平成22年(ミ)第12号 会社更生事件
更生会社 株式会社武富士

                      管財人選任についての意見書

東京地方裁判所第8民事部 御中                                                                          2010年  月  日

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                            更生債権者   ○ ○ ○ ○  
                            代理人弁護士  ○ ○ ○ ○
1 管財人解任の件
(1)債権者等の関係者の協力と信頼が得られないこと
 役員責任等査定決定を受けるおそれがあると認められる者は管財人に選任できない(会社更生法67条3項)。本件においては、管財人に小畑英一弁護士が選任されており、確かに、形式的には同条項に抵触しない。
 しかしながら、管財人が、債権者等の関係者の協力と信頼を得て更生手続を遂行する中心人物であることからすると、単に査定を受けるおそれがないということだけでは足りず、そのような協力と信頼を得て事業の再建を進めることができる人物であることが必要である(東京地裁会社更生実務研究会著「会社更生の実務」上巻305頁)。
 ところが、本件の管財人には、武富士から申立報酬を受領した、武富士の申立代理人その人である、小畑英一弁護士が選任されている。本件では、確かに武富士の経営陣から事業家管財人は選任されなかった。しかしながら、武富士と密接に関係し(少なくとも密接に関係していた)、武富士と利害関係を有する(少なくとも有していた)弁護士が、武富士からの影響力を完全に排除して公正に管財業務を遂行できるのか、おおいに疑問である。片や武富士と委任関係にある(少なくともあった)弁護士が、片や管財人として公正な業務を遂行できるのか、利益相反の問題は生じないのか、このような疑義ある手続では、武富士の経営陣が裏から会社更生を主導しているのではないか、との疑いを払拭できない。
 少なくとも、小畑英一管財人は、債権者等の関係者の協力と信頼を得て更生手続を遂行するに足る人物ではないことが明らかである。
(2)管財業務遂行上の問題
 管財人は、更生会社に存する一切の財産についてその価額を評定しなければならず(会社更生法83条)、一定の事項について裁判所に報告をしなければならない(会社更生法84条)。法83条の財産評定及び法84条の定める調査報告は、管財人の調査すべき項目の中で最重要なものといえ、更生手続きへの影響も多大なものである。そのため、管財人は、更生会社に対する調査権限を有し、調査の相手方を「更生会社の取締役、執行役、監査役、清算人及び使用人その他の従業員並びにこれらの者であった者」として、更生会社の経営に携わっていた者も含めすべてを調査の対象としている(会社更生法77条1項)。そして、グループ企業間で不適切な経理処理が行われている事例やグループ企業を通じて資産隠しが行われていることも少なくないとの実情から、管財人の調査の対象を更生会社に限らず、調査権の対象を更生会社の子会社や連結子会社にまで拡大している(会社更生法77条2項)。
 また、管財人は、更生会社財産のため詐害行為の否認(会社更生法86条1項)や偏頗行為となる特定の債権者に対する担保の供与等の否認(会社更生法86条の3)等の否認権行使の権限を有し、更生会社の取締役や監査役について違法性がある場合、その責任を追及するための役員責任等査定手続き(会社更生法100条等)や役員等の責任に基づく損害賠償請求権を保全するための当該役員等の財産に対する保全処分等の申立権限を有する(会社更生法第99条第1項)。
 しかしながら、小畑英一管財人は、前記したとおり更生会社との関係に大いに問題を有する者であるから、上記のような管財人の職務を適正かつ徹底して行うことができるとはとうてい考えられない。
(3)管財人の「実績」問題
 裁判所は、本件同様の大手貸金業者であり、多くの過払債権が存在していた、株式会社ロプロの会社更生の「実績」を評価して、小畑英一弁護士を本件の管財人に選任したと思われる(東京での本件債権者説明会において小畑英一弁護士はロプロの「実績」を強調していた)。
 しかしながら、ロプロの会社更生事件では、取締役や創業家の責任追及は一切なされず、弁済率はわずか3%に止まった。本件における過払債権者の大多数は、本件についてもロプロと同様の会社更生が遂行されてしまうのではないかとの危惧を抱いている。実際、本件債権者説明会でもそのような懸念が指摘されている。
(4)情報公開の問題
 小畑英一管財人は、更生債権者代理人からの平成22年12月2日付け「公開質問状」に関し、同月7日、「情報の偏在」をもたらす、情報は「適宜更生会社のホームページで開示して」いるなどとして、質問事項に対する回答をしなかった。
 しかしながら、更生会社のホームページの情報は限定的であるうえ長期間にわたり更新すらされていない。
 また、ロイターの同月9日付け報道によれば、同月15日に本件スポンサー選定の一次入札が実施される予定であり、関係者によると「買収価格は600~800億円程度になるのではないか」とのことであるが、これらが事実であるか、事実であるとして不当に廉価で買収されるおそれがあるかどうかに関わる情報等についても、小畑英一管財人は一切開示しない。
 このように情報を秘して更生手続を進めようとする小畑英一管財人に対し、更生債権者の不信は募るばかりである。
(5)通知の問題
 日本経済新聞の同月9日付け報道によれば、更生会社は、これから130万人の過払債権者に債権を届け出るように通知するとのことである。それでも全ての更生債権者に対し個別の郵便による通知がなされるわけではないとも同紙は伝えている。つまり、更生会社に過払金返還請求権を有するにもかかわらず、通知も取引履歴の開示も受けておらず、いまだ自らを債権者であると覚知していない過払債権者が膨大に存在するということである。
 ところが、管財人選任についての意見書の提出期限は同月28日と定められ、更生債権の届出期限は平成23年2月28日と定められている。小畑英一管財人は、一方で更生債権者への「通知」を遅らせ、他方で、上記のような事情で手続期限を過ぎてしまった更生債権者にどのように対処するのか明らかにせず、事態を放置したままである。
(6)経営陣・創業家に対する責任追及上の問題
 本件の特徴は、貸金業者の更生手続でありながら、金融機関の債権が相対的少額に止まり、更生債権の大多数を過払債権が占めることである。更生申立の直前に偏頗弁済がなされた可能性すらなしとしない。また、過払債権は、多重債務者が苦心惨憺して支払ってきた末に発生した債権であり、貴重な過払金は、多重債務からの脱出や生活再建などの原資として有効に使われなければならないはずのものである。小畑英一管財人は、その貴重な過払債権を切り捨て、いわば武富士のロンダリングを企図している。こうした悪質な会社更生は、不当な目的で申立がなされ、申立が誠実にされたものとはいえないから、そもそも手続が開始されるべきではないとの指摘すらされていたほどである。
 したがって、本件においては、徹底的に武富士経営陣や創業家に対する損害賠償請求などの責任追及がなされなければ、管財人のみならず、裁判所が社会的非難に晒されること必定である。
(7)小括
 よって、裁判所は、小畑英一弁護士を管財人から解任し、武富士と全く利害関係を有しない弁護士を新たな管財人に選任されたい。

2 関係人集会招集の件
 本件において、裁判所は、財産状況報告集会(会社更生法85条)を招集しないこととしたようであるが、武富士の会社更生手続は約200万人・約2兆円にも及ぶ過払債権の失権に関する重大な手続である。また、会社更生手続開始決定前に武富士が開いた「債権者説明会」は、資料・説明ともに極めて不十分なものであり、このままでは更生債権者(とくに過払債権者)の協力と信頼はとうてい得られない。
 よって、裁判所は、相当と認める場合として、関係人集会を招集し(会社更生法114条1項)、管財人の選任と更生会社の業務・財産管理に関する事項などにつき更生債権者らの意見を聴くこととされたい。
                                                             以 上