自分の飯盒使用歴は18歳の夏から始まるのですが、この飯盒は2代目の飯盒にあたります。初代の飯盒が、純粋に生活用品だったのに対して、この飯盒は野宿ライダーを意識して購入しました。もっとも、当時はそこまで飯盒愛に目覚めていなくて、さらに小型でパッキングし易いクッカーという事で、モリタの角形クッカーに意識が行ってしまい、さりとて自宅で飯盒を使って飯を炊くのは嫌気が指していたので、ほとんど使わずしまいのまま、処分してしまいました。
そもそも兵用の飯盒は4合炊きなのですが、これは2人1組になって、一人が飯(1人辺り2合)、もう一人が汁を作るのを前提に設計されています。軍隊ですから、複数の部隊で行動する訳ですし、その最小単位としても組炊爨での運用が、兵用の飯盒の設計思想なのです。
ところが、戦後、登山やキャンプなどで使われる様になってからは、この組炊爨の前提は大きく崩れる事になります。団体で登山する場合は、軍隊式の組炊爨もあったでしょうが、そういう使い方よりも、個々人で飯盒を使う機会が増えたのだと思われます。となると、流石に一人で4合も飯を食う事はないでしょうし、せいぜい2〜3合くらいしか炊かないとなると、4合もの容量は必要なくなった、という事でしょう。
また兵式飯盒は、ご存知の通り、底が深い鍋なのですが、これを食器として考えた時、底が深過ぎて食べにくいというのは、確かにその通りです。4合も炊ける必要がなく、かつ底もそんなに深くなくて良い、という事であれば、3合の容量にして底を浅くしようという発想になるのは、一人用の飯盒としては、至極合理的な考え方であると思います。
飯盒がまだまだ日本のアウトドアシーンで主流だった時代には、飯盒を入れ子にするアイテムが色々考案されていました。その中でもモリタのミニハンゴーは兵式飯盒にスッポリ収まる2合炊きの飯盒で、それ単体でも使える優れものでしたが、それでもソロ用として考えた時、4合炊きの兵式飯盒と併用ではパッキングサイズが無駄に大きい物になります。
そこで、飯盒本体を3合に縮小し、中に鍋を1個入れる事で、省スペース化とクッカー2つを実現したのが、この3合飯盒です。つまり、飯盒本体でご飯を炊き、中鍋でオカズを作るというスタイルを実現したのでした。
脱着式なのでパッキング時にハンドルが邪魔にならない。また炊飯時にも外しておけるので邪魔になりません。チャチな作りに見えますが、そこそこの重さには耐えるので、中鍋でラーメン作って、ハンドルを持って食べる事も可能です。
この3合飯盒の蓋と掛子の容量を調べてみたところ、いずれも3合2合より多い容量をもっている事が分りました。これは谷口金属の飯盒にも見られた事です。一説によると、その昔、旧陸軍が精白米から胚芽米に切り替えた時に、飯盒の容量も変更になったという話しがあるようですが、その関係で、戦後、蓋と掛子の容量が違う製品が出回ったのかもしれません。
また、蓋には真ん中で仕切りが出来る様になっているのですが、これはオカズ入れとしての利便性を持たせたものだと思われます。弁当箱として使うなら、現代人としてはこのサイズであっても結構大きい訳ですが、掛子に違うオカズを2種類入れれるのは便利です。
3合飯盒の釣り手は、旧陸軍の将校用飯盒に使われていたのと同じタイプのスライド式の釣り手で、これは戦後、自衛隊の1型飯盒でも採用されています。このスライド式釣り手は、押し込めば耳金の所で釣り手がロックされ、蓋を押さえる構造になっています。ところが、3合飯盒の釣り手は、明らかに設計ミスで、押し込んでもロックの位置が耳金より上にあってロック出来ません。この点は是非とも改善して欲しい部分でした。
また、この釣り手は鉄製で塗装がなされているのですが、使っているウチに塗装が剥げて、鉄の地金が見えてしまい、そこが錆びてスライドさせられなくなります。これは自衛隊の1型飯盒でも同じなのですが、戦後、発売された旧陸軍の将校用飯盒などは、この釣り手にメッキが施されており、剥げにくくなっています。可動する部分でもあるので、ぜひともメッキを施すか、ステンレス製の釣り手にして欲しかったものです。
それだけ、飯盒は日本のアウトドアシーンに根付いていたのです。その中で、この3合飯盒は、我が国の飯盒文化の最晩期に登場した、日本飯盒の集大成であったと思います。この飯盒を基にして、次第に飯盒はアウトドアシーン、特に登山やソロキャンプで使われなくなっていき、かつて飯盒を作っていたメーカーは軒並み潰れるか、飯盒を作らなくなりました。
この3合飯盒と、現行の自衛隊の戦闘飯盒2型を比較した時、調理器具としての飯盒は決定的にその機能を後退させ、食器の機能により特化した形になりました。そもそも「飯盒」という言葉が、飯を入れる蓋付きの器、つまり弁当箱の意味だったのですが、その意味の通りに日本飯盒は回帰してしまった、というべきかもしれません。
しかし、我々の頭の中では、飯盒はやはり飯を炊く調理器具の意味という認識が色濃い訳です。その飯盒が、一人で使うにもっとも便利な形に進化を遂げた最終形態が、この3合飯盒であった事を、記憶に止めておいて良かろうと思います。
しかし、後年、この飯盒が、ソロ用の飯盒として、非常によく考えられた製品であり、おそらく、日本飯盒が行き着いた最高傑作であったと認識する様になりました。とうの昔に製造終了しており、そもそも作ってた会社もなくなってしまい、ネット上でも情報が非常に少なく、また出物もなかったのですが、このたび、奇跡的に入手する事が出来ました。
■外観的特徴
この飯盒の特徴は、3合炊きという事で、一般的な4合炊きの兵式飯盒よりも背が低くコンパクトになっています。そして、革通しが蓋に付き、付属のハンドルでフライパンとして使う事を前提としています。また、掛子には取り外しの出来る仕切りの板があり、オカズ入れとして使い易くなっているだけでなく、米を量る時に便利になっています(仕切りを入れれば、1合が量れる)。中には中鍋が入っていて、これも付属のハンドルが付けれる様になっています(蓋と中鍋はハンドル共通)。そして、釣り手は、旧陸軍の将校用飯盒や自衛隊の1型飯盒と同様にスライド式です。■なぜ3合なのか
この飯盒が3合炊きを目指した理由は、まさに日本の飯盒がソロクッカーとして進化する要望があった事を如実に現しています。そもそも兵用の飯盒は4合炊きなのですが、これは2人1組になって、一人が飯(1人辺り2合)、もう一人が汁を作るのを前提に設計されています。軍隊ですから、複数の部隊で行動する訳ですし、その最小単位としても組炊爨での運用が、兵用の飯盒の設計思想なのです。
ところが、戦後、登山やキャンプなどで使われる様になってからは、この組炊爨の前提は大きく崩れる事になります。団体で登山する場合は、軍隊式の組炊爨もあったでしょうが、そういう使い方よりも、個々人で飯盒を使う機会が増えたのだと思われます。となると、流石に一人で4合も飯を食う事はないでしょうし、せいぜい2〜3合くらいしか炊かないとなると、4合もの容量は必要なくなった、という事でしょう。
また兵式飯盒は、ご存知の通り、底が深い鍋なのですが、これを食器として考えた時、底が深過ぎて食べにくいというのは、確かにその通りです。4合も炊ける必要がなく、かつ底もそんなに深くなくて良い、という事であれば、3合の容量にして底を浅くしようという発想になるのは、一人用の飯盒としては、至極合理的な考え方であると思います。
■中鍋の意味
先に述べた様に、4合炊きの飯盒では、ご飯とオカズは2つの飯盒を使って作り、それを二人で分けて食べる前提で設計されていたのですが、これが1つの飯盒しかないとなると、飯は炊けてもオカズが作れない、という事になります。そしてこれはソロクッカーとしては具合の悪い話しです。その為、ソロクッカーの多くは、大小2つのクッカーをスタッキングするスタイルになっています。飯盒がまだまだ日本のアウトドアシーンで主流だった時代には、飯盒を入れ子にするアイテムが色々考案されていました。その中でもモリタのミニハンゴーは兵式飯盒にスッポリ収まる2合炊きの飯盒で、それ単体でも使える優れものでしたが、それでもソロ用として考えた時、4合炊きの兵式飯盒と併用ではパッキングサイズが無駄に大きい物になります。
そこで、飯盒本体を3合に縮小し、中に鍋を1個入れる事で、省スペース化とクッカー2つを実現したのが、この3合飯盒です。つまり、飯盒本体でご飯を炊き、中鍋でオカズを作るというスタイルを実現したのでした。
■その他の所見
この3合飯盒は、中鍋だけでなく、蓋もフライパンとして使える様に、革通しを蓋の方に付け、それに脱着式のハンドルを取り付けて使用できる様になっています。このハンドル、アルミ製のチャチなハンドルなのですが、実はこれが非常に使い易い。脱着式なのでパッキング時にハンドルが邪魔にならない。また炊飯時にも外しておけるので邪魔になりません。チャチな作りに見えますが、そこそこの重さには耐えるので、中鍋でラーメン作って、ハンドルを持って食べる事も可能です。
この3合飯盒の蓋と掛子の容量を調べてみたところ、いずれも3合2合より多い容量をもっている事が分りました。これは谷口金属の飯盒にも見られた事です。一説によると、その昔、旧陸軍が精白米から胚芽米に切り替えた時に、飯盒の容量も変更になったという話しがあるようですが、その関係で、戦後、蓋と掛子の容量が違う製品が出回ったのかもしれません。
また、蓋には真ん中で仕切りが出来る様になっているのですが、これはオカズ入れとしての利便性を持たせたものだと思われます。弁当箱として使うなら、現代人としてはこのサイズであっても結構大きい訳ですが、掛子に違うオカズを2種類入れれるのは便利です。
■改善点
ニュートップという会社は、とうの昔に潰れてなくなってしまい、当然この3合飯盒も再販される事なく、歴史の彼方の逸品になってしまったので、今さら改善点を言っても始まらないのですが、あえて付言するなら、この飯盒の釣り手は大いに改良の余地があります。3合飯盒の釣り手は、旧陸軍の将校用飯盒に使われていたのと同じタイプのスライド式の釣り手で、これは戦後、自衛隊の1型飯盒でも採用されています。このスライド式釣り手は、押し込めば耳金の所で釣り手がロックされ、蓋を押さえる構造になっています。ところが、3合飯盒の釣り手は、明らかに設計ミスで、押し込んでもロックの位置が耳金より上にあってロック出来ません。この点は是非とも改善して欲しい部分でした。
また、この釣り手は鉄製で塗装がなされているのですが、使っているウチに塗装が剥げて、鉄の地金が見えてしまい、そこが錆びてスライドさせられなくなります。これは自衛隊の1型飯盒でも同じなのですが、戦後、発売された旧陸軍の将校用飯盒などは、この釣り手にメッキが施されており、剥げにくくなっています。可動する部分でもあるので、ぜひともメッキを施すか、ステンレス製の釣り手にして欲しかったものです。
■感想
この3合飯盒が売られていた頃は、まだ登山具店には普通に兵式飯盒が売られていましたし、先に述べたミニハンゴーだけでなく、テフロン加工を施したカラー飯盒まで売られていました。むしろ、キャンプでご飯を炊く道具としては、飯盒の他に思いつかなかった時代でもありました。それだけ、飯盒は日本のアウトドアシーンに根付いていたのです。その中で、この3合飯盒は、我が国の飯盒文化の最晩期に登場した、日本飯盒の集大成であったと思います。この飯盒を基にして、次第に飯盒はアウトドアシーン、特に登山やソロキャンプで使われなくなっていき、かつて飯盒を作っていたメーカーは軒並み潰れるか、飯盒を作らなくなりました。
この3合飯盒と、現行の自衛隊の戦闘飯盒2型を比較した時、調理器具としての飯盒は決定的にその機能を後退させ、食器の機能により特化した形になりました。そもそも「飯盒」という言葉が、飯を入れる蓋付きの器、つまり弁当箱の意味だったのですが、その意味の通りに日本飯盒は回帰してしまった、というべきかもしれません。
しかし、我々の頭の中では、飯盒はやはり飯を炊く調理器具の意味という認識が色濃い訳です。その飯盒が、一人で使うにもっとも便利な形に進化を遂げた最終形態が、この3合飯盒であった事を、記憶に止めておいて良かろうと思います。
コメント
コメント一覧
これ欲しいっ!!!
自衛隊の二合飯盒よりも、ずっとずっーと欲しいです!
内鍋といい、掛子の仕切りといい最高ですね。
そんな僕はたにしさんに影響されて、自宅で飯盒でカオマンガイを作ってみました。
カミさんは喜んでくれましたが、息子にはイマイチの評価を貰いました。(笑)
この飯盒ね、ほんと、出て来ないんですよ、これが!
でも、ソロキャンパーだったら、これ欲しいと思うんですよねぇ。
オオイ金属、再販してくれないかな。
自衛隊の2型飯盒は、それなりにファンがいるので、本レポートではあまりこき下ろさなかったのですが、
どうせ食器としてしか使わないなら、あえてあの形である必要はないですし、
もうちょっとしっかりした作りにして欲しかったです。
それこそ、トランギアの万能飯盒メスティンwでも支給したらいいのに。
飯盒料理、どんどんやりましょう!
ツイッターやってらしたら、どんどん投稿して下さい!
@japan_hango
自衛隊2型飯盒は、戦闘糧食のパック飯を途中でひっくり返さねば温められないことがわかり、がっかりしてしまいました。我が家に3つある2型を放出しようかどうか迷い中でした。
この3号飯盒でしたら、パック飯の湯煎も可能ですね。私もこれから10年かけて探してみようか、と。見つかった時には還暦過ぎてますが (^^;)
そりゃ、放出してあげた方が、喜ぶ人が2人はいますよ〜〜
で、分ってる人は、ちゃんと兵式飯盒使う、て事でw
この3合飯盒、おそらく飯盒界の遺物になる事は間違いなしなので、
消耗させられないんで、大事に神棚に飾っておこうかしらw
2型飯盒は、使い勝手もパッキングも良好なのですが。
飯盒を手放してから、パック飯の規格が変わったら泣くに泣けないので、ずっと迷い中です。
キャンティーンカップは、米軍ステンレスからロスコのアルミに変えました。これだと、Heavy Cover社の蓋がきちんと入ります。まあ、キャンティーンカップでタコツボを掘るような事態は無いと思いますので(^^;)
それは知らんかった。
youtubeでロスコのカップの蓋を買ったアメリカ人が、
米軍のカップに填められんって、怒って投げ捨ててる動画がありましたけど、
ヘヴィーカバーの蓋はロスコに填められるんですね^^
子供相手の飯盒炊さんが高じて、すっかり飯盒沼に浸かってしまった者です。
以前たにしさんの飯盒記事で初めて知ったこの3合飯盒ですが、私自身も昨年美品を手に入れました。幸い元箱入りだったので、その情報を。
メーカーはすでにご存知のとおりNEW TOP。製品名は「食器付ハンゴー」、型番はT3270となっています。
化粧箱の写真には、たにしさんの黒と、私の入手した赤(どう見ても赤なんですが、表記はブラウンとなっています)の二つが写っています。
ちなみに貼られている値札は¥2800-(IBS石井スポーツ)です。
今のところ、使うのがもったいなくて「箱入り」状態ですが、今年こそは山で使おうと思っている次第です。
貴重な情報、有り難うあります。
自分も昔、神田神保町のICI石井スポーツで買ったんですが、そのくらいの値段がしたと思います。
なので、キャプテンスタッグの兵式飯盒が、オリンピックで999円で売ってた時は、
随分安いなーとビックリしたもんです。
こうした良い製品は、出来れば再販して欲しいですね。