪を引いた貞晴に同室の三舟がお粥や味噌汁を作ってあげる。それをきっかけに仲良くなったスタッフのルウルウが、2人をミリアムおばあちゃんの屋台に連れて行く。ミリアムおばあちゃんの屋台はヴァン・ショーで有名なのだが、その年のヴァン・ショーはいつもの赤ワインではなく、白ワインで作られたものだった。

ちなみに、『タルト・タタンの夢』を読み終わったときから探している、<ビストロ・パ・マル>と<香菜里屋>の両シリーズ以外の「飲食店ミステリ」は、残念ながら一向に見つかっておりません。特定の飲食店ではなく晩餐会とかも含めれば、『料理人』や『料理長が多すぎる』などあるのですが、「飲食店ミステリ」と絞っちゃうと意外とないのかな。まあ、引き続きのんびりと探してみます。

あともう一つ、<ビストロ・パ・マル>と<香菜里屋>に共通するのは、謎解き面よりそれに込められた想いがよくて、謎解きだけだったら答えがわかってしまえばいいところ、お店の雰囲気や人々の思いがいいからまた読みたくなるんですよね。実在のお店の評価も、料理そのものだけじゃなく、雰囲気や従業員の人柄という要素が(少なくとも私は)影響大きいですけど、まさにそんな感じです。

▼『ヴァン・ショーをあなたに』のレビュー
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タルト・タタンの夢』読了。下町のフレンチ・レストラン<ビストロ・パ・マル>の中で起こるちょっとした謎と推理の短編集。北森鴻さんの香菜里屋シリーズを思いだすような設定ですが、パーフェクトすぎる香菜里屋の工藤に対して、パ・マルの三舟シェフの無愛想ぶりや、4人の従業員のやりとりがいいですね。料理に関する描写は香菜里屋シリーズの方が詳しくて食欲が刺激される一方、パ・マルはフレンチだけど人間味溢れるお店の雰囲気がよくて行ってみたくなります。

収録されている7編の概要は、こんな感じ。

 ◆タルト・タタンの夢
お店の常連の若い画廊オーナー西田さんが、劇団の男装女優と婚約。西田さんは彼女の手料理を食べた後に具合が悪くなってしまう。

 ◆ロニョン・ド・ヴォーの決意
偏食のひどい粕谷さんが来店するが、シェフは粕谷さん対策のメニューを用意して乗り切る。それに感動した粕谷さんの愛人が、ひどい料理を食べさせる奥さんから粕谷さんを奪いたいと決意する。

 ◆ガレット・デ・ロワの秘密
サブシェフの志村さんとシャンソン歌手の奥さんが出会ったのはフランス。フランスでは、ガレット・デ・ロワにフェーブを入れて、あたった人はその日の王様になれるという風習があるが、入れたフェーブが消えてしまった。

 ◆オッソ・イラティをめぐる不和
2日続けて来店した脇田さん、実は奥さんに逃げられてしまっていた。フランス旅行のおみやげであるジャムを他人にあげてしまっただけで家を出て行った奥さんの心中は。

 ◆理不尽な酔っ払い
同じ商店街の甘味屋店長・荻野さんは、高校時代にプロになれるかというほどの選手だったが、後輩の不祥事で甲子園に出られなかった。問題を起こしそうなヤツだったので荷物検査までしたのに、どうやって合宿に酒を持ち込んだのか。

 ◆ぬけがらのカスレ
エッセイストの寺門さんが、鵞鳥のコンフィで作ったカスレを所望。フランスで暮らしていた頃、彼氏に誕生日を1日間違えられたあげく、彼女にお金を借りてまで作った料理が、その金額に見合わない鵞鳥のコンフィで作ったカスレだった。

 ◆割り切れないチョコレート
険悪な雰囲気だった一組の男女、男は去り際にデザートのチョコレートに苦情を言う。彼は最近話題のチョコレート店のパティシエだった。もめていた女性は妹で、兄が忙しさにかまけて病気の母の見舞いにもいかないと嘆く。

でもホント、謎を解決するのは論理でできるかもしれないけど、問題を解決するのは理屈だけではダメで、おいしい料理がこわばった心をほぐしてくれるというのはありますよね。こうした飲食店ミステリー(というジャンルがあるのか)の醍醐味といったら、やはりそこ。謎が解けて終わりではなく、おいしい料理で謎解きの答えも広く受け止められるようにしてくれる。いや、エピソードの一つに、おいしくない料理を出すことが愛情というものもあるので、もっと奥深いか…。

思ったのですが、いろいろ探せば飲食店ミステリーってもっとあるのかな。せっかくなら日本食のものも欲しいですよね。話の展開上、カウンターがあるお店の方がいいのでお寿司屋さんとか、町の居酒屋の方が話を作りやすいか。面白そうなので、ちょっと探してみます。

▼『タルト・タタンの夢』のレビュー
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エデン』読了。『サクリファイス』の三年後、ツール・ド・フランスに参加している白石誓は、スポンサーを獲得するために、他チームの選手の優勝を手助けするよう頼まれる。酷ですけど、充分ありえる状況ですよね。先日、久しぶりにmotoGPみたら、最高峰クラスのエントリー台数の少なさにびっくりしてしまったのですが(リタイアしなきゃ、ほぼポイント獲得は確実って…)、選手権に参加するには資金が必要で、優勝候補の選手がいようが、スポンサーがうまくつかないと運営も成り立たなくなっちゃうし。

その他にドーピング疑惑の噂も流れて、せっかくのツールに不穏な空気が漂ってくるものの、その中で青い心を持ち続ける誓くんやその他の選手が気持ちいいですね。薬物の売人に声掛けられて動揺している誓くんの姿は、何とも可愛いです(笑)。

でも、違法な薬のようにダメってはっきりしていることは、選手にとって誘惑とはなれど、嫌だったら避ければいいし、手を染めるにしてもダメなことだとわかった上でするわけだから、まだ扱いやすいですよね。そうでなく、この小説の中の悲劇のように、罪とも言えないような些細なことが、積み重なって積み重なって至ってしまった場合って、もしやり直せたとしても、いったいどのようにやり直したらいいんだか…。

たぶん、スポーツに限らず、きれいごとだけではやっていけない汚さはどこにでもある。自分がそれに関わらざるを得ないこともある。でもそこで、汚さを避けて辞めてしまったら何も実現できないし、汚さに染まりきったらただの悪者になるだけ。その中にいながら如何にキレイな部分を持ち続けていけるかどうかが、勝負なんじゃないかと思ったりします。

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サクリファイス』読了。事故現場を描写したプロローグに始まる、自転車のロードレースを舞台にした選手のドラマ。この本はyoriさんの記事で知って予約してみた本なのですが、私はyoriさんとは逆に男の世界を感じてしまいました。

言葉で説明すればいいのに、語らないから誤解される。でも、大事なことって言葉にした途端に嘘っぽくなってしまうし、言ったってわからない奴にはわからない。でも、わかる奴には言わなくたってわかる。そんな男の在り様を見せつけられた感じ。直前に読んだのが、うるさいくらいに登場人物がしゃべりまくる海堂作品だっただけに、余計に美しく見えてしまった気もします(笑)。

一方で、yoriさんが「少年の佇まい」と書いてらっしゃるのもわかる気がしてて、自転車で駈けることに対するひたむきさなんかは、「男」というより「少年」的。石尾が得意の上り坂にさしかかると笑顔で走るところとか、主人公・誓の勝ち負けを超えた自由な走りを求めたがるところなどは、どろどろとしたレースの暗部に差し込む光のようで。厳しい勝負の世界にいながらも、純粋な走りの楽しさを感じられる彼らがまぶしいのです。

そんなまぶしい輝きを持っているくせに、自分を語らずにいるから、余計な誤解や嫉妬を呼ぶんですよね。まあ、語らないというのは傲慢な態度でもあるので、自業自得でもあるんだけど。でも、言葉みたいに嘘でも言えるようなものでは表現したくなくて、行動で示すって面もあるんだよなあ。そんな不器用な人でなければ、きっとこんな悲劇も起きなかったのに。

いや、これは悲劇なのか。悲劇なんて言っているようでは、彼の気持ちを理解していないのか。思いを託した人が受け取ってくれたというのは、彼にとってこの上ない願いが叶ったと言えるのかもしれません。

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