今回の新型ウィルスの大流行で、中国に製造拠点を持つメーカーの操業などに影響が出始めているのは皆様も御存知の通りかと。

「世界の工場」が機能不全に陥りかけている訳ですが、そこから恐ろしい影響があるぞと、あのニューヨーク・タイムズが警鐘を鳴らしています。

多くの医薬品や医療器具が今や中国で製造されており、その供給がストップすると他の病気の患者がヤバイ事になると言うのです。
2020年2月7日付けの記事です。

日本でもそうですが、アメリカでは現在インフルエンザのシーズン。咳き込んだり、熱がある患者さんで病院が溢れかえっているそうですが、受け入れる病院関係者にとって頭が痛いのが新型ウィルスという刺客です。

今の所、アメリカでは感染者が1ダースに留まっているものの、「2つのインフルエンザのパンデミックとなる可能性について話し合っている」(“We’re talking about the possibility of a double flu pandemic,”)と、ジョン・ホプキンズ・健康セキュリティセンターのエリック・トナー(Eric Toner)博士は語っています。

それもそれで怖い話ですが、医療関係者は重要な医療器具や医薬品の在庫を注意深く観察しているのだそうです。と言うのも、その多くが中国で製造されているからでして、既に人工呼吸器用のマスクが「危険なほど少なくなっている」(“critically low”)と、病院や医療機関向けに医薬品や医療器具などを供給しているプレミア社は指摘しています。

また、中国はペニシリン培養に必要な菌の食材や、風邪薬などの多くの薬剤に配合されているイブプロフェン、そしてアスピリンなどの製造・供給元となっています。これらの薬に日常的に頼るアメリカ人は数百万人になるそうです。

「インフルエンザやその他の病気のシーズンを迎える中、全ての病院はてんてこ舞いだ」(“All the hospitals are taxed with a large flu season and other bugs,”)と、ニューヨークやロングアイランドで23棟の病院を運営するノースウェル・ヘルスのチーフ・クォリティ・オフィサーを務めるマーク・ジャレット(Mark Jarrett)博士は語っています。風邪に似た症状を訴える患者さんが毎日約400人、救急室に来るのが現状だとした上で「皆がいっぱいいっぱいなんだ」(“Everybody is at maximum capacity,”)と続けています。

2月に入ってから、中国の新型ウィルス流行で疑心暗鬼になった人が殺到しており、2009年の豚インフルエンザや、2014年のエボラ出血熱の脅威が叫ばれていた頃に状況が似始めているそうです。

アメリカでも、先週になってトランプ政権が新型ウィルスに対処する為の公衆衛生緊急事態宣言を発令しています。しかし、米疾病対策センターの最高責任者を務めるロバート・レッドフィールド(Robert Redfield)博士は、記者会見の席上で今の所アメリカ人が感染する危険性は低いままだと答えています。武漢から戻って来たアメリカ人は、軍の基地に隔離されていますし、罹っている可能性がある人は自己隔離もしくは自宅待機を打診されているからです。

レッドフィールド博士は、新型ウィルスがアメリカに広まった場合に備えた、更なる措置が必要となるかもしれないと、当局が議論を活発化させている事も明らかにしています。緊急資金援助などの措置が必要ではないかとする意見に対して、アレックス・M・アザー2世(Alex M. Azar II)健康福祉担当官は、追加的な資金援助は現時点で必要が無いと考えていると答えています。

そうした中、脅威となりそうな事態に備え始める病院がアメリカ各地で出てきています。

中には、N95マスクと呼ばれる医療用のマスクを十分な数だけ揃えようと奔走している病院も出ています。このマスクが感染を防止するのに一番効果があるからだそうです。製造メーカーも、世界規模の需要、分けても一番欲しがっている中国の需要に応えようと苦闘していると、ニューヨーク・タイムズは指摘しています。

こうしたマスクの不足は、アメリカの医療システムが、いかに中国頼みだったかを浮き彫りにしたと、記事は続いています。実際、プレミア社は先週になって、契約を結んでいた台湾の製造メーカーから、アメリカ向けの出荷を停止すると通告を受けていますし、同社の戦略供給担当副社長のショーン・パウエル(Chaun Powell)氏によると、中国で製造されたマスクは現地での使用に回されており「船積みするだけのマスクが十分に無い」(“there’s not as much supply to ship,”)状況だと語っています。

アメリカの病院の発注も増加しており、2月の最初の5日間だけで、例年2月全体で発注される量を既に上回っていると、パウエル副社長。上記のジャレット博士も「他の医療機関と同様に、我々も可能な限りマスクを確保しようとしているところだ」(“We’re trying to get as many masks as we can, as is everybody else,”)と語っています。

アメリカ食品医薬局長官のスティーブン・ハーン(Stephen Hahn)博士は、中国の医薬品ならびに関連の工場からのサプライ・チェーンを注意深くモニタリングしていると、7日に語っています。今のところ、混乱は起きていないとの事です。

「我々の多くが、今回の中国での新型ウィルス流行が医薬品や医療器具などにもたらす影響を固唾を吞んで見守っている」(“Many of us are holding our breath to see the downstream effect on pharmaceuticals and other medical supplies because of this outbreak in China,”)とボストンの病院グループであるパートナーズ・ヘルスケアで緊急事態対応担当者を務めるポール・ビッディンガー(Paul Biddinger)博士は語っています。

トナー博士のような専門家は、供給が簡単に悪化すると指摘しています。特に被害を被るのが小さな病院。マスクやガウン、手術用の手袋などの基本的な道具の在庫が、そもそも少ないからだそうです。これまでにも注射器や薬剤の不足で苦しんできており、2017年のハリケーン「マリア」がプエルトリコの製薬工場の幾つかを破壊してしまったために、地元では生理食塩水が不足する事態となっていました。

トナー博士は、「こうした患者で溢れかえれば、病院は医薬品や危惧などをすぐさま使い果たすだろう」(“burn through their supplies very quickly if there are a lot of these patients,”)と警鐘を鳴らしています。

コロナウィルスNYT

記事よりチャートを引用させて頂きます。コモン・スピリット・ヘルスというカトリックの病院チェーンが発行した新型ウィルスと季節性ウィルスとの区別をする手立てについて書かれた告知だそうです。

ただし、悲観していない病院もあります。「我々が経験豊富な類の1つだよ」(“This is something we have a tremendous amount of experience with,”)と答えるのはユニバーサル・ヘルス・サービスという病院チェーンのチーフ・メディカル・オフィサーを務めるポール・ステファナッチ(Paul Stefanacci)博士。患者の増加を見越して、通常より10パーセント増しで、こうした医薬品などの注文を済ませたとの事です。

一方、医薬品購入企業のヴィジネット社で調達業務担当副社長を務めるデビッド・ギラン(David Gillan)氏は、サプライ・チェーン側として緊張している事を隠そうとしません。病院が必要以上に注文するという「予測されうる行動」(“anticipatory behavior,”)を起こしやしないかと懸念しているそうです。

公衆衛生部門の関係者は、中国で製造されてきた様々な医薬品や有効成分が、工場の閉鎖によって不足するのではないかと、事態を見守っています。幾つかの製薬メーカーは、操業を今週再開させたと通知しています。しかし、一時的な遅れや原材料の輸送の遅れなどが問題を引き起こすのではないかと、何人かの専門家が危惧しています。

中小規模の製薬メーカーの製造問題のコンサルティングを行っているジェームズ・ブルーノ(James Bruno)氏は、「多くの企業がパニックに陥ってるのは確かだ」(“A number of companies are panicking, for sure,”)と語っています。「替わりうるサプライヤーを確保出来ていない小さな製薬メーカーが、特にそうだ」(“Especially the smaller ones who don’t have the wherewithal to have backup suppliers.”)と続けています。

ジェネリック医薬品業界で構成されるアクセシブル医薬品協会の広報担当者は、加盟社が数年分の原材料を確保しており、今の所「製造に支障はない」(“redundancies built into the system.”)としています。

一方、生命倫理を研究するへースティングス・センターの上席アドバイザーで、中国の医薬品のサプライ・チェーンに詳しいローズマリー・ギブソン(Rosemary Gibson)氏は、複数の企業が中国からの船積みでトラブルに見舞われている事が判明していると指摘した上で「中国から輸出される医薬品などが来なくなった場合、アメリカの病院や医療制度は数ヶ月で機能不全に陥るだろう」(“If there were exports from China that were no longer coming to the U.S., our hospitals and our health systems would cease to function within a couple of months,”)と警鐘を鳴らしています。

なお、この方は「中国Rx:医薬品に於けるアメリカの中国への依存ぶりを暴露する」(China Rx: Exposing the Risks of America's Dependence on China for Medicine)という著書を出しています。折角なのでアマゾンから貼っておきます。




ちなみに、こうした中国からの供給不足による混乱は過去にも何度かあったそうです。2018年にはヴァルサルタンという高血圧治療薬が大量リコールされて、医療現場が往生しています。たった1つの工場で製造中に汚染物質が成分に入ってしまったからでした。

また、2016年には、中国の原料工場での化学爆発により、ピペラシリン-タゾバクタムと呼ばれる抗生物質が世界的に不足しました。この物質は、敗血症などで瀕死の患者に使われるものだそうです。

ちなみに、アメリカ食品医薬局では、中国に約20人の駐在員を置いて、製品検査に当たらせて来ましたが、今回の新型ウィルス流行を受け、アメリカに退避させたそうです。

「混乱が顕在化するのは時間の問題だ」(“It will be some matter of time before we understand what the disruptions are,”)と語るのは、米中経済・安全保障問題検討委員会のメンバーであるマイケル・ウェッセル(Michael Wessel)氏。委員会では、アメリカが中国の医薬品への依存を深めている事を研究なさってきたそうです。

一方、新型ウィルスの流行を抑えるべく、患者の検査の最新ガイダンスをスタッフに配ったり訓練に励む病院も出てきています。上記のコモンスピリット・ヘルス(全米に142棟の病院を運営しているのですって)やカトリック・ヘルス・イニシアティブなどがそうでして、患者やスタッフに対してインフルエンザと新型ウィルスの見分け方を指導しています。電子カルテでもスクリーニングに関する質問を追加するなどの措置を取っています。

コモンスピリットの感染防止担当副会長のロイ・ブーキディアン(Roy Boukidjian)氏は「今の所、我々の病院に影響は出ていない」(“It has not impacted our facilities at this time,”)と語っています。

なお、アメリカでは2014年にダラスで2人の看護師がエボラ出血熱の患者に対応中に感染してしまうと事例が発生しています。これを受けて、各病院が医療担当スタッフが伝染病に罹ってしまわないよう備えるべきであり、手術着や防護ツールを適切に着脱する術を学んだと、ジョージタウン大学のジュリー・フィッシャー(Julie Fischer)准教授は語ります。「医療担当者が訓練を受けておらず、病院もテストを怠った」(“Personnel were not trained, systems were not tested,”)とフィッシャー准教授は語り「そうした所で事故が起きていた」(“That’s where the breakdown happened.”)

それでなくても医療現場ではリスクが高いのに、中国で患者を治療していた医師が亡くなった事で危険度は増していると、ニューヨーク・タイムズは指摘しています。

同紙の取材に対し、備えは出来ていると、何人かの看護師は語っているそうです。「我々全員がエボラウィルスを乗り切ったのは、数年前に過ぎない」(“We all went through the Ebola virus a couple of years ago,”)とニュージャージーの医療労組の幹部を務めるバーバラ・ローゼン(Barbara Rosen)氏。「今回に関しては全てが入念に準備されていると思う」(“For this round, everything seems very prepared.”)と、自信を見せています。

これとは別の見方をする関係者もいます。全米看護師連合という、約15万5000人の看護師が加入している団体の執行役員を務めるボニー・カスティリオ(Bonnie Castillo)氏がその一人でして、備えが万全でないかもしれない病院があるとしています。

「基本となる人員配置だけでなく、不十分な計画や訓練しかできていない事が、我々の懸念だ」(“Our concern is that there is inadequate planning and training and also just basic staffing,”)と語るカスティリオ氏は看護師や患者を感染から守る医療器具が十分に入手出来るかどうかを危惧しているそうです。

アメリカでの新型ウィルスが出回っている状況が今なお不明な事もあり、公衆衛生担当者は、病院が今後どのような事態に直面するかが分からないとしています。政府では、感染した患者は特別な隔離ルームで治療せよとのガイドラインを策定していますが、そのような隔離ルームが足りなくなるだろうと複数の専門家が指摘しています。

また、新型ウィルスが原因となる重篤な呼吸器疾患の患者の治療を行うに当たり、病院によっては特別治療部門用のベッドや効果的な換気装置や人工呼吸用器が十分で無い事を知るだろうとの指摘があります。

「これがパンデミックとなったら、我々のリソースは大変薄いものとなるだろう」(“If it’s a pandemic, it’s going to stretch our resources very thin,”)とワシントン大学公衆衛生スクールでリサーチャーを務めるニコール・エレット(Nicole Errett)氏が語っていると、記事は結ばれています。

長くて怖い記事ですね。こうした懸念材料、そっくり日本の医療現場や、様々な病に苦しむ患者さんに当てはまるのでは?

喘息患者であるワタクシメは、メプチンエアーの供給状況が心配になって来ました。あれが無いと、まじでヤバイので。