この文章は『理念と経営』誌20083月号に田村圭司が書いたものの再録です。

(注:文中敬称略。見出しなどは筆者)

 

リクロー株式会社 りくろーおじさんのチーズケーキ4 

(写真は同社HPより
http://www.rikuro.co.jp/kaisya.html


大阪でいちばん、笑顔と笑声のあふれるお店を作ろう。

良心的な商品作り

 

北加賀屋店を開店当初から順調に売り上げを伸ばすには新商品がいる。それは一夫には分かっていた。一夫の脳裏には父、陸郎と回った時の『ステラおばさんの焼きたてクッキーの店』と18センチのバターケーキと「りくろーおじさん」が渦を巻いていた。「焼きたて」という訴求力を持つ商品は何か。焼きたてを作って食べてみるのが手っ取り早い。

 

「焼きたて栗饅頭や焼きたてプリン、焼きたてで実際に食べてみておいしいものを次から次へと試しました。普通、僕たちも冷めてからしか食べませんからね。味も形も及第点として行き着いた先が、チーズケーキだったんです」

と、今となっては笑いを交えながら一夫は言う。

 

昭和59610日、北加賀屋店の開店と同時に『りくろーおじさんの焼きたてチーズケーキ』は、試行錯誤を繰り返しながら販売にこぎ着けた。もちろん、大きさは18センチだ。商品も決まり、いよいよ展開する段になって、いくらで売るかの検討に入る。これまで千鳥屋ではチーズケーキを1300円で販売していた。新商品なので安く販売し、知ってもらう必要はあるものの、普通なら1000円程度で値下げは止まる。ところが、一気に500円とした。

 

「バターケーキの600円を意識したのはもちろんですが、お恥ずかしい話、原価計算など計数に疎かったからできたんです。今ならできません。500円やったら売れるやろなあ、という何の根拠もない思い込みです」

と、一夫は照れながら話す。

 

これまで1300円で売っていたケーキを500円で、しかも焼きたてで売る。経験豊富な父、陸郎も「よしいけ」と後押ししてくれた。一夫が売れないはずはない、と考えても致し方ない面はある。しかし、その予想はものの見事に外れる。当初から軽く100個は売れると目論んでいたが、蓋を開けてみると日売り10個から20個、とても採算に合う数ではない。そんな時、一夫の胸にあったのは父、陸郎の言葉である。

「見てくれはともかく、材料費に販売価格の70%をかける良心的な商品を作っていれば、お客さんは必ずついてきてくれる」

 

この言葉を信じ、販売を続ける。売れ残っては廃棄する。廃棄するぐらいならと半額の250円で売る。一度でも客の口に入れば、必ずリピーターになってくれるという自信はあった。そんな日々が約1年間続き、やっと日売り100個を達成できるようになった。これまでの3店舗も順次、『りくろーおじさんの焼きたてチーズケーキ』が販売できるオーブンレンジ施設を設置し、リニューアルしていった。しかし、売れるとはいえ、広島の長崎堂のバターケーキのように行列ができるわけではない。だが、焼きたてチーズケーキの評判は徐々に大阪圏から関西圏へと浸透していった。(この項続く:田村圭司)