作家別:三崎亜記

2013年05月07日

『バスジャック』三崎亜記

バスジャック』読了。この本は三崎さんの初めての短編集になると思うのですが、ショートショート風の本当に短い作品もあったりして、三崎さんってこんな作品も書くんだと新鮮に読みました。

バスジャックがブームになって公的なやり方が定まっている「バスジャック」、住宅に謎のドアを設置させられる「二階扉をつけてください」など、非現実的な設定で読み手を惑わせるのはこの頃から。次の作品はどういう設定なんだろうと手探りで読んで行くのが楽しいんですよね。

なかでも「動物園」という作品は、『廃墟建築士』に収録された「図書館」を連想させる作品なのですが、私は「図書館」よりこの「動物園」のほうが好きです。訓練を積んだ者が動物園で存在しない動物を見せるという技を披露する物語なのですが、動物園の飼育係「野崎さん」によって主人公の人間臭さがちら見えする辺りなど、自己完結してしまっている感じの「図書館」の主人公より親近感が湧いたりして。

三崎さんって非現実な設定を論理で固めて「もっともらしさ」を作り上げていくところがあって、そうした想像力も面白いのですが、この短編集はそうした非現実の世界にも打ち勝つ、または非現実の世界だからこそ浮き彫りになる人の想いを描いているところもあって、それもよかったなあ。ただ、現実的にはこんなに純粋で強い想いを貫けるものではないようにも思ったけど(笑)。こんな不条理が小説の中でしかないように、その中で貫かれる正義や強い思いも現実的にはなかなか難しいものなのかもと思わせられました。

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2012年05月04日

『となり町戦争』三崎亜記

となり町戦争』読了。現代の恐ろしさをまざまざと感じる作品です。

主人公がいつもと変わらない生活を送っていると、町の広報に「となり町との戦争のお知らせ」が掲載される。何だかピンと来ないまま当日を迎えるが、取り立てて何も変わらないように見える。しばらくすると、町役場から封書が来て、偵察業務に任命され…というストーリー。

戦争が始まっても町はたいして変わらないし、偵察業務に従ずるに至っても主人公は何が戦争なのだかわかっていない。戦場になる場所への説明会を開いても、戦争自体に疑問を持つ者はほとんどいなくて、住民はいかに関わらずに済ませるか、家などが被害にあった場合補償してもらえるか、といったことばかりに関心がある。その一方で、広報に掲載される戦死者の数は日に日に増えている。

これって絵空事の話ではなく、例えばイラク戦争が始まったときに一般的なアメリカ人の生活が変わったかといえば、おそらくほとんど変わっていないでしょう。日本なんて、何かというとお金だけ出して危険なことには参加しない、でも立場としてはアメリカに寄ることでうまみを得たりしているわけだから、国自体がこの小説の戦場説明会の参加者みたいな行動をとっているようなものです。

となり町との戦争の目的が町や経済の活性化というのも、妙にリアル。実際の戦争も軍需産業が協力に後押ししていますもんね。となり町との戦争で実際に戦闘に立つのは、民間会社だったり雇われた兵士だったりするのですが、その辺も現実をうまく照らし出している。「となり町との戦争」という荒唐無稽にも思える設定を通じて、現代の戦争を描き出しているさまはさすが三崎さん。

原子力発電所も同じですよね。福島原発の事故が起きるまで、原発から離れた場所に住む人のほとんどが、そうした危険なものによってつくられた電気で暮らしているということに無自覚だった。ずっと前から危険性を理解して原発反対運動をやっていた人からしてみれば、私たちが今になって原発が危険だと騒いでいる姿は、鈍感な人間がやっと気づいたかという姿なんだろうと思います。

三崎さんは文庫版で1章加筆していて、そこでも無自覚の恐ろしさが更に描かれています。とある新入社員が仕事で納品したものが戦争に使われていたことを知る。自分の身の回りに戦争の影がなくても、この世のどこかで戦争が起こっている限り、そこから全く無関係でいることはありえない。

例えば、北朝鮮への輸出禁止品目を不正に輸出したというニュースを見たときなど、え?そんなものが輸出禁止なの?という普通の電化製品が禁止品目になっていたりしますよね。生活を豊かにするためのものを作っているはずなのに、それが戦争に使われている。極端な話、ロープ1本だって人は殺せるわけだから、ロープメーカーの人だって完全に殺人とは無関係ではない。もはや「私の職業は誰も傷付けない」なんていう職業はないわけです。

三崎さんは人間が根源的に持つ無自覚さ(実際、全てのことに関心を持つのは無理)を描いているわけですが、私はやっぱり、その限界を踏まえた上で意識して物事を見ようとしたいと思います。社会を自分の思惑通りに動かそうとする人たちにとっては、どうせ自分たちには何もできないんだからどうでもいいとしてしまう態度こそが、自分の思惑を進めやすい土壌になるでしょうからね。

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2012年02月09日

『廃墟建築士』三崎亜記

廃墟建築士』読了。三崎亜記さんの短編集です。三崎さんの作品は初めて読んだのですが、面白かった!突拍子もない設定が、ただの空想遊びに終わっていなくて、非現実を通して現実を考えさせられます。

例えば、この本のはじめに収録されている『七階闘争』。犯罪事件が建物の7階でたて続けに起こっていることから、市役所が建物の7階を撤廃しようと動き出す。移転を促された7階の住人には、素直に従う者もいれば、断固反対する人もいて、結束した反対者は闘争へと向かう。しかし世間の目は冷たく、闘争運動参加者は冷たい目で見られ…という話。

読み始めは、7階を撤去?何じゃそりゃ?と思うのですが、読み進むうちに「こんな風に全く罪の無いものを悪と結びつけて差別しているって、現実にもあるのかもな…」と思えてくる。荒唐無稽に思えるこの設定を、本当に荒唐無稽と笑える?同じような決めつけをしていない?と自分のことを振り返ってしまいます。

3編目の『図書館』もこれまたユニークな発想です。今「図書館」として地に留め置かれているものは、昔は野生の地が流れる「本を統べる者」という存在だった。その由来の影響は今も残っていて、夜になると野生の血を受け継いだ蔵書たちが、図書館の中を飛び回る。その本たちを調教して、まるで夜行動物の生態を見せる<動物園の夜間開館>のように、飛び回る本の生態を見せる<図書館の夜間開館>を実現させる女性調教師を主人公とした物語。

これ、一見すると本を擬人化している設定のようですが、登場人物の一人のつぶやきから、人を擬“本”化できる気もしてきて。もし私が図書館の本だったら、予約多数の人気本なのか、はたまた閉架に閉じ込められた本なのか、私の希望を言えば、ときどきでいいから長期間に渡って読んでもらえる本でありたいけどどうだろう…なんて想像が膨らんでいきます。

この、本が飛ぶという設定も、いろんな人の頭の中に本に書かれた情報が広がっていくことの比喩だと読み取ったら、棚の中に置かれたままにしておかないで、多くの人が読むことこそが本の「野生の血」に適ったことなんでしょうね。いやホント、閉架の本も眠らせておかないで活躍させないと!ですよね。

収録されているのは、上の2つに加えてもう2つ、計4編。ん?!と思う設定なのにぐいっと引き込まれて、読み応え十分です。三崎さんの本は、ぜひ他のも読んでみたいです。

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