2021年04月
2021年04月30日
たいへん長らくお待たせいたしました。長く休んでいたタナカゼミ・セッションをやっと機動させます。
中身をがらりと変えまして、カバーに挑戦します。おいらが若いころ影響を受けたミュージシャン６人を選び、ひとり一曲やります。1971年から1974年に発表された作品群です。
ということで、おいらを軽音楽に道に導いてくれたこの方、吉田拓郎。この方の一曲からスタートです。
この歌はそれこそ半世紀、彼自身まったく歌っておりません。だからこそ、おいらが歌ってやろうというわけです。
吉田拓郎「川の流れの如く」 https://youtu.be/S9wmxds6Rjs
2021年04月20日
憧れのはっぴぃえんど ……おいらが通った高校には年に一度、クラス対抗の合唱コンクールがあった。浜松市内の高校なら、今もたいていの学校にある。時期も同じで、一学期の７月あたり。
２年のとき、どういういきさつかは思いだせないが、わがクラスの合唱曲のいわば編曲、及び実際の合唱の演出をおいらがほぼ完璧に牛耳った。曲は各クラスの自由な選択の任されていて、わがクラスはご存知「♪ ある日 森のなか くまさんに 出会った……」の「森のくまさん」を選んだ。この曲が選ばれたいきさつにおいらはなんら関与していない。おいらがしゃしゃり出てやってやろうと意気込んだのは、この「森のくまさん」という、合唱曲としてはよく選択される楽曲を素材にして、他の凡百の合唱例とは一味も二味も変えて、聴く者たちを「あっ」といわせることだった。
中学２年から始まったおいらの軽音楽鑑賞は、吉田拓郎を起点にして、井上陽水、泉谷しげる、岡林信康へとつながり、高校に入ってからは岡林のバック演奏を務めていたはっぴぃえんどという４人組に至っていた。「森のくまさん」をはっぴぃえんどの発案を借りてアレンジしてみようと、当時のおいらは自分勝手に着想したのだ。それを傍若無人にやり切ってしまったところが、今では想像も及ばない青年タナカのすごいところだ。
何十年ぶりになるのか。ネタ晴らしをしよう。
はっぴぃえんどの一曲に「はいからはくち」という（訳の分からない歌ではあるが）松本隆作詞・大瀧詠一作曲の作品がある。静岡の田舎に住む高校生のおいらは、２つのＬＰレコードで２つのヴァージョンを聴くことができた（正確にはもう一つスタジオ録音盤があるのだが、当時それを静岡県の田舎の町で入手することはできなかったし、友人の誰かが持っていて、借りるということもできなかった）。一つは1971年発表のスタジオ録音ＬＰアルバム「風街ろまん」に収録された音源。一つは1974年発表のライヴ録音ＬＰアルバム「1973/9/23 ライヴ・はっぴぃえんど」に収録されたライヴ演奏の音源。
後者の演奏はまさに名演奏であって、当時のおいらのハートをわしづかみにして余りあった。細野晴臣が弾くフェンダー・プレシジョン・ベース（フレットレス！）に始まり、鈴木茂がエフェクターを駆使し、フェンダー・テレキャスターで音を重ね、松本隆のドラムスがそれらの音を追いかけるようにリズムを刻む。ボーカルは大瀧節の大瀧詠一。
この演奏の妙味は、前二者のアルバム用のスタジオ録音を完全に裏切る編曲にあり、演奏にある。曲半ばでリズムがスローからアップに切り替わるその鮮やかさ。これを「森のくまさん」でやってやろうとおいらはひらめいた。おいらの人望人徳、権力権威によったのか、それがすんなりクラスの生徒全員に受け入れられたのは、いま思い返せば、不思議極まることだ。
発表にあたっては、どのクラスもピアノの演奏が合唱を支える。ピアノの他に一つ二つ、他の楽器を加えることが規定によって許されていたのかどうか、あるいはそのあたり規定らしきものはなくて、あいまいなままにされていたのか？ おいらは音楽室から借りてきた小太鼓を某男子に叩かせて、曲半ばの唐突なリズム変調を強調させた。
クラスのメンバーはこの風変わりな編曲が、じつははっぴぃえんどというロックバンドのパクリであることを今もって誰も知らない。それ以前にはっぴぃえんどという名のロックバンドのあることが、当時、その高校に在籍する級友にはほとんど知られていなかったであろう。
例外的に一人聴いていた友人をおいらは覚えている。彼から、はっぴぃえんどを離脱した大瀧詠一が制作し発表した傑作ソロアルバム「ナイアガラ・ムーン」を借りて聴いたものだ。
おいらはネタ元を口外しなかった。何十年も経った今になって（おいらが生きているうちに）初めて打ち明ける。クラスメイトたちは、あれは天才奇人変人のタナカのオリジナルな着想だと考えていたのであろうか。
どうしても思い出せないのは、体育館のステージで発表されたとき、おいらはどこにいたのかということ。指揮者がいたかどうかも思いだせない。40人以上の声とピアノの音を合わせるには、指揮者という存在はあって普通だろう。え、まっさか、おいらが指揮棒を振った？ ……記憶にございません。ということは40人以上いた合唱隊のなかに紛れて、口をパクパクさせていたのか。
よく覚えているのは、おいらとしてはかなり大胆な挑戦・冒険をやり切ったと鼻を高くしていたのに、1000人くらいいたはずの在校生、及び教師からは、とくにこれといった反応がなかったということだった。
※ 三種類にわたる楽曲「はいからはくち」は、現在全部ユーチューヴで聴くことができる。
��1971年発表アルバム「風街ろまん」収録「はいからはくち」。
��1971年発表シングルヴァージョン「はいからはくち」。
��1974年発表「1973/9/21 ライヴ・はっぴぃえんど」収録「はいからはくち」。
タナカもはっぴぃえんども、同じことは二度やらない。
2021年04月11日
たまに歌番組のビデオをユーチューヴで観たりすることがある。かつてのヒット曲がそこで披露されるのだが、これが揃いも揃って何十年も前と同じ前奏から始まり、一字一句変わらない歌詞で、むろんメロディもそっくりそのまま昔のままで再現されるのが常だ。会場に集った聴衆もテレビの向こう側の視聴者もそれを望んでいるのだから、そこに苦言の生じる余地はない。
何万人という聴衆を前に演奏して歌って踊る、たとえば超ベテランのローリングストーンズやポールマッカートニーもまた、ＮＨＫの「想い出のメロディ」と変わらぬ完璧さで往年のヒット曲を前奏でも後奏でも一小節も違えたりしない。彼らを支えるミュージシャンの人数を考えれば、このあたり、そんなに簡単に変更もできない、という事情もあろう。だが、やっぱり観客がそれを求めている面のほうが大きいとおいらは考える。
昔から「君子は豹変す」という格言が好きである。変わってナンボ、とまで思っている。歌というのは生き物だから、20才で歌うのと40才で歌うのと60才で歌うのでは、違いが出てきて当然なのだ。
今回ユーチューヴを介して20本我流の歌を配信したとき考えていたのは、昔、若いころに作ったものであっても、今の自分の心情を基底として、歌詞でも曲でも演奏でも大胆に変えてやろうということだった。変わったかどうかということを視聴者は知るはずもない。要は自分限りのこだわりである。
変わり続けたい。その姿勢は昔から変わっていない。
2021年04月03日
先般配信した楽曲「すこし長く伸びた髪」の一節――
♪ きみのそばにいていいかい 肩と肩が触れる近さで
きびしい時代さ ひとりじゃ生きられない……
じつは、この箇所は、40年前こうだった。
♪ ぼくのそばにいていいよ すがりつく腕が欲しいなら
きびしい時代さ ひとりじゃ生きられない……
この違い。真逆だ。男（おいら）と女（相手）の主従関係、あるいは立場上の力関係が逆転した。40年経って。
おいらは男として謙虚に異性に向き合うようになったということか。40年の風霜に耐え忍んで生き延びてきて、おのれの身の丈を知ったのかもしれない。
40年経ってわかったことのもう一つは、男と女の恋の絶頂期というのは肩と肩が触れるか触れないかくらいの距離にあるときだということ。その衣服の感触、もしかしたら肌の触覚、一瞬のふれあいの後に通り過ぎるすきま風、そこには微かな甘酸っぱい香りも伴っていて……。
そんな絶頂を感得できなくなってしまった現在のおいらは、その疑似体験を脳で味わうために、40年前に作った「すこし長く伸びた髪」をモデルとなった（今ではすっかりお婆さんになっているであろう）相手をほんのちょっとだけ思い出しながら、誰もいない部屋でギターをポロンと鳴らして歌ったりするのだ。
