ブルームバーグの模索
「お客様は、何でウチの商品を利用してくださってるのか」というのはマーケティングの初歩の初歩ですが、こういう事をメディアの編集局員は案外やってません。そう、「何でニュースが読まれているのか」という問いかけを自らにしておらず、「書いたら誰かが読んでくれる」ぐらいにしか思ってない輩が多すぎる(そして、そういう手合いが一生懸命になって軽減税率適用を自己弁護する)。

そんな中、アメリカの通信社大手であるブルームバーグの取り組みが注目されましょう。BHIVEという社内プロジェクトを起ち上げ、ニュースを読みにアクセスする人の動機を模索しているのです。

journalism.co.ukが報じています(2019年1月2日付け)。

BHIVEは2017年に発足。デザイナーやエンジニア、プロダクト制作者やリサーチャー等が集い、同社のオーディエンス(視聴者)のニュース体験を改善し、デジタル・ソリューションの構築を行って来ました。部署を跨いだ組織になっているそうです。

「我々は日単位で配信されるニュースのニーズや、アクセスなさる人達のニュースに対する考え方がどうなっているかなどを、きっちりと把握したい」("We want to get a strong understanding of their practical news needs on a day-to-day basis and what their attitudes are towards the news,")と、ブルームバーグ・メディアのアンビカ・ナイガム(Ambika Nigam)氏は語っています。この方、モバイルアプリの最高責任者だとの事です。

「ユーザーの行動と、講読事業とを補完もしくは成長させていく上で、両者の交差点がどこにあるのかを理解するのは重要だ」("It's important to see where is the intersection between user behaviour and things that can complement or grow our subscription business.")

拡張現実や機械言語、仮想現実や音声を使った新たなる技術の導入も、このBHVEによって模索されています。異なるビジネスモデルやプラットフォームについても、より多くのオーディエンスを集める手立てになるのではないかと研究対象になっているそうです。

デザイン研究部門の最高責任者であるカレン・ジョンソン(Karen Johnson)氏によると、オーディエンスに対して決められた質問をしているそうです。それは、「発見疾走」('discovery sprints')と社内で呼ばれている、オーディエンスのニーズと行動に重点を置いたものだとの事です。

「相当なインタビューを重ねた上で、ユーザーに何らかの新しいものを提示出来る策として、テストをしていきたい。そうする事で、ユーザーの反応を学べるし、より深く習慣について質問出来るし、どんな風にしてニュースに反応できるかについても学べる」("We do our fair share of interviews, but we like to do user testing as a way to put something new in front of them so we can learn from how they respond, and ask them more deeply about their habits and how they are engaging with the news,")とジョンソン氏。

「世間の皆様が向かいつつある先はどこなのか、どのようにして我々のサイトを利用しているのか、どのぐらいサイトに滞在しているのかなどを示す定量的なデータは沢山ある。しかし、我々としては質的な研究を実践していきたい」("There's so much quantitative data on where people are going, how they are using our site and how long they are staying on the site, but we love to practice qualitative research,")と続けた上で、更にこう話しています。

「我々は『何故』を理解する必要がある。同時に、データ・セットの中で見失っているに違いない、より本質的な動機に執拗に働きかけていかねばならないのだ」("We need to be understanding the 'why', and hammering away at those more intrinsic motivations that might get lost in data sets.")。

なお、同社にはユーザー体験調査ラボというのがあり、BHIVEのインタビューを手助けしながら、編集部門や広告部門、それにデザイン部門のスタッフから構成されているラボの方で、ある種のプロダクトの好悪がどうなっているかを傾聴できるようにしています。

こうした研究により、ニュースのユーザーのプロフィールを開発出来たそうです。このプロファイルは、異なる利用者の特定の属性を与え、ブルームバーグ・メディアのオーディエンスのニーズについてBHIVEが問いかけ続けていく手助けとなっているそうです。

また、こうしたプロファイルから、1人のユーザーが速報をいの一番二知りたがる「ニュースを追跡する人」('News Chaser)なのか、ニュースを他の人とシェアしたがる「ニュースを繋ぐ人」('News Connector')、或いは世界で何が起きているのかを理解する俯瞰を求めている「意見を求める人」('Opinion Seeker')の3つに、ほぼ分けられるそうです。

「完全に重複しているし、互いを排除している訳では無い事は論を待たない。しかし、多くのユーザーは、自分達がニュースを見る上で何を優先させているかを示す眼を持っているのだ」("There's definitely overlap, and of course they are not mutually exclusive, but many of our users have a lens through which they primarily view the news,")とナイガム氏。

ちなみにBHIVEのチームは、制作部門や技術部門と一緒に歩んでいるだけでなく、編集スタッフとも初期の過程でコラボしています。

ユーザーのプロファイルに力を注ぐ事でチームに様々な着想が生まれ、報道の現場に効果的なアイディアがもたらされるようにしていきたいというのが、BHIVEの願いだそうです。

実際、「ニュースを追跡する人」のニーズがあると判断した事から、昨年には「ザ・ブレティン」(The Bulletin=速報)というサービスを開始しています。このサービスはモバイルユーザーを対象にしており、人工知能を使っており、ホーム・フィードから離脱することなく、その時点で発生している最も重要な出来事を表示するようになっています。

「今や、我々は講読事業の運営者である。それが最終目標だ。このリサーチの全てによって、ユーザーが弊社のプロダクトから最大限の価値を引き出され、我々が何を提示していかねばならないかを見つけ出す事を確実としている」("Now we are a subscription business, that is our north star. All this research ensures our users are getting the most value out of our product and we help them discover what we have to offer,")とナイガム氏は語っています。

ちなみに、今後の予定ですが、デザイン調査の課題設定をする上でミレニアルズ世代を加えていきたいそうです。若いオーディエンスに於ける独自のプロフェッショナルなニーズに着目し、フェイクニュースを指摘するソーシャル・メディア向けのサービスであるTicTocのベータ版のテストを行ったり、モバイルや、ソーシャル・メディアでのビデオ体験の改善に当たりたいとしています。

サービス開始の前に、まずマーケティング。しかも、入念にと言えましょうか。こういうのを日本の報道関係者は模範としていかねばなりませんね(ま、しないだろうけど)。