2016年11月

 3年ほど前のことです。咳をして記憶が飛んだのです!
 正確には、咳をして記憶ができなくなったというべきですが。「一過性健忘」でした。

 高校教諭としての最後の年度。ちょうど考査中で殺人的に忙しく、かつ私としては珍しいことに大風邪を引いていました。熱がある上に咳が激しく、その前日も大事な会議を中座するほどでした。
 さて、考査監督中、また内臓が飛び出すかと思うほどのものすごい咳に見舞われ、苦しいのなんの!でも、監督中なので教室を出るわけにもいかず…。と、この辺までは覚えているのですが……
 気づいたら自宅にいて、養護教諭とともに入院の準備をしていました。どうやら入院するらしい…とうすらぼんやり思った覚えはありますが、その後またしばらく記憶がなくて、病室で入院の準備が整ったとこらへんから、事態がだんだん飲み込めるようになりました。
 主治医の先生から一過性健忘と言われ、「一過性健忘」という言葉を知らなかった私は、「解離性健忘!精神に異常が来てしまった!」とうろたえましたが、主治医は内科の先生で、静養すれば大丈夫ということで、ひとまずホッとしました。

 養護教諭は私と同級生の、普段から仲良くしてもらっている先生でした。
 その由美ちゃんの話によると、私は試験後、無事に回収したらしい答案を持ったまま、「何か変なの」と保健室に駆け込んだらしい。同じ話を何度も繰り返す私に、由美ちゃんはすぐ、「一過性健忘だ!(頭にボールが当たった子どもが一時的に記憶をなくすのと同じ)」と気づいてくれ、私を車で脳神経外科に連れて行き、入院までずっと付き沿ってくれたのです。午後の会議を他の人に任せる段取りや、管理職への連絡や、入院後の私のプライベートな予定のキャンセルまで全部。本当にありがとう!!
 私はというと、本当に何も覚えてないのです。

 咳をして骨折したというのは聞いたことがありますが、咳をして「一過性健忘」になるとは!きっと、咳の衝撃で脳の海馬への血流が止まったのです。だから、全く記憶が蓄積されず、フロイトの抑圧理論も催眠療法も通用しない、空白の5時間ほどを人生に持つことになってしまいました。
 その間、何か変なことを言わなかったろうかとすごく不安でしたが、そうでもないらしい。「ここはどこ?」とか「どうしてここにいるの?」とかは数え切れないほど言ったらしいですが。病院に行く途中、迷ってラブホテルに入りそうになって「私たちは違うよね」と言う由美ちゃんに、私は「でも、同性愛の人を差別しちゃいけないよね」と、真面目なことまで言ったらしい。(当時、LGBTの人たちの人権を真剣に考え中でした)

 ともかく、理性は失ってなかったらしいのでホッとしましたが、怖かったのは回復が始まったときです。何事も覚えられない。覚えたそばから記憶が飛んでいくのが分かるのです。自分の脳が信じられないというのは恐怖です。
 その日の夜には、記憶機能は回復しましたが、「記憶が飛んでいくという記憶」に当分の間、悩まされました。抗不安剤のお世話にもなりました。

 後日、私のカウンセラーの富士見ユキオ先生にこの体験を報告したら、すぐさま「貴重な、死の世界の体験だ」と言われました。これも「死と再生」の儀式でした。
 実は、この1ヶ月ほど前、早期退職を決意して校長先生にご報告したところだったのです。それまで10年以上も怒涛の心のプロセスを歩んできましたが、その仕上げがこれだったのか…!

 そんなこんなもあって、お陰さまで「心理面接室TAO」2年目です。人生いつ何が起こるか分かりませんが。タオに委ねて乗り切りたいです。

                           心理面接室TAO 藤坂圭子
                           HP:http://tao-okayama.com 

 11月9日、明け方に目が覚めてすぐ、「ああ、今日は悪夢の1日になる…」という思いにとらわれました。
 案の定、トランプ氏がアメリカ大統領に選ばれ、この日は一日中、暗澹たる気分で過ごしました。
 きっとこうなると思っていたのです。人間は愚かだから。世界中で自分自身の影を排斥するという現象が、まるで伝染病のように蔓延しつつあるから。
 
 6月、イギリスの国民投票がEU離脱を選択したこともショックでした。その時や他日のブログにも書いたように(「分断の危機」6/27、「ユングの危機に思う」10/11など)、陰陽の分断と統合について考えさせられます。
 何事にも光もあれば影もある。コインの裏表のように一体のはずです。でも、自分の影(自分が生きていないネガティブな部分)は見たくないものです。そんなものに振り回されて苦しい思いをするより、何か他のもののせいにしたほうがよっぽど楽。ということで、人間は無意識のうちに自分の影には目をつぶって、それを他の何かに投影します。だから、集団には必ずスケープゴート(いじめの対象)が生まれるのです。ヒトラーにとってのユダヤ人のように。
 
 国家も一個の人格と見ることができます。経済危機やテロの脅威について、自らの足許を顧みることなく、単純に移民や他教徒のせいだと言い切ってしまうのは、自己内分裂です。切り捨てているのは自分自身だということに全く気付いていません。
 不都合なものを権力や武力に任せてうまく排斥したとしても、排斥されたものの魂は死にません。そのエネルギーは強烈で、いずれ自分自身に還ってきます。(今回のショックの発端は、まぎれもなくアメリカ共和党によるイラク戦争だったろうに…)

 トランプ氏の影と、リーマンショック以降の困窮する白人中間層やアメリカ社会自体の影が手を結んだというのが、今回の選挙結果のように思います。影と影の迎合というのは、いつの世でも本当に起こりやすい。誰しも自分のことが一番かわいくて、自分を守るためにすがれるものがあるならすがりたいですから。そして、これがどこかで正当化されて流行になると、簡単にその風潮に乗っかてしまうのが、やはり人間なのでしょう。
 
 けれども、ショックから数日たって、もしかしたらこれはチャンスかもと思うようにもなりました。
 「夜明けの前が一番暗い」。
 いくら強気で「内向き」の政策を打ち出していても、そのアメリカ国内の分断がこんなに露わになっている以上、まずは国内の融和に取り組まざるを得ないというのが、トランプ氏の実情です。
 分断した他者に寛容になるというのは、実は自分の影に寛容になるということに他なりません。トランプ氏が今まで受け入れてこなかった、マイノリティや自分の利益に資することがない者の存在を認め、多様性と連携を生きるように変わっていけるか。オバマ氏が言ったように、まさに「あなたの成功が、アメリカの成功につながる」です。そこは、自由と民主主義の国アメリカで育ったトランプ氏に期待したいところです。
 
 あなたが目覚めれば世界が変わる、と思えるほどの権力を持った指導者はたくさんいます。でも、決して一人の指導者に国や世界の運命がかかっているわけではありません。
 大切なのは、小さな一人ひとりでも、指導者に依存することなく、自分の影と向き合って和解し、自分自身を十全に生きることだと思います。自分に寛容でいることが、他者への寛容につながります。その総和が大きな世界ですから。
 

                         心理面接室TAO 藤坂圭子
                         HP:http://tao-okayama.com

  「プラザ岡山」11月号に、「『カウンセリング』って何?」というタイトルで、コラムを載せていただきました。
 自分を見失いそうになって苦しんでいる方に、自分と向き合うことの大切さを知っていただけたらと思います。
           「カウンセリング」って何? 
                       
 「プラザ岡山」には8月号でも紹介していただきました。以前のブログにも載せましたが、もう一度。
 「心理面接室TAO」開室から1年。この初心を忘れずに頑張ります!
            笑顔こんにちは      

                           心理面接室TAO 藤坂圭子
                           HP:http://tao-okayama.com
        
 

 心理面接室TAOは、今日11月2日、無事1周年を迎えることができました。
 やれやれと、ホッと胸をなでおろしているというのが正直なところです。
 
 3年前、教員を退職する決意ができるまで、相当な葛藤を経てきました。
 が、開室に当たっては、さらに様々な壁にぶち当たりました。こんな小さな面接室でも、全く何もないところから一人で企画・準備し、調えていくというのは、想像以上の苦労でした。昼も夜もなく、日常から切り離された狂気じみた生活で、過労から鬱になるというのはこういう感じなのか、と本気で思ったくらいです。
 でも、一番の壁は自分自身の甘さでした。公務員で教員という安定した身分に守られて、いかに自分が世間知らずだったかを思い知らされました。決して野心家とは言えない私が事業を始めるには、かなりの意識改革も必要でした。

 ということで、昨年11月2日に何とか開室にまでこじつけたのですが、実は最初の1ヶ月ほど、1人もクライエントさんがいらっしゃらなかったのです。また新たな不安でいっぱいになりました。
 初仕事となったのは、11月29日の第1回TAOエンカウンターでした。一人ひとりがじっくり自分に向き合い、人生を深めていける場となり、「ああ、これがやりたかったんだ!」と実感できた日でした。メンバーの方々には本当に感謝しています。(明日はこのグループの8日目です。楽しみです!)

 それから少しずつ、ご紹介やHPなどでTAOを知ったというクライエントさんが来てくださるようになりました。長い間ご病気で苦しんでいる方もいらっしゃれば、バリバリお仕事をされながらも、自分を見つめ直したくてという方もいらっしゃいます。縁もゆかりもなかった様々なご経歴の方々と、こうして出会い、深く語り合うことができるとは、何だか奇跡のように感じます。真剣で誠実な素敵な方ばかりです。カウンセリングのたびに、こちらが感動をいただいています。
 セミナーも、TAO独自のスタイルで、ただ知識をお伝えするだけではなく、より自分らしい生き方につなげていただけたらという思いで行っています。ともに学び、体験できる仲間が少しずつ増えていて、本当に嬉しいです。

 開室から1周年、まだまだ不安がないと言ったらウソになります。
 でも、TAOは確かに息づいています。「心理面接室TAO」のサブタイトルにつけたように、「『私』の人生を生きる」場として、少しはお役に立てているかなと思います。岡山にこういう場を作りたかったのです。
 でも、まだちっぽけな私なので、「何てことを始めてしまったんだろう!」と、その重さに潰されそうに感じることもあります。機関内のカウンセリングと違って、開業カウンセラーだからこそできること、そこに求められる資質や責任ということも考えさせられる毎日です。
 来てくださる方に誠実に対応できるよう、私自身もつねに自分に向き合いながら自分を調えていかねば、と思っています。ますます険しい道に入っていくなあ、とため息をつきつつ…。
 今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。

                            心理面接室TAO 藤坂圭子
                            HP:http://tao-okayama.com






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