白雪姫の美しさを妬んだ継母は、猟師に白雪姫の殺害を命じましたが、猟師は白雪姫を不憫に思って殺さずにいました。難を逃れた白雪姫は、七人の小人に囲まれて幸せに暮らしていましたが、「魔法の鏡」によって継母に知れました。継母は激昂して、何度か扮装して白雪姫を殺そうとしましたが、白雪姫はその都度小人たちに助けられます。しかし、継母は毒リンゴを食べさせて、とうとう白雪姫を死に追いやってしまいました。そこに王子様がやって来て…。
 よく知られたグリム童話ですが、実は原作では、白雪姫を殺そうとしたのは「継母」ではなく、実母です。この話が広まるとき、母親が実の娘を殺そうとするはずがない、教育上悪いという批判を浴びてなのか、「継母」に改められたようです。「魔女」がモデルだという説もあります。

 「白雪姫」のお話に限らず、何かによって殺されたり、眠らされたりする童話・おとぎ話は山ほどあります。その際「魔法」が使われて、石や動物に変身させられるといったお話も。
 ユング心理学によると、童話やおとぎ話、神話は、人間の深層心理(集合的無意識)の現れです。太古の昔から、こうした人間の残酷さは認識されていたということでしょう。
 
 残念ながらいつの世にも、このような虐待やマルトリートメント(不適切な養育)が横行しています。そこで、どんなにたくさんの子どもたちの心が壊されていることか。
 自分なんかどうせ誰も相手にしてくれない。いつも人に睨まれている。居場所がない。自分が存在すること自体が申し訳ない。漠然とした不安、鬱、パニック症状、強迫症状、複雑性PTSD。生きていても現実感がないという解離症状のある人もいます。
 本当に「魔法」に掛けられたかのように、考える力を奪われ、別世界に追いやられているのです。本人には全く責任がないのに、大人の「魔法」は実に怖ろしいものです。

 「魔法」はどうしたら解けるのか。
 それこそ、「王子様のキス」なのです。つまり、健全な世界の関与です。(*原作ではキスではなく、王子様が棺を運んでいたとき、偶然毒リンゴが吐き出されたとなっていますが)
 「魔法使い」は異界の人です。「魔法」の威力は強大で、自力で解くのはほぼ不可能です。
 現実世界に置き換えると、育った世界とは別の、明るいおおらかな人たちの力を借りることが不可欠です。治療的には、言葉や理論だけでは難しく、心の深いところのイメージや夢を扱うことが効果的です。そして、ちまちまと現実生活を丁寧に生きることです。

 あるクライエントさんは、ずっと死にたい気分にとらわれて自傷行為を繰り返したり、涙が止まらなかったりでした。「魔法」で仮死状態にされていたようなものでした。
 その方がだんだん癒えてきて、あることをきっかけにふと目覚めたとき、「ああ、地面が見える。太陽が見える。これが世界だったのか!」と思ったとか。そして、「みんな、これが標準装備だったのか⁉」。(ご本人の許可を得て書いています)
 
 「魔法」が解けて初めて、自分が「魔法」に掛かっていたこと、地下世界に閉じ込められていたことに気付きます。何とも言えない悔しさを伴いますが、そこからその方の「人生」が始まります。
 思えば、「魔法使い」その人も「魔法」に掛けられているのだから、気の毒です。でも、一人が「魔法」から解放されると、「世代間連鎖」を阻止でき、和やかな空気が広がります。「私が変わると、世界が変わる」。
 本来の「標準装備」の世界、互いを思いやれる、明るく優しい世界に生まれ直せると、信じて生きましょう。

                         心理面接室TAO  藤坂圭子
                         HP:  https://tao-okayama.com