前回「ロジャーズの3条件」のうち、①「純粋性」(genuineness,congruence)を端折りましたが、やはりおさまりが悪い気がして、ちょっと難しいですがご紹介したいと思います。

 「純粋性」はよく「自己一致」とも訳され、相手に対して思ったことを正直に伝えること、「自己開示」することという風に解釈されるのですが、厳密には違います。「自己概念」と「経験」が一致していることを言います。
 「自己概念」は、自分はこんな人とか、自分は今こんな気持ちだと意識している、自分に対するイメージのこと。
 「経験」とは、(普通の意味とは全く違って)自分の奥深いところで感じている(ロジャーズは「内臓レベルで」とも言いました)ホンネの部分。
 「自己一致」とは、自分の意識とホンネが一致していること、自分をごまかさないこと。だから、相手に対して自分が一致することではなくて、自分が自分と一致するということなのです。

 例えば、相手に対してイライラしているのに、優しく受け入れているつもりになっていると、それは全くの「不一致」です。イライラしているという「経験」をそのまま自覚し、「自己概念」に組み込むことが「自己一致」。
 でも、カウンセリングに限らず、相手に対してネガティブな感情を抱くのはよくないという思い込みがあるし、波風を立てたくないので、無意識のうちにいい人になろうとして、自分のホンネを置き去りにしがちです。そんな時は何だか白々しくて、自分でも気持ち悪いものです。 
 自分の生活についても、心のどこかでは、何か物足りないとか自分のしたいことではないと勘づいているのに、人生こんなもんだ、自分もこれで十分だと言い聞かせながら過ごしてしまっているとしたら、それも「不一致」。その惰性の毎日も実に辛いものです。
 「自己一致」すること、「純粋」であることは難しいです。自分のホンネに気づいてしまうと、現実的には不都合がいっぱい起こるので。ホンネを受け入れてしまったら、じゃあ次はどうしたらいいんだ!?となります。
 
 それでも、そのホンネを土台にしてこそ、納得のいく人間関係や人生があります。
 例えば、ある人に対するイライラを受け入れながら、それを相手にぶつけるという選択肢もあれば、いろいろ考えて表明せずに付き合うという選択肢もあります。自分が腹の底で納得して進むことなら、それはそれで「自己一致」です。
 カウンセリングの「自己一致」も、瞬間瞬間、自分が自分と一致することが大前提(私の場合は、一致していないとお腹か腕のあたりがザワザワします)。そして、必要ならば相手に「自己開示」するということなのです。
 いつもいつもバカ正直に体当たりしていては、何事もうまくいきませんものね。

 大切なのは、自分のホンネを大切にして、自分の主体性で動くこと。自分に向き合い、考え抜く姿勢が必要です。辛抱も勇気もいるでしょう。でも、そうでないと自分に対しても人に対しても、ウソをついて生きることになり、どこか空っぽ感をぬぐえません。
 「ロジャーズの3条件」ー「純粋性」「無条件の肯定的配慮」「共感的理解」は、人が人とつながり、心豊かに生きていくための大きな指標となります。そうやって自己実現を果たすことを、「自己概念の再体制化」と言います。
 ロジャーズ自身、壮絶にそれを貫いて生きた人でした。
*「カール・ロジャーズ入門ー自分が自分になるということ」(諸富祥彦・コスモスライブラリー)-お勧めです。



                           心理面接室TAO 藤坂圭子
                           HP:http://tao-okayama.com