評価の定まっていない現代の写真、写真家、写真集について 最新の情報を提供していくインターネットマガジン
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今年で6度目を迎えるPhotobook Festivalがドイツのカッセルで開催され、その中で優秀な写真集を決定するPhotobook Award 2013に日本人アーティスト、山脇敏次氏の私家版写真集『Dual 1』と『Dual 2』がノミネートされ、投票の結果第2位を受賞しました。1位を獲得したハンガリー・ブダペスト生まれの写真家Carlos Spottorno氏の写真集『The Pigs』とはわずかに一票差という僅差でした。

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↑『Dual 1』Toshithugu Yamawaki

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↑『Dual 2』Toshithugu Yamawaki

山脇敏次は1956年東京生まれ。油絵、ドローイング、デザイン、写真などを独学で学び、パリ、ニューヨーク、ロサンジェルス、シドニー等で制作活動を行う。その後出版社勤務を経て、自身のスタジオ事務所”studio a la page/スタジオアラパージュ”を設立。アートディレクターとして活動した経験も併せ持つ。50代になった頃から自身の作家活動に専念し、写真による作品を発表し始め、2010年に新宿ニコンサロン(東京)で開催した個展『Fishes in the pond』では、遊泳する魚の無時間性、有限の中の無限性を写真によって表現し、2011年にはインスタイル・フォトグラフィー・センター(東京)で写真展と同名写真集『Dimension of Vision』を発表した。3部構成による様々な要素が含み込まれた混沌としたイメージの連なり、「3・11」を契機とする思考の転換を経て、自らの"視覚の立脚点"を探り当てようと試みたこの写真群は、写真評論家・飯沢耕太郎氏に”教養のある写真”と言わしめた。そして2012年にはオールハンドメイドによる私家版『THE LOST AND FIND』を発表し、500カットに及ぶ膨大なイメージを写真集という一つの作品に昇華させた。

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「DUAL」シリーズは2013年に刊行された山脇氏の第3作目にあたる写真集である。前作に引き続き、編集、印刷、製本まで全行程を彼自身が手がけたオールハンドメイドの私家版、限定100部(現在は第2版100部限定)である。実はこの写真集には鑑賞者の五感を刺激する仕掛けが随所に散りばめられている。 表紙は意図的に皺を加えたものに白い塗料を表面に塗布している。表紙に顔を近づけると塗料の荒っぽい匂いがし、まずは鑑賞者の嗅覚が十分に刺激される。次にページを繰る音が聴覚を、紙のざらついた質感が触覚を通して手に伝わってくる。なぜなら紙は福井県産の特殊な和紙を使用しているからである。

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次に視覚を試してみよう。山脇氏の写真には独自の好みによって調整された色味とシュルレアリスムでいうデペイズマン的手法によって作品自体を構成しているのが特徴である。日常的な事象から、我々がよく目にしているはずなのに眼球が認識できない、つまりカメラという機構だからこそ捉えられた"日常の中のミクロコスモス"を抽出することで、いわゆる「なんだかよくわからないもの」が渾然一体となって観る物の思考をシャッフリングさせる。何の脈絡もない写真がページを通過していく様は、まさしくアンドレ・ブルトンが詩作で多様したオートマティスム(自動記述)に類似している。事実山脇氏の編集工程は山積みされた膨大な写真の中から直観とインスピレーションによって次々とその組み合わせを構築し、わずか1日で纏め上げ、その後手直しすることは一切ないという。

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こうして見開きで左右に配置された多量の写真群は、まるで日々消費されるイメージの洪水の直中にいるかのようだ。この本は時に具象的であり、時に抽象的でもあり、視覚を通して鑑賞者にいくつもの考えや、解釈、イマジネーションの扉を開く。ミクロとマクロの類似性、カラーとモノクロームの対照性、有機的なものと無機的なものの対比性。膨大なイメージは左から右へとリズムよく断片を伝え、現実と非現実を行ったり来たりしながらある一定のリズムを保っている。そのリズムはさながら音楽のようだ。アンセル・アダムスは自身の写真技術について「ネガは楽譜であり、プリントは演奏である」という言葉を残している。アダムスの写真に見られるモノクロームの豊かで美しい諧調が音楽でいう交響曲であるならば、山脇氏のそれはまるで弦楽器とピアノの二重奏(dual)のようだ。彼の奏でる音楽は流麗なアンサンブルとなって我々を決して答えの出ない場所に連れ去っていく。




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