2017年06月23日

へんしん くちべに

2017年06月18日

ネコ講談2/十二匹集合!花の大奥絵島猫

この話は、片方の目に光る文字が浮かびあがるという縁に導かれ、仔牛ほどもある大鼠を退治するために集った十二匹の猫たちの一匹、南蛮渡来の猫レイの物語。

わずか四歳の将軍家継を補佐する間部詮房らの側用人政治は、敵対する老中や旗本らに露骨に足を引っ張られ、空回りを始め、その影響は大奥にも及び、不穏な空気が流れておりました。

そんなある日のこと、ご側室付きの絵島が、部屋方と呼ばれる身の回りの世話をする奥女中らと庭を見ておりました。

この絵島のいでたちはと言いますと、濡れ羽色の黒髪を鼈甲の笄に片外しに結い、銀の平打ち簪を後ろ挿し、真珠のような白粉肌に玉虫色の紅を塗り、切れ長な目もとは水をたたえたように涼やか。縮緬の間着の上に桔梗の花をあしらった綸子の打掛を羽織り、手元には黒塗り螺鈿の袖扇。

部屋方の二人はしの字返しの髪型で、一人はつなでと言い、黄色みがかった肌に利発そうな眉を整え、小柄ですがキリッと締まった体に羽織るのは、亀甲紋を大胆に用いた介取。

もう一人はくまでと言って、撫子の花を散りばめた介取を羽織り、色黒でどんぐり眼、六尺近いでっぷりとした体つきをしております。

庭を彩る燃えるような紅葉がハラリ、ハラリと落ちゆく様を眺めながら、うららかな昼下がりを楽しんでいましたとき、一匹の猫が虫の音に誘われたのか、絵島たちの目の前に現れました。

「あれ?くまで。あれはお園さまが飼われていた猫じゃない?」

「ホントだ!絵島さま、三年前に亡くなられた、ご側室お園さまの猫でございますよ!」

やわらかな日射しを浴び、体じゅうの長い毛がほんわかと黄金色に包まれている。

「おお、本当ですね。お園さまの飼い猫、レイという名の猫ですね」

「あんな毛の長い猫は、ペルシアとかいう南蛮渡りのレイしかおりません」

「お園さまが亡くなった後、プッツリと姿を消してしまってたのに。ですが、あの真ん丸目に鼻ぺちゃの顔はブチャカーです♡」

「ホントー、ブサ可愛い☆」

「お園さまは、私が世話役で付いていた頃から、レイを可愛がられておりました」

「そうそう。絵島さまは、お喜代さまの世話役でもございました」

「お喜代さまは家継様をお産みになって、今じゃあ、月光院と名のり、上様の母親さまでございます」

「ええ。それより、レイをこちらへ」

絵島は、これも神仏のお引き合わせと思い、レイを手元で飼うことにしました。


南蛮猫のレイが大奥へ戻ってきて、しばらくの事。

絵島が部屋方を数名連れて廊下を歩んでいく。

すると廊下の向こうから、日吉という別のご側室付きが奥女中を十数名従え、周りを威圧するように歩いてくる。

(修羅場調子)

絵島たち、その装いを見てあれば、打掛、本辻、帷子小紋。間着、付け帯、掛下帯。綸子、縮緬、鹿の子染め。金銀色糸、総刺繍。白地に黒字、桃色地。桜花、水鳥、梅模様。宝尽くしに杜若。鼓、鶴亀、花菱文様。松葉散らしのお引きずり。まさに、百花繚乱!

片や、日吉たちの有様は、掻取、綿入れ、袷に小袖。茶屋辻、提げ帯、袱紗帯。練貫、繻子に有松絞り。金糸銀糸、縫模様。黄色地、赤地、黒紅地。葵、立涌、団扇模様。藤、雲、椿、流水紋。牡丹、芦原、蓬莱紋。菊花雪輪のお引きずり。これまた負けじと、絢爛豪華!

「絵島さま、向こうから日吉さまたちがやって参ります」

「絵島さま。このまま、まかり通りますか?」

(大奥の廊下、映画やドラマのセットと違い、かなり狭い)

「いえ、無用な衝突は避けましょう。私たちが廊下を開けましょう」

「絵島さまの方が、立場が上ではございませぬか」

「そうです。なんて言ったって、月光院さまの懐刀じゃあございませんか」

そうこうしていますと、

「あら、何処のどなたかと思いきや、今じゃ飛ぶ鳥を落とす勢いの絵島さまじゃありませぬか」

日吉が声をかけてきましたが、絵島は黙って目礼をした。

「ふん!将軍様をお生みになった母親様のお付きとなると、態度も偉くなりますのね」

絵島は笑みを絶やさず黙っている。

「お偉くなりました絵島さま。最近、大奥の中が獣臭いと、奥女中たちが騒いでおりますがーー、絵島さまの飼われておらっしゃる猫が、うろついてるからではありませぬか」

「何が言いたいのですか!」

「おやおや、やっと口を開かれた。わらわが言いたいのは、そのうす汚い猫が、神聖な大奥を獣臭くしておるのではないかという事です」

「無礼ではありませんか!仮にも、亡くなられた前の将軍、家宣様がお園さまに贈られた猫のことを、うす汚いとは、口が過ぎませぬか」

「やれやれ。どこの馬の骨かわからぬ身のくせに、わらわに向かい、そのたいそうな口のお効き様」

「絵島さま。日吉さまはご自身がお付きになってるご側室様が、将軍様の母親さまと成られなかったので、妬いておるのですよ」

「黙れ!下女の分際で、わらわを愚弄するか!」

「くまで、控えなさい!」

「はい、出すぎました」

「日吉さま。それでは、失礼いたします」

絵島たちは、日吉の突き刺さる視線を浴びながら、しずしずとその場を立ち去った。

「おのれ、絵島め!ええい、口惜しや!」


季節は秋の終わりを告げ、静かに冬の訪れを待っている頃、ここは絵島の部屋。

「おや?レイ、何か言いたいのですか?」

レイが、絵島をジーッと見つめている。これがいく日も続いたある日の事。

絵島は、幕府評定所から呼び出しを受けました。

絵島が心を思い当たりますと、

ーー六代将軍家宣様の墓参りも済み、芝居見物が終わった後、奥女中を監視する伊賀者が何やら騒いでいた。それに挨拶に来た役者の生島新五郎、この一門は不祥事で有名。弟の大吉は尾張徳川家の母君様と密通騒ぎを起こし、弟子の半六も初代團十郎を舞台上で殺めている。生島新五郎は、なぜ私を誑かしに来たのか?ーー

と、言いしれぬ胸騒ぎを覚えたのでございます。

絵島が罷り出ました評定所、そこに居並ぶ、老中始め奉行たち。

「大奥の女狐か、面を上げい!」

(絵島、面を上げる)

「お前らは、幕府の財政を食いつぶす気か。着物、化粧、髪飾りと、高価な物を買い漁り、質素という言葉を知らんのか。まったく、忌々しい金食い虫どもめ」

「老中様。大奥は贅沢が過ぎると申しますが、殿方が常に合戦の心持ちでありますように、私たち女子(おなご)も大奥を戦さ場と心得ております。装いや小物に力を入れますのも、殿方が刀や鎧に大金をつぎ込むのと同じでございます」

「女子くせに、我々、侍と同じと申すか!」

「老中様。侍に武士道がありますように、大奥にも奥女中道がございます」

「こしゃくな女子め!それでは芝居見物の後、役者風情の男との閨事(ねやごと)はどうだ!あったのか!なかったのか!」

「そのような事、ある訳がございませぬ」

「ぬかせ!奥女中の日吉から、そう聞いておるわ!それでも、シラを切るか!」

「日吉さまが、なんと仰られたのかは存じませぬが、芝居見物は、閉ざされた浮世に生きる奥女中たちの唯一の息抜き。そこへは、私の一分で皆を連れてゆきました。なれど、役者との事、一切見に覚えのなき事」

「おのれ!目付、こ奴を引っ立てて、口を割らせい!」

絵島は、伊賀者が騒いでいたこと、生島新五郎が誑かしに来たこと、すべてに合点がいったのです。

「レイは、この事を言いたかったのでしょう」

絵島はレイの姿を思い、ポツリとつぶやきました。

番所へ連行されました絵島、身に覚えもない事を無理に自白させようとする権力の横暴に、女子の意気地でしょうか、しっかり口をつぐんだまま、現責めという一睡もさせない拷問に、三日三晩見事耐え切ったのでございます。

この結果、絵島は信州の高遠藩へ流罪となり、死ぬまで幽閉となりました。また絵島の他、死刑二名、遠島追放十数名、押込預かり七十を越え、連座した末端の者まで入れますと、いずなとくまでを含め、千五百人もの人間が罰せられたのです。これが、世に有名な絵島生島事件。


世は八代将軍吉宗の時代となり、高遠藩の囲み屋敷に幽閉されて十数年が経つ。

「ここへ流されて、もう十年以上。レイ、お前も私も、お互い歳をとりましたね」

記録には残っていませんが、護送役人の計いで、絵島は猫を連れていくことを許されていました。

絵島の手元に、ここへ閉じ込められた時に詠んだ歌が一首。

「世の中に かかるならひは あるものと ゆるす心の 果てぞ悲しき(繰返し)」

すると、レイはまたもや絵島をジッと見つめ「ミュウ」と一声鳴き、この和歌を口にくわえますと、絵島が止めるのも聞かず、高遠藩主内藤頼卿のもとへ届けました。

この和歌を読んだ頼卿(よりのり)、何か打たれるものがありましたか、江島の赦免を幕府に願い出たのです。

この後、江島は非公式ではありましたが、屋敷の周りの散歩と城の女中たちの躾のため、月に数回の登城を認められ、実質的には罪が赦されたのでございます。

猫見つめれば、何かが起きる、『十二匹集合!花の大奥絵島猫』という一席。

(宝井修羅場塾 発表作品)
 






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2017年06月16日

あらなみうねるのかかってこいピアノ!!

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