「自分」って、簡単に分かりそうで分からないものです。つかみどころのない「自分」を抱えたまま、地に足つかず生きていくのは苦しくて、何かにすがりたくなります。
 だから、年齢を問わず心理学に関心がある人は多く、挙句の果ては、私のようにカウンセラーになってしまう人もいるわけです。カウンセラー仲間と、「私たちって、もともとどっか変だよね」などと笑い合うことはよくあります。

 私はとっても苦しい思春期を過ごしましたが、「簡単に人の気持ちが分かってたまるか!」という妙な反骨精神があって、高校卒業時、心理学を学ぼうなんて気はさらさら起こりませんでした(やっぱり変な人です)。人間がリアルに現れるのは文学だと思い、文学科に進学しました。
 それから教員になって、担任したクラスの生徒への対応を考えているうちに、心理学やカウンセリングの世界にいざなわれ、こんなに深くのめり込むことになったのです。
 で、心理学で人の心が分かるのかという疑問は、半分は本当で、半分はウソだと気づきました。

 心理学もカウンセリングも「科学」です。大量の事例分析に基づいて理論が構築されているので、なるほど!とうならされます。でも、どんなに理論を当てはめても、「実感」がないところで、「自分」がつかめたという感じはしないものです。

 TAOには、心理学の本を読んだり症状をネットで調べたりして、自分は〇〇障害に違いないとか、成育歴のあのことが影響しているのではなどと、思いを巡らして来られる方もいらっしゃいます。印象的な夢を見た後、いろんな夢分析や象徴論を当てはめて、あーでもない、こーでもない、と考え込んで来られたりも。
 それらが当たっているかどうかは、「あー、そうだ!」とストーンと落ちる感じがあるかないかで分かります。あるいは、心にグッときて涙があふれたり、体がスーッとする感じです。
 心理学の理論も、もちろん自分を知るヒントになりますが、アタマだけでココロは分かりません。思考を止めて、自分の内側を感じることが大切です。
 
 自分の内側を辿るのは面倒くさくて怖いので、つい逃げたくもなります。だから、「人」とか「自然」とか「気」とか、安心できる何かとつながる必要があるようです。その安心感の中で出会う「あー、これだ!」という「実感」は、感動的で癒しをもたらしてくれます。たとえそれが、悲しみや怒りであっても。

 あるクライエントさんは、スマホであれこれ検索するのを止めたらずいぶん楽になった、と言われました。「自分」が「自分」とつながってきたんですね。その感覚こそが、きっと確かな人生につながっていくでしょう。

                           心理面接室TAO 藤坂圭子
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