1991年に刊行された「台湾野鳥図鑑」の、チメドリ亜科のページの一部です。
台湾は、日本のお隣の国ですから、同じ種の鳥がたくさんすんでいます。でも、生物の分布上、旧北区に属する日本本土と違って、台湾は東洋区に入り、また、島の成り立ちもだいぶ違うので、日本では見られない種類の鳥もたくさんいます。
それらの中で、代表的なのが、ヒタキ科チメドリ亜科の小鳥たちです。
日本では最近、ガビチョウ類やソウシチョウなどの外来種が、猛烈に増えて問題視されていますが、あれがチメドリ亜科の鳥です。もともと日本列島にはほとんどいなかったグループですが、東南アジアを中心に、たくさんの種類がすんでいます。
台湾には16種がいて、そのうちキンバネホイビイなど5種が固有種とされています。
さて、図鑑の話ですが、チメドリの図版はご覧のとおり、一種につき一コマか二コマしか描かれていません。雌雄同色ということもありますが、飛翔図も幼鳥の図も無く、寂しい限りです。
別に私がサボっていたわけではありません。この図鑑を制作した当時は、まだバードウオッチャーが少なくて、野鳥に関する情報量がたいへんに少なかったからなのです。特に、日本では見られない種類については不足していて、日本領だった頃の、戦前の古めかしい文献に頼るしかなかったのです。チメドリ亜科はそんな立場の鳥の代表でした。
台湾まで行って、写真や標本を調べ、小鳥屋をまわり、そして可能な限り山へ分け入って観察したのですが、薮の奥に住む種類が多く、全部を見ることは叶いませんでした。この寂しい図版がせいいっぱいだったのです。
この図鑑が世に出てから、台湾のバードウオッチャーは爆発的に増えました。それとともに野鳥に関する情報量も溢れるほどに増えたのです。それらを使った、特定の鳥や地域の保全のための運動が盛んにおこり、いまや台湾は野鳥保護の先進国となりました。図鑑に対する要求も、比べものにならないほど高くなっています。
バードライフ図鑑の仕事が終わったら、私は台湾野鳥図鑑の増補改定に真っ先に取り組みたいと思っています。
寂しいチメドリ亜科のページを見るたびに、その思いを強くしているのです。