2009年12月21日
♯からかご大名
新田次郎久しぶりの新田次郎。やは新田次郎は読み易いし、内容も深いし、私にはとても読み応えのある小説家だ。
さてこの本は、先日ブックオフで発見した他見慣れないタイトルの短編集だ。こういう本は希少価値がある。
「からかご大名」…ある大名行列の前を幼い娘が横切った。その娘を斬首にすべきか、町民たちやその地を治める代官の助命嘆願を容れるべきか。それを大目にみようとした側近を専横だと大名は幼子を許さないと怒りのポーズの拳を上げる。しかし一旦振り上げたその拳を八方傷つかずに下ろさせることはできなかった。
★名誉(プライド)の世界である男社会では、日常的にこういうことがある。こんなつまらないことで多くの有為の人材が潰されることを忘れまい。
「元寇秘話」…鎌倉時代の蒙古襲来時、それに立ち向かう福岡の海賊たちの活躍を描いたもの。
★よく知られる元寇の役の秘話。歴史にはこうした名もなき庶民たちの活躍が忘れ去られる。事実、この時鎌倉幕府は、物心ともに蒙古襲来の最前線となる地元に対して何ら有効な対策を講ずることができなかった。女子供を蒙古から守るため、必死に戦った庶民たちの姿は感動的だ。
「弾丸よけ竹束之介」…武田信玄がある城を攻撃中、城かたの新兵器・鉄砲に悩まされていた。竹束を使ってその防御策を考案した武将の話。
★考案した当事者は本来小物であったため、信玄から直接褒賞を得ることはない筈だったが、その小物を使う武将は自分ではないと部下を信玄に引き合わせた。あの立身出世の時代、部下を取り立ててもらうなどできることではない。またそれをよく分かっている信玄。ここら辺が信玄最強軍団たる所以か。
「仏桑華」…種子島に初めて鉄砲が持ち込まれた時の話。ポルトガルの商人が持ち込んだ鉄砲をみた領主は島の刀鍛冶にその製法を突き止めるよう命ずる。苦心惨憺の末、その製法を見つけ出すも、その図面はいち早く大阪の商人に知られてしまう。
★製法をみつけるように命じた領主ができた人だ。どんなに考えても製法が分からず悩むも、ついにはその責任をとって自死を考える刀鍛冶に焦るなと論し、また製法かみつかり独自に製作することができた時も大阪の商人にその製法を教えてやれという。それは製法を島の秘密にしておけば、島の平和が乱されるからだという。どこの世界も長の一念だ。
「首様」…三宅島に伝わる伝説の由来の話。
「異人二捨一人」…文久三年、御蔵島で遭難したアメリカの商船の救出をめぐる話。
「巴旦島漂流記」…寛永年間、台湾に近い島に漂着した尾張の船乗りたちが、日本に帰り着くまでの苦労を追った話。
★これは面白い話だった。風をたよりに船に乗る時代に、漂着した地から日本に帰るなどまず不可能な筈が、決して諦めず、地元の原住民から囚われている身でありながら、船を作り、団結を図りながら全員の帰郷を果たそうとする。こうしたギリギリのところでそれぞれ本性が出る。それらをまとめ希望を与えゆくリーダーは乱世であるほど必要だ。
「絵島の日記」…六代将軍家宣の大奥の一人、絵島が内部抗争の果てに遠流になる。絵島は最後まで矜持を捨てず冤罪である罪を認め赦免を乞わなかった。それがため二十八年間許されることなく、没した。
「駒ヶ岳開山」…駒ケ岳初登山に成功し開山者として崇められる若者たちの悲哀を描いた話。
「諏訪二の丸騒動」…諏訪藩の家老家の政争にまつわる話。
