2020年03月27日

「指先で世界を見る」ライナーノーツ

らんぴです!
作品のクリア後特典のあとがきに「ブログに長文あとがき載せるから見に来てね」と書いてしまったので、連投です。



例によってネタバレがないわけじゃないけどさほど影響はないので、未プレイの方、特にプレイする気のない方も読むだけ読んでってください(そしてプレイして!!)

目次
1.はじめに
2.制作のきっかけ(長い)
3.制作と情勢
4.作品解説
 4ー1.噂に登場する三人の人物
 4-2.各章の解説
5.開発話(背景、立ち絵、サウンド)
6.小ネタばらし

⒈はじめに


本作は女子テニス部のエースにまつわる噂などを、学校内の生徒5人の視点から描いた物語です。しかしゲーム内のあとがきにも書きましたが、実体はインターネット上の誹謗中傷を学校という環境に置き換えた作品です。ここで補足しますと、学校の生徒がインターネット上で同じ学校の生徒を中傷しているのでもありません。

本題に入りますとこの作品は、「推しアイドルを中傷されたヲタクの怒り」から生まれた作品です。

以下しばらくアイドルヲタクの戯言エピソードが長々続きますので、飛ばしたい方は上の目次で3をポチッとしてください笑


2.制作のきっかけ


唐突でしたが、作者は女性アイドルのヲタクです。

私は長らく、とあるアイドルプロジェクト(複数のグループが所属している母体集団)のファンをしていました。実名は伏せますが、ファンの方がこの記事を読んだらどのグループのことか察しがつくくらい結構名のある、歴史の長い老舗集団です。

私はその中の数人、数グループを推していましたが、そのうちの一人がa(作中のA)です。
aは少々変わった経緯を辿っていました。一度病気療養のためグループを卒業したあと、同じプロジェクト内の別のグループに加入したのです。一度活動を休止したメンバーが復帰すること、ましてや別のグループに入り直すのはこのプロジェクト内では珍しいこと。
歴史の長いアイドルのファンには、こういった珍しい事例を嫌う、不審に思う人が一定数存在します。

(ちなみにアイドルファンには、プロジェクト全体を推しているけど全てのグループ、メンバーが好きというわけではないタイプもいることをお見知り置きください。)

そしてaが別グループに再加入する少し前、プロジェクト全体にも異例の事態が起こっていました。
aが元いたグループの活動規模が大幅縮小され、メンバーが他グループにメイン活動を移籍になったのです。そしてaの元後輩メンバーb(作中のB)が別グループに移籍しました。その数ヶ月後、療養から復活したaが、bの後輩として同じグループに加入したのです。

二人がもといたグループが半壊状態になったことで、ファンの多くが気がたっていました。なぜaはもといたグループじゃなく別のグループになったのか(半壊したからでしょうが)、もといたグループでは先輩だった人が後輩として入ってくるなんてbは気まずいんじゃないか、そもそもaが活動休止したのはaに問題があったからじゃないか、と憶測が飛び交いました。

二人がまた同じグループで活動し始め、時を同じくしてbの激ヤセが話題になります。
それから1年後です。bがまだ若すぎる年齢で、引退を発表しました。

「aが入ってきてbは激ヤセした」「aがきてからbの笑顔が減った」そういったことを結びつけて、bの引退はaのせいだという風潮が広がってきました。いわゆるアンチです。
そしてアンチはaを蔑称で呼び、SNS上で叩くようになりました。作中では仮で「黒渦」と書いています。
「黒渦(仮称)」は元々掲示板(2ch)で、からかい交じりに使われてた蔑称だと私は記憶しています。周りよりちょっとポジションに恵まれたメンバーを「コネがある」などと言って作り話で楽しむのはよくあることです。

bの引退を知らされたファンが掲示板での作り話を目にした、または思い出したことで「確かにaの経緯って普通じゃない、おかしい」「もしかしてあの噂って本当じゃないのか……?」と、掲示板を飛び出してツイッター上で囁かれだしたのです。

今ではツイッターでaの名前を検索すれば、「黒渦」という蔑称は当たり前のように見かけるようになりました。公式YouTubeのコメント欄でも必ず書かれています。それを目にするたびに、私は怒りが溢れ出してしょうがなかった。だって「bがやつれたのはaのせい」も「bの笑顔が減ったのはaのせい」も、そもそも本当にbの笑顔が減ったのかすら、噂のどれもが根拠のない想像にすぎないんですから。
そんなもので膨れ上がった憎悪によって推しへの攻撃が行われているのが、悔しくてたまりませんでした。

推しのこと、グループのことを知ろうとすればするほど、推しのアンチが目に入る。今でもグループを見るだけでそれが頭をちらつくようになり、嫌な気持ちが蘇ります。
そうして私は、全アイドルの中で最も好きな2人がいる、そのグループを推すのをやめました。最も好きな2人がいるのにです。今ではその2人の、個人活動だけを見ています。もともとグループの方向性が好みじゃなくなってきたのもありましたし、「アンチを目にした程度でやめる、お前の愛はその程度だ」と言われればそのとおりかもしれません。


3.制作と情勢


根拠のない噂で推しが中傷され、今も「嫌われメンバー」として娯楽消費されている状況が許せなくて、この作品の執筆を決意しました。あれから1年半ほど経ちますが、未だにその思いは消えず今日のリリースに至りました。

その1年半ほどの間に、社会でもいろいろありました。NGTの事件、KARAのメンバーの自殺、その他芸能人の不倫など。つい数日前もワニさんで盛り上がって、憶測が飛び交っていました。そしてコロナです。

噂を確認せずに安易に広めたり、それを理由に人を傷つけてはいけない。一見すると当たり前のことが当たり前のように行われている、この現実に何か投げかけられたらと思いながら書きました。

当然、中途半端な推し方しかできなくなったヲタクの作品が推しのためになるとも、実際に現実に訴えられるとも思っていません。それでも1人でも多くの方に何か感じていただけたら幸いです。


4.作品解説


4-1.噂に登場する三人の人物



●少女A
あれこれ噂を言われる、テニス部のエースです。2章で語り手が「愛嬌で生きてるようなもの」と書いていますが、よく「女が嫌いな女」と言われる天然ぶりっ子みたいな感じ。
スクリーンショット 2020-03-23 0.00.06

Aが実際にどういう感情を持っていたのかは最後まで明かされないんですよね。最終章(Bの視点)の直前にAの心境が漏れたようなシーンがあるのですが、あれが本当にAの考えていることなのかもわかりません。ええそうです、作者はこのAの心境も、かわいそうなAに対する周囲の想像として書いています。

また作中で唯一、本名が明かされます(え?って思った方、エンドロールで消したでしょ?)
本名は白水世界(しろうずせかい)。(白水は福岡の苗字ですが、蔑称を考える際に都合のいい苗字を考えただけで意味はありません)
ちなみに彼女の苗字を蔑称の「黒渦」に置き換えると、「黒渦世界」→「くろうず世界」→「クローズ世界」で世界が閉ざされます。たまたまです。

●少女B
Aと仲が悪いと噂されるテニス部員です。おとなしくて人と話すのがちょっと苦手で大人びている、薄幸の少女的な。
最終章の語りを見ると割と冷めてるなって感じもしますが、いろんなことに興味を持ってたり挫けたりもする普通の女の子です。

●部長兼生徒会長兼エース(元)
aもそうだったのですが、私の推しは途中加入して初代エースと同等のポジションに立つ次世代エースタイプが多く、そういった子はグループの歴史が長いほど「なんか違う」「エースは初代ちゃんじゃないと認めない」と言われアンチがつくことが多いんですよね。
「それ本人悪くないやん!ひどくない?!」と思い本作でもそういった図を表現したくて、この部長さんを書きました。みんなの憧れですが負けず嫌いで悔し泣きもする、人間らしい人物です。
ちなみにこの部長さんも、実在のアイドルをモデルにしています。今バンドリで声優やってますね。


4-2.各章の解説


各章の語り手は、それぞれ役割を持って描かれています。

①少女Cの場合(噂に流される) 
直接中傷することはなくても、誰かと話したり情報を見るうちに信じちゃう人です。噂は本当のことだ、と確信はしませんが、なんとなーく信じちゃって嫌なイメージを持っちゃう人。
物語の最初の章でもあるので、状況説明みたいな役割も持っています。

②少年Dの場合(蔑みと慢心、偏見)
なんでこんな根も葉もない噂に流されるんだ、と周囲を俯瞰し蔑む人です。
Dで描いたのは、「自分はこんなことはしない」という慢心です。こんな人たちが多くて呆れる、そういった見方が「彼らのことは理解不能」となり、結果そこで思考停止し、「自分はこいつらとは違う。大丈夫」と省みることがなくなった状態です。これは風刺としてこの作品を書いている、作者自身への戒めでもあります。
実際作中のDは「絶対に流されない」といいながら、既に偏見で溢れています。
スクリーンショット 2020-03-22 23.56.22
この一画面で、既に2つの偏見が表れています。
まず「女子が集まるといじめが起きる」。女性アイドルは本当によく言われます。しかし女子校出身の作者から言わせると「女子校は共学より断然平和」です。
もう一つは「マスゴミ」、つまりマスコミ=悪という決めつけです。最近はとりあえずマスコミ叩いとけみたいな風潮でTwitterでマスコミの悪行を呟けばバズれるんじゃないかって感じですが、それら全てが本当にあったことだとしても、全マスコミ関係の人間がそれに当てはまるなんてわかりません。

③少年Eの場合(憎悪、攻撃)
Bが好きで、憎悪に駆られてAを攻撃する人。本人は噂に妄想が混じっているのをわかっていながら、自分なりに根拠を並べ立ててAを恨み、嫌がらせをしています。
この章ではなるべくBへの印象を美化させることを重視しました。

④少年Fの場合(噂の元凶)
噂を流した張本人です。さっきの長々エピソードでの、掲示板に遊び半分で作り話を書き込んだ人にあたります。 
自分が噂の出所であることを認めながらも一貫して「信じる方が悪い」というスタンス。会話の自由を主張されると難しい問題ですが、たとえ冗談でも見た本人が傷つくこともあるのかな、と思いながら書きました。
また3章と4章の両方に出てくるのが「嫌がらせを受けるのはエースの勲章」「噂されてなんぼ」「嫌なら辞めればいい」という考え方です。芸能人だから仕方ない、そういう職業だという意見に、本当にそうか?いやそんなわけない(反語)と思い描写しています。

⑤少女Bの場合(当事者)
当事者ですが、あくまでBとしての当事者であり、Aに関しては彼女もまた他人ですから何も断定したことは言えません。
章の半分はB自身の過去について描いています。この過去へのバッシングは1人の人間に完璧を求めすぎることの象徴です。
そして最後は和やかな雰囲気で写真を撮っていい感じに終わりますが、あれは前のFの章で「一緒に写ってる写真の顔がひきつってる」と言われたことへの反抗でもあります。一応いい雰囲気で、いい思い出として終わらせたつもりです。

ちなみにエンドロール後のスマホのシーンですが、「ネット上の中傷を学校に置き換えたもの」というのはゲーム内あとがきで述べましたが、やはりあとがきで作品を完成させてしまう、補完してしまうのは卑怯なのかなと思い、作品内だけでもネット上のものだということが伝わるよう加えたラストです。あくまでその伏線であり転校後もAが同じ目にあったことを示しているわけではないのですが、でも物語を続けるとしたらやはりそうなってしまうんじゃないかと思います。

5.開発話(背景、立ち絵、サウンドなど)


今作の大きな特徴は、立ち絵がないことです。また登場人物にも名前がなくアルファベット表記です。
この物語は、読んだ方に自分の問題として感じてほしいという思いが強くあります。立ち絵や名前があるとキャラとしての存在が強くなり、「Fは悪いキャラだな」というふうに、ここで行われていることを創作のキャラに転嫁してしまうんじゃないかと思いこのようにしました。

現実感を与えるために、背景もすべて実写にしました。意外と探すの難しい、いい感じの場面写真……
難しいといえばBGMは本当に難しかったですね。こういう現実的で重いノベルゲームって、あまり作られていないんでしょうか。割と主張の多い曲が多くて、魔王魂さんに本当に助けられました……。
ちなみにDの章ではギター、Bの章ではピアノというふうに人物により曲のテイストを統一しています。

6.小ネタばらし


最後に、ゲーム内のあとがきにも書いていないちょっとしたネタばらしを。
●作品ロゴ
スクリーンショット 2020-03-22 23.55.12

あとがきに「作品ロゴはスマホのキーをイメージしている」と書きました。黒で塗りつぶされている箇所は、キーボードのひらがなを打つ部分です。透過部分は句読点とかですね。「produced by tales&Vivid」の配置は実際のキーの表示(機種によって異なりますが)を参考にしています。
背景が黒でも白でも成り立たないという意味深なロゴになりましたが、これも偶然です。

●舞台設定、背景画像について
ひとつの学校の様子を描いているように見せかけてますが実は、インターネット上の中傷を学校に置き換えているので、登場人物たちは全く別の場所からこれらの言動を行なっています。学校に例えると、全員別々の学校ってことですね。
そのため描写に矛盾があります。例えば2番目のDの章の舞台は昼休みの賑やかな屋上ですが、4番目の屋上への階段の前でダベっているFの章では「屋上への立ち入りは禁止されている」とあります。
またほとんどの章で、背景画像が同じものが使われることはありません。教室の大きさやフローリング、壁、机の形状はあえて統一していません(手抜きじゃないです!)。彼らは同じ空間で過ごしているのではなく、別々の場所から言葉を飛ばしているからです。
唯一、テニスコートなどごく一部の背景は共通して使っています。これはアイドルでいうステージであり、見ている側は別々の場所であれど見ている景色は同じ、なのに捉え方が違ってしまうことを表しています。

●エンドロールの楽曲
(ブログ公開から2ヶ月越しの追記です。すっかり忘れておりました……)
エンドロールで流れるBGMは、実は2種類あってランダムで変わります!
実際は偏りがあるみたいで私がプレイした限りでは穏やかミュージックがよく流れますが、不穏なミュージックverもあるのです……!一応伏線として、エンドロールのクレジットに「Anoyment様」「MusicMaterial様」のお二方の名前があります。一曲だけなら1人分の名前しかないはずですもんね……ふっふっふ。
人によって最後に流れる楽曲が違うと、作品の後味が変わるという印象操作です。

こんな感じで今作のライナーノーツは以上です。……毎度長くなりますね。
当サークルでは珍しいクソまじめな作品ですが、ノベルゲーム全体で見てもあまりこのような作品は見当たりませんでした。ぜひ指先で、お手に取っていただいて感じていただけたなら幸いです。 

コメントする

名前
 
  絵文字
 
 

↑このページのトップヘ

プロフィール

tales&Vivid。略してテイビ。ノベルゲームを作る同人サークルです。メンバーはらんぴ一人です。

tales&Vivid 公式サイト


サクラの白書-biblio- 公式サイト


「ニコラン プロトタイプ」を
掲載していただきました!
  • ライブドアブログ