秋の雲立志伝みな家を捨つ  上田五千石

 思春期くらいになると、ほとんどの人が「家を出たい」と思います。家の居心地がいい悪いにかかわらずです。いろんな柵(しがらみ)から解放されて、自由になりたい、自分独自の世界を楽しみたいという夢を持つのは、健全な成長の証でしょう。
 それで、大学進学・就職・結婚など、「合法的」に「家を出る」ことが叶えばいいのですが、親の圧力や経済的な事情などでそうはいかないこともあります。
 どんなに多くの人たちが、「家」や「親」に縛られたまま苦しんでいるか。
 
 では、「家を出る」ことができたら、自分の人生を謳歌できるのかというと、そうもいかない。また別の「家」に縛られます。職場や新しい家庭です。
 モラトリアムの学生時代は楽しく過ごせます。でもその時期にしっかり自分を作っておかないと、就職してからが大変です。「家を出る」ためだけに結婚を選んだりしていたら、その後が悲惨です。
 若いうちは無鉄砲に家を飛び出すことができても、大人になると、そう自分勝手に振る舞うわけにもいかないので、悶々としてしまいます。

 冒頭の五千石の句は、「家を出る」ではなく、「家を捨つ」です。イエ制度、ムラ社会、タテ社会、「グレートマザー」の同調圧力が根強く残るこの日本において、「家を捨つ」のは至難の業です。
 親の期待を裏切る、恩を仇で返すことの罪悪感、家庭や親族や職場から異端と見られる恐怖を越えていかねばなりません。「自分の居場所は自分で選ぶ」という気概を持ちたいです。
 でも、ぼやぼやしていると、ずっと何かに取り込まれた不全感の中、ぼやきながら一生を終えることになるのです。

 仏陀は、何不自由ない王子としての地位や家族を捨てました。西行法師は、袖に縋り付く4歳の娘を蹴落として出家したと伝えられています。
  世の中を背き果てぬと言ひ置かむ思ひ知るべき人はなくとも  西行
 私はきっぱり出家したと言い残しておこう、誰も分かってくれなくても。西行の強い決意の宣言です。


 TAOには、家を出たいけれど出られない、仕事を辞めたくても辞められない方々も来られています。家を出たものの親の呪縛から抜けられない方、結婚生活にどうしようもない行き詰まりを感じている方も。ちょっとやそっとでは片付かない難題に、必死に取り組んでいらっしゃいます。

 私自身、20歳代の終わりごろ、何の「合法的」な理由もなしに家を出たときは大変でした。
 25年間務めた教職を辞するに当たっても、口では言えないほどの苦労がありました。辞めたいと思い始めて10年くらい、自分自身との格闘でした。
 今では解放され、自分で「自由」を手に入れたと誇りに思えます。もちろん、理解して支えてくれる人たちがいたからこそです。
 自尊心を持てると、他者のことも尊重できます。今は人間関係で思い悩むことはほとんどなく、親のこともとても愛おしいです。 

 
あなたは「秋の雲」を見て、何を思いますか? 
 心の収まりどころはありますか?

                         心理面接室TAO 藤坂圭子
                         HP:http://tao-okayama.com
 

 フランソワーズ・サガンではないですが、「ブラームスはお好き?」
 私は好きなんです。ブラームス!
 最初に聴いたのは、「バイオリンとチェロのための二重協奏曲イ短調」(通称、ドッペル・コンチェルト)でした。これで、一気にブラームスに嵌りました。普通、10代の少女が好きになるような曲ではないです。渋すぎます。でも、そのころから自分の心の闇と付き合いかねていたので、ピッタシだったのでしょう。

 おとついの日曜日は、2年に1度のフルートの発表会でした。そこで、とうとう吹いたのです。ブラームス!
 ヘ短調のクラリネットソナタのフルート編曲版、第1楽章(ブラームスはフルートの曲は残していなくて)。アンサンブルでハンガリー舞曲を吹いたことはありますが、ソナタは初めて。私のようなど素人には、どう考えても無謀です。
 でも、そろそろ「老い」の足音も迫る今日この頃、青春の苦い思い出がいっぱい詰まったブラームスに挑戦したくなったのです。
 ブラームス晩年の独特な透明感の曲で、「諦念の境地」だとも言われます。しかし、こんなに緻密に構成された曲だったとは。やっぱりブラームスは厄介なヤツだと思いながら、春ごろから四苦八苦していました。

 なかなか練習時間が取れず、いつまでたってもまとまらず、お尻に火が付いたのがお盆明けくらいからでしたが、急な仕事が舞い込んだりして、最後の1週間はクラクラでした。
 しかも、ピアノとの絡みがとても複雑で、何回合わせてもズレまくり。本当にブラームスはひねくれ者だ!(自分のリズム感が悪いだけなのですが)
 
 やっぱり実力不相応、失敗しても当然と開き直り、でもブラームスを吹きたい、ブラームスとともにいたいという思いでした。
 それと、不思議なことに、ずっと思い浮かべていたのが、ナディア・ムラド氏「THE LAST GIRL」のコーチョの村でした。(2月のブログに書きました)
 玉ねぎやトマトの収穫。大切な羊や牛。屋根の上で星を見ながら眠る夏。華やかな結婚式。優しい母親と少女たちの夢。そして、迫害、暴力、虐殺…。解放、抗議、鎮魂…。 

 本番は、いつものことながら緊張で音が伸びず、やっぱり失敗だらけでした。でもまあ、私なりに思いは込められたかな。
 生きているといろんなことがある。それでも生きて、死ぬんだなあ、などと。

 ブラームスで一番好きのは、交響曲第4番です。秋になると、第3番の3楽章もしんみりしていいです。きっと、ご存じのメロディですよ。
 それから、同じく晩年の、クラリネット五重奏曲やピアノの小品の数々。本当に心が静まります。
 みなさんも、聴いてみてください、ブラームス。これから、ブラームスの季節です!
 

                          心理面接室TAO 藤坂圭子
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 9月の開室・閉室についてお知らせします。 
 夏休みが終わり、平日の午後はスクールカウンセリング等で外に出ますので、午後がお取りしにくいです。
 月・木・金の18時からは可能です。お問い合わせください。
 土曜日はご希望が多いので、お早めにお申し込みください。 
 まだまだ残暑が続きます。みなさま、どうぞ心身ともにご自愛ください。
 
   9/7(土)     12:00~ ✕  (最終は11:00~)
   9/16(月・祝日)  9:00~13:00 〇 (最終は12:00~)   
   9/23(月・祝日)  9:00~13:00 〇 (最終は12:00~)
   9/28(土)           ✕
   

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