2012年05月19日
なかなか骨太な社会派の映画が公開されます。
『オレンジと太陽』
オススメです。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
児童移民。
子供を強制的に海外へ移送すること。
民主国家を誇る英国で約350年間もこんな非人道的なことが行われてきた。
その「負の遺産」を1人の女性の奮闘という形であぶり出す。
「私が誰なのか調べてほしい」。
夜半の街で、ソーシャルワーカーのマーガレット(エミリー・ワトソン)が見知らぬ女性から声をかけられる。
彼女は児童養護施設に入っていた4歳の時、船に乗せられ、オーストラリアへ送られたという。
ここから主人公の試練を伴う独自調査が始まる。
英豪両国を行き来し、大人になった被害者の支援と肉親探しに奔走。
同時にその実態を暴いていく。
1994年、マーガレットが自身の体験をまとめた著書『からのゆりかご 大英帝国の迷い子たち』を出版し、英豪の国民を震撼させた。
映画はそれを忠実に映画化したものだ。
児童移民の背景には、英国の植民地(後の英連邦諸国)に純潔の英国人を“移植”し、帝国の維持に貢献させる狙いがあったという。
その国策に身寄りのない無垢な子供たちが利用された。
後半、オーストラリアに渡った彼らの悲劇的な運命が浮き彫りにされる。
人権無視の蛮行。
政府の他、各種教団や慈善団体が関与していたのがやるせない。
監督は本作でデビューしたジム・ローチ。
名うての社会派ケン・ローチ監督の息子だ。
親と同様、ドキュメンタリー風味を添えて物語を引っ張っていく。
てっきり過去の忌まわしい出来事を告発・断罪するものと思いきや、そうではなかった。
肉親と再会できた人たちの喜びと戸惑い、叶わなかった人たちの無念さを如実に伝えていた。
つまりアイデンティティー(自己存在)を求める人間の素なる気持ちを映像に焼き付けた。
海外に運ばれた子供は総計約13万人。
ズシリと胸に響いた。
1時間46分。
★★★★
☆19日から大阪・梅田ガーデンシネマほかで公開
(日本経済新聞2012年5月18日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)
『オレンジと太陽』
オススメです。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
児童移民。
子供を強制的に海外へ移送すること。
民主国家を誇る英国で約350年間もこんな非人道的なことが行われてきた。
その「負の遺産」を1人の女性の奮闘という形であぶり出す。
「私が誰なのか調べてほしい」。
夜半の街で、ソーシャルワーカーのマーガレット(エミリー・ワトソン)が見知らぬ女性から声をかけられる。
彼女は児童養護施設に入っていた4歳の時、船に乗せられ、オーストラリアへ送られたという。
ここから主人公の試練を伴う独自調査が始まる。
英豪両国を行き来し、大人になった被害者の支援と肉親探しに奔走。
同時にその実態を暴いていく。
1994年、マーガレットが自身の体験をまとめた著書『からのゆりかご 大英帝国の迷い子たち』を出版し、英豪の国民を震撼させた。
映画はそれを忠実に映画化したものだ。
児童移民の背景には、英国の植民地(後の英連邦諸国)に純潔の英国人を“移植”し、帝国の維持に貢献させる狙いがあったという。
その国策に身寄りのない無垢な子供たちが利用された。
後半、オーストラリアに渡った彼らの悲劇的な運命が浮き彫りにされる。
人権無視の蛮行。
政府の他、各種教団や慈善団体が関与していたのがやるせない。
監督は本作でデビューしたジム・ローチ。
名うての社会派ケン・ローチ監督の息子だ。
親と同様、ドキュメンタリー風味を添えて物語を引っ張っていく。
てっきり過去の忌まわしい出来事を告発・断罪するものと思いきや、そうではなかった。
肉親と再会できた人たちの喜びと戸惑い、叶わなかった人たちの無念さを如実に伝えていた。
つまりアイデンティティー(自己存在)を求める人間の素なる気持ちを映像に焼き付けた。
海外に運ばれた子供は総計約13万人。
ズシリと胸に響いた。
1時間46分。
★★★★
☆19日から大阪・梅田ガーデンシネマほかで公開
(日本経済新聞2012年5月18日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)
2012年05月17日
大阪・中之島のリーガ・ロイヤルホテルの文化講座『「ケルト」への旅〜もうひとつのヨーロッパを求めて』の2回目(今月23日13:30〜15:00)は、フランスです。
『古代と現代の「ケルト」が宿る地〜ブルゴーニュとブルターニュ』
「ケルト」と言えば、アイルランドやスコットランドなど西ヨーロッパの“辺境”を思い浮かべますが、そのルーツは中央ヨーロッパにあります。
中でも、ワインの産地として知られるフランス中東部のブルゴーニュは、「ケルト」の関連スポットが集中しています。
女神セクアナが祀られるセーヌ川の水源、ウェルキンゲトリクス率いるガリア連合軍とカエサル指揮下のローマ軍が激突したアレシアの丘……。
古代ケルトに思いを馳せると、フランスのルーツがそこはかとなく浮き上がってきます。
片や北西部のブルターニュは、今でも「ケルト」が息づく地です。
バグパイプが“国民的楽器”として定着し、カルヴェールという独特なキリストの磔刑像が点在し、ケルト語の一種ブルトン語が話されていて……。
ブルターニュには、独特な風土が根づいています。
これまでのフランス観を一変させる内容を講座でお話します。
お気軽に聴きに来てください(^o^)v
2012年05月13日
2012年05月12日
きょうの午後、女優の八千草薫さんを目の前にして、インタビューしました。
ご主人の亡き谷口千吉監督(1912〜2007年)の生誕百年を記念した映画特集が19日〜6月8日、大阪・九条のシネ・ヌーヴォで開かれます。
そのプレイベントとして、本日、馬場町の大阪歴史博物館で八千草さんのトークショーが行われました。
ステージに姿を見せた八千草さんは小柄な方で、終始、笑みを絶やさず、タレント浜村淳さんの質問に答えてはりました。
谷口監督の伝奇ロマン『乱菊物語』(1956年)で八千草さんが初主演したのを機に、2人は結ばれました。
「大らかで愉快な人でした。私よりもずっとロマンチストで……」
「主人の映画では、『馬鹿と鋏』(65年)、『カモとネギ』(68年)などシャレたコメディーが好きです」
「フランス映画っぽいほのぼのとした雰囲気を出したタクシー運転手の物語『吹けよ春風』(53年)もいい作品だと思います」
ご主人の話になると、さらに顔が緩んで〜(^o^)v
トークショーのあと、別室で会見。
ぼくは一番前の席に座りました。
八千草さんまで1メートルの距離。
彼女の全身からそこはかとなくかもし出される穏やかで上品なムード、こちらまで気分がほっこりします。
言わずもがなですが、大阪出身で、母校がプール女学院。
「高校時代は戦時中で、阿倍野の向こうにあった軍需工場でせっせと何かの部品ばかり作っていました。勉強どころではなかったですよ」
81歳。
とてもそう見えません。
今秋に出演映画も控えています。
ほんま、お元気です。
旦那さんの影響で山歩きにはまり、今でも続けておられるようです。
自らCMに出てる「皇潤」のプラスに作用しているのでは?
「予防的に飲んでいますよ」
そう言って茶目っ気たっぷりに答えた。
いい年齢の取り方をしてはりますな〜(^o^)v
『レンタネコ』という日本映画が今日から公開されています。
(C)2012 レンタネコ製作委員会
「かもめ食堂」(2006年)、「めがね」、(07年)「トイレット」(10年)。
俗に言う“ゆる映画”を撮り続ける荻上直子監督の新作は、やはり癒しを主眼に置いた人間ドラマだった。
ネコを介して孤独な人を救済するという発想が面白い。
庭のある日本家屋で独り暮らしをするサヨコ(市川実日子)は多くのネコを飼っている。
いや、同居と言った方がいい。
とてもペットとは思えないから。
10匹以上はいる。
よほどのネコ好きなのはわかるが、その中から数匹をリヤカーに乗せ、「レンターネコ!」とアナウンスしながら、川べりを歩く。
この場面、唐突で笑わされた。
一定期間、ネコを貸すレンタル業。こんな仕事で食べていけるのか。
ぼくの疑問はその後、意外な本業を見せられ、解明できた。
ネコ貸し業は金儲けというより、慈善事業に近い。
上品な老婦人(草村礼子)、単身赴任中の中年男(光石研)、レンタカー営業所の女性スタッフ(山田真歩)、胡散臭い中学時代の同級生(田中圭)。
台詞の少ない穏やかな映像の中で、ネコを借りる人たちとのふれ合いが綴られる。
スローテンポは最後まで崩れない。
みな孤独感を抱き、何かしら温かさを求めている。
その理由を映画はやんわりと浮き彫りにしていく。
人生を達観したサヨコの生き方と全身から放たれる大らかな空気。
そして独特な世界観。
知らぬ間にその居心地の良さに浸っていくが、同時に現実離れした違和感を覚える。
まぁ、寓話なのだから、仕方がない。
ネコ嫌いな人は別として、後味は格別だ。
心が乾いた時にはうってつけ。
まさに清涼剤映画!?
ただ気がかりなのは、荻上監督のテイストが変わらないこと。
今回は動物という変化球を使ったが、マンネリ感は否めない。
次回作で華麗なる変身を期待したい。
1時間50分
★★★
☆5月12日(土)より、シネ・リーブル梅田/なんばパークスシネマ/MOVIX京都/シネ・リーブル神戸
(日本経済新聞2012年5月11日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)
(C)2012 レンタネコ製作委員会
「かもめ食堂」(2006年)、「めがね」、(07年)「トイレット」(10年)。
俗に言う“ゆる映画”を撮り続ける荻上直子監督の新作は、やはり癒しを主眼に置いた人間ドラマだった。
ネコを介して孤独な人を救済するという発想が面白い。
庭のある日本家屋で独り暮らしをするサヨコ(市川実日子)は多くのネコを飼っている。
いや、同居と言った方がいい。
とてもペットとは思えないから。
10匹以上はいる。
よほどのネコ好きなのはわかるが、その中から数匹をリヤカーに乗せ、「レンターネコ!」とアナウンスしながら、川べりを歩く。
この場面、唐突で笑わされた。
一定期間、ネコを貸すレンタル業。こんな仕事で食べていけるのか。
ぼくの疑問はその後、意外な本業を見せられ、解明できた。
ネコ貸し業は金儲けというより、慈善事業に近い。
上品な老婦人(草村礼子)、単身赴任中の中年男(光石研)、レンタカー営業所の女性スタッフ(山田真歩)、胡散臭い中学時代の同級生(田中圭)。
台詞の少ない穏やかな映像の中で、ネコを借りる人たちとのふれ合いが綴られる。
スローテンポは最後まで崩れない。
みな孤独感を抱き、何かしら温かさを求めている。
その理由を映画はやんわりと浮き彫りにしていく。
人生を達観したサヨコの生き方と全身から放たれる大らかな空気。
そして独特な世界観。
知らぬ間にその居心地の良さに浸っていくが、同時に現実離れした違和感を覚える。
まぁ、寓話なのだから、仕方がない。
ネコ嫌いな人は別として、後味は格別だ。
心が乾いた時にはうってつけ。
まさに清涼剤映画!?
ただ気がかりなのは、荻上監督のテイストが変わらないこと。
今回は動物という変化球を使ったが、マンネリ感は否めない。
次回作で華麗なる変身を期待したい。
1時間50分
★★★
☆5月12日(土)より、シネ・リーブル梅田/なんばパークスシネマ/MOVIX京都/シネ・リーブル神戸
(日本経済新聞2012年5月11日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)