2018年07月08日

ネコ講談5/十二匹集合!猫が招いた花蕾

宝永五年と申しますから、徳川五代将軍綱吉の時代で御座います

大坂のあみだ池と申しますから、ただ今の北堀江にある和光寺。このお寺の門前には数十軒の茶屋が軒を連ね、境内には浄瑠璃や講釈、見世物といった小屋が立ちが並び、天満や道頓堀にも劣らない一大歓楽街、今で言いますと浅草のような賑わいで御座います。

その中に瀬川喜七一座と書かれた芝居小屋。

この一座、座長の喜七は年の頃、二十一、二、水も滴るような艶やかな面立ち。都でも評判の女方。弟子が二人。由五郎と吉次。吉次は年は十五の色白で、手足から指の先までスラリと伸びた体つき。ですが、いかんせん顔は平たく小さな目、おまけに声までかすれてるといった体裁。それと、座長の喜七が可愛がっている猫が一匹。しなやかな白地の体に茶色のブチ模様、名前は菊之丞。役者三人に猫一匹。

そんなある日のこと舞台が終わり楽屋では、猫の菊之丞が喜七の側に寄りそっています。

「ホンマにこの子はヘタレやなあ。なあ吉次、どこに隠れてたのか、お客さんが居らんようなったら、いつの間にか座長の様な顔をして寛いでるわ」

「ほんまですね、お師匠はん。菊之丞やなんて、名前負けや」

「お前、ホンマに十五の少年か?」

「どこから見ても、十五やないですか」

「まあ、よろし。そやけど、菊之丞いう名前は、赤穂事件でお腹を召された大石内蔵助様がお付けになりましたのや」

「あの赤穂義士の盟主、大石内蔵助様が?」

「そうや、大石様が皆を油断させるため、わたしを連れて、派手に遊んだはる真似をしとりました。その時、この菊之丞を拾われてな。この子の片方の目、菊の文字が浮かび上がる。それで大石様は、菊之丞と名付けられましたのや」

「そやったんですか」

「大石様からこの子をお預かりして、もう五年」

「大石内蔵助様は、どないな御人やったんですか?」

「そやなあ。真っ青な大空に、ポッカリと浮かぶ雲のような御人でしたなあ」

「お師匠はん、好いとりはったんですか?」

「わたしは大石様に出会うて、初めて恋というものを知りましたのや。大石様は他のお方と違い、男狂いではあらしまへんでした。そやから、わたしの体には一度たりとも触れたりはしませなんだ。その時ほど、この体を恨めしいと思ったことはなかったのや」

「ニャオー」飼い主を気遣ったのか、菊之丞が喜七を見つめました。



それから、ある舞台の時、酔っ払った客たちが吉次に向かって、

「おい、なに喋っとるんか、ちっとも分からん」「声も悪いし、動きもかたいな」「引っ込まんかい、下手くそ」と野次を飛ばしました。

吉次はその場は堪えて演じきりましたが、舞台が引けた後、

「お師匠はん」(泣きながら喜七に訴える)

「どないした?」

「あんなお客の前には、もう出とうありまへん」

「わたしらは、お客さんあっての物種やないか。そやけど、お前の真っ赤な顔、ほんま越前蟹そっくりやな。スラリとした手足やのに、へらべったい顔にちっこい眼。どこから見ても、越前蟹や」

「お師匠はんのイケズ。越前蟹やなんて、あんまりやないですか。お師匠はんの言わはる通り、旅芝居に出て稽古を積みあげたつもりです。それやのに、お客は認めてくれよりまへん。あたしは、どないすればエエんです?」

「吉次、焦ったらアカン。世の中、潰れんもん、壊れんもんが残るのや。ムード歌謡の女王、綾戸智恵はんの言葉や。それに、越前蟹はカニの女王、味も格別によろし」

「お師匠はん、ムード歌謡なんて、この時代にあらしまへん」

「講談やから、よろしいのや。それにしても、汚い顔やなあ。はよ化粧を落としてきなさい」



ところが、喜七の人気で一座は何とか持っておりますが、客足はどんどん減る一方。

そんなある日のこと、開演前の楽屋へとやって来た一人の小役人。

年の頃は四十代後半ぐらいでしょうか、垂れた薄目に口をへの字に曲げ、耳の後ろを指先でポリポリと掻いております。

「これは大坂城の御蔵番、笹子力兵衛様。何ぞ御用でも?」

「用と言うわけでもないが、この前の返事、如何かと思うてな」

「わたしの御贔屓になられると言う話ですか。それは、お断りしたはずです。それに笹子様だけで無く、他の御方もお断りしています」

この笹子力兵衛、江戸城の下っ端役人で御座いましたが経費の使い込みがバレ、お役御免となっていた所を、娘婿の蔵奉行の口利きで大坂城の米倉の番人に着くことが出来たという人物。

「喜七、お主が瀬川竹之丞である事は存じておる。天下の大石内蔵助が味わったように、わしにもお主を味わせてくれぬか」

「笹子様!」

「なんだ、吉次」

「あんたはんは、ホンマにむさい国の反吐やな!」

「なにを!お前の芸こそ不愉快そのもの。早く役者を辞めろ、いや、今すぐ辞めろ!お前を見てると、気持ち悪いのだ」

「笹子様!吉次は仮にも一人の人間。そのお言葉、あまりにも酷すぎや!それに、大石様とお前様とでは格が違う。言うなれば、月とスッポンや」

喜七がズバリと言い放ちますと、

「なんだとお!わしがスッポンだと。京都大坂は江戸の引き出しのクセに、幕府役人をバカにしおって!

「お前様のセクハラを、問題にしてもよろしいのやで」

「なに、ただの言葉の遊びだ」

どこかで聞いた様な台詞を残して逃げて行った力兵衛、後に、またもやお役御免となったという事です。



こうして開演の時刻が参りましたが、吉次は役者をやめろ、気持ちが悪いと言われたことが、よほどこたえたのか、自信を無くしたのか、打たれ弱いのか、舞台に上がるのが怖くなり、なかなか上って来れません。

「あたしは気持ち悪いんかあ……」

大きな涙をボロボロこぼしながら、手拭いをグシャグシャにして舞台の袖で号泣する吉次。慰める様に菊之丞が、両方の前脚で着物の裾を捏ねている。

「吉次、潰れたらアカン。壊れたらアカン」

心の中で祈る喜七。

ところが、泣き声は客席まで聞こえ、

「役者が出てこんやないか」「どないなっとんのや」「由五郎も辞めたそうや」「この小屋、もうアカンのとちゃうか」「銭こ、返してんか」

と、客たちが騒ぎ出して帰ろうとした時、吉次の手拭いが菊之丞の頭に落っこちた。

「ニャッ!」

驚いた菊之丞、手拭いを被ったまま舞台へと躍り出た。

「おや、猫やないか」「ほんまや」

客たちの前に出た菊之丞、被った手拭いのおかげか、はたまた神仏がその身に宿ったか、ヘタれるどころか後脚でスッと立ちますと、「やととんとろつく、やととんやととん」と踊り始めたのです。

「あれ、お菊さん。いっちょやりますか」

喜七はとっさに機転を利かし、菊之丞の踊りに台詞を合わせる。

「なんや、なんや。新しい趣向か」「これは、ヤラレたわ」「ええで、ええで!」

客たちは、やんややんやの大喝采。

それからというもの、いろんな被り物をした菊之丞と喜七の掛合い芸のお陰で、一座は大いに盛り返したので御座います。そして、評判が評判を呼んで、道頓堀に大芝居を架けております嵐三十郎の耳にも届きました。

三十郎が来て申すには、喜七にうちの舞台に上がって欲しいという事でしたが、喜七は旅芝居の方が気楽だと答えまして、代わりに弟子の吉次を推薦したので御座います。



「吉次、お前を嵐三十郎さんに紹介しました。でもな、お前はまだまだ未熟な蕾や。蕾やけど、吉次のままでは格好がつきまへん。吉次、どないな芸名がよろし?わたしは竹之丞やったから、梅之丞はどうや?」

「お師匠はん、出来たら菊之丞の名前を貰えまへんか」

「菊之丞は猫の名前や」

「そやけど、大石内蔵助様がお付けにならはったんでしょ。それに菊之丞は、仰山、お客はさんを招いてくれはった。あたしも菊之丞を見て、柔らかな所作を稽古しました。菊之丞はあたしの兄さんです」

「それなら、これからは瀬川菊之丞と名乗り」

吉次改め菊之丞は柔らかな身のこなしを精進するため、猫を連れ、大芝居の舞台へと巣立って行きました。



この後、瀬川菊之丞は、芸事の道に一度は挫折を致しますが、しなやかさを身につけ復活を果たし、京都、大阪、江戸、三都随一の名女方と、見事、大輪の花を咲かせたので御座います。

猫の踊りで、蕾咲く、「十二匹集合!猫が招いた花蕾」という一席。

(宝井修羅場塾  発表作品) 







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tamesuounokami at 16:00コメント(0)│ 

2018年06月27日

雪の女王/悪魔の鏡だって!?

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      s-yuki内裏
2018年 6月(COP
 





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tamesuounokami at 15:49コメント(0)│ 

2018年06月12日

COP展

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2018 COLORS  OF  PALETTE

Cafe Gallery Musashino(HP)にて
6月7日(木)〜6月12日(火) 12:00〜19:00
 


今年のお題目は「雪の女王/アンデルセン」 

最寄り駅は三鷹駅ですが 
吉祥寺駅の北口2番乗り場から「吉53系統」のバスを使い 
市民文化会館前停留所で降りるのがお薦めです。






 

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tamesuounokami at 23:35コメント(0)COP展  
プロフィール

しいたどる.

めがね産地で放流される
漂い続け 流れ着いたのは
創作の浜辺
高橋宏幸という
絵本作家に助けられ
ただいま 恩返しのため
絵本の形をした玉手箱を
まったりと製作中

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