How journalism will adapt in the age of AI（AIの時代をジャーナリズムは如何にして受け入れるか）
政府、弁護士、同僚、IT部門 — それらは我々や我々の原稿に対して何か酷い事をしようとしている。
これまでの21世紀は、その偏執症をさらに悪化させてきた。2006年、私が『エコノミスト』の編集者として最初に手がけた表紙の一つは「新聞を殺したのは誰か？」というタイトルだった。当時、インターネットは多くの大都市の新聞が依存していた求人広告の独占ビジネスモデルを破壊していた。
振り返ると、これは暗殺よりも自殺のケースだった。質の高い多くのメディアブランドは、「レガシーメディアは死んだ」というテクノロジーのレトリックや、コンテンツは無料であるべきだという考えに騙されてしまった。やがて彼らはクリックを追い求め、コストを削減し、徐々にビジネスをテックジャイアントに引き渡すという悪循環に陥ってしまった。
だが、最終的には常識が勝り、ジャーナリズムに対する課金を許し、レガシーメディアは回復を始めた。『ニューヨーク・タイムズ』は、2012年にマーク・トンプソン氏が就任したときには50万人のデジタル購読者しかいなかったが、現在では1000万人以上の有料顧客を抱えている。「コンテンツは無料だ」というセイレーンの声は、多くの優れた名前を岩場へと誘導したが、今や黙っている。『インフォメーション』や『パック』といった新たな挑戦者は、名称とは裏腹に『フリープレス』とともに、人々に遅かれ早かれ料金を支払わせる仕組みを作っている。
一方、質の高い報道がインターネットとソーシャルメディアと折り合いをつけつつある中、さらに大きな変化が訪れている。それが人工知能（AI）である。
AIは我々の業界のボンネットの下に潜り込むのは間違いない。弁護士、脚本家、会計士など他の知識労働者に挑戦しているように、我々にも挑戦してくるだろう。
■手がかり
この革命は具体的にどのように展開されるのだろうか？私の予測を行う前に、少しの個人的な謙虚さが必要だ。私が『エコノミスト』の編集者になったとき、10日前に設立された企業であるTwitterの存在すら知らなかった。しかし、9年後にブルームバーグに来たとき、Twitterは実質的に世界最大の新聞となっていた。したがって、確実性を売りにする編集者（この編集者も含めて）には注意が必要だ。
しかし、私はブルームバーグのニュースルームが、この革命がどのように進行するかの手がかりを探るための良い実験室であると考えている。その理由は部分的には、他のどこよりも多くのテクノロジー（初期のAIのバージョンを含む）を活用しているからである。我々は毎日5000本の記事を制作しており、そのうちの3分の1以上には何らかの形式の自動化が導入されている。また、我々のオーディエンスは、将来の要求の厳しいニュース消費者に近い。読者は、我々が書く内容に基づいて何百万ドルも取引を行う。そのため、正確性とバイアスの無さが彼らにとって重要であるが、時間も同様に重要である。我々の読者、視聴者、リスナーは、我々が時間を無駄にするのを嫌っており、見てきたように、時間の節約はAIが提供する重要な要素である。
AIが既に出来る事の2つの例を紹介する。
最初の例は、我々が発表した報道だ。イランから油が密輸され、船から船へと移送されている様子を示したものである。関与している人々は、摘発されないためにあらゆる手段を講じており、我々は衛星画像を使って船同士が並んでいるときの検出を行うアルゴリズムを構築した。2020年1月初頭から2024年10月4日までの566日間の晴天の日の中で、2006件のこのような疑わしい船同士の並びを見つけ出し、我々のジャーナリストが調査を行う事を可能とした。
AIはパターン認識が得意であり、大量の画像や文書、データの中からストーリーを語る事が可能だ。人間には余りにも大きすぎて不明瞭な情報の山を整理する役割を果たす。我々のデータジャーナリズム部門の責任者であるアマンダ・コックス氏は、大規模言語モデルに対する本人のお気に入りの比喩を「無限のインターン」と表現している。AIがもたらす結果を完全には信頼出来ない場合もあるが、人間のインターンと同様に、機械は毎日改善され続けている。2020年の幼児レベルの知能から、少なくとも特定のタスクに関しては、次のChatGPTのバージョンやその類似品に近い博士号レベルの知能にまで成長している。
ほとんどのジャーナリストは、イランの油密輸を明らかにするのに役立つAIを愛している。調査ジャーナリズムはニュースルームに対して売り込むのが難しくない。2つ目の例は少し難しい。過去1か月間、我々はブルームバーグ端末上の幾つかの長いストーリーに対してAI駆動の要約をテストし始めている。
そのソフトウェアは記事を読み取り、3つの箇条書きのポイントを生成する。クライアントはこれを好んでおり、どのストーリーが何についてのものであるかを迅速に把握出来る。一方で、ジャーナリストはより懐疑的である。リポーターたちは、人々が要約を読むだけで自分たちの記事を読まないのではないかと心配している。その問いに対する正直な答えはこうなろう：
はい、確かに読者はそうするかもしれませんが、実際に興味がないトピックの段落をスキミングするために時間を無駄にするよりは、その方が良いのでしょうか？
私にとっては明らかだ。これらの要約が正しく使われれば、読者を助け、編集者の時間を節約出来る。
さて、我々の実験室を見つめながら、AIの時代に何が起こると考えているか。ここでは8つの予測を示す。
■まず第一に、AIはジャーナリストの仕事を大きく変えるが、取って代わりはしないだろう簡単な例を見てみよう — 企業の業績発表の報道について。私がブルームバーグに最初に入社した頃、スピードチームと呼ばれる素早く記事を書くジャーナリストたちがいた。数秒でも最も近い競争相手より早く見出しを叩き出すのを専門としていた。 その後、自動化が登場した。企業のプレスリリースをほんの数秒でスキャンできるコンピュータが現れたｎおだ。人々は自分の仕事を心配した。だが、機械は人間を必要としていた。まず何を探すべきかを指示するためにだ。中国で販売されたiPhoneの数が、アップルの株価において実際の収入以上に重要かもしれない。そして、予期しない事態を見つけて解釈するためにも人間が必要である。 例えば、CEOの突然の辞任は重要であるかもしれないし、そうでないかもしれない。
業績を見るために雇用している人数はほぼ同じだが、対象とする企業の数やその発表に関する報道の深さは劇的に増加している。そして、私はこの仕事がより興味深くなったとも主張する。単に早くタイプするだけでなく、何が重要かを見極める必要があるからだ。
AIでも同様の事が起きる可能性がある — 我々が生成するコンテンツの量を増やせる。例えば、リソースが限られた局では、シリアでのアサド政権失脚についての説明記事を提供する時間が十分にないかもしれない。だが、現在のニュースストーリーを4つ、アルゴリズムに通す事でどうだろう？ 数秒で、ジャーナリストが作業可能な粗いドラフトの説明記事が得られる。
コンテンツの明らかな乗数効果の一つは、自動翻訳である — より多くの作品がより多くの読者に届き、世界的な大組織の多くのジャーナリストが自分の言語で執筆出来るようになる。
■第二に、速報ニュースは依然として非常に価値があるが、その価値が持続する時間は短くなりゆくばかりだ
ニュースの価値は低下する兆候を見せておらず、政治の変動が経済の変動と同様に重要視されている。ワシントン、パリ、北京で政策の変化を明らかにするたびに、通貨市場が反応して動くのが見える。だが重要なのは、このニュースとしての有効期間が短くなっているという点だ。大きな発表、たとえば雇用統計のようなものであれば、もはや数秒未満の単位で測られる事が多く、競争相手はしばしばヘッジファンドであり、彼らもまた独自のAIを使用して数値を迅速に分析している。予期しない出来事、たとえば買収やCEOの辞任に関するニュース記事については測定が難しいが、ブルームバーグに在籍していた頃、価格が動くまでの時間は数秒からミリ秒にまで急減しているという非科学的な推測は可能だ。
AIはこのプロセスをさらに加速させ、普遍化を図るだろう。著作権契約がどのように整理されるかに多くが依存するが、現れるニュースの多くがChatGPTのような機械に即座に取り込まれ、1つの市場以上を考慮に入れる可能性が高い。そして、それは「即時の一般知識」と呼ばれるものに追加されるだろう。これは誰にでも利用可能になるか、少なくとも今よりもはるかに広範な人々に利用可能になるだろう。
■第三に、報道には依然として途方もない価値がある
私がこれまでに述べた主張の大半に関する基本的なポイントの一つは、報道が必要だという事だ。AIによる要約は、その基となるストーリーの質に依存している。そして、ストーリーを得る行為に関しては、人間が依然として重要な役割を果たす。機械は、内閣大臣を説得して大臣が辞任したと知らせる事は出来ないし、CEOとランチをする事も不可能だ。オリジナルのコラムを書いたり、インタビュー対象者に放送中に何かを認めさせる事も抱きない。
重要なのは、ニュースルームには依然として現場での活動が必要であるという点だ。特に、インドネシアやインドのような新興国が西洋の自由モデルに従うとは限らない世界や、報道が制限されようとしている多くの国においては、人脈を知っている人々が必要となる。
■第四に、変化は記者よりも編集者にとってより大きくなる可能性が高い
殆どの編集業務を一連のスキルに分解してみると、まずはジャーナリストのチームを管理する事が挙げられる。報道現場には私のような人間が必要だという点には驚かないだろう。次に、ストーリーの発注があるが、ここでも主に人間のスキルであると考えている。ただし、ブルームバーグでは、ストーリーを書くのを考慮するようAIを活用しており（株価が急上昇したりソーシャルメディアで爆発について言及されている事を指摘するなど）、その点はすでに行われている。
だが、一度ストーリーが提出され、実際に画面上の言葉を変更するプロセスに入ると、AIツールがますます活用されるようになると考えている。草稿の再構成や書き直し、事実確認などがこれに該当する。ニューヨーカーのレベルの編集について話している訳ではないが、大部分のニュース報道はより定型的である。
例えば、サッカーの試合に関するスポーツ報道を考えてみてほしい。5年後、ある英国のジャーナリストがキングパワースタジアムでの試合に関する記事をロンドンの編集者に送るシーンを想像してみてほしい。数秒後、彼女とその編集者は編集されたバージョンを受け取る事になる。そこでは、スペルと執筆スタイルの両方がチェックされ、疑わしい主張にはクエリが付け加えられている（なぜ記者はリバプールが試合を支配していたと主張しているのに、レスターが実際には51%のボールポゼッションを持っていたのか？）。更に、写真やビデオセグメントが追加され、ゴールを決めたレスターの4人の選手へのリンクも設けられている。この時点で、特にサッカーを追いかける誰にとっても、私の例は多くの異なるレベルで信じられないものになっているかもしれない。だが、AIが編集者の仕事を記者の仕事よりも大きく変えると思われる理由を理解できるだろう。
■第五に、検索の世界は質問と回答に移行する
ChatGPTやPerplexityのような大規模な要約ツールが多くのストーリーを吸収する中で、それらは答えを構築するためにその情報を使用している。これは、グーグルに質問をした際、既に見て取れる。従来のように多くの他のストーリーへのリンクが続くのではなく、数文、時には段落に近い答えが得られる。ブルームバーグニュースのプロダクトチームを率いる同僚のクリス・コリンズ氏は、我々が知っている検索が消えてしまう可能性があると述べている。
これは、検索広告に依存するビジネスや、視聴者数をカウントするのが重要な人々にとって、非常に大きな影響を与えるだろう。現在、読者がリンクをクリックすると、パブリッシャーは広告主から数セントを受け取る場合がある。だが、検索エンジン（あるいはむしろ回答エンジン）からの答えが長くなるにつれ、そのクリックは止まってしまうだろう。
これが、持続可能なサブスクリプションビジネスを構築し、熱心な読者との長期的な関係に投資する事が真剣なニュース配信にとって非常に重要である別の理由である。また、著作権を整理するためのきっかけでもある。我々は、裁判所や立法者から、何が無料で使用出来るのか、何が出来ないのかについて、もっと明確さが必要であるのは明らかだ。
■第六に、ハルシケーションはテキストで解決する方が容易である
ジャーナリストとAIについて話すと、誰かがハルシケーションについて言及する可能性が高い。これは、機械がストーリーを作り上げたり、作り上げるように騙されるという考えである。AIに関しては、試行錯誤の過程が避けられないだろう。また、我々を騙す事で商業的または政治的優位を得ようとする人々は後を絶たない。私の感覚では、当面の危険は、完全に虚偽の出来事を作り出すのではなく、実際に起こった出来事を歪めたり、悪意を持って増幅させるためにAIが使用される事だろう。特に、偽のビデオやオーディオ画像が生成される事が主要な危険であると思われる。
この多くは、人間と機械の相互作用に関わる。数年前、私は自社の速報チームが地下鉄の銃撃事件にどのように対処したかを追っていた。彼らはソーシャルメディアから何か悪い事が起こったと示す促しを受けた。そして、電子的な対話が急速に増加するのが見えたが、信頼できる人間のソース、今回の場合は現場にいた目撃者が確認するまで、報道を控えていた。
対照的に、動画やオーディオは確認が非常に難しい。地下鉄の銃撃事件では、明らかに死んでいると思われる人の痛々しい写真がソーシャルメディアに現れた。だが、それは本物だったのか？ 作り上げられたものなのか？ 迅速にこの事実を確認するのは難しい。写真を地下鉄駅の写真と照合し、ピクセルが移動しているかどうかを調査する必要があるなど、確認作業は複雑になるかもしれない。恐らく、AIは騙されたオーディオやビデオを見つけ出すのを容易にするだろうが、今のところ私が目にした例のほとんどは、巧妙さが増した偽造品である。
ただし、これには注記がある。「フェイクニュース」という観点から言うと、長い間嘘を流布してきた政権は、単一の虚偽を主張するよりも、偽情報の雲の中で真実を隠す事に特化しつつあるのが注目される。かつてのように、たとえば『プラウダ』は単に嘘を述べ、そしてそれを繰り返していた。しかし今、クレムリンが好まない出来事（航空機の撃墜や戦闘の敗北など）が起こると、ロシアのボットの軍団は多様な可能性のある結果を生成する。主な目的は混乱を招く事にある。
■第七に、個別化がより現実のものとなる
これも私の直感である。個別化はデジタルジャーナリズムにおける聖杯であった。必要なニュースだけを受け取れるとしたら、皆さん自身の個人的な新聞になる状況を想像してほしい。現状これはやや不器用にしか実現されていない。多くの人々は、自分の詳細情報をニュース組織に渡すのを好まない — たとえそれが自分にとって利益になるように思われる場合でも、だ。そのため、一部の読者は提案をする際に不快感を感じる場合がある。彼らは意見のゲットーに入り込むのを心配しているし、興味がある事を知らなかったストーリーに出会うというセレンディピティの要素を欠いている。これは、古いスタイルの書店を訪れ、興味深い小説を見つける事と、アマゾンからの提案を受ける事の違いに似ている。
AIはこのパズルを解決し始めるだろう。アルゴリズムは、皆さんが興味がある可能性がある事を見極めるのが得意であり、人々が自分自身では見えないパターンを特定する能力がある。無限のインターンは、少々ランダムな「あなたのためのニュース」ボックスよりも、よりスムーズに関連付けを行なえるし、それによって情報過多にもならず、他の人々が話題にしている事を見逃したりもしない。
コンテンツの予測的な個別化には暗い側面もある。我々が園芸コースに興味を持つかもしれないと予測する同じアルゴリズムが、恋人に振られたばかりのティーンエイジャーを自殺に関するビデオに導く事もある。
現時点で、ソーシャルメディア企業は、自分のネットワーク上のコンテンツに関して、私のような編集者が責任を負うのと同じようには責任を負わない。アメリカの悪名高い「セクション230」のような規則のおかげで、テックジャイアントはメディア企業よりも電話会社に近い扱いを受けている。彼らは配線については責任があるが、その配線を通じて伝えられる内容については責任を持たない。
その議論はすでにかなり薄っぺらであり、AIがさらに強力になるにつれ、傾向に拍車がかかるものと予想している。数十年にわたり、タバコ会社は、彼らの製品が人々を殺すのではなく、喫煙は個人の選択の問題であるという主張の背後に隠れていた。だが、そうした主張は最終的には崩れ去ったと思う。テックジャイアントも同様の戦いに敗れるだろう。特に子供を持つ者であれば、製品の中毒性について話せるからだ。これが私の第八の、そして最後の予測につながる。
■規制が迫る
どの国の政治家にとっても、AIは単にあまりにも複雑で、強力で、侵入的であり、（アメリカ以外に住んでいる場合）余りにもアメリカ的な存在となるため、放置しておくわけにはいかなくなるだろう。1990年代、アメリカの政治家たちは、若いインターネット企業がイノベーションを進められるようにするために規制を緩和したいと考えていた。だが今では、アマゾン、マイクロソフト、フェースブックのような企業が誰からも保護される必要があるとは誰も考えていない。むしろ逆である。企業は法律を遵守するだけではなく、特定の企業が社会に貢献していると見なされる限り、有限責任といった特権を与えられる事に社会は満足している。様々な企業や業界全体が社会からのフランチャイズを失う可能性もあり、イノベーターとしての地位から「大富裕の悪党」（セオドア・ルーズベルトがかつて強盗貴族を指して呼んだ）へと移行する事もある。
現在、テックジャイアントでそれが起こっている。アメリカでは、政治が複雑であり、アメリカの立法者たちはテックジャイアントが好きでなくても、引き続き彼らを米国が経済的に中国に先んじる理由の一つと見なしている。ブリュッセルでは、そのような気遣いは少なくなるだろう、特にヨーロッパの政治家たちがAIの遅れを自覚すると、ますますそうなる。あるビジネスマンは私に、「アメリカは革新し、中国は模倣し、欧州は規制する」と語った。
これが私の広範な予測である。再度言及するが、私は再び、ちょうど10日前にTwitterが設立された事に完全に気づかなかったかもしれない。だが、こうした8つのやや教育を受けた推測が我々の世界、そして1987年以来私を雇用し続けている職人技にどのような意味を持つのだろうか？バランスを見る限り、我々はある程度の偏執的楽観主義を持つ事が許されると思う。
偏執病である。なぜなら、偽コンテンツが氾濫する世界、ジャーナリズムが干渉する政治家と技術スーパーパワーの間に挟まれる世界、多くのニュースルームの人々が機械によって編集作業が行われる事により職を失う世界が容易に想像出来るからだ。最悪の場合、中国やロシアのような場所では、政府がAIを利用して独立したジャーナリズムを更に妨害する可能性がある 情報源を追跡し、我々の活動を検閲し、自らの偽ニュースの巧妙な網を繰り広げる事が、その目的である。
しかし、いつか楽観主義が顔を出す時が来る。イランの船についてのストーリーに戻ろう。こうした新しい技術は、我々に更に多くのパターンを認識し、権力者に対して説明責任を求める手段を提供してくれるだろう。過去には、ある国全体が手が届かない存在に思えた。しかし今、政治家はどこかで常に動画撮影されている。しばしば愚かな行動をしていることもある。歴史家のティモシー・スナイダー氏は言った。「どんなに暗い悪でも、必ず嘲笑の小さな灯がある隅が存在する」
■より良い準備
私は、今回のテクノロジーに対する当業界の準備が整っていると楽観的である。編集者やパブリッシャーは、インターネットやソーシャルメディアに対してより警戒心を持ってAIに臨んでおり、自らのコンテンツを手放す意欲が低いため、質への移行はより迅速になるだろう。
「今回」と言うのは、我々が技術の影響を受けた最初のジャーナリスト世代だと想像する過ちをしばしば犯しているからである。実際、今世紀に起こってきたこと（そして再び起ころうとしていること）は、単に新しい技術が混乱と激変の時代をもたらし、その後またある種の常識が返ってくるという古い物語が語り直されているに過ぎない。
19世紀初頭、スチームプレスの登場により、誰に対しても何でも言えるパンフレットやスキャンダルシートの大量印刷が可能となった。ペニープレスの巨人は『ニューヨーク・サン』であり、これが急速に地球上で最も売れている新聞となった。その最も有名な調査シリーズの一つは、大きいが奇妙に見つけにくい望遠鏡の助けを借りて、月には半人間・半コウモリの生物を含む素晴らしい動物園のような生物が住んでいると主張した。
だが、徐々に事態は整理されていった。ニューヨーカーは、自身に役立つニュース、つまり現実の世界について教えてくれるニュースに対してお金を払うのを好んだ。新興の消費財企業も、実際に真実なストーリーの隣で自らの商品を宣伝することを好んだ。新しい媒体が登場した。『エコノミスト』は1843年に設立され、『ニューヨーク・タイムズ』とロイターは1851年に登場し、『ファイナンシャル・タイムズ』は1888年、『ウォールストリート・ジャーナル』は1889年に創刊された。質への移行が起こった。
我々がオリジナルの報道、権力者が我々に公表してほしくないストーリーや、世界について新しいことを教えてくれるストーリーの執筆に注力し、恐れや偏見なくそれを行う限り、我々は上手くやれるだろう。
- John Micklethwait氏は『エコノミスト』の元編集長であり、現在はブルームバーグニュースの編集長である。
