東京図書館制覇!Blog版

東京23区の公立図書館を全て訪れたサイト「東京図書館制覇!」の管理人TakeniのBlogです。
こちらでは、読んだ本や東京散歩など、図書館以外のことも書いてます。

カテゴリ: 作家別:中島京子

FUTON』読了。中島京子さんのデビュー作にして、田山花袋の『蒲団』をモチーフにした作品なのですが、いやはやデビュー作からこんなに面白かったとは恐れ入りました。

主人公は田山花袋を研究しているアメリカ人学者のデイブ。日系の学生エミと付き合っているものの、エミは若い男へと走ってしまう。日本の大学から学会発表の依頼がきたのと前後して、エミがその男と一緒に日本へ旅行に行ったことを聞きつけたデイブは、エミを求めて日本へと旅立つというストーリー。

デイブとエミの関係が『蒲団』の時雄と芳子の関係を思わせるだけでなく、デイブが花袋研究として執筆してる小説『蒲団の打ち直し』がいいんです。『蒲団』を時雄の妻の視点から書き直しているのですが、赤裸々に綴られた心情部分ばかりが語られる(下手すりゃそこしか語られない)『蒲団』がこんなに面白い話だったのかと認識を改めてしまいます。日本にいるエミの曽祖父にからんだストーリーもそこに絡んで、何重もなしている構成も面白い。

これまでずっと『蒲団』の時雄は弟子に惚れたただの嫉妬深い陰気な男だとしか思っていませんでしたが(事実そうでもあるけれど)、『FUTON』を通じて読むと、新しいものを受け入れたいと思っているのに真の意味でそこには入れない男の葛藤とも読めるんです。時雄は妻のことを新しい文学や自由がわからないヤツとして軽視していて(『蒲団』では名前さえ出てこない)、芳子が弟子としてやってきたときには新しいことをいろいろ教えるわけです。だから、芳子が田中と恋仲になったときに、嫉妬に狂いながらも二人の理解者として援護せざるを得なくなる。真の意味で新しい発想・考えを理解しているわけではないのに、なまじわかっているふりをして旧いものを馬鹿にしてきたことが自分に返ってきてしまう物語として読むと、ただの嫉妬男の話だった『蒲団』が俄然面白くなります。

私のこの感想も、『FUTON』に描かれている幾層ものストーリーの一部を書いたにすぎなくて、本編の登場人物のこの人とこの人の関係は『蒲団』でのこの人とこの人の関係になぞらえられるなというのが多々あり、読めば読むほど味わいが出そう。これからも再読すること間違いなしです。

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小さいおうち』読了。これは参りました。私が今一番したいことはこの本を読んだ人と語ることです。

そうそう、中島さん自身が昨日twitterでつぶやいていましたが、この作品、映画化されるそうですね。私としては、ぜひぜひ時子奥様を深田恭子に演じて欲しい!この作品に山田洋二色がついて映画化されるのはちょっと私の希望とは違いますが、それでも深田恭子が出るなら許します(何の権限もありませんが 笑)。

ざっくりあらすじを説明すると、主人公・タキおばあちゃんが時子奥様のおうちに奉公に行っていた頃のことを書き記そうとする話です。優しい旦那様と恭一ぼっちゃんとの3人家族のところに、旦那様の部下の板倉さんが遊びに来たりする毎日を過ごすなか、家の外は日米開戦へと突入していく…。

ただ、この小説、戦前戦中の暮らしぶりを純真な女中の目線で語った作品みたいに言われることが多いですけど、それってちょっとずれていると思うんですよね。…とこの小説について語りたいのですが、ネタバレさせずにこの先を書くのは私には難しい。だから、ネタバレを読みたくない方はここでやめてください。



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イトウの恋』読了。私、ちょっと反省しました。何でもっと中島京子を早く読まなかったのか、最近自分は新しい作家の作品を開拓していくのを怠っているなあと。それくらい面白かったです。

実家の屋根裏部屋で見つけた江戸から明治への移行期の人物・イトウの手記に歴史的発見の予感を抱いた中学教師が、自分が顧問を務める郷土部の研究テーマにしようと調べはじめ、手記の著者の祖先と思われる女性と連絡を取ったことから始まる物語。驚きの展開みたいなのはなく、こうなるのかなという予想通りな展開でもあるのですが、不思議と「こうなっちゃうのかなあ、というか、こうなって欲しい」という気分になってきちゃう。

登場人物達の様子を上から超越するように書き読ませる感じではなく、登場人物達と一緒に感じられる構成もすごくうまいです。祖先の女性は、友達に「いいオトコとの出会いになるかもしれないから、ぜひ行ってこい」と背中を押されて中学教師に会いに行くんですけど、小説としてもその時点まで中学教師の風貌容姿に関する記述がないので、読者も一緒に期待と不安が持てるとか。そういう仕掛けはしっかりしてるけど、奇をてらうというか、仕掛けしすぎるようなことはないので、読後感もいいんです。

2つの恋が描かれているんですけど、恋の恥ずかしいところも、可愛らしいところも、笑える恥ずかしさや夢見る可愛らしさに誇張することなく、わりと淡々と描いているのも好きです。何というか、変な言い方ですけど、文章の読み心地がいい。気取っていなくて、ドタバタ風のユーモアを狙っているようなところでも何か品がある感じの文章で、私はまだこの1作しか読んだことないのに、「この作品が好き」ではなく「中島京子が好き」になってしまいました。

▼『イトウの恋』のレビュー
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