朝、孤舟の工房へ入ると新作の竿や修理をしてすでに調子の確認を終えた竿を屋外で振っている。繰り返し何度も振る。エイジング、慣らしである。日程が許す限り数日間繰り返してから出荷する。
 新品の竿は8割ほどの完成度で、残り2割は使用者が釣りをする事でが完成される。 これは竿だけのことでは無い、楽器なども同じで、くり返し演奏することで楽器が音に馴染んで雑味のない綺麗な澄んだ音になる。竿も同じで、各部品が違う環境で育ち、個性の違うもの同士が組み合わされるわけで、新品はどうしても、ぎこちなさが残る。出荷前に何度も振る事でぎこちなさは一応取れるが、釣り場で何度も振り、魚を取り込むことでさらに馴染み、しなやかになりバネもより強くなる。しかし、良くなるばかりでは無く、欠点も出る。この時点で、火入れ調整すればその竿のほぼ完成状態になる。使用頻度などの条件によるが、竿は使い込むことで徐々に調子を上げる。そした頂点に達してさらに使用し続けると徐々にバネを失い、いずれ寿命が尽きる。そこまで使用すれば作者も作った甲斐がある。竿の出来が悪いものはいくら使用しても成長は愚か、悪くなるばかりである。良い竿がさらに成長するかはほぼ使用者次第で、名のある竿を数百本も持ち、使用せず眺めているだけのコレクターは作者に失礼でもある。もっとも、実用より眺めを重視した美しい竿もあるのでコレクションもまた竿の楽しみ方である。
 毎回同じ竿を使用するのは竿を疲労させる。使った竿は必ず休ませる。多少の狂いは休ませることで復元される。代替えの竿を持ち、自分の使用頻度などを考え、自分で使用出来るだけの竿を持つことが大事である。そして、竿を持つ最大の醍醐味は竿の成長を見ることである。
 私が釣りが出来なくなり、竿の制作も出来なくなって六年が過ぎ、愛竿や未使用の竿が、130本ほどあったがクラブ員などに譲り、半分程になって最近自分で使用していた竿を振って見て、未使用のものと比較してその違いに今更驚いた。私の竿は野釣りの40cm前後を釣る竿が主体なので、竿に優雅さなどの味が出しにくいのですが、自画自賛であるが十分しなやかでしっかりしたバネになっており興奮させられた。