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待望のBABYMETAL、1年ぶりのライブだ。

この1年間にはいろいろあった。
藤岡先生が不慮の事故で逝き、欧米ツアーから見慣れぬダークサイドが展開し、様々な心配や憶測を溜め込んだまま数日前、ユイメタルが脱退が発表された。
(ユイメタルのくだりについては、いずれ)
今回は待望の国内ライブにもかかわらず、参加に際してファンの人達にもいろいろあるかと思うが、個人的にはやっとダークサイドを観れるという気持ちが強く、ベビメタ国内初の前座付きライブという期待もあって、比較的フラットな姿勢で幕張に臨むことが出来て正直ホッとした。
最初っから最後まで楽しかったんである。

最近体調がすぐれず、当日も朝からバファリンを飲んで幕張の駐車場に滑り込んだにもかかわらず、イベントホールへの長い跨線橋を渡る頃には気分もアガって来た。
会場入りしてチケットで仕分けられた先はモッシュッシュピットのBブロック、柵中央から5列目に陣取って一歩も動かぬ覚悟である。
体調はすぐれないのだが、位置的には極度の圧縮を受ける位置。
正直どうとでもなれという気分だった。
なぜかそこで久しぶりに圧縮を感じたいという自分がいた。

改めて会場を見回すと、イベントホールは思ったより狭かった。
小さなホールに見えた。
正面ステージには前座のギャラクティック・エンパイアの赤い帝国ロゴが見える。
思ったよりステージが近いじゃないか!
これなら少しはメンバーの表情も見えるんじゃないか。
チケットの番号がA2950あたりだったので、あまり期待はしてなかったんだが、幸先の良さを感じて気分もアガる。
トイレは済ませてあったが、誰もが心配するトイレ抜け問題も、場内の熱気で早くも汗ばんで来ていたので、心配しないで良さそうだと思った。
(これは詳しいことは後述しない)

この1年は悪いことばかりじゃなった。
欧米ツアーの前後で新曲が3曲も披露され、今回の幕張直前にはさらなる新曲の発表もあった。
これらの曲がベビメタの曲なのか、ユイメタルを欠いた無記名メンバーによるダークサイドの曲なのか、細かい議論はいろいろあると思うが、ライブの現場に来てしまえばどうでもいいことだ。
そこで演奏される曲を体験することが全てであり、それが素晴らしければ細かい議論など全て吹っ飛ぶ。
「ユイメタル辞めたみたいだね」
参加を告げると、そう返して来た知人の嘲りのような一言、その薄ら笑いのような表情が、議論のオブラートに包まれてネットで交わされてるものの正体だ。
正直どうでもいい。
それでその知人との関係が悪くなることもない。
ユイメタルの美しい所作がこれまでベビメタとメタルにどれだけ貢献して来たか、そのダンスがどれだけ折り目正しくタイトにmikikoの目指す日本的なダンスを体現してきたかなど、わざわざ説明する気もないからだ。
趣味の違いを埋める作業など、時間の無駄というものだ。
なぜならこれから始まる爆音浴は言葉に還元出来るたぐいの体験ではないし、あえて表現するとすれば「サイコーでした!」くらいしかない。

今回、前座があるので、ベビメタのライブが始まるまでの時間を逆算すると、その柵前5列目に突っ立っている2時間は途方もなく思えた。
だが、実際はさほど苦痛でもなく、足も痛くならず、前座のギャラクティック・エンパイアが終了すると、あっという間にベビメタのライブが始まった。
(ギャラクティック・エンパイアについては次回SSA編で)

場内の照明が落ちると会場にはどよめきと歓声が響き渡り、お定まりの紙芝居に続いて「In the Name of」が始まった。
最上段に鉾を立てた7人の姿が一気に現れて、青山のバスドラに乗って中央の人物が階段を降りてくる。
上半身をマスクで覆われたスーメタルだ。
思ったより近くに見える。
そう思った刹那、一気に圧縮が襲ってくる。
だが、たいしたことない。
意外なことに青山のバスドラは臓腑をえぐる凶悪な重低音ではなく、圧縮も同じくだった。
いつもと違う、いったいなにが起こってるのか?
そうだった、ギャラクティック・エンパイアの時も低音が甘かった。
これは会場のせいか?
これはサブウーファーを仕込んだ自分の車と同程度の重低音だ。
こりゃあかん。
用意してきた耳栓も必要ない。
ただ、残念がってる暇は無かった。
ベビメタのライブのお楽しみ要素の一部を欠いたまま、2曲めの「Distortion」に突入する。
日本初披露だ。
この疾走感に満ちたスピードメタルは、会場に渦巻いていた焦燥や不安や疑念を一気に吹き飛ばした。
それとともに明らかになったChosen7、その7人がステージいっぱいに展開し、欧米公演とは明らかに異なるヴィジュアルを白日のもとに晒す。

これはいつもベビメタのライブで思うことだが、ピットでは常に楽曲>ヴィジュアルであるということだ。
始まってしまうと最前以外ではステージがよく見えないんである。
今回はさらに前日に続いて初披露のヴィジュアルだということもあり、ステージの情報量が多すぎて認識がついて行かずに、まさにカオスだった。
ヴォーカルのスーメタルを除くと誰が誰だか分からない。
波打つ圧縮と楽曲に興奮してるのも手伝って、あっという間に中盤のブレイクダウンのクラッピングタイム。
ここで我に返って、邪魔をする頭や腕の合間からモアメタルを確認、だが7人ともとんでもないヘアスタイルにギョロつく目、プロジェクターに抜かれるダンサーの中には欧米公演で出ていた佃井さんとまるさんもいるはずだが、メイクが濃すぎて判別がつかない。
そのまま3曲めの「ギミチョコ」に突入するが、うちわ的にモアメタルの新相方を確認するという使命を帯びていたため(笑)曲を堪能するよりメンツ確認に追われてしまう。
ただでさえ情報量が多いベビメタが今回は閾値を超え、まさにカオス。
モアメタルひとりの「あたたた」がどうとか、そういう問題じゃなく、この段階で甘い重低音のことも忘れてしまった。
4曲めは待望の「Elevator Girl」だ。
欧米公演時のファンカムより青山のスネアを効かせたドラムがタイトで素晴らしい。
スーメタルの中低域の歌声もためらいがなく、この曲を自分のものにしたことが伺える。
というか青山のドラムスは去年の巨大キツネ祭り以降、エモ化けしたので、いまや明らかに日本の至宝である。
もはやスーメタルの声と青山のドラムスこそベビメタの真髄である。
よし次はスーメタル待望のロッカバラード「Tattoo」だ、そう思ったらモアメタルの「GJ!」だった。
今回の「GJ!」はモアメタルのヴォーカルに2人のダンサーを従えたトライアングル構成だった。
モアメタルは明らかに歌が上手くなってる。
大村とLedaの凶悪なギターサウンドに負けず劣らず、激しいダンスの合間からヴォーカルの被せを超えてモアメタルのラブリーヴォイスが観客を包み込む。
この曲ゆいもあで演ってたころはもっとラブリーなおちゃらけソングだったような気がしたが、モアメタルがソロ曲としてここまで育てて来てしまったのだ。
次なるサードアルバムではベビメタ初のモアメタルの純粋なソロ曲が誕生するだろう。
だがこの曲、短いのであっという間に終わる。
すぐさま曲間の甘いテーマが流れて次曲が紅月だと分かる。
スーメタルの独唱に続いてギターが静寂を切り裂くと、あとは怒涛のダンスバトルへ真っ逆さま。
佃井さんとまるさんのダンスバトルの欠点は大村とLedaのギターバトルを後方へ押しやってしまうことだが、なんとかならないだろうか。
ただちょっとこの紅月にはある種の疲れを感じた。
それについては後述する。

次曲の新曲「Starlight」はナウシカの曲のような甘いコーラスから一気にDjentの奈落へ突き落とすような凶悪さ、そこを駆け抜けるスーメタルの高音ヴォイスが銀河へ飛翔する魂の加速度まで感じさせるというと大袈裟だが、騙されたと思って一度ライブで聴いてみて欲しい。
すべての人に聴いてみて欲しい、そう思えるほどスーメタルのヴォーカルは人々の度肝を抜く。
いやマジで、このライブで大化けする曲に、あっけにとられてしまった。
「らーーーーー」だけである。
この「らーーーーー」は、去年のハリウッドパラディウムの「From  Dusk Till Dawn」の「In the Airーーーーー」の「えーーーーーー」である。
なにを言ってるかよく分からないが、そうとしか言えない語彙力の乏しさを嘆くだけである。
この「Starlight」を4日後のSSAで、今度は(会場ゆえ)重低音を伴った「Starlight」を聴けるだなんて、そのあと俺は死ぬんじゃないだろうか。
そんな幸運があるんだろうか。



「Starlight」のあまりの素晴らしさにびっくりして油断していた。
次曲「メギツネ」では今までは余興だよと言わんばかりの圧縮が襲った。
あれあれ、あの圧縮にジャンプが伴う、あれ。
キタキタ、酸欠キタ。
圧縮されながらも落ち着いて息を大きく吸え、でないと失神してしまう。
この圧縮で柵前5列めだったのが3列目まで前進して、よりステージがよく見えるようになったが、ギャラクティック・エンパイアから立ちずくめだった疲労が襲ってきて、マジでヤバくなった。
この後、「KARATE」「Road of Resistance」「The One」と続いたが体力を消失し、不覚にも早く終わって欲しいと思うようになった。
ベビメタのライブが1時間で短すぎるとよく言われるが、ピットの中ではそれどころじゃないんである。
なんらかの脳内シャワーが無いと、この疲労は消せない。
ある意味唖然としたのだが、ダークサイドの新曲群に比べると、「KARATE」「Road of Resistance」が古臭い曲に感じたんである。
だから疲れたままだったんである。
フェイバリットである「Iine!」や「CMIYC」があればまた違ったんだろうが、ユイメタル無き後、それらのハッピーメタルが聴けるのはだいぶ先になりそうだった。
大好きなはずの「The One」の新アレンジがもうろうとしていてやり過ごすことになってしまったのは残念だけど、それは4日後のSSAのスタンド席のお楽しみということで!

最後に新曲ぜんぶいいですよ!!! ライブで最高ですよ!!! というわけで、また。