日本人に弱いとされているのが、「切る力」です。「人は人、自分は自分」と割り切る力です。
 同調圧力が強く、人と同じでなければ不安になる日本では、無意識のうちに人と繋がっている、または繋がっていたいような気がしてしまいます。
 
 ・定時になったけれど、たくさん人が残っているので帰りにくい。
 ・自分の仕事ではないけれど、他の人がしないから自分がやるしかない。
 ・波風を立てたくなくて、自分の意見を封じ込める。
 ・自分の気持ちより、人への「忖度」で動いてしまう。
 ・自分とは合わないと思う人と、ずるずる付き合い続ける。
 ・自分を頼りにする人を見捨てられない。
 ・人と一緒にいると、何か話さなければいけない衝動に駆られる。  etc.                     

 こんな時、「自分」はありますか? 「人は人、自分は自分」と思えていますか? 自分の責任と人の責任の区別がついていますか? 
 ついつい「空気」に飲まれて、あらぬ方に引っ張られて、人間関係も心の中もグチャグチャで、にっちもさっちもいかないことになっていませんか? 

 「切る力」は「父性」の力です。けれども、河合隼雄氏が指摘されたように、日本は「母性社会」なので、「切る」より「包み込む」の方が、断然しっくりきます。「割り切る」、「思い切る」、「見切りをつける」etc.は、日本人の心情には馴染まないのです。
 でも、一人一人が「切る力」を養わないと、「共依存」の癒着状態からは抜けられません。知らず知らずのうちに束縛し合って、息苦しさを抱えながら生きていかねばなりません。それは、自分もぬるい空気の中で安心していたという依存の裏返しでもあるのです。

 小さなことでもいいから、人の中にいても「自分は自分」と思えるような振る舞いをしましょう。今までいやいやしていたことは止めましょう。勇気を持って嫌な人間関係は断ち切りましょう。「後のことは知-らない、勝手にやって」、と投げ捨ててみましょう。
 「切る」ことによって、自分を取り戻すのです。清々しく、力が湧きます。

 自分も自由だけど、相手も自由。人には人の価値観や生き方があります。たとえ、それが自分とは違う、正しくない、うまくないように思えても、それはその人の課題です。過剰に同調したりかばったりすると、その人の課題を奪い、成長を妨げます。

 「人は人、自分は自分」と割り切るのは、薄情とは違います。敬意をもって、相手に任せる、相手の力を信じる、相手を尊重するということです。
 自分と人との間をいったん「切る」。その後に、対等な人間同士としてつながれ、いい共同作業ができます。風通しがいい関係の中で、伸び伸び生きていきたいものです。

                      心理面接室TAO 藤坂圭子
                      HP:http://tao-okayama.com