英国では伸びてるがな
日本のメディア業界の景気と言えば、暗い話しかありません(新聞業界は頑として紙媒体ビジネスの現状を認めたがりませんけど)。そんな中、出版業界には猛省を求められ、かつ、希望を持って欲しいネタが。

英国の出版業界の紙媒体ビジネスは、実は伸び続けているんです。微妙ではありますけど、それでも伸びは伸び。要は、やり方次第なんでは。

ガーディアンが報じています(2018年1月3日午後2時14分投稿)。

牽引したのは、アメリカ前大統領夫人のミシェル・オバマ氏の回想録。Becomingというタイトルなのだそうですが、これが2ヶ月で50万部近い売れ行きを記録。結果として、出版業界にとって4年連続の伸びを記録しました。

ニールセン・ブックスキャンの集計によると、英国の紙媒体市場は、売上で2.1%の伸び。部数では0.3%の伸び。1億9090万部の書籍が売れ、16億3000万ポンドの売上だったそうです。英国の書籍業界ニュースを扱っているブックセラー(Bookseller)によると、2017年の英国の雑誌の売り上げは3400万ポンドでしたが、部数は伸びたのだとか。なお、書籍の数は62万7000だったとの事です。

サイトよりグラフを引用してみます。

ガーディアンのグラフより引用

Booksellerによると、Becomingは770万ポンドの売上で、収益面では最も良かった書籍だったとの事。4週刊連続で売上1位を記録したほか、クリスマスでもトップだったとの事。もっとも、ノンフィクション市場の部数そのものでは小児科医のアダム・ケイ(Adam Kay)氏の回想録に及ばなかったそうです。また、ゲイル・ハニーマン(Gail Honeyman)氏の「エレノア・オリファントは本当に素晴らしい」(Eleanor Oliphant Is Completely Fine)という小説がベストセラー第1位でした。なお、ハニーマン氏のデビュー作だったそうです。

ブックセラーの編集者であるフィリップ・ジョーンズ(Philip Jones)氏に言わせると、このような成長は「業界の専門家にしたら、紙媒体の書籍を買う人はCDやDVD、アナログのレコードと同様に滅びの道を歩みつつあると考えるようだが、それには穴がある。かつてHMVの傘下にあったウォーターストーンズ(訳注:英国の大手書店チェーン)や、ブラックウェルズ傘下のダウントやフォイレスなどの小さな書店チェーンが成功し続けている事、および多くの独立系の書店の大多数が示している好業績は、顧客中心の小売を適切に行えば、一般大衆向けの商売はまだ上手く行くのだと示しているのだ」(“another glitch in the eye of those pundits who thought physical books would go the way of the CD, DVD or even vinyl. The turnaround at Waterstones – once owned by HMV of course – and the continuing success of the smaller chains such as Blackwell’s, Daunt and Foyles, and the large numbers of independent bookshops shows how the high street might yet be saved by proper customer-centric retailing.”)と分析しています。ジョーンズ氏によると、トランプ大統領がノンフィクション市場で大きなトレンドになっていたそうです。 マイケル・ウルフ氏のファイアとBecomingに挟まれる格好での売れ行き(つまり、第4位)だったのですって。

では、フィクションではどうだったのか。 ジョーンズ氏によると、「気持ちが昂ぶるフィクション」(“up-lit”)は「憂鬱な気分が広まりつつある中での反撃となった」(“the counterpoint to the wider gloom”)。それが、上記の「エレノア・オリファントは本当に素晴らしい」に代表されるそうです。

なお、上記のニールセンの数字は、電子書籍やオーディオ書籍は除外されているのだとか。ジョーンズ氏によると、「この2つの書籍も2018年は伸びていただろう」(“particularly the audiobook market, which is really on the charge”)と推測しています。

「皆様がニールセンの測定による紙媒体の書籍市場を考え、かつ、直接販売やバーゲン・セールス、もしくは激安スーパーなどの第二市場や、デジタル市場の事など数字が把握出来ていない市場も加味するならば、書籍は娯楽の難攻不落的な地位にある事が明らかだ」(“When you consider the Nielsen-measured print-book market alongside all those bits of the sector we do not have numbers for – including direct sales, sales though bargain bookstores or the discount supermarkets, the secondhand market, plus digital – it is pretty clear that the book is the unassailable leader of the entertainment pack,”)と、御本人は語っています。

著作権の代理人を務めるジョニー・ゲラー(Jonny Geller)氏は、Twitterで次のように感想を述べています。

「1つの業界や文化の輝かしい面に於いて、我々は自らの力以上の競争を強いられてきたが、善戦している。同時に、作家や作品に投資し続けねばならない。書籍の力を信じよう」(“We punch well above our weight as an industry and cultural light and must continue to invest in writers and writing. Believe in the power of books.”)

ゲラー氏は、ガーディアンの取材に対し、2018年のベストセラーの幅の広さに感動したと語っています。

「出版とは、英国最大の輸出品の1つである創造性の素晴らしいショーウィンドウだ。我々は、英国国内の作家の持つ力について過小評価をしがちだ。我が国に起源を持つ物語がテレビや映画の題材と成ったり、国外でベストセラーになっているのに」(“Publishing is a great shop window of one of this country’s greatest exports – creativity. We tend to underestimate the power of our writers internationally as more UK-originated material becomes TV and films and dominates bestseller lists abroad.)

そして「紙媒体の売上は、出版社の利益を下支えしている。だから、その売上を新たなる革新的な意見に耳を傾けた上で投資し、新たに発見した問題点を作家とで共有し、音声部門での今後の繁栄の為になって欲しい」(“Print sales underpin publishers’ profits, so let’s hope they use that to invest in new and innovative voices in 2019 – and share the newfound spoils with the writers in a flourishing audio sector.”)

如何でしたでしょうか。日本の出版社さんは、どれだけライターさんに還元しているのか、或いは、書籍を海外向けにプロモーションしているのかという話ですよね。